第10章 夜狩り
朝、通知が来た。
```
[ 自動計上:維持費 ]
[ 影狼 × 1:-1 PT ]
[ アラクニア × 1:-1 PT ]
[ サンダーウルフ × 1:-1 PT ]
[ 残PT:5 ]
```
5PT。
3体体制になって最初の朝だった。
昨日まで2PT/日だったものが、3PT/日に変わった。
この差が積み重なる——5日で15PT。10日で30PT。
狩りを再開する。
今夜から。
---
日中は設備の配置案を考えることにした。
ガチャで手に入った設備の一覧を頭の中で並べる。
因果の罠——使い所はある。
だが一度限りの消耗品だ。
使う相手と場所は慎重に選ぶ必要がある。
連鎖爆炎魔法陣——
3連鎖まで対応できるが、
配置の設計次第で威力が跳ね上がる。
通路に仕込むか、入口の間に置くか——
複数の設置点を経路に沿って組んでやれば、
単発の爆発より確実に削れる。
感電床、撒き菱、滑走床——
組み合わせれば速度を殺せる。
前室の手前に並べるのが素直だが、
あまり詰め込みすぎると逆に見え透いてしまう。
凪は今は決定しなかった。
2F解放後の構造が見えてからのほうが、
設置場所の最適解も変わる。
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ふと、気づいた。
外の状況を何も把握していない。
感知の首飾りで周辺250mは読める。
核の感知でダンジョン周辺の動きもわかる。
だが——ダスクホールで今何が起きているかを
凪は一切知らない。
Cランクの捜索隊が消えてから、
ギルドが黙っているとは考えにくかった。
次の手を打っているはずだ——
どのランクの冒険者が、いつ動くのかを
把握しておく必要がある。
通路で天井待機しているコアバットを呼び出した。
暗闇の中から羽音とともに降りてきた。
手のひら大の黒い体。
目が赤く光っている——通常のグロットバットより
一回り大きく、動きに無駄がない。
「行けるか」
コアバットは翼を一度広げた。
肯定と受け取った。
核のメニューから「視界共有」を起動した。
```
[ コアバット:視界共有 — 接続開始 ]
[ リアルタイム映像を核経由で転送 ]
[ 接続中は通路の警戒ポストが一時空席になる ]
```
コアバットをダンジョン入口から解放した。
---
接続した視界は、最初はほぼ真っ暗だった。
コアバットが岩壁の亀裂を抜けると、
昼の光が広がった。
鳥の目線で——いや、もっと低い、
蝙蝠の高度で山肌が流れていく。
視界は広い。
人間の目とは色合いが違う——
輪郭が強調され、遠くまで細部が潰れない。
偵察範囲拡大の効果だ。
コアバットは本能的に日陰を選んで飛んだ。
岩影、樹冠の下、崖の陰——
目立たない経路を自律的に選択している。
ダスクホールへの街道は、
ダンジョンから徒歩で丸1日の距離だ。
コアバットの飛行速度なら
2〜3時間で到達できる計算になる。
凪は視界を切らずに待った。
---
山道が現れた。
人が踏み固めた土の道。
街道の本線ではなく、山に向かう脇道だ——
ダンジョン方向へ延びる枝道。
コアバットが道の上空を低く通った。
4人組が歩いていた。
先頭の男が重厚な胸甲を着けている。
腰に幅広の剣——Dランクが持つ鉄製のものとは
別格の品だとわかった。
2番目は後ろ向きに振り返りながら歩いていた。
何かを確認している——地図か、あるいは
後方の山の形を見ているか。
3番目は女性。
鎧の上から外套を羽織り、
腰に1本、背中に1本の双剣を提げている。
4番目は少し間を空けて歩いていた。
杖——魔法使いか呪術師の類。
4名。
重装前衛、斥候系、双剣使い、後衛術者。
バランスが取れた編成だ。
コアバットが上空を通過する間、
4人のうち誰も空を見なかった。
昼間に飛ぶ蝙蝠を気にする者はいない——
それで十分だ。
---
視界を一時停止した。
この距離でこの装備——
Bランクと見て間違いない。
ギルドが出した捜索依頼を受けた連中だろう。
距離を逆算した。
ダンジョンから街道まで、直線で約18km。
現在地点から残り8〜9km——
今日中に山の麓まで来る。
明朝には、このダンジョンの感知範囲に入る。
コアバットに帰還を指示した。
```
[ コアバット:帰還指示を送信 ]
```
---
凪は視界共有を切った。
4人。Bランク相当。
Cランク3名を始末してから
10日と経っていない——
ギルドの動きは想定より早かった。
あるいは遅すぎたかもしれない。
10日でBランクが動くなら、
最初から備えておくべきだった。
反省しても今は意味がない。
情報が入った——それで十分だ。
整理する。
来るのは明日の昼か午後。
4人組で、編成に死角は少ない。
魔法使いが後衛にいる以上、
通路での一方的な処理は難しくなる。
設備の設置が急務になった。
連鎖爆炎魔法陣——
入口の間か、通路に先行設置する。
遠距離火力を潰してから前衛に当てる順序が正しい。
撒き菱と滑走床の組み合わせで
通路の速度を殺す。
因果の罠は今回は温存する。
使う相手を絞る価値がある。
凪は核のメニューを開いた。
```
[ 設置:連鎖爆炎魔法陣(通路・入口側)]
[ コスト:-10 PT ]
[ 設置:撒き菱(通路・中央)]
[ コスト:-3 PT ]
[ 設置:滑走床(前室手前・通路出口)]
[ コスト:-3 PT ]
[ 残PT:-11 → ※PT不足 ]
```
止まった。
残PT 5。
3つ合わせて16PT——話にならない。
1つだけ選ぶ。
連鎖爆炎魔法陣を優先した。
```
[ 設置:連鎖爆炎魔法陣(通路・入口の間側)]
[ コスト:-10 PT ]
[ 残PT:-5 → ※PT不足(現在PT:5、コスト:10)]
```
また止まった。
5PT足りない。
今夜稼げれば解決する——
設置は明日の朝にするしかない。
4人組が到着するのは明日の昼か午後。
今夜狩りを済ませて、
明朝に設置すれば、まだ間に合う。
時間は十分だ。
ただし、狩りに出て稼ぎが出なければ話にならない。
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昼を過ぎると、
外の気配が感知の首飾り越しに流れ込んでくる。
装備前は核の感知範囲が
ダンジョン周辺200mほどだった。
今は250mまで届いている——
以前なら素通りで終わっていた山肌の動きが、
輪郭として読み取れるようになった。
午後になって、斜面の中腹に鹿の群れが映った。
4頭、ゆっくりと草を食んでいる。
夜まで動かないだろう——
群れが日没前に移動するようなら追う。
動かなければ今夜の狩り場として使える。
17時、日が傾き始めた頃、
群れは稜線の向こうへ消えた。
追う。
---
凪はダンジョンを出た。
速度の靴の感触を確かめながら斜面を登る。
一歩目から違いがわかった。
踏み込みが軽い——AGI+12という数字が
実際の動作に反映されていた。
走るというより、地面を蹴り出す感覚が
以前より明確だ。
岩場を通るときも躓きにくい。
足裏が路面の凹凸を細かく読み取っている。
感知の首飾りが稜線の向こうに反応した。
3頭——群れが散っている。
距離を測った。
約220m先。
以前なら感知圏外だった位置だ。
---
月明かりを背にして
稜線を越え、斜面を下った。
鹿は岩の影に固まっていた。
速度の靴の接地コントロールを活かして
足音を消したまま詰め寄った。
5m——先頭の鹿が振り向いた。
目が合った瞬間に踏み込んだ。
岩壁へ追い込んで1頭。
散走した残りを即座に追い、
速度差で2頭目を斜面の窪みに詰めた。
```
[ 討伐確認:鹿 × 2 ]
[ PT報酬:+4 PT ]
[ 残PT:9 ]
```
以前なら1頭仕留めた時点で群れを逃していた。
速度の差が出た。
---
2頭を回収して南の尾根へ移動した。
首飾りの感知が広いおかげで
移動中も周辺の気配を拾える——
歩きながら次の狩り場を決められる。
約30分で次の反応を捉えた。
低木の茂みの奥。
二足で動く気配——
いくつかの塊がまとまっている。
近づいて確認した。
ゴブリンだった。
4体。岩陰に火を起こして
何かを炙って食っていた。
この山域にもゴブリンが出るのか——
初めて確認する情報だった。
凪は立ち止まった。
考えた。
危険か——そうでもない。
火を持っているが武器は粗末な石斧が1本、
あとは素手に近い。
4体まとめてなら手間だが、
速度の差が出れば各個撃破できる。
PTが出るかどうかは不明だが——
試す価値はある。
---
火の光を避けて
茂みを迂回した。
背後から1体目。
気づかれる前に仕留めた。
2体目が振り向いた瞬間、
速度の靴で間合いを詰めた。
6秒。
残り2体は逃げた——
が、感知に映っている。
追いやすい方向へ先回りして
まとめて処理した。
```
[ 討伐確認:ゴブリン × 4 ]
[ PT報酬:+8 PT ]
[ 残PT:17 ]
```
8PT。
4体で2PT/体——
鹿や山猪と変わらない単価だが、
4体まとめれば密度が高い。
魔物を外で狩れるなら、
稼ぎの選択肢が増える。
---
日付が近くなった頃、
斜面の下方にもう一つ反応があった。
山猪——1頭。単独。
仕留めるまで10秒かかった。
牙が一度来たが、
半歩退いて空振りさせた。
```
[ 討伐確認:山猪 × 1 ]
[ PT報酬:+2 PT ]
[ 残PT:19 ]
```
---
今夜の収支を頭の中で整理した。
鹿×2、ゴブリン×4、山猪×1——
合計 +14PT。
維持費 3PT を引いても
11PTのプラスだ。
明朝に連鎖爆炎魔法陣(-10PT)を設置しても
残PT 9になる計算だ——
問題ない。
ゴブリンがこの山域にいることがわかった。
定期的に出るなら、
稼ぎの安定した供給源になる。
---
夜明けの少し前にダンジョンへ戻った。
入口の間を通りながら
罠の位置を確認した。
暗闘罠が2つ、落とし穴が2つ——
配置は変わっていない。
通路でボーンスカウトが
直剣を提げたまま壁際に立っていた。
凪が通ると、低く頭を下げた。
「そのままでいい」
前室に入ると、
影狼がわずかに尾を動かした。
アラクニアは天井で静止。
サンダーウルフは床で目を開けたまま待機していた。
三体とも定位置にいる。
---
DM区画に戻った。
収支を整理した。
```
[ 本日のPT収支 ]
[ 維持費(影狼・アラクニア・サンダーウルフ)-3 PT ]
[ 外部討伐(鹿×2・ゴブリン×4・山猪×1) +14 PT ]
[ 本日差分:+11 PT ]
[ 現在残PT:19 ]
```
19PT。
明朝に連鎖爆炎魔法陣を設置すれば
-10PTで残り9PT——
今日1日で9PT純増になる。
予想より稼げた。
ゴブリンが出たのが大きい。
---
連鎖爆炎魔法陣の設置位置を確認した。
通路の入口側——
後衛術者が通路に入った瞬間に
火線が走るよう起動距離を3mに設定する。
前衛が炎で足を止めた隙に
影狼とボーンスカウトが詰める。
前室のサンダーウルフが雷撃で追い打ちをかける。
4人全員が通路に並べば理想だが、
間隔を空けて進んでくる可能性もある。
最悪、後衛に連鎖が届かなくても
前衛2枚を削れれば前室で処理できる。
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凪は寝台に横になった。
天井の石を見た。
Bランク4名。
Cランク捜索隊とは練度が違う可能性がある——
想定が外れる場面も出るだろう。
だが今のダンジョンでできることをやる。
それだけだ。
明朝、設置する。
昼前には来る。
目を閉じた。
---
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【ダンジョン構造(変更点)】
変更なし
【経路】
入口(山の斜面・岩壁の亀裂)
↓ 通路(5m) ※コアバット天井待機 / ボーンスカウト壁際待機
入口の間(10m×10m)
↓ 通路(5m)
前室(10m×10m)
↓(分岐①)
ダンジョンマスターの間(10m×10m)
↓(隠し扉)
DM生活区画(3m×4m)
↓(分岐② 通路5m)
空き部屋(10m×10m) ※現在未設置
【配置詳細】
◇入口の間:暗闘罠×1 / 落とし穴×2(中央ライン)/ 毒霧散布罠×1 / ダークスライム×1(予備・再配置済み)
◇通路(入口の間⇔前室):コアバット×1(天井待機)/ ボーンスカウト×1(壁際・粗鉄の直剣〔粗製〕装備)
◇前室:影狼×1(ステルス)/ アラクニア×1(天井)/ サンダーウルフ×1(床・待機)
◇ダンジョンマスターの間:ダンジョン核
◇DM生活区画:排泄処理スロット / 洗面台(温水)/ 石製寝台(寝具セット)
◇空き部屋:未設置(空) ※ゴースト・ガーディアン配置候補
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【戦力配置(変更点)】
変更なし
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【PT収支】
第10章開始時PT 8 PT
維持費(影狼・アラクニア・サンダーウルフ × 1日)-3 PT
外部討伐(鹿×2・ゴブリン×4・山猪×1) +14 PT
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第10章終了時PT:19 PT
※外部討伐単価:鹿 +2PT、山猪 +2PT、ゴブリン +2PT/体
※ゴブリンがこの山域に生息することを初確認(定期的な稼ぎ源として期待)
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【コアバット偵察情報】
- ダスクホールからの街道上にBランク相当4人組を確認
- 編成:重装前衛 / 斥候系 / 双剣使い / 後衛術者
- 現在地:ダンジョンから残り8〜9km地点
- 到着予測:翌日の昼〜午後(明日)




