第15話:わがまま
――キャーキャー
「――うわあ。人がいっぱいだよ! マミヤくん」
「ですね……」
次の日、俺達は片道2時間かけて件の遊園地にきていた。
おそらく、春休みを最後の一滴まで楽しもうとする人たちの駆け込み需要が増えているのだろう。
遊園地は大勢の人で賑わいを見せていた。
「それで……」
俺は後方の二人組に目を向ける。
「最初、どうしますか?」
声を掛けられた赤髪の少女が答える。
「あたしはこういうのよくわからん。――おい、せつな。お前はなんか乗りたいもんとかないのか?」
「うむ……その、私もかような経験は初めてでな。どこに行けばいいのか、正直さっぱりなのだ」
「……あのなあ。お前が『私も行きたぁい!』っていつまで経っても駄々こねてうるせえから、ついてきたんだろうが」
「紗姫……それではまるで、私が行きたぁいっていつまで経っても駄々こねてうるさいから、我々もついてきたみたいな言い方ではないか」
「だからそう言ってんだよ! せ い か い!」
如月さんが息を荒くしながら、絢瀬さんのことを睨みつける。
「しかし紗姫よ。それなら私がついてくるだけで、紗姫まで来る必要はなかったであろう」
「――あにょッ! それは……アレだよ」
「アレ? アレとはなんだ? 紗姫よ。んん? 抽象的な発言は情報の正確さを欠くぞ。本当は紗姫も来たかったのだろう?」
「はっ!? んなわけねえ……だろっが」
「ほーう……? では、さっきからチラチラ見ているあのゴーカートにはまったく興味がないのだな?」
「……ぐむむ」
それは……俺も乗りたい。
しかし。仲いいなこの二人。
しばらく二人のやり取りを見ていると、俺の袖を引っ張ってくる人物がいた。
「マミヤくん、マミヤくん。わたしアレ乗りたいな! アレ乗ろ。アレ」
「あ。はいはい。どれです――か」
ああ……、アレかー……。
なるほど。
確かに、情報の伝達は正確に行うべきだと、俺は少し学びを得た。
彼女に話しかけられたとき、俺は子供でも楽しめる優しい感じのジェットコースターとか、どうせそんなもんだろうと思っていた。
しかし。
彼女が指をさす先には、タワー型の絶叫系アトラクションがその猛威を振るっている姿だった。
……さっきからキャーキャー遠くで聞こえていたのはコレか。
「……柚月さん、ああいうの好きなの?」
「ううん! 乗ったことないから乗ってみたいの!」
彼女は好奇心あふれるキラキラした目で訴えかけてきた。
その瞳に、俺たち三人は圧倒され、一同はその絶叫系アトラクションまで向かった。
歩いている途中でも分かったが、この遊園地の目玉なのか、すでにそこそこの行列ができており、待ち時間は三十分と表示されていた。
* * *
「――お待たせいたしました」
待っている間もアトラクションの内部を列になって歩かされ、いろいろ周りを見させられていたが、ようやく自分たちの番が回ってきた。
俺たちはアトラクションの席に座り、肩に重い安全バーが下ろされる。
スタッフがそれぞれの安全バーの状態について確認に回る。
「い……いよいよだね! マミヤくん」
「う、うん。……生きて帰れるのかな俺」
俺は自分の心臓が止まらないか、ここに来て心配になっていた。
「楽しみだなあ! なあ紗姫!」
「お前……外からコレ見といてよく言え――うっ」
如月さんが喋り終えるのを待たずに、アトラクションが動き始めた。
俺たちの座っている椅子を含め、部屋全体が、てっぺんまでゆっくりと上昇し始めた。
「はは――はじまったよ! マミヤくん!!」
「お……おおおお!!」
――ガタン
上昇が止まり、目の前の窓が少し開いた。
窓からは、部屋の外の、園内の光景をチラリと見ることが出来た。
……高い。想像していたよりもずっと高い。
ちらっと見えるだけなのに、園内の端まで見えるほどだ。
……えっ。この高さから落ちんの?
ーーそして
俺の心が外の様子に奪われていたその瞬間。
ザアアアア! という速さで部屋全体が一気に降下した。
「うひゃあああああ」
「あーばばばばばば」
さっきまで床についていた足は完全に浮遊し、自分の命がすべて肩の安全バーにのしかかる。
俺は必死で肩の安全バーを掴みながら、日本での絶叫系アトラクションの不具合や故障の低さについて、必死に自分の脳みそに言い聞かせていた。
その後、アトラクションは、途中で『ガクン』と停止したと思いきや、また一気に降下するというフェイントを何回か繰り返しながら地上へと戻っていった。
* * *
「ではお気をつけてお乗りください」
籠が地上まで下りてきて、スタッフに誘導される。
俺と柚月さん、如月さんと絢瀬さんのペアで観覧車へと乗り込んだ。
籠に乗り込むときは早く感じたのに、いざ動き出すと、上昇がとてもゆっくりに感じた。
「うわあ。高いねえ! ね! マミヤくん」
「うん。ですね」
確かに高い。
けど、いきなり降下しないのがわかっている分、安全地帯のような安心感があった。
柚月さんが籠の外を夢中で見ている。
……俺は、今日一日、柚月さんのふとももに視線がチラチラいってしまっていた。
そりゃあ、健康的な男子としては、こんなものが目の前にあったら意識しないほうが無理というもんだろう。
ってか、コレ。前から気になってたけど下はなんか履いてんのか……?
その疑問が余計、太ももに注意を向けさせてしまう。
正直俺は、胸よりもケツと太ももが好きだった。
太ももは太ければ太いほどいいと思っている。
「――ねえ。マミヤくん」
「はい! ごめんなさい!」
「甘露樹さんのこと、まだ下の名前で呼んでたりする……?」
「ん……、ああ、まあ、そうですね。そう呼んでいいって言われたんで……」
「わたしも、呼んでいいって、いったんですケド……?」
「いや、でも、柚月さんは同年代だし、喫茶店でお世話になってるし……」
「じとー……」
「えぇー……」
まいったな……。
二回目かー……、流石に無視するわけにはいかないよな……。
しかも、二人きりでまだ観覧車も中腹あたりだしなあ。
俺は数秒自問自答して観念した。
「いいんすか……?」
「うん。いいって言ってるの」
すごい。
なんかめっちゃグイグイ来るやん……。
「わ、わかりました。じゃあ、一回だけ」
「いいから言って」
「せ……雪華」
「もっと。ちゃんと言って」
めんどくせえええ! 言ったじゃん!
女ってホントにめんどくせえ!
ただ俺は、面と向かって言うのがなんかこっぱずかしかったので、目線を逸らしながら言った。
「……雪華」
目線を戻すと、柚月さんが『にへら』と言う表現が適切な笑みをしていた。
「なあに。考ちゃん」
「……別に呼んだわけじゃないっす」
「うん。わかってるよ」
その後、微妙な空気の中。
俺たちは観覧車の外を二人で眺めていた。
外はもう、夕闇が広がりはじめていた。
* * *
――ガチャ
晩御飯は遊園地で済ませてきていた。
その日はみんな疲れたのか、喫茶店についてすぐ寝床についていた。
俺も例外ではなく、布団を引いてすぐ寝てしまっていた。
――ゴソゴソ
俺が寝ている最中。
俺の布団の中に、誰かが入ってきた気がした。
その人物はしばらく一緒の布団で暖まっていると、気がすんだのか静かに部屋を出ていった。
俺は、夢うつつの中で、ほんの少しだけ目が覚めた。
布団から抜け出す気配に、ぼんやりとドアの方へ目を向ける。
……微かに青い髪が揺れたのが見えた気がした。
けれど、疲れのせいか、次の瞬間にはもう、眠気に意識を持っていかれていた。
そして、その次の日。
柚月雪華は、みんなの前から消えた。
■あとがき
[週2回(主に水曜と日曜)更新予定]
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