第14話:続・デート
「いやー! カッコよかったね! 仮面バイカー!」
「う、うん」
確かに、パンイチマスクマンのおっさんが巨大スクリーンに出ているというだけで、俺的にはすでに、だいぶ面白カッコよかった。
ただ、彼女の言う『カッコいい』はそういうことではないんだろう。
例えば、さらわれるヒロインの前に、傷つきながらも毎回颯爽と駆けつけるとか。
そういった、ヒーローをヒーローたらしめるありようが、彼女には純粋にカッコよく見えるんだろう。
「――あ! グッズコーナーあるよ! ねえねえマミヤくん。ちょっと見てみようよ」
「いいですけど……あんまり高いのは買わないよ」
「ダイジョウブダイジョウブ! ちょっとだけだから!」
「それ、絶対ちょっとじゃない時のセリフだよねえ!?」
絶対全部行くときのやつじゃん! 何がとは……言えないけど。
俺のツッコミも虚しく、柚月さんはぴょんぴょんと跳ねる感じでグッズコーナーへと向かっていった。
「……はあ」
俺は先ほどの光景を思い出していた。
スクリーンの光に照らされた彼女の横顔は、確かに涙を流していたように見えた。
映画の各シーンを思い返す。……が、俺の感性が間違っていない限りは、特に泣けるような場面は思い浮かばなかった。
んー……なんかあるだろうか?
喉にポップコーンが詰まって苦しかったーとか、繰り広げられる数々のプロレス技に、思わず感動したーとかっていう可能性はあるか?
……いやないな。
笑えはしても、涙を流すほど泣けるか? といわれると疑問が残る。
「……うーん」
「お。マミヤくん。その純金製の仮面バイカーフィギュアが気になってるの? なかなかお目が高いね」
「――え」
考え込んでいたら、どうやら目の前でキンキラ光るフィギュアが欲しくて悩んでいると勘違いされたようだ。
……ってかなんだこの気色悪いフィギュアは!
一体どこの金持ちが買うんだ? マネロン目的ぐらいしか需要ないだろこんなの。
「いや、ちょっと考え事してただけだよ」
「なあんだ。わたしはてっきり、マミヤくんがマネロン目的での購入を考えてるのかと思ったよ」
「…………」
……そういう目であなたも見てたんかい。
「マミヤくん。マミヤくん。わたしこれ欲しいな」
そういって、柚月さんは仮面バイカーペンシルとクリアファイルを差し出してきた。
「ん……? コレでいいんですか?」
「うん! それが欲しいの!」
「オーケーです。じゃあ、コレ買ったらお店に戻りましょうか」
「やったね!」
俺たちはグッズを買って、映画館を後にした。
……やっぱりATMか? 俺。
割かし朝早く出たはずなのに、時刻はもう16時に差し掛かろうとしていた。
映画の中身はともかく、我ながら、結構デートっぽいことが出来たことに心が躍っていた。
* * *
――カランカラン
「たぁだいまー! 雪華ちゃんが帰ったよー!」
「戻りましたー」
――シーン
「……ぉぁぇぃー」
少しテンポが遅れて、気の抜けた声が聞こえてきた。
前方を確認すると、カウンター席につっぷして、手をひらひらと振るメイド服姿の少女が見えた。
……如月さんだった。珍しい。
彼女のあんなだらけきった姿を、俺はここに来てからはじめて目にする。
「さ、さっちゃん……? どしたの調子悪いの?」
どうやら柚月さんも気にするくらいの珍しい状態だったらしく、柚月さんがカウンター席に座って、如月さんと同じような体勢になって声をかける。
「んー……いあ。雪華たちがいない間に、その……、父ちゃんがきてな……」
父ちゃん……。
如月さんは父ちゃん呼びなんだなあ。メモメモ
「なに!? 紗姫のパパ殿が来ていたのか!?」
ドドドッという駆け足とともに、せつなさんが驚きの声を上げながら登場した。
「くっ……、エンカウントする機会が……!!」
なんだエンカウントって。敵キャラ扱いなのか……? 如月さんのお父さんは。
「……ぁあ。そうだ。雪華と真宮」
「な、なに? さっちゃん。心配しなくてもだいじょうぶだよ。わたし、今日くらいはインスタント麺で生き延びて見せるよ……! ーーあ。でもデザートは欲しい……かも……かも」
如月さんがカウンター席に顔をあずけながら、ポケットをゴソゴソとまさぐって、二枚の紙を取り出した。
「コレ……、父ちゃんが『友達と行け』ってくれたんだが、あたし向きじゃないから二人にやるよ」
紙を受け取ると、それは遊園地のペアチケットだった。
「いいんですか……?」
「あぁ……」
「紗姫! 私には! 私にはないのか!?」
「ねぇよ……。うるせえなあ。お前は……。――あぁ、そうだ真宮」
「はい」
「父ちゃんズボラだから、有効期限に気をつけろよ。……いや、もしかしたらもう切れてるかも。したらスマン」
「あ……はい。確認してみます」
チケットを見ると、某ネズミの大国のような有名どころではないらしく、俺の知らない遊園地の名称が書かれていた。
たぶん、この辺りの遊園地なんだろう。
チケットの有効期限を見てみると、どうやらチケット自体は半年間有効なチケットのようだった。
ただ……明日で切れるけど。
「明日で切れますね……」
「! おお……、そうか……期限が切れてないとは、やるじゃん父ちゃん。へへっ」
――ああ。
褒めるところ、そこなんすね。
「じゃあマミヤくん。この遊園地のチケット使えるの?」
「うん。明日で切れるから、明日使っちゃわないとだけどね」
「おー! じゃあ明日いっちゃう?」
「そうですね。せっかくいただいたのに、切らしちゃったらもったいないし……」
「やったね! ……楽しみだなぁ」
……待てよ。
これ二日連続で柚月さんとデートってことだよな。
まいったな。やっぱりモテ期だわこれ。
真宮孝一、モテ期確認!
「成長したぜ……父ちゃんも」
「遊園地おいしいもの売ってるかなあ……調べてみよっかな」
「紗姫! 私…っ! 私には……!」
「ねえってんだろが! しつけえんだよオメ……ェは……」
「…………」
それぞれの思いが入り混じる中、俺はふと、彼女の言葉を思い出した。
『アタシは、柚月さんはそう言う人と人との『縁』みたいなものを操れる力を持ってるんじゃないかと思ってるんです!』
……ただの偶然なのか、それとも、これも『その力』なのだろうか。
もしそうだとしたら、柚月さんは何か叶えたい望みでもあるってことなのか?
ありのままを分析すると、俺とデートすることがその望みのように見えるけど……。
まあ、その可能性はたぶん、おそらく、だいぶ低いんだろうな……。
「ん? マミヤくんまた考えごと?」
「――いや。なんでもないです。明日楽しみですね」
「うん! ――あ。わたしね! このケバブ餃子が食べてみたいの!」
何か、あるのだろうか。
彼女が、理すらも捻じ曲げてまで、望む、何かが。
■あとがき
[週2回(主に水曜と日曜)更新予定]
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