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異世界に巻き添え召還されました。魔女認定され隣国に追い出されました  作者: りな


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18/29

エルンストの兄

昼過ぎ、沙羅が昼食の片付けをしていると、突然扉が叩かれた。

「……誰だろう?」と首をかしげていると、エルンストが出ていき、扉を開いた。


そこに立っていたのは――エルンストに瓜二つの美丈夫だった。

ただしエルンストよりも健康的で血色が良く、衣服も上質。立ち姿そのものが都会の空気をまとっている。そして、落ち着きと自信に満ちた微笑みを浮かべていた。


「エルンスト。久し振りだな。病気は……大丈夫なのか?」

「……兄さん」


その呼び方に、沙羅は思わず目を丸くした。

エルンストに兄がいる――そんな話は初めてだった。


兄は一歩部屋に入り、並んだ瓶を見渡す。

「ところで、例の薬が大人気だ。育毛剤と美肌液が足りないんだ。もっと作れないか?」


「増産は考えていない。巧く値段をつり上げて売ってほしい」

エルンストの答えは冷静で、まるで線を引くような響きがあった。


沙羅は思わず小首を傾げる。兄と弟――容姿は似ているのに、空気の重さが全く違う。

兄は光の中に立つ人のようで、弟は影の中で燻る火を抱いているように思えた。


「なるほど。相変わらず現実的だな。……ん?」

兄の視線が沙羅に移った。

突然注がれた眼差しに、沙羅は緊張で背筋を伸ばす。


「おや、この子は?」


「商売仲間みたいなものだ。色々手伝ってもらっている」

エルンストは簡潔に答え、それ以上は言わなかった。


兄は興味深げに沙羅を見た。

「……珍しい色だね」

その一言に、沙羅は胸の奥がざわついた。黒髪黒目――隠しようのない異質さが、また見抜かれたのではないかと。


だが兄はそれ以上追及せず、肩をすくめて笑った。

「まあ、元気そうにやっているならいい」


それから兄は少し真面目な顔に戻り、

「今なら家に戻っても大丈夫じゃないか?」と勧めた。


エルンストは短く首を振る。

「戻るつもりはない。この町でしか薬は作れない。訳は言えないが」


「そうか……残念だ」

兄は革袋を机に置き、代金を差し出した。

「今できているポーションと育毛剤、美肌液。持っていっていいか?」


「構わない」


商品を丁寧に箱に詰めながら、兄はふと視線を和らげた。

「……昔に比べて顔色がいいな。安心したよ。何かあればすぐに連絡してくれ。必要な物があれば届けるから」


「ありがとう、兄さん」

エルンストの声音は珍しく柔らかかった。


やがて兄は颯爽と去っていった。扉が閉じると、静寂が落ちる。


沙羅は無意識にため息をついていた。

「……お兄さんがいたのですね」

声に出すと、エルンストは本を開きながら視線だけで答えた。


「ああ。自慢の兄さ」


「でも……」沙羅は少し考えてから言葉を選んだ。

「エルンストさんと雰囲気が全然違います」


エルンストは肩を竦めた。

「似てない兄弟なんて、珍しくないだろう」


それ以上は取り合わない様子だったが――沙羅の胸には強い印象が残った。

兄の太陽のような存在感と、弟の静かな闇……。


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