第20話:15%のイカサマ × ワールドイズマイン = ∞%(ヒーロー)
――ドクン、ドクン
――ドクン、ドクン
「はぁ……、はぁ……っ! はぁ……っ!」
心臓の音が、肩や腕、足、全身で聞こえる気がする。
顔が熱い。目は霞んでよく見えない。
でも、分かる。
目の前の、ほんの20mくらい先にいるのが、あのヘビであることが。
頬に冷たい何がか伝う。
それが涙なのか、汗なのか。それとも混ざった新しい液体なのか。
「君……は――ああ! 君か! キミキミキミキミ!」
目の前のヘビは、まるで子供のように嬉しそうに俺の方を見て何か言っている。
「君のおかげでやっと完成したんだ! 見たかい! 上空のアレを! やっと完成したんだ!」
ヘビは、不気味に空を侵食するワールドイズマインを誇らしげに指さして笑っていた。
でも、いまの俺には半分も理解できていない。
ヘビが何を言っているか、さっぱりわからない。
「俺の……おかげ……?」
「!! そうさ! 二年前は……失敗だったんだ。ムカついちゃうよね。あとちょっとなのに、邪魔してきた女がいてさあ」
ヘビは俺の反応が嬉しかったのか、勝手にしゃべり続けている。
「うんざりするだろ? だから殺してやったんだよ。自己主張の強い自分勝手な人間はみんな消えればいい。君もそう思うよね?」
ヘビはそれからも何かをベラベラと喋っていたようだけど、俺の耳にはもう聞こえてなかった。
視界の左端で、倒れている如月さんが血走った眼でヘビに対してなにかを叫んでいた。
――静かだ。
さっきまで、あれだけうるさかった風の音や地面や建物が崩壊する音。
何かを誇らしげに喋っている目の前の何か。
でも、いまの俺の耳には聞こえなくなっていた。
ただ、その状況でも、一つだけ、さっきから一定間隔で鳴っている音がしていた。
その音は目覚ましのスヌーズ機能のように、だんだんと大きくなっているのを感じた。
何度も何度も、頭の中でアラームのように響き続けるあの高音だけが、いまの俺の頭には響いていた。
「――君にも見せたかったなあ! アレを顕現させたときの女の顔! なんていったと思う? あの時の女みたいに今度は君を殺すぞって脅したらあの女さあ」
「……うるせえ」
意識が再び現実に戻る。
「あ? ……ああ、ごめんごめん。つい嬉しくて、勝手にしゃべり続けてしまったね」
相変わらず心臓はバクバクだし、何一つ状況は変わっていない。
スーパーマンになったわけでもないし、怖くて目から涙は止まらない。
でも、いまの俺なら言える。
「ゴチャゴチャ……」
「……うん? なんだい?」
「ゴ、チャゴチャと! なに、言ってるか……、はぁはぁ……っわかんねぇんだよ、異常者この野郎」
俺は、どもりながら目の前のヘビを罵倒する。
「……君も、僕の邪魔をするのか」
さっきまでお調子者のようだったヘビのトーンが下がる。
「は……ははっ」
俺は格好いい、キラキラしたヒーローってやつはわからない。
なれるとも思わない。
……でも、もし。
俺みたいな恰好悪いヒーローがいるとしたら。
きっとこういう時、不敵に笑いながら、中指立ててこう言うんだろう。
だから俺も、ビシッと言ってやるんだ。
「俺とやりたきゃアルミホイルでも巻いてから出直してこいや……ヘビ
ーーいや”ベィビィ”」
ってな。
『わざわざバカみたいに歯向かっていかなければ狙われもしないだろう』
……なあ。あんた。
いまの俺は、お前にはバカみたいに歯向かっているように見えるか?
彼は肉体改造もされていない。
プロレス技も使えない。
――けど、まちがいなく本物のヒーローがそこにはいた。
* * *
アタシはうつ伏せに倒れながら、顔だけ正面に向けていた。
顎がテニスコートの地面で擦れて痛い。
だけど、そんなこともすぐ忘れるような光景が目の前にあった。
「せつな……、見えてるか」
「あ、ああ……。だが、とても信じられん……」
……アタシもせつなも、目の前の光景に唖然としていた。
いっそ、最初から夢でした。と言われた方がまだ信ぴょう性があった。
世界がこんな有様だ。
きっとそれもあり得るのかもしれない。
アタシは店で待っていろと言ったはずなのに、あいつが何でここにいるのかわからない。
人に対しては常に敬語で、こっちが強く出れば、すぐ下出にでる。
公園で初めて会ったときに、ぐしゃぐしゃに泣いていた。
「アレが、真宮だっていうのか……?」
真宮はヘビに向かって行った。
そりゃあ無様な格好だった。
動きのどれもが、これまでケンカしたことがないのがすぐわかるくらい、なっちゃいなかった。
……だが、信じられないのはこっからだった。
”いまの”アタシでも避けるのがやっとだった音速を超える鞭を、すべて避けていた。
――いや、正確には違う。
ヘビがわざと外しているんじゃないかと錯覚する。ムチが勝手に避けてる?
しかしそんなことはあり得ないだろう。
そんな理解不能で、理不尽な違和感。
ただ、そんなのはどうでもいい。
アタシは、まみみの仇を討たないと気がすまねぇ……ッ!
頭ではまだ信じられないことだけど、いまは見たものを信じるしかない。
戦力が増えた。それだけわかればいい。
「しかし、あのままでは孝一殿の体力が持たないぞ」
「ああ。アイツ体力ねえからな……」
アタシは力を振り絞って、立ち上がる。
「――ふぅ」
アタシは孝一に向かって、小さく指を振って合図をした。
孝一はさっきからこっちをチラチラ見ていたので、すぐ気づいた。
全身が痛い。だが致命傷ではない。
アタシはまだ……戦える。
* * *
「はぁはぁ……げほっげほっ」
息が持たない……。わき腹もまた痛くなってきた。
「イライライライライライライライラ」
なぜか知らないけど、ヘビの攻撃が俺には全く当たらなかった。
たまに掠るけど、衣服を掠めとるだけで、皮膚へのダメージはなかった。
それがヘビをとてもイラつかせていた。さっきから念仏のようにずっと唱えている。
「…………」
だけど、避けてるだけじゃ、こっちとしても埒が明かない。
体力も持たない。
「ぅ……シッ!!」
俺は意を決して、攻めに転じることにした。
ムチをよけながら、一気にヘビに向かって走った。
ははっ! 全然当たらねえ! なんだこんなもんかよ!
もう少しで、ヘビとの距離が縮まる。
……そう思った時だった。
世界が止まった。
いや、とてもスローになった。
俺の右足のつま先がゆっくり、地面に着こうとしているのが見える。
なぜかわからないけど、その次に思ったのは、
『あ……ヤバイ』
だった。
全身の毛穴がゾクッっとした瞬間、世界がまた時間を取り戻した。
俺は右足のつま先に地面に着く前に、左足で地面をけり上げて後ろにすっ転ぶように倒れた。
――ビャン!!
そのすぐ後だった。
いままでとは全く異なる鋭い音が、鳴り響いた。
俺が右足を着こうとしたしたところは、真一文字に切り裂かれ、その衝撃は校舎をも両断していた。
「……へぇ。やるじゃん」
さっきまでイラついていたヘビは、むしろ感心した。というように上から見下ろすように言った。
――ゴクリ。
人に聞こえるくらいの嚥下音が鳴る。
完全に調子に乗っていた。ハイになっていた。
視界の端で、如月さんが手招いているのがわかった。
俺は攻撃が止んでいるこの瞬間に、彼女のもとに駆けつけることにした。
■あとがき
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※イラストはAI(Stable Diffusion)を使用しています。
※「らぶろあ(Love Lore)」はRPGツクールでの制作も進めています。




