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異世界に巻き添え召還されました。魔女認定され隣国に追い出されました  作者: りな


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27/29

沙羅の決断

翌朝。

沙羅は目を真っ赤に腫らし、重たい足取りでエルンストの家を訪れた。

扉を開けたエルンストは、一目見て眠れなかったと分かった。


「……考えすぎたな」

彼は苦笑し、沙羅を椅子に座らせる。

「少し確認したいことがある。いいか?」


沙羅は黙って頷く。


エルンストは本棚から厚い本を取り出し、ぱらぱらとページをめくった。

そして、片手に本を持ちながら、聞き慣れない音の連なりを発する。

硬い響きの言葉、舌を転がすような滑らかな言葉――幾つもの異国の言葉を次々と口にした。


だが、沙羅の耳にはそれらはすべて、日本語として届く。

「砂漠に住む部族の言葉だ」「山岳民の古い方言だ」――意味まで自然に理解できてしまう。


「……全部、日本語に聞こえる……」

沙羅は呟き、唇を押さえた。


エルンストは真剣な眼差しで頷く。

「やはり……本当に、意識そのものが翻訳されているんだな」


彼は机に肘をつき、考え込むように視線を落とした。

「沙羅が言葉を理解できるのは、単なる魔道具や術式じゃない。脳に刻まれた魔法陣が、言語を“認識”ごと変換している……」


言葉に重みが宿る。


「脳にある、魔法陣……」


静かな部屋の中。

外の風が窓を揺らす音だけが聞こえていた。


沙羅は、震える声で口を開いた。

「……、私は……今のままでは駄目なの?」


彼は即座に否定しなかった。しばらく黙り込み、言葉を選ぶようにして答えた。

「駄目ではない。ただ……頭の中の魔法陣は異常だ。存在しているだけで、脳を蝕み続ける可能性がある。放っておけば、いずれ……」


沙羅は拳を膝の上で握りしめた。

「……私が、死んだら……悲しむ?」


エルンストは一瞬目を閉じ、そしてはっきりと答えた。

「もちろんだ」


「私が……私でなくなっても……ここに来て良い?」

「来て欲しいよ。どんな形でも」


「私が……能力をなくしても?」

問いかけは涙で震えていた。


エルンストは深く頷いた。

「沙羅、君には君の人生を選ぶ権利がある。誰かのためではなく、自分のために生きていいんだ」


沙羅はしばらく唇を噛み、そして涙を拭った。

「……魔法陣解除の術を……して欲しい」


その一言に、部屋の空気が変わった。

エルンストは彼女を見つめ、強く拳を握りしめる。

「……分かった。だが、これは極めて難しい術だ。準備がいる。必ず成功するとは限らない……それでもいいのか」


沙羅は頷いた。

「それでも、いい」



沙羅は、しばらく俯いたまま沈黙していた。

しかし、ぽつり、ぽつりと、言葉がこぼれ出す。


「……私は、短い命は、怖いよ」

声は小さく、震えていた。

「でも……残された人が、苦しむのは、もっと辛い」


エルンストが息を呑むのを感じたが、沙羅は続けた。


「私は、ずっと……残された人だった。父も、母も……祖父も祖母も、みんな先に死んじゃった。最後に残った曾祖母まで……。どうして、どうして私だけ残るの、って……ずっと思ってた」


涙が頬を伝う。けれど彼女の瞳は、過去を振り返りながらも真っすぐだった。


「私は……誰も助けられなかった。だから……このまま何もしないで、早く死んでも、……何もしないで、長生きしても……きっと後悔すると思う」


唇を噛みしめ、両手をぎゅっと握りしめる。

「……人は、一人きりじゃ駄目なんだよ。生きているだけじゃ……きっと、何かが違うんだよ」


「私は、一緒に生きていてほしかった……。だから、迷惑でも、生きる可能性のある方を、選びたい……」

静かな部屋に、彼女の言葉だけが落ちていった。

エルンストは、しばらく返す言葉を見つけられなかった。


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