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異世界に巻き添え召還されました。魔女認定され隣国に追い出されました  作者: りな


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19/29

沙羅、襲われる

エルンストの兄が町を去って数日。

その午後、沙羅は新しく借りた絵本を胸に抱きしめ、心を浮き立たせながら宿への道を急いでいた。

表紙には勇者と魔王の絵が描かれている。リュカにも見せてあげたい――そう思うだけで、歩調は自然と速くなる。


だが、角を曲がった瞬間。


「お嬢ちゃん」

前方に、薄汚れた外套を羽織った男が立ちはだかっていた。

酒の臭いが鼻を突く。


「……!」

足がすくみ、沙羅は絵本を胸にぎゅっと抱え込む。


男はにやりと口角を吊り上げた。

「今、エルンスト先生の家から出てきたよな?最近先生、薬を作ってるか知らないか?」


「……」

返事が出てこない。喉が固まって動かない。


「なあ、前に美形の男が来てただろ?なんか話をしてたよな?薬とか……」

一歩近づかれ、沙羅は思わず後退る。


「……知りません」

やっと声を絞り出すと、男の目が細くなった。


「へえ……? 本当に?」

粘つくような視線が、逃げ場を探す沙羅の顔に貼りつく。

次の瞬間、足が勝手に動いていた。


「待て、このガキ!」


声を背中に聞きながら、全速力で走る。

絵本を落とすまいと抱きしめ、必死に地面を蹴った。


だが、曲がった路地の先は袋小路だった。

高い壁に行く手を阻まれ、呼吸が一気に詰まる。


「……あっ」


後ろから靴音が近づく。

ヒュッ――鋭い風を切る音。


カッ、と肩に熱が走った。

「――っ!」

左肩にナイフが突き刺さり、鮮血が服を染める。


「おっと……当たっちまったな。逃げるからだぜ」

男が薄笑いを浮かべ、手にもう一本の刃を弄びながら近づいてくる。


「助けて……だれか……」

声はか細く、震え、壁に背中が押し付けられる。


「おとなしく答えときゃよかったんだよ。さあ――」

男の靴音が重たく響く。


沙羅の胸がぎゅっと締め付けられる。

怖い。怖い。怖い。


こないで……!

強く思った瞬間、目の前の景色が歪んだように見えた。


男に浮かぶ数字――その存在を意識するより早く、目盛りが急速に削られていく。


「な、んだ……これ……?」

男は膝をついた。

数字は容赦なく減り続ける。


「や、め……やめろ……」

呻き声も掠れて消え、男の体が崩れ落ちる。


その瞬間、沙羅は自分のしたことに気づき、血の気が引いた。

「……っ!」


息が荒くなる。怖い。肩はずきずきと痛む。

だが立ち止まってはいけない。


絵本を抱きしめ、痛む肩を我慢して沙羅は夢中で駆け出した。

……エルンストの所へ。



沙羅は、肩を押さえながらエルンストの家へと駆け込んだ。


ちょうど机に向かっていたエルンストが顔を上げ、すぐに立ち上がる。

その目は一瞬で状況を把握し、慌てることなく沙羅を椅子へと座らせた。


「――傷を見せて」

冷静な声。沙羅は震える手で服をずらし、左肩を見せる。

出血はまだ続いていた。


エルンストは手早く治療道具を取り出し、消毒と止血を行いながら問う。

「何があった?」


震える声で、沙羅は言葉を途切れ途切れに吐き出す。

「と、突然……男が……薬を、作ってないかって……聞いてきて……」

「知らないって言ったのに、しつこくて……」

「それで……逃げたら、ナイフを……投げられて……」

肩の痛みよりも、恐怖が胸を締めつける。

「怖いって……思って……男の、魔力値が……どんどん下がって……うずくまって……だから……逃げてきたの……」


言い終えた瞬間、張り詰めていた心が切れ、沙羅は大粒の涙をぼろぼろと零した。



エルンストは包帯を巻き終えると、静かに彼女を抱き締めた。

「――怖かったな」

その声は驚くほど柔らかく、冷徹な学者の姿はそこになかった。


沙羅はしばらく、嗚咽を漏らしながら彼の胸に顔を埋めた。


落ち着いたのを見て、エルンストは彼女を伴い宿へ向かう。

「今は宿の方が安全だ。ここより人の目がある」


宿の前で、彼は真剣な眼差しを向けた。

「最後に、男を見たのはどこだ?」

沙羅は震えながら場所を告げる。


エルンストは頷いた。

「……落ち着いたら、一人で動くのはやめろ。そうだな、ガルディスと一緒に行動しなさい。彼なら信頼できる。」


懐から小袋を取り出し、銅貨を数枚、沙羅の手に握らせる。

「ガルディスに連絡を取る時はリュカを使え。これは、そのための代だ」


沙羅は言葉にならず、ただ小さく頷いた。

宿に戻ると、そのまま倒れるようにして床に伏し、夜から高熱を出した。

彼女は二日間、意識も朦朧としたまま眠り続けた。


その間――。

エルンストは一人、夜の町へと足を運んだ。

沙羅が告げた場所へ行くと、そこにはぐったりとした男が残されていた。


「……やはり、彼女の能力か」


エルンストは表情を変えず、男を回収した。

そして自宅へ戻り、地下の部屋に拘束する。

静かな石壁の下、蝋燭の光に照らされたその姿は、実験台のように冷たく映っていた。



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