第17話:ミルク
「そうだ。――12人の宣刻者。それが」
「我々の名だぁ……名だぁ……名だぁ(セルフエコー)」
「…………」
「…………」
「…………」
――シーン。
「……フム。認めよう。キミ達にはユーモラスが欠如している。と」
ドアを背にした不審者が、俺達を見ながら、呆れながらにそういった。
……不審者に、人の品格をどうこう言われたくはない。
というか、この状況で笑えるほどの胆力を持った人間がどれほどいるだろうか。
「お前がリミテッド……だと?」
「如何にも。そういっている」
「……せつな。どうなんだ」
如月さんはその小さな体で、全身で警戒しながら隣の絢瀬さんに問う。
「わ……わからん。しかし、彼がそうだというのなら、そう……なのだろう」
「なんだそりゃあ、何のために聖央に行ったんだよお前は」
「ああ、マスター。ブラックをもらえるかな。ミルクたっぷりで頼む」
「「「!?」」」
リミテッドと名乗った男は、また音もなく、いつのまにかカウンター席へと座っていた。
そして、もうそれはブラックと言わないのでは……。
「あ……、すみません。俺、マスターじゃないです……」
「そうかい。それは残念だ」
――ドン。
カウンターに拳を振り下ろして、如月さんが男にいう。
「テメェにやるようなコーヒーはウチには置いてねぇ。――雪華をどこにやった」
「……フム。キミがマスターかな? では、ホットミルクを」
コーヒーどこいった……!
もはやミルク飲みたいだけじゃねえかこの人。
ってか、ホットミルクでいいなら俺でも作れたな……。
「やらねえって言ってんだろうが……! いいからさっさと言いやがれ」
「……あまり時間を無駄にしない方が良い。柚月雪華君がいまどこにいるのか、知りたいんだろう」
「――!! この……人さらいがっ!!」
「紗姫!!」
掴みかかろうとする如月さんを、絢瀬さんが止める。
その間に、俺はコソコソ仕込んでいたものをカウンター席の男に差し出す。
――コトッ
「……フム」
「聞かせて、もらえますか」
出来立てのホットミルクを啜り、その男はニヤリと笑った。
* * *
「まず、柚月君をそそのかしたのは私とは別のリミテッドだ。私ではない」
「自白したな! やっぱテメエらじゃねえか!」
「紗姫。……孝一殿、紗姫を頼む。私が彼と話そう」
「あ、あにすんだ!! 離せっ!! この巨人女がぁあ!!」
「は、はい」
俺は絢瀬さんから如月さんを受け取り、不本意だけど、如月さんの両腕を固めるようにして抑えた。
「……続けていいだろうか」
「う、うむ。失礼した」
「我々は宣刻者。対象に刻を告げるのが役目だ。それが誰であっても。つまり、柚月君にも、キミ達にもだ」
「私達も……か?」
「そうだ。柚月君の場合は、リミテッドの一人に、強引に、無理やり起こされた。と言っていい。私も看過出来るものではなかった。なので、彼女にはアドバイスを与えていた」
そう言えば朝に柚月さんと話しているのを見かけていた。
あれはその現場だったのか。
「そして、キミ達の場合は、あまりにもお寝坊さんなので、目覚まし代わりにワザワザ出向いてあげたんだ。むしろ感謝してほしいものだ」
「お、お寝坊さん……か」
「……ああ。そうだ。キミ達がもっと早く、柚月君を見つけられていれば、彼女の力を無理やり顕現させられることはなかったかもしれない」
「――っ! 雪華は、どこにいるのですか。無事なのですか……?」
「ボクはね。自分で考えない奴が大嫌いなんだ。聞けばなんでも答えてくれる。教えてくれる。そういう他力本願なやつがね」
「……も、申し訳ない」
「はぁ……。キミ達さ、本当に思いつく場所をすべて回ったのかね。あるんじゃないのかね、ひとつ。思い出深い場所が」
「「――!」」
その言葉に、如月さんと絢瀬さんは思い当たるところがあったのか、何かに気づいたようだった。
「……真宮、もう大丈夫だ」
「あ、はい。すみません」
如月さんは俺の拘束から解かれると、そのまま喫茶店の出口へと向かっていった。
「……礼は言わねえぞ」
「さっさと行きたまえ。遅れを取り戻したくば」
如月さんは、俺に喫茶店で待つように釘を刺したのち、絢瀬さんといずこかへと向かっていった。
「さて……。ホットミルク、ごちそうさま。お代はつけておいてくれたまえ」
リミテッドと呼ばれた男も、喫茶店から出て行ってしまった。
終始、俺は蚊帳の外状態で、一人取り残されてしまった。
* * *
スマホを見る。
あれから十五分が経とうとしていた。
……まだ十五分。こういう時は時間の流れが遅く感じる。
如月さんと絢瀬さんからは連絡が来る気配はない。
「……暇だ」
天井を見上げる。
そういえば、二階は男子禁制だったな……。いまなら覗いてもバレないかもしれない。
――ギシギシ
上がってすぐの部屋に名札がついていた。
よく見ると、四つそれぞれの部屋にも名札がついてあった。
手前の部屋は柚月さんの部屋のようだ。
柚月さんの部屋は小学生の女の子のような雰囲気の中に、戦隊物のフィギュアなどが飾られていた。
机の上に小さい段ボールが置いてある。
封は開いていた、中には――
「こ、これは……」
「なにをしているのかねキミは」
「うわぁあああ――って、リミテッド……さん?」
この人、さっき出ていったんじゃなかったのか……。
「外で待っていたのだが、キミが一向に出てこないもんでね」
「え……俺ですか?」
「そうだよ。真宮孝一君。ボクはね、キミに時報を告げに来たんだ」
「――”ブックメーカー”」
■あとがき
[週2回(主に水曜と日曜)更新予定]
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