第22話:再会
一閃。
白鞘の長く美しい刀身が空を駆けた。
入る。
誰から見ても、明々白々と言ってもいいほどに、疑いようもないほどに、それは確定された未来だった。
……しかし。
「「「なっ……!?」」」
刀身は、確かにヘビの体の胴体を真っ二つに通した。
それなのに、触れるのは空気のみで、ついには物体と呼べるものを斬ることはなかった。
ヘビがニヤリと笑う。
そして間髪入れずに、音速のムチを横一線に薙ぎ払い、俺達との間合いを引き剝がしにかかった。
俺は如月さんを抱きかかえたまま、バックステップで距離をとる。
しかし、反対側に居た絢瀬さんはそのままその場に取り残されてしまった。
ヘビが絢瀬さんの方に向き直る。
「絢瀬……さん――!!」
俺は右腕の痛みに目を歪ませながら、着地と同時、絢瀬さんに視点を合わせる。
ヘビは再び右腕を高く振り上げている。
絢瀬さんは『無念』とぽつりと漏らすと、静かに目を閉じた。
しかし――。
振り上げられた右腕は、いつまで待っても、振り下ろされることはなかった。
「……まったく。リミテッドのボクが時間切れを宣言されるとは、ね」
ヘビの右腕はもうこの世界から消失していた。
いや、右手だけじゃない。胴体部分も足も、腕も、顔に至るまで消えかかっていた。
「まあいいや。もうすぐ終わるんだ。すべてが。何もかも」
「待てや――クソ野郎が……ぁあ」
如月さんが軋む体をおして立ち上がろうとする。
痛い痛い。俺に力入ってるからソレ……。
「まあ、少しは楽しめたよ。じゃあね、おチビちゃん」
ヘビは如月さんをあざ笑いながら、次の瞬間、目の前から消失した。
「柚月さんの意識から消えたのか……」
「……クソが」
如月さんと、絢瀬さんは苦虫を噛んだ顔をしていた。
――ズキン
「ふっ―――ぅ!!」
危険分子が去ったことで、解かれた緊張感により、思い出したかのように無い右腕が痛み出した。
いや、今度は痛いと同時に痒い。掻きたい。掻きむしりたい……っ!!
俺はまた全身に力を込めて、また痛みのピークが過ぎるのをひたすら耐えるしかなかった。
「……いてぇよ。孝一」
当然、ある方の左腕で抱いている如月さんにも、指先から力がこもってしまう。
「すみません、でも、いま、ちょっと動けなくて……」
「……ちっ」
それから如月さんは何も言わず。俺のピークが過ぎるまで待ってくれていた。
* * *
「――おら。もういいだろ」
そう言ってアタシは孝一から離れた。
「お前はそろそろ雪華のところに向かえ。アイツも言っていたけど、どうやら本当にもう時間がないらしい」
最初はもっと広かった校庭も、もう半分以上は崩れ落ちていた。
「……わかりました。お二人ともまた後で」
孝一はそのまま振り返らずに、真っすぐ雪華のいる体育館に向かって行った。
「…………」
アタシはその後を追うようにして、せつなの近くまで足を引きずりながら移動する。
「……ざまあねぇな」
せつなを見下ろしながら言う。
「ふっ……まったくだ」
そんな軽口を叩きながら、アタシは校庭に体をあずける。
「あー……しんど」
ヘビを倒すことはできなかったし、最後は勝ち逃げされたようなもんだった。
……まあいい。いつかリベンジしてやるさ。アタシの抵抗は、まだ終わってないんだ。
そん時は、今回みたいにアイツに助けられるなんて無様をする気もない。
アタシは自分の左肩に手をあてた。
「紗姫」
「……あん?」
「惚れたな」
「ぶっ――はは! んなわけあるかよ」
ったく……アホ抜かせよ。
そんなことを思いながら、アタシとせつなは目を閉じた。
「――」
落ちていく感覚がする。
底があるのかもわからない。この奈落に、アタシたちは二人、落ちていった。
* * *
「うぉ……なんだこれ」
俺は体育館の入り口まで来ていた。
ドアはグニャグニャとしていて、ぷるぷるとして、およそドアと呼べるような状態ではなかった。
意を決してドアを開くも、ドアは触れた部分が割れるかのように、漢数字の一を書いたようになっただけだった。
そして、手にはドアだったものが絵の具のように付着していた。
「うぇええ気持ちわる……」
俺は足でガシガシとドアをけりながらスペースを確保していく。
おそらく、もうこのズボンは履けないだろう。
「――!」
体育館の真ん中で、呆けながら天井を見つめる青髪の少女が目に入った。
「ゆ――雪華!」
「ひっ――! ……あ、れ……孝ちゃん?」
体育館の中に踏み入れた瞬間、いままで見ていた光景から一変した。
外はあんなにも暗く、色が失われていたのに、逆に体育館の中は白一色だった。
バスケコートもゴールもない。壇上も演台もない。
ただただ、ただただ、白いだけの何もない空間だけが広がっていた。
俺はあるのかもわからない床を踏みしめながら、彼女のもとへと駆けた。
いまにも消えそうな、彼女を目指して。
次回で第一章は完結の予定です。




