第11話:そんなにあまくない
「――ふんふんふん~♪」
翌日。
俺は朝から浮足立っていた。
朝から風呂に入り、体が赤くなるくらいゴシゴシと洗った。
もしものことを考えて、歯も念入りに磨いた。
――グブグブ。
ぺっぺっぺっ。
「……ふう」
一息ついて、スマホの画面を一瞬眺める。
「うへへ」
思わず顔がニヤける。
そこには、一つ下の後輩となるであろう、あまねちゃんとの本日のデートのやり取りが書かれていた。
俺は確信していた。
いつ、だれから聞いたのか忘れてしまったが、聞いた話によると、人は人生のうちに三回のモテ期ってやつが来るらしい。
自慢ではないけど、俺はいままでモテたことがない。
他のやつは足が速いだとか、いま考えてもよくわからない理由でキャーキャー黄色い声をあげられていたのに、だ。
おそらく、キャーキャーいっていた側も、いまとなっては足が速いから何? と、よくわからなくなっているはずだ。
まあ、つまり、そいつ等は小中と早々にモテ期という三発しかない弾数の数発を消費したが、俺のリボルバーにはまだ三発残っているということだ。
「……いや、残っていた。か」
まったく、困ったものだ。ヤレヤレ。
ついに俺にもモテ期という名の弾丸を一発使う時がきてしまったようだ。
最近、何かと女の子と係ることが多くなっていたし、よもやとは思っていた。
たぶん、いきなりだと俺の心臓がビックリして止まってしまうんじゃないと危惧した神様が、ジャブを打って徐々に耐性を身につけさせてくれていたに違いない。
粋な計らいとはこういうことを言うんだろうなぁ!
「――ということで行ってきます!」
俺はさわやかに朝の挨拶をして店を出ようとした。
「……あにいってんだアイツ。あたま大丈夫か?」
「しッ! ……さっちゃん、マミヤくん落ちこぼれなんだから頭のこといっちゃかわいそうだよ……!」
「そうだぞ紗姫! 孝一殿は自分の頭の悪さに絶望して、わざわざ聖北に転籍までしてきたのだぞ!」
「…………ぐぐぐ」
……いや、めっちゃ言いたい放題言うじゃん。
女性が一人増えたことによって、元々なかったような勢力図が赤一色に乱暴に塗りたくられている。
確かに俺の成績はそんなにいい方ではなかったけど、それが全部、原因で転籍してきたわけじゃない。
……まあ、でも、イジメられたから。なんて言えないし、そう勘違いしてくれていた方が都合はいいか。
俺は気を取り直して店を出て、駅前と向かう。
「――ま、マミヤくん!」
駅に向かおうとして、店から少し歩いたところで柚月さんに止められた。
「……ん、なんですか? 何か帰りに買ってきて欲しいものとかありましたか?」
「あ、あの。甘露樹さん……と会うの……かな」
駅前に行くとだけ伝えていたのに、女の勘はすごいというが、柚月さんも例外ではないらしい。
「えっ! あー、その、なんか呼び出されちゃったので、仕方なく……」
「二人で会うの……?」
「は、はい。一応……」
「そ、そっか……。あの、わたしも一緒に行っちゃダメかな……?」
どうなんだろう。
あまねちゃんはデートとは名言していないから、ワンチャン俺の勘違いな可能性もあるけど……。
仮にこれがもし、本当にデートだとしたら、ファミレスで三者面談みたいな空気になってしまうのではないだろうか。
「いやー……それはちょっと……。――あ! でも夕飯までには帰るので!」
柚月さんはうつ向いている。
「な、なにか……?」
「……ううん。なんでもない。遅くならないでね」
うん。と軽く返事して、俺は再び駅に向かって歩き出した。
* * *
「――あ!」
駅前に着くと、甘露樹さん。甘露樹 あまねちゃんが俺を見つけて駆け寄ってきた。
一応、デートの待ち合わせの30分前くらいには現地に居ろ。みたいなのを聞いていたので、早めについたつもりだったが、あまねちゃんはそれよりも早くついて待っていたようだ。
「ごめん。待たせちゃったかな?」
このセリフ、一度はいってみたいと思っていたんだよなぁ……!
「だいじょーぶです! ヒューマンウォッチングも新聞部としての大切な行動原理ですから!」
ううん。そんなことないよ! ……みたいな返事を期待していたのだが、現実は彼女の名前ほどそう甘くはないらしい。
「それじゃ、いこっか」
そういって、出会い系で知り合った男女みたいなセリフを吐きながら俺たちはファミレスに向かった。
* * *
俺たちはとりあえずドリンクバーを注文して、双方が飲みたい飲み物を注いで席へと付いた。
「早速なんですが先輩。先輩って超常現象って信じますか?」
席に座るやいなや、あまねちゃんが突拍子もないことを言ってきた。
……おやおや。初手から雲行きが怪しくなってきましたね。
ツボでも売りつけられるのかな俺。
「うーん。あったらいいなとは思うけどね。オカルトとか好きだし」
「おぉ! 先輩もオカルト好きなんですね! 実はアタシもなんです!」
なんか好感触の選択肢を選択したみたいだ。
アレか? 霊感商法的なアレか?
「なるほど……だからあの喫茶店に住んでるんですね。アタシもそれくらいの行動力もたないとですね……。感服です!」
うんうん。なるほどー。と、あまねちゃんが一人で頷いて納得している。
「そ、それで……! なにかわかったこととかありましたか!?」
あまねちゃんは一人で興奮して身を乗り出してくる。
正直、置いてけぼりをくらっている感が半端ない。
「……いや。ごめん。なにが?」
「なにがって、先輩。――え。まさか、あの事件知らないであそこに住んでるんですか……?」
「事件……って。え、あそこ事故物件なの!?」
まあ、確かに古くて年季入ってるけど、リフォームしないんじゃなくてなんか理由があってできないとかってことか……?
それに薄暗いもんなぁ……。いまだにLEDじゃないもんなあ。何か出てもおかしくないか……?
「いえ。全然。建物は問題ないですよ。アタシが調べた限り。見た目が喫茶店に見えない以外は普通の建物ですよ」
ああ。そう。
いや、見た目が喫茶店に見えないのは当事者からしたら十分問題だけどね?
「……じゃあ、何が問題なのさ。建物が問題じゃなかったら、如月さんとか絢瀬さんとかってこと?」
まあ……、確かに、なんか問題起こしそうと言われたら……起こしそうだなぁ。あの二人……。
まだかかわって数日の俺が言うのもなんだけど、擁護できねえ……。
「いや。何いってるんですか先輩。もう一人いるじゃないですか。――青髪の人が」
「え……」
俺はあまねちゃんのその目つきと言い方に、ちょっとだけ少しゾクっとした。
「アタシも話聞きたいのに、行くと避けられちゃってるのか、いっつもいないんですよね……」
「柚月さんがなんかしたの……?」
「……先輩、ほんとに何も知らないんですね……。一番ヤバいの、あの人ですよ?」
* * *
少し過去の話になる。
いまから二年前の春、聖北学園にある青い髪の少女が入学した。
青い髪の少女は持ち前の明るさと人懐っこさで、すぐに周りと打ち解けていったそうだ。
当時、すでに聖北学園が共学化を推進していたこともあり、男子学生からの人気も高かった。
ただ、そんな光景を面白くなく思った女子学園生がいた。
ある日、その女子学園生は青髪の少女を体育館に呼び出した。
そして、数人がかりで少女に乱暴
――ドンッ!
俺は甘露樹がすべて話すのを待たずに、気づいたら目を見開きながら机を叩いていた。
叩いた握りこぶしは、そのまま机を割る気持ちで押し付け続けられていた。
俺は無言で肩で息を切らしていた。
「せ、先輩! 落ち着いて、他の人も見てますから!」
自分でも信じられなかった。
こんなに怒れるなら、自分がイジメられてた時に反抗できたのではないだろうか。
「かんろ……あまねちゃん。そいつらの住所を教えてくれないか。新聞部としてこの事件を追っているんだろう」
殺さないまでも、そいつらに出来る限りの報復を受けさせてやる。
俺は理不尽とか、そう言った類のことが大嫌いだ。
俺の中の正義が、そいつらを悪だと断定している。断罪されるべき悪だと。
「知っていても言いませんよ。ジャーナリストとしてプライバシーは尊重しますし……それにいまの先輩、その様子だとなにするかわからないし」
「…………」
「それに、ちゃんと話を最後まで聞いてください。先輩が熱い人だって言うのはわかりましたけど、アタシもこんな胸糞話したいわけじゃないです」
「…………」
「はぁ……。先輩がしなくても、その人たちには天罰は一応、下ってますよ」
「……どういうことなんだ?」
「乱暴されそうになったとき、体育館の屋根が壊れて落ちたんです。それで、その青髪の少女以外はみんな重傷を負っています」
「そ、そうだったのか……」
良くはない。
良くはないけど、……良かった。本当に。
「そ、そうだ。それに髪の毛が青いってだけで、それが柚月さんだとは限らないだろ?」
「……先輩」
「な、なにさ」
「髪の青い人がこの世にそうポンポンいるとでも思ってるんですか?」
……自分だって、クリーム色の髪した琥珀眼じゃないか。
「ん……。ただ、それが一体どうしたっていうんだ? あまねちゃんは一体何の話をしたいんだ? 俺に何を聞かせたいんだ?」
いまのところ、俺は感情を逆なでされただけなんだが。
むしろ、その話を聞くまではデートだと思っていたのに、感情がジェットコースターなんだが。
「アタシが調査したところ、確かに体育館の屋根は老朽化していて、近々業者が入る予定だったそうです」
「そうなんだ。神様ってやつはいるのかもしれないな……って話?」
「いえ。ただ、そんな簡単に壊れるはずがなかったそうです。そこまで老朽化していたなら立ち入り禁止にもなっていてもいいはずなのに、当時はそんなことにもなっていなかったようです」
「学園側の不手際じゃないのか?」
「まあ……、それを言われてしまうと、その可能性もなくはないと思うんですけど……」
「うん」
「でも、この件。聖北で起きた事件のはずなのに、なぜか聖央が火消しを行っているんです! 怪しくないですか!?」
「聖央か……あそこには執行部もあるしそんなもんじゃないのか……?」
「うーん……そうなんですけどぉ……そうなんですけどぉ……」
「それでごめん。もっかいいうね? あまねちゃんが何の話をしたいのかさっぱりわからない。何の話したいんだ?」
あまねちゃんはオレンジジュースを一口飲んでいった。
「……じゃあ聞きますね。先輩は、青髪の人……柚月さんと一緒にいて、なにか変わったことありませんでしたか?」
「変わったこと……?」
変わっていると言えば、間違いなくだいぶ変わった子だとは思うが……。
「道に落ちてるものを拾ってくるだとか、戦隊ものが好きだとか……?」
「そういうんじゃないです……。もっとなんかないですか?」
「うーーん……。ーーあ」
そう言えば、彼女にかかわっていると、なぜか運がツいているというか、事態が好転することがちょいちょいあったような気がする。
黒板看板の塗料とか、俺の不動産屋からの入金のタイミングとか。
……俺が、あの喫茶店に住めるようになったことだったり。
――偶然。偶然。
その時、俺は彼女が時折、自分にそう言い聞かせながら、うんうんと考え込んでしまう姿を目撃していた。
「あるんですね。心当たりが」
「……ある。といっても大抵はほんの些細な、それこそラッキーみたいなもんだよ」
「やっぱりですか……。実は、先輩以外にもそう言った体験をされている方が数人いたんです」
「そう、なのか……?」
「アタシは、柚月さんはそう言う人と人との『縁』みたいなものを操れる力を持ってるんじゃないかと思ってるんです!」
「自分は何もしないけど、思うだけで周りがなんか、良い感じにしてくれるってことか……? でも、それと屋根が落ちたのは関係なくないか?」
「でもでも! その力で体育館を立ち入り禁止にしていなかったとしたらどうですか! そのおかげで助かったとか!」
「……あまねちゃん。君は柚月さんが故意に屋根を落として、故意に人に重傷を負わせたって、そう言いたいのか?」
「そうは……いいませんけど……」
「…………」
「……ごめんなさい。こういう、推測とか議論とかするの好きだから、ちょっと熱くなってしまいました」
「いや、いいよ。いや、よくないけど。俺もわかるから」
それから俺たちは軽く食事をして、ファミレスを後にした。
* * *
”世界でいちばんおひめさま
ちゃんと見ててよね
どこかに行っちゃうよ?”
ファミレスの外に出ると、数年前に流行った歌声合成技術のキャラが歌っている曲が流れていた。
「今日はありがとうございました! ご飯までごちそうになってしまって」
結局、あまねちゃんは、如月さんや絢瀬さんに聞いても口を割らなかったので、新顔の俺をターゲットにしただけだった。
……とほほ、デートだと思ったんだけどなぁ。
俺のモテ期はまだこないようだ……。
「あの……」
「……うん? なにかな」
俺は心の涙を拭きながら、平静を装って返事をする。
「アタシ、あまりこういう話できる人いないので、また、お話してくれるとうれしいです」
「……営業トーク?」
「ち、ちがいます! ほんとうです! それに――」
あまねちゃんは、俺の耳元に近づいて、ボソッと
『怒ったときの先輩、ちょっとカッコよかったですよ』そう呟いた。
じゃあ、またです! といって、あまねちゃんが去っていった。
……おや?
これは、やはりモテ期か……?
「――あ! 一つ言い忘れてました!」
「ん……? どうしたの?」
「アタシが超常現象だって思っている根拠の一つを言い忘れていました」
いまその話の続きをするのか…?
よほど喋るのが好きなのか、本当に喋れる相手がいないんだな……。
「その、件の当事者たちは散り散りになってしまってコンタクトを取れなかったのですが、当時、屋根の崩壊に駆け付けた職員の方がまだ聖北にいたので話を聞くことができたんです」
「そうなのか。すごいじゃないか」
つまり事件の第一発見者、みたいなものか。
「ええ! その人、聖央から口止めされていたんですが、コッチも弱みに付け込んで、強引に聞き出してやりましたよ! 本当は極秘なんですが、先輩はこれからビジネスパートナーになるので、特別に教えてあげますね!」
ビジネスパートナーになった覚えはないけども、まあ、教えてくれるなら聞いておこう。
というか、あまねちゃん、普通にジャーナリストとしての才能あるんだな。俺も用心しとくべきか……。
「屋根が落ちたとき、その体育館の周りの色だけ、おかしかったそうです。色がグチャグチャになっているというか、曰く、終末のように感じた。そうです」
「……それこそ『縁』とはかけ離れていないか? もう人と人との縁だとか、関係なさそうだけど」
「そうなんですよね……。それか、もっと別の力なのかも」
あまねちゃんはさながら探偵もののように、顎に指をあてて考え込んでしまった。
「――あ。そうだ。あまねちゃん」
俺も彼女に一つ聞き忘れていたことがあったのを、思い出した。
「はい! なんでしょう」
「如月さんや絢瀬さんは口が堅くて聞けなかったんだよね?」
「そうなんですよぉ! あんなにお店に通ってるのに! 赤字ですよ!」
「喫茶店。あそこには如月さんと絢瀬さん以外に、もう一つ雛琶さんって人がいるんだろう? 僕もまだ会ったことはないんだけど、その人には聞けなかったのか?」
それを聞いて、今度はあまねちゃんがゾクッとした顔をしていた。
「なに……いってるんですか。先輩……? アタシが調べた限り、あそこにそんな人、いないですよ……?」
「――え?」
* * *
――カランカラン
「――あ! 帰ってきた! もう! マミヤくんおそいよ!」
「う、うん。ごめん柚月さん」
俺はアレから、色々考えてしまって、喫茶店に戻りづらくなっていた。
しかし、いつまでもふらついているわけにもいかないので、観念して戻ってきたのだった。
「ほらほら! 御盆持って! ごはん運んで! 冷めちゃうよ!」
う、うん。といって柚月さんから御盆を受け取ろうとする。
……さっきのファミレスでの話を聞いてしまうと、余計意識してしまう。
「……なるほどな」
これは楽しかに、いいものをお持ちのようだ。
このわがままボディに惹かれない男性はいないだろう。
――スパーン!
と、ものすごくいい音をしながら、俺の頭が叩かれた。
「あに、人の胸見ながらなに納得してんだよお前はっ!」
如月さんが足りない身長差を補うために、ジャンプしながらお盆で俺の後頭部を叩いたようだ。
……かわいい。
「……柚月さん」
俺は真面目に戻って、目の前の少女を見つめた。
「は、はい! ――え、な、なに?」
「何かあったら。遠慮なくいってください。力はないけど――僕が守るんで!」
「え、う……うん? ――えっえっ?? そ、それって」
「(プロポーズだな)」
「(プロポーズ……か)」
如月さんが俺の肩をポンっと叩く。
「……真宮。ちゃんと言えたじゃねぇか」
「聞けてよかった」
俺は如月さんと絢瀬さんに円陣を組まされ、わからない流れのまま、体育会系バリバリのノリで掛け声を掛けると、夕飯の配膳作業に戻った。
あと、なぜかわからないけど、本日のデザートはちょっと豪華になっていた。
■あとがき
毎週日曜20時頃に更新予定です。
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※イラストは「AI一部利用作品(Stable Diffusion)」となります。
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