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深淵の覇主  作者: aaaa


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第23章 偵察

数字を確認した。


162PT。


維持費は14PT/日。

狩猟隊の収益が上回っている限り、破綻はしない。

問題は、次の遠征がどれほどの規模になるかだ。


待つだけでは足りなかった。


---


城門に集まった反応は、まだ密度と緊張度しかわからない。

規模も、時期も、目的も、推測の域を出ない。


数字がないまま迎撃態勢を維持するのは非効率だ。


情報を取りに行く。


---


「帰宅前地点へ戻る」


発動した。


---


一瞬、視界が切り替わった。


薄い天井、木の梁。

狭い寝台、隅に置いた荷物袋。


宿の部屋だった。


椅子に座った姿勢のまま、戻っていた。

荷物はベッドの上、置いたときのままの位置にある。


```

[ 帰宅前地点へ戻る — 発動成功 ]

[ 出発地点の状態を再現 ]

[ 携行品:出発時のまま ]

```


未確認だった動作が、確認済みに変わった。


使える。


---


身支度を整え、宿を出た。


ダスクホールの朝は、いつも通りの喧騒だった。

市場の呼び込み、荷馬車の車輪音。


普段と違うのは、通りに見える顔だ。

武装した一団が、二組、三組とすれ違っていく。

装備の質が、普段の駆け出し冒険者とは違う。


ギルドへ向かった。


---


ギルドの扉をくぐった。


いつもより人が多い。

掲示板の前に人だかりができている。


近づいた。


貼り出された依頼書に、目を通す。


```

【討伐依頼】

 対象:ラグナル山中・未確認拠点

 等級:Bランク以上を含む混成編成のみ受付

 報酬:金貨相当(詳細は受付にて)

 備考:ギルド本部承認案件

```


保留が外れていた。


正式な討伐対象として扱われている。


---


掲示板の脇で、二人組の冒険者が話していた。

声を落としているが、拾える距離だった。


「……六人だってさ」

「本隊が。後ろに荷運びと予備が数人」

「Bランクが三人も出るのは久しぶりだな」

「例のCランク生き残りが、道案内につくらしい」


断片だった。

だが必要な情報は揃っていた。


---


編成、規模、道案内役。


Bランク3名を含む本隊6名。

支援・予備を含めた総数は十数名。

これが、二晩前に城門で感知した数と一致する。


生き残った後衛が、道案内として同行する。

1F構造の一部を知っている可能性がある。


出発は、まだ先だ。


装備調達と編成の最終確認に、あと数日かかると見える。


---


空気が変わったのは、そのすぐ後だった。


扉が開く音に、ロビーの喧騒が消えた。


入ってきたのは、一人。

大剣を背負った長身の男。

外套の裾に、乾いた染みがいくつも残っている。


誰も声をかけない。

道を空けるように、自然と人が引いていく。


近くにいた若い冒険者が、あからさまに一歩下がった。

奥のテーブルでは、談笑がぴたりと止まっている。

掲示板の前の人だかりも、半分が動きを止めていた。


「……ゼインだ」

「本当に来たのか、あの人が」

「屍山のゼイン……こんな辺境に何の用だ」


囁きは、ロビー全体に広がっていった。

名前だけでこれだけ空気を変える人間は、そう多くない。


---


聞き耳を立てるまでもなく、噂は勝手に集まってきた。


「三年前の氾濫、あの人が一人で止めたんだろ」

「北方の坑道都市だったか。Bランクの討伐隊が全滅した後に、単騎で入って」

「翌朝、坑道の入口に死骸が山になってたって話だ」

「それで屍山、か」

「あれ以来、パーティを組まないらしい。誰かを庇う気がないとかで」

「討伐依頼はほとんど断る癖に、なんでこんな辺境にいるんだ」


いくつもの声が重なり、断片が積み重なっていく。


坑道都市の氾濫。

Bランク討伐隊の全滅。

単騎での鎮圧。

翌朝の死骸の山。


事実確認はできない。

だが、これだけの人間が同じ話をしている時点で、無視できる噂ではなかった。


---


副所長のヴァンが、奥から足早に出てきた。


「わざわざ足を運んでいただけるとは」

「噂を聞いてな」


低い声だった。

感情の起伏が薄い、乾いた声。


「未確認の拠点にしては、育ち方が早い。大きくなる前に潰すのが筋だろう」


ヴァンが何か説明を続けている。

拾えたのは断片だけだった。


「……戦力は足りている」

「足りていても、確実に減らせるなら悪い話じゃない」


男は興味なさそうに言った。

それで話は決まったらしい。


Aランクが一人、遠征に加わることになった。

たまたま滞在していただけの人間が、成り行きで名を連ねた。


想定していなかった変数だった。


---


受付の方向に視線を移した。


見知った顔がいた。


集計卓の担当、アミラ。

几帳面な手つきで書類を整理している。

今はこちらに気づいていない。


必要以上に近づく理由はなかった。


背を向け、ギルドを出た。


---


宿の部屋へ戻った。


椅子に腰を下ろし、目を閉じた。


核との接続を確立した。


「ダンジョン即時帰宅」


一瞬の浮遊感のあと、生活区画の石床があった。


---


感知を広げた。


前室の状態を確認する。


影狼は、もう横になっていない。

脇腹の傷は塞がっていた。

立ち上がり、軽く体を動かしている。


ガーディアンの疲労も、大きく引いている。

サンダーウルフとアラクニアも、動きに戻りつつあった。


回復期間としては十分だった。


---


自動計上が来た。


```

[ 自動計上:維持費 ]

[ 影狼 × 1          :-1 PT ]

[ アラクニア × 1       :-1 PT ]

[ サンダーウルフ × 1     :-1 PT ]

[ ゴースト・ガーディアン × 1 :-3 PT ]

[ 骸骨剣士 × 3        :-3 PT ]

[ アンデッド・ウォーロード × 1:-5 PT ]

[ 残PT:148 PT ]

```


続いて、狩猟隊の報告。


```

[ 外部討伐確認:野生獣 × 19 ]

[ 外部討伐確認:魔物 × 7 ]

[ 獲得PT:+42 PT ]

[ 残PT:190 PT ]

```


---


数字を確認した。


190PT。


昨日より持ち直している。

出発までの数日で、さらに積み増せる。


情報も揃った。


本隊6名、Bランク3名を含む混成。

支援・予備を含め十数名。

道案内は、生き残りの魔法使い。

そこに、Aランクが1名。


出発は数日先。


Aランクの戦力は、ほかの6名とは別枠で見る必要がある。

噂が事実なら、討伐隊が全滅した後の坑道に単騎で入り、翌朝には片づけている。

狭い通路、逃げ場のない構造。今の2Fと条件が近い。

今の配置は、Bランク3名までを想定した設計だ。


道案内が知っているのは1Fの構造までだ。

2Fの配置までは知り得ない。


だが、それだけでAランク相手に押し切れるとは考えにくい。


見直しが必要だった。


---


残る数日で何をするか。


1Fの回復を進める。

2Fの配置を、Aランク単独での突破を前提に見直す。

控えの戦力から、投入できるものを洗い出す。


やることが増えた。


侮れない相手だ。


それだけだ。


■ あとがき — 第23章 ダンジョンレポート


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【ダンジョン構造(変更点)】


変更なし


【経路】


<メインルート>

1F

 入口

  ↓ 通路(5m)

 1F-1(10m×10m)

  ↓ 通路(5m)/通路内:連鎖爆炎魔法陣

 1F-2(10m×10m)→ 1F-5(10m×10m・空室)

  ↓ 通路(5m)

 1F-3(10m×10m)

  ↓

 1F-4(10m×10m)

  ↓ 通路(15m・2F接続)


2F

 2F-1(50m×50m)

  入口 → 中央通路(幅3m・24m)→ 核の間手前

    ├─ 左迂回路(L字・8m):暗闇罠(分岐点)/ 落とし穴 / 骸骨剣士×1

    └─ 右迂回路(L字・8m):落とし穴 / 骸骨剣士×1

  中央通路奥:骸骨剣士×1(予備)/ アンデッド・ウォーロード×1

  ↓

 2F-2(10m×10m)← ダンジョン核

  ↓ 隠し扉

 DM生活区画(3m×4m)


【配置詳細】

◇1F-1:暗闘罠×2 / 落とし穴×2 / 毒霧散布罠×1

◇通路(1F-1⇔1F-2):連鎖爆炎魔法陣

◇1F-2:影狼×1(傷癒合・戦闘可能)/ アラクニア×1(回復進行)

    サンダーウルフ×1(回復進行)/ ゴースト・ガーディアン×1(疲労軽減)

◇1F-3:コアバット×1(右翼重傷・療養中・非戦闘)

◇1F-4:未設置(空)

◇1F-5:空室

◇2F-1:区画通路(中央24m+左右迂回路各8m)/ 暗闇罠×1 / 落とし穴×2

    骸骨剣士×3(左迂回路1・右迂回路1・中央奥予備1)

    アンデッド・ウォーロード×1(中央通路最奥)

◇2F-2:ダンジョン核

◇DM生活区画(2F-2 隣・隠し扉裏):各設備あり


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【戦力配置(変更点)】


影狼        :脇腹裂傷(重傷寄り中傷)→ 傷癒合・戦闘可能

ゴースト・ガーディアン:疲労残存 → 疲労軽減(軽度)

サンダーウルフ   :休息中 → 回復進行(ほぼ全快)

アラクニア     :糸再生中 → 回復進行(ほぼ全快)


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【PT収支】


 章開始時PT      :162 PT

 維持費(1日分)    :-14 PT

 狩猟隊収益      :+42 PT

 ──────────────────────────

 章終了時PT:190 PT


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【重要イベント】


■ 「帰宅前地点へ戻る」初使用・動作確認完了

 出発地点(宿の椅子・荷物の状態)を正確に再現して転送成功

 第21章からの懸案(動作未確認)が解消


■ ダスクホールのギルドで討伐依頼の掲示を確認

 ラグナル山中・未確認拠点を対象とした正式な討伐依頼(ギルド本部承認)

 Bランク以上を含む混成編成のみ受付


■ 冒険者の会話から編成規模を把握

 本隊6名(うちBランク3名)+支援・予備を含め十数名

 第21章で撤退した生存者(魔法使い系)が道案内として同行予定

 出発は数日先(装備調達・編成の最終調整中)


■ Aランク冒険者「ゼイン」(二つ名:屍山のゼイン)が遠征に参加

 偶然ダスクホールに滞在していたところ、噂を聞いて自らギルドに接触

 副所長ヴァンが直接依頼し、その場で参加が決定(正式編成とは別枠の単独参加)

 本隊6名(Bランク3名含む)+道案内1名に、Aランク1名が追加された形

 登場時、ギルドロビーの喧騒が消えるほどの反応(周囲の冒険者が後退・談笑停止)


■ ゼインの二つ名の由来(噂・未確認情報)

 3年前、北方の坑道都市で発生した氾濫(モンスターの大量流出)

 Bランクの討伐隊が全滅した後、単騎で坑道へ突入

 翌朝には入口に死骸の山ができていたという逸話が「屍山」の由来

 以来パーティを組まないとされる(真偽未確認だが複数人が同じ話をしていた)

 → 狭い通路・逃げ場のない構造という点で、現在の2F構造と条件が近いと分析


■ 相手の戦力を再評価

 道案内が把握しているのは1F構造まで(2Fの配置は未知)→ この点は引き続き優位

 ただしAランク単独の戦闘力はBランク想定の現防衛設計を上回る可能性 → 2F配置の見直しが必要


■ 1Fモンスターの回復がほぼ完了

 影狼:戦闘可能まで回復 / サンダーウルフ・アラクニア:ほぼ全快

 ゴースト・ガーディアン:疲労軽減(完全回復には至らず)


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【通貨変動】


変動なし(この章では取引なし)

残り通貨:銀貨約16枚強(概算・変動なし)


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