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結奈は支音のことを全く見ていない。まるで幽霊にでもなったかのようだ。結奈が見つめている視線の先には優が立っている。
「で、支音が支援者に向いてないってわかったでしょ?」
優は動かない。ただ一歩前に出た。
「わかったよ」
支音の心臓がドクンと跳ね上がった。
「——私も、あんたも最低ってことが」
「は?」
支音はひとまず呼吸が元に戻っていく、それは優が指差した先に結奈がいたからだ。
結奈はどこから出たかわからない声を上げる。
「どうして? 私は優さんの為に……」
言葉がしどろもどろになり、体もふらついている。
「どうしてもなにも、支音を殺そうとするのはさすがにやりすぎだ。それに乗ってしまった私も悪い。でも、あんたに未練のためと言われてやったが、結果は——」
「それは支音が死んでないからでしょ!!!!」
結奈の叫び声に体が震える。結奈は叫びきって、肩で息をする。
「本当なの? 結奈ちゃん」
支音の声は震えていた。体も震えている。体を抱え込むように腕を組んで、少しでも震えを落ち着かせる。結奈はただ支音のことを睨みつける。
「なにも知らない人間がこの学校に来るべきではないんだよ。初めて会ったときから、思ってた。どうしてこんな無責任な奴と一緒に支援者をやらなきゃならないんだって」
「そんなの一言も……」
「分かりやすく態度には出さなかったよ。幸い私の分も綾華が怒ってくれたし、少し冷静になれた。それでもお気に入りのコップを割っちゃったけどね」
そこまで話されて支音は思い出した。初日の夜、寝る寸前に大きな音が響いたこと。初めから信用も信頼も何もなく、ただ憎悪だけの感情しかなかった。支音はありえないと言ったように首を振る。しかし、よく結奈との会話を振り返ってみると支音のことを好ましく思っていないことは明らかだ。1年以内に成仏させないと自分が死ぬことを教えられていなかった。初めの朔久の未練を解決するときも途中で放り出して帰ってしまった。職員室の前であった時、つらいなら変わると言われた。どの行動を振り返っても親切に見せた、罠だったように感じられる。
唐突に結奈のことが怖くなる。体がこわばり、まともに前が見えない。徐々に呼吸が荒くなり、脳に酸素が行き届かなくなる。ついに倒れ掛かった。地面とぶつかるのを覚悟して、半ば本能的に目を強くつむる。しかし、衝撃は無かった。代わりにあったのは、温かく誰かに支えられた腕の感触。恐る恐る目を開くと、優が支えてくれていた。
「あんた、支音より支援者向いてないんじゃないの?」
「あんな奴より、私の方が向いてるに決まってるでしょ! 私は何年も前から支援者になるために努力してきた。ただ、自分の命が惜しいからってやってる人とは違う!」
「じゃあ、証明してみてよ。今ここで私の未練を当てて」
支音は優の顔を見る。その顔は信念の込められたまっすぐとした表情だった。が、支音にとってはそれどころではない。まだ、未練について分かっていないのに、この勝負で勝てる気はしない。実際に努力してきた時間が長かったのは紛れもなく、結奈の方だと知っている。
「わかった。公平にするために今日知りえた情報をすべて共有して」
優はまだ、足に力が入らず、立てない支音をゆっくりと地面に座らせる。その時ふと目が合った。優はかすかに微笑んで、僅かに頷いたような気がした。優は結奈のそばにより、情報共有を始めた。支音はその場に1人で座っていた。




