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らぶろあ ー君とはじめる愛(love)の伝承(lore)ー  作者: Yz
第一章 せっかりょうらん(上)
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第21話:空を切る

挿絵(By みてみん)

「――大丈夫ですか! 如月さん! 絢瀬さんも!」


 俺は二人のもとに駆けつけた。


「……ああ。なんとかな」


「やるではないか! 孝一殿! 見直したぞ!」


「いや……、それが、自分でもよくわかってなくて……ってか絢瀬さん大丈夫ですかマジで」


 俺は絢瀬さんのふくらはぎに目をやる。

 痛々しい……。それ以外に言いようがない。

 その凄惨な状態が、はっきりと見えた。


 血が溢れているとかいうよりも、骨も筋繊維もよく見え――って。


「……あ、あれ? 血、出ないんですね」


 これだけの重症であれば、血がもっとドバドバ出ていてもいいようなものである。

 しかし、絢瀬さんの足は傷こそ酷いが、キレイなものだった。


「ああ……おかげで出血多量で死ぬことはなさそうだ」


「痛みはあるんですか……?」


「むろんだ。めちゃめちゃ痛い」


 うわぁ……聞かなきゃよかった。


「無駄話はそこまでだ。アイツのイラつきもピークらしい」


 俺たち三人は、なおも脅威として立ちはだかるヘビを見据えた。


「……どいつもこいつもボクの邪魔ばっかりだ。やっぱり人間は滅ぶべきなんだ。そうだ、そうに違いない」


 ヘビはまた、自分の殻に閉じこもっているようだった。……爬虫類だけに。


「……真宮。お前の知っていることを話せ。手短にだ」


「は、はいーー」


 俺たち三人は、それぞれが知っていることを手短に共有した。


「……なるほどな。どおりで」


「ああ。合点がいった」



 つまり、こういうことらしい。


 あの頭上を蝕み、いまにも世界を取り込まんとするワールドイズマインには、少なからず柚月さんの意識が入っている。


 それはつまりどういうことか。

 如月さんも、絢瀬さんも、柚月さんからしたら『ただの可愛い女の子』である。


 通常、それはその通りで、的外れでもなく誤りでもなく間違いでもない。

 しかし、この状況。つまり、いまこの時で言えば最悪な結果を引き起こすことになる。


 それは『可愛い女の子が強いわけがない』という、女の子としてもっともらしい答えだった。


 これが意図してか無意識なのか、柚月さん本人でなければ分からない。

 しかし、現に、如月さんと絢瀬さんは柚月さんの『ワールドイズマイン』を通して、弱体化させられてしまっているのだ。


 そうして逆に、ヘビに関しても最悪この上ない。

 畏怖の対象であるが故に、逆にヤツは強化されてしまっている。


 そうして俺も、どういう意識からかはわからないが、その恩恵を受けているようだった。



「……まあ、だからと言って、アタシは雪華に何か思ったりはしない。アイツがアタシをそういう目で見てくれている。それはそれで、ありがたいことなんだ」


「ああ。私もだ。それでいい。それが正しい」


「…………」


 俺は、そんな二人を見て胸が熱くなった。

 しかし、余韻に浸っている時間はない。


「さて……真宮。どうすりゃあいい」


 如月さんがヘビを見据えながら俺に言う。


「ちょっと整理します」


 俺は現在のリソースを確認し、作戦を立てる。



 ――が、その前にリミットが来てしまったらしい。



――ビュン!!



「君には感謝しているから、見逃してあげようと思ったのにさ、」


「ちっ……ッ!」


 如月さんがヘビの前に飛び出る。


 ヘビは、あれだけぶんぶんとムチを振り回しているのに、その勢いが衰えることを知らないようだった。

 その化け物じみた動きに呆れる。俺ならばとっくに腱鞘炎か肉離れになっていただろう。


 ……時間はもうない。

 いるのは火力のない武道家と、剣はあるが動けない戦士。そして、中途半端に強化された村人Aだ。


 ――クソッ!

 せめて何か他に武器になるものでもないだろうか。いっそ狩猟時代に戻って原始的な方法で戦うべきだろうか。


 俺は周囲を見ながら自分の体のあちこちを探っていた。


「――ん?」


 その時だった。

 俺の右手が、何かに触れた。


 それが何か思い出すため、俺は自分の記憶をフラッシュバックさせた。

 そして、それが終わると俺はすぐに如月さんに合図を送った。


 なんてことはない。

 整理するまでもなく、やれることは決まっていた。


 如月さんは素早く戻ってくると、地面に膝をついた。

 息が荒い。体力も限界のはずだ。それでも、ここは踏ん張ってもらうしかない。


 俺は如月さんに、戦略を説明した。


「……わかった。アタシももう余裕がない。三人で行くぞ。孝一」


 あまりにもあっさり言うものだから、不意打ち過ぎて俺は決意が崩れるところだった。

 絢瀬さんは『ほーぅ』と言う顔をしていた。


「あ、あんだよ……。お、おら! ちゃっちゃとぶっ倒して、雪華のところに行くんだろ!」


「――はい。いきましょう!」


 俺はさっきとは違う目で、目の前のヘビを睨んでやった。



* * *


 如月さんと俺は二手に分かれて、ヘビを挟む。

 そして三人が一直線に並ぶ。


「はぁ……。なに。挟み撃ちかい? 二手に分かれれば、僕のムチが迷うとでも思ったの? 舐められたものだね。本当にもう――イライラするなあ!!!」


「まあ、まあ。そうカッカするなよ。みんなで縄跳びでもしようぜ。長さも丁度良さそうじゃないか。そのムチ」


――ビュン


――ビュン!!


――ビュンッ!!!!


 ヘビは怒りに任せて、いままでよりも速くムチを振り回し、砂埃を巻き上げている。


「なら飛んでみろよ。ボクのムチをさあ!」


 ……今までのがフルスピードじゃなかったのかよ。バケモンが。

 俺は試しに近くに落ちていた校舎の欠片を拾い、ヘビに投げつけた。


「――ふんっ!」


――ピシャッ


 投げた欠片は、さらに細かい欠片となって地面へと散らばった。

 原始人の戦い方では、どうやら現世では通用しないらしい。


「――ふぅ。ふぅ――ふぅうう」


 俺は息を落ち着ける。

 しかし、落ち着けようとすればするほど、息が上がる。


「どうしたんだい。こないのかい? 喧嘩を打っておいて」


 本当に避けられるのか。不安になってきた。


 さっきまでのはまぐれじゃないのか。

 さっきまでのはギリギリ避けられていたが、いまも避けることが出来るのか。

 不安要素ばかりが脳内を駆けまわり、俺の動悸をさらに早める。


 ……俺は目の前を見る。


 ヘビではない。


 それを越した先の、如月さんを見る。

 如月さんの目は、慈悲の目ではなく俺を睨みつけていた。


 その目を見て、俺は決心した。


 ……もう一度、息を整える。

 今度は深く、息を吐く。

 如月さんはステップを踏み、ギアを上げる。


 俺は、一歩、二歩と揺れながら、足を踏み出した。

 それに呼応するように、如月さんも間合いを詰めて来る。


 ――そして。


 俺と如月さんはほぼ同時、ヘビの懐を目掛けて飛んだ。

 間断なく襲い掛かるムチの応酬が俺と如月さんを迎える。


――ビャン!!


――ビュン!!


 避けられる。

 なぜかはわからないが、俺はついていけていた。

 さっきまで止んでいた頭の中のアラームも、またうるさい位に鳴り始めている。


 しかし。


「くッーーハッ! ッツ!!」


 如月さんはダメだ。

 ムチの速度に追いつけず、明らかにダメージを負い始めている。


 ……だが、それでいい。

 これは、最初から『どちらかが囮になる作戦』だったからだ。

 片方が囮になることで、そちらに攻撃が集中する。

 その間に近づいて、仕掛ける。そういう作戦だ。


 最初は俺だった。

 でも、如月さんが自分が囮になるといった。


 ……俺は、自分が避けられるか不安だったんじゃない。


 でも、これでいい。

 如月さんが言い出したことだ。

 そうだろう。これでいい。これで。言われた通りだ。


 これでいい。

 これでいい。

 これでいい。

 これでいい。


 これでこれでこれでこれでこれでこれで。


「――いいわけあるかよ!!! うるせえなあ!!」


 俺は、自分を放棄した。

 ヘビを無視して、一気に如月さんに近づき、彼女を抱きかかえた。


「こ、孝一……! てめ! なん――おま」


「仕方ないでしょ! 俺だって男の子なん――」



――ビャン!!!



 しかし。当たり前だ。

 そんなことを、ヘビが許すはずもなかった。


「う――? あ……?」


 俺の右腕は、いとも容易く、あっけなく、こともなげに、その体から離れていった。


「ふ――ふぅうううううううっ!!!」


 いままで味わったことがない形容し難い痛みで頭が混乱する。

 絢瀬さんの時のように、血は出ていない。


 しかし、目を見開き、涙をため。

 失ったはずの右腕に、なお力を込めるように歯を食いしばる。

 そうしたことで痛みが引くわけでもない。なんにもならない。


 でも、力を込めるしか出来ない。

 もう込めざるを得ない! 込める以外なにもできない!!


 いたいいたいいたいいたいいたい………!!!



 ……け、れど。

 結果的に、ヘビの懐まで近づくことはできた。

 やるべきことに関しては、やれただろう。

 俺にしては、よくやった方だ。


 だから、あとで褒めてくんないかなあ。



「ああ……、今度、お前にだけとっておきのおいしくなる魔法、かけてやるよ」


 俺のまだある方の腕に抱かれた如月さんの手には、あるものが握られていた。

 さっき抱きかかえたときに、一緒に投げておいたのだ。



 『私も看過出来るものではなかった。なので、彼女にはアドバイスを与えていた』


 『なにをしているのかねキミは』



 アイツは。

 俺が柚月さんの机の上で『コレ』を見つけるのを待つために、わざわざ外で待っていたのか?


 あの時――最初にアイツを見かけた時点で、この場面まで読んでいたというのか……?


 俺の考えすぎかもしれない。

 でも、そうじゃないとしたら――


 一番のバケモノは、お前かもしれない。お前は一体何者なんだ……?


「……行くぞ。孝一」



――シュゥウウウウウ



「あ? なんだいそ――れ、あ……あ――あああああああああ目!!! 目が!!」



 はは! 効くだろうよ! そりゃあ!

 なんたって、熊も泣いて逃げ出すカプサイシンのスプレーだ。

 柚月さんがリミテッドに言われて、痴漢対策に買っておいたらしい。


 そして――


「……よくやったぞ。二人とも」


 二人に注意を向けさせ、砂埃を巻き上げさせたことで、絢瀬さんはじりじりとヘビの背後まで逼っていた。

 絢瀬さんは深く腰を落とし、抜刀の構えをとる。


「終わりだ」


 勝った。そう確信できるほどに、勝っていた。

 振りぬかれた神速の如き刃は、ヘビの胴体へと吸い込まれるように直線を描く。


 そして俺たちはついに、ヘビを倒すことに成功――



 しなかった。

■あとがき

ここまで読んでいただきありがとうございます。

よろしければブックマークなどしていただけると嬉しいです。


※イラストはAI(Stable Diffusion)を使用しています。

※「らぶろあ(Love Lore)」はRPGツクールでの制作も進めています。

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