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らぶろあ ー君とはじめる愛(love)の伝承(lore)ー  作者: Yz
第一章 せっかりょうらん(上)
12/25

第10話:LEDと花の匂い

挿絵(By みてみん)

「――ふぅ、ふぅ」


 翌日。

 俺は完成した黒板看板を油終工務店(ゆじまいこうむてん)から引き取った。

 いまはその帰りだ。


「おんもっ……!」


 作っているときにも思ったが、意外と重い。おそらく、5kgくらいはあると思う。

 ダンベルの5kgくらいならなんてことはないのに、形が違うだけでこうも疲労が溜まるものなのか……。


 もともと体力がある方じゃない俺のか弱い両肩が、そろろろ悲鳴を上げそうになっていた。


 俺は、自分の体力を削ってくる憎き黒板看板をチラ見する。


「……ッふ」


 思わず笑いが吹き上げてしまった。

 初めに掲げていた目標よりかは大分小さくて、自分の片手で持てるくらいの小さな看板となってしまった。

 でも、それでも何かをやり遂げたという証が確かにそこにはあった。


 それが嬉しかった。


 初めはあんなにも作るのが嫌で面倒だったのに、いまでは早くコイツを店に立てかけたいとさえ思っている。

 そんな自分に、思わず笑ってしまったのだ。


「くっそぉ……がんばれ、俺……」


 俺は、その5kg程度の自身の小さな誇りを、地面にこすりつけないよう気をつけながら、帰路を急いだ。


* * *


――カタッ


「……ふーむ」


――カタッ


「うーむ……」


 らぶろあに戻ってきてから、俺は何度も看板を立てかけてはベストポジションを模索している。

 もうかれこれ30分はやってるかもしれない。


「……雪華。アイツは一体何をしてんだ……? ――ズズッ」


 如月さんが朝のカフェラテを啜る。いい匂いだ。俺も欲しい。


「なんかねぇ。べすとぽじしょん? を探してるらしいよぉ……ふぁああ。――ズズッ」


「ほぉん……。べすとぽじしょんねえ……。――ズズッ」


 あの、俺もカフェラテ欲しいです。如月さん……。


 しかし、いくら待てどもカフェラテが出てくることはなかった。


 ……ちくしょうっ! わざわざ外で立ち飲みしながら茶をしばきやがって。

 ガヤるなら店の中でやってくれ。俺はいま、映えのベスポジ探しに必死なんだ。


「ふーん」


 カフェラテを飲み終わったのか、如月さんが俺の看板を観察していた。


 ……作品を見てもらっている以上、あまり動かすのは邪魔になってしまうだろう。

 その間、俺は看板に何をどう書くか考えることにでもするか。


「真宮」


「……あ、はい。なんでしょう」


 看板を見ながら、如月さんが俺の名前を呼んだ。

 なんだ? ベスポジの提案か……? それとも看板になにか書きたいことでもあるのだろうか。

 そうだな、例えば、如月さんのチェキ会一回千円とか書いておけば結構人来るんじゃないだろうか。


「――やるじゃん。がんばったな」


 振り向きながら、如月さんがニカッとした笑顔で言った。


「……うす」


 俺は顔を伏せて、感謝を述べた。

 それだけ言うのがやっとだった。

 ……なんでこの人はこう不意を突いてくるのだろうか。

 自分でも望んでいたわけではないけど、掛けて欲しかったであろう言葉を掛けてくれる。

 チェキ会とか言って、ちょっとふざけていた自分が恥ずかしくなる。


「じゃ、あたしは飯の準備してくるから気がすんだら戻ってこい」


「はい。りょうかいです」


 そう言って如月さんは、手をひらひらさせながら店の中に戻っていった。


 ……あ。

 結局、俺のカフェラテはないんすね。それもりょうかいです。


「じー……」


「……なん、ですか?」


 そう言えば柚月さんはまだいたのか。忘れてた。


「わ、わたしだって! マミヤくん、がんばったって思ってるんだからね!」


 それは怒ってるのか褒めてるのか。どっちなんだ……?


「う、うん。ありがとう」


「……なんか、さっちゃんの時と反応がちがう気がする」


「え。そんなことないと思いますけど」


「ふん! そう言うのわかるんだからね!」


 柚月さんはぷりぷりしながら店に戻っていった。


「…………」


 なんだったんだ……?

 いや、実際、俺は別に二人に対して差別も区別もしてないつもりだ。

 というか、人付き合いがめんどくさいので、基本的に誰にでも敬語だし、誰にでも下出に出るように統一している。


 ただ、ああ言われてしまっては、自分の気が緩んでいる可能性を否定できない。

 その気の綻びが、知らないうちに二人への態度の差として出てしまったのだろうか。


――カキカキ


――カラン


「……ちょっと、気を引き締めるか」


 俺は、お手製の看板に本日のおすすめ「ワッフル風フレンチトースト」を書き込んで、店をオープンさせた。


* * *


「――こないなぁ」


 時刻はすでにお昼をまわっていたが、お客はいまだに0だった。

 まあ、あんな看板を立てかけただけで、お店がいきなり盛況になるとは俺もそこまで自惚れてはいなかった。

 ただ、頭でそうは思っていても、期待というのはしてしまうものだ。


「まあ、そう落ち込むな。あのデカイ看板を取り換えるだけなら頼んで終わりだったけど、お前も雪華も苦労して作ったんだ。あたしはそっちの方がイイっておもうぜ」


「は、はい」


 まあ、初日から効果が出るわけでもないだろう。

 地道に待つしかない。


 ……そんなことを考えていた時だった。



――カランカラン



「おちゃー!」


 制服姿の女子生徒が元気のいい挨拶とともに入店してきて、速攻でカウンター席に座った。


「如月先輩あの看板なに!? めっちゃいいジャン! ――あ、いつもので!」


「あいよ」


 いつもの……ってことは常連客か。

 やはり看板を置いただけじゃ、新規開拓は難しいか……。宣伝が必要だなぁ。


 ……にしても、この制服。聖学の生徒……か?


――コトッ


 如月さんが慣れた手つきでキャラメルのソイラテ作り、カウンターに置いた。


「……ってか甘露樹。お前、春休みでも制服なのか?」


「部活ですよ部活ゥ! ――ってアレ、如月先輩。この人誰ですか? 新しいバイトの人?」


「ど、ども。いらっしゃいませ」


「ああ、真宮だ。こないだから入った。お前の言う"めっちゃいい看板"を作ったのもコイツだ」


「へー! なかなかいいセンスしてますね!」


「あ、ありがとうございます」


「……ってか、初対面の人に『この人誰ですか』は失礼だろ」


「もー、先輩は小姑みたいなんだから。えっと、真宮さん? も聖北の方なんですか?」


 如月さんは小姑という言葉にピキっていた。


 聖北……ってことは、やっぱり聖学の生徒か。

 ……というか、如月さんもそうだったのか。


「はい。この春から転籍する予定です」


「なるる! どおりで見たことがないんですね。せーほく1年の、甘露樹(かんろぎ) あまねでーす。よろです!」

挿絵(By みてみん)


 て、テンションたけぇ……!

 そしてまぶしい…。LEDかってくらいまぶしい。これが陽キャってやつなのか……?


「ど、ども。真宮孝一です。よろしくおねがいします……」


 ――聖学(せいがく)とは。

 聖東学園(せいとうがくえん)聖西学園(せいざいがくえん)聖南学園(せいなんがくえん)聖北学園(せいほくがくえん)。そして、聖央学園(せいおうがくえん)の5つからなる私立学園の総称だ。


 如月さんや甘露樹さんがいる聖北は、もとは女学園だったところを生徒数が減少してきたため数年前から共学に変更されている。


「ああ、転籍ですか! 最近多いですよね。どこからのですか?」


「聖西からす……」


「聖西……。ってあー…、あのインテリ集団ですか」


 聖北は女学園。聖西は甘露樹さんが言うようにインテリの集まり。のように、一応それぞれ特色がある。

 聖学間での編入は、運営の方針で成績や素行に問題がなければ、内部生に限り一度だけ校舎間の転籍が認められている。

 特に聖北はいま生徒数減少の影響で内部流動を推進しているので、転籍しやすい状況にあった。

 とはいえ、移動先でやっていけるかどうかは完全に自己責任だ。


「甘露樹。お前いいかげんに」


「あぁ、いいんです、如月さん。本当のことですし……」


「じゃあ先輩、頭いいんですか?」


「……いや」


 俺はソコでやっていけなかった。いわゆる落ちこぼれだった。


「ふぅん……。ま! これからよろしくおねがいしますね! 真宮先輩!」


「う、うん。よろしくね甘露樹さん」


「もー! 他人行儀だなあ先輩。あまねちゃん。でいいですよ!」


「う、うぇえ? よ、よろしくね。――あ、あまねちゃん」


 いいのか? と思いながらも、俺は勢いにおされて『あまねちゃん』呼びを享受してしまった。



* * *


 あの後、あまねちゃんは新聞部の取材と称して、一緒にチェキまで取って去っていった。

 そして、なんとあろうことか、俺は連絡先まで交換してしまったのだった。


「…………」


 俺のスマホに『甘露樹 あまね』という名前が表示されている。

 初めて、母親以外の女性が連絡先に登録された瞬間だった。


「じー……」


「……なんですか」


 そう言えば柚月さんもいたのか。忘れてた。


「わ、わたしだって、雪華ちゃん。って呼んでくれたりしても、いい……よ?」


「…………」


 一瞬、言いかけてやめた。


「……ありがとう、柚月さん」


 それ以上は踏み込まなかった。

 甘露樹さんはただの知り合いだけど、俺の中では、柚月さんはただの知り合いではない。

 彼女にはここに置いてもらってるという恩がある。彼女の人柄ゆえ、少し態度が緩んでしまっている所はあるけど、礼節を持って接していきたい。


 なので、調子に乗らないよう。いまは、その気持ちだけ受け取っておこう。


「……マミヤくんのばか」


 柚月さんは俺のことをディスりながらどっかに行ってしまった。

 ……なんだ? まあ、柚月さんがへんなのはいまに始まったことではないか……。



* * *



――その日の夜。


 俺は一人、暗い店内をうろうろしていた。


「次は宣伝を考えないとなぁ……。ああ、あとお店の蛍光灯をLEDに変えよう。ちょっと薄暗ぇもんなこの店」


 ボソボソと独り言を漏らしながら、今後のことを考えていた。


 ――その時だった。


「ぐっ、ふっ――!?」


 突然、背後から首を固められた。


「――貴様。ここで何をしている」


 低く、妙に通る声が耳元で響く。


 強く締められているわけではない。

 ただ、後頭部が何か柔らかいものに押し当てられ、その上から腕で首が固定されている。


 ……柔らかい。あとなんか、花みたいな、いい匂いがする。


 冷静に考えれば、状況的にはおそらく強盗か何かの類に襲われていると思うんだが……。

 それなのに、やけに緊張感を感じなかった。

 相手が本気ではないのか、それとも俺の後頭部の妙に柔らかい感触がそうさせるのだろうか。


「く、苦し……」


 ……しかし、それはそれとして普通に息が苦しい。

 このままではマジで窒息するかもしれない。

 よりによって、女性の連絡先を初めて入手したその日の夜に、命を落とすのか? 俺は。


 ……い、いやだ! もうちょっとで俺のセカンドスクールライフが満を持して開幕するんだ!

 俺は必死に身をよじって抵抗した。


 その時。


――パチッ


 店内の照明が点いた。

 うぉっ、まぶし! ……くはなかった。あぁ、やっぱりLEDに変えるべきだな。


「……あにやってんだお前ら」


 如月さんの呆れ声が響く。

 強盗かもしれないので、如月さんに危険を知らせなくては……いい匂いだけど。


「き、如月さん……! に、にげ――」


「ぬ! さ――紗姫ぃいいいん!」


 俺を拘束していた圧が一瞬で消えた。

 そしてものすごい速さで、長身の影が俺の横を通過する。


――スッ


――ゴンッ!!


 如月さんがその猛進を軽く避けると、向かっていった人物はカウンター席の付け根部分に顔を激突させていた。


「ひ……、ひどいではないか紗姫。避けるなんて」


 カウンターに顔面から突っ込んだその人物は、鼻を抑えながらゆっくりと体を起こした。


 長い黒髪がさらりと揺れる。

 姿勢も妙に良い。というか、堂々としている。


「避けるに決まってんだろ。お前みたいな巨人が向かってきたら」


 確かに如月さんとの身長差を比べると、明々白々、差は歴然といったところだった。

 たぶん、俺より頭一つ分は高いかもしれない。


「――で。結局、あにしてんだお前は」


「その、登場の仕方がわからなくて……だな」


「普通に入ってくりゃいいだろーが……」


 如月さんと女性が押し問答をしている間に、俺はまだ少し荒い呼吸を整えながら、その人物を見る。


 ――切れ長の目。凛とした顔。ただ、その見た目からは疑わしいほどに、その女性の言動はだいぶズレていた。


「き、如月さん……。その人は……?」


「ああ? ……お前。自己紹介もしてないで人の首絞めてたのかよ」


「ちがうぞ紗姫! 抑えていただけだ!」


「偉そうに言うな! お前の馬鹿力で抑えてたら絞めてんのと変わんねぇんだよ!」


「しゅん……」


 如月さんに怒られて、その女性はしゅんとなっていた。


 ……まあ、確かにいう通り暴力的な力は感じなかった。苦しかったけど。

 あといい感触といい匂いだった。ごちそうさまでした。


「申しわけない。……絢瀬せつなだ」


 彼女は俺を見下ろし、名乗った。

 なるほど。この人が二階に住んでるあと二人のうちの一人、絢瀬さんか。


「ど、どうも。真宮孝一です。先日からお世話になってます……」


 今日は自己紹介が多いな……。


「ああ。話は聞いている」


「話し……?」


 ――ああ、まあ、そうか。それはそうだ。当然と言えば当然だ。

 女性だけの所にいきなり男が住み着き始めたら、一応連絡網的に回るか。

 むしろ、それは俺が住むことを認めてくれているということにもなる。


 ただ、一体どんな話をされたのかは気になるところだが……。


「どしたの、二人とも、もう夜中だよぉ……? またマミヤくんがお風呂でものぞいたー? ふぁああ」


 そして、今日はずっと蚊帳の外だった一般通過柚月さんが、いらぬ置き爆弾をしてトイレへと入っていった。

 ……余計なことを言う。


「――覗き、だと?」


 絢瀬さんがギロリと俺を睨みつける。

 ……ああほれ、みろ。さっそく面倒が増えたじゃないか。


 自分の名誉のために、念のためフォローしておくが、俺が風呂を覗いたのは不可抗力だし、今のところ一度だけだ。


 でも、絢瀬さんとは初対面で信頼関係がない分、納得してもらうのに時間がかかるだろう。


 ……はぁあ。

 さっさと寝ておけばよかった。



 ――今日の夜は、まだ終わらなそうだ。


■あとがき

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