エルンストとの実験②
「……3分の3か」
エルンストは何度も繰り返し呟いた。手元の帳面に素早く書き込み、数字の横にいくつもの注釈を加えていく。
「やはり数字は“魔力”の値を示しているのだろう。総量と現状……つまり、器と残量だ」
彼の声には、確信めいた熱がこもっていた。
沙羅はおそるおそる尋ねる。
「……器と、残量……ですか?」
エルンストは頷き、魔獣の檻に視線を移した。
「魔獣に魔法を使わせれば現状の数値は減るはずだ。試してみよう」
彼は、長い棒の様な物で魔獣を刺激した。怒った魔獣が火花のような魔法を吐く。
沙羅ははっと息をのんだ。
「……3/3だったのが、いま……2/3に減りました」
「やはりだ!」
エルンストの表情は、知識欲を満たす歓喜に輝いていた。
「魔力の使用と数字の減少が一致する!これはもう間違いない!」
彼は沙羅の方を振り返った。
「沙羅。君は、特別な力を持っている。君にしかできない事だ。……もし協力してくれるなら、私は徹底的に研究しよう」
沙羅は胸の奥がざわめいた。
リュカの父やガルディスの忠告――「深入りされるな」という言葉がよぎる。
けれど、答えを求める気持ちは強い。
「……考えさせてください」
檻の中の小さな魔獣は、疲れたようにじっと丸まっていた。
沙羅はふと、その小さな身体を見つめ、おそるおそる触れてみる。
(苦しそう……かわいそう……戻らないのかな……?)
その瞬間、「2/3」と浮かんでいた数字が――「3/3」に跳ね上がった。
「え……?」
沙羅は思わず声をもらした。
魔獣はぴくりと身体を起こし、グルグルと檻の中を走り回る。
エルンストの目が鋭く光った。
「……今、何をした?」
「な、何も……! ただ、かわいそうだなって思っただけで……」
エルンストは目を細め、沙羅に問う。
「沙羅。数字が、回復したしたんじゃないのか?魔獣は異常事態に興奮している。違うか?」
沙羅ははっと息を呑んだ。
「……そんな、私、操作なんて……!」
「いや、確かに“意図せず”だろう。だが事実として起きたのではないか?」
「……はい。3/3になってます」
「そうか」
エルンストの声は淡々としているが、瞳には狂おしいほどの興奮が宿っていた。
「もし自在に操れるなら――回復も、枯渇も、思いのままに……」
彼は自分に言い聞かせるように呟いた。
沙羅は強い不安に襲われる。
(また……伝説の黒い魔女の話みたいに……?)
エルンストはゆっくりと顔を上げ、沙羅を真っ直ぐに見つめた。
「沙羅。君の力は――国ひとつを変える力になるかもしれない」




