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幽霊学園  作者: 久遠 零


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ーー上天(かみあま)支音(しおん)の過去ーー


 私は弱い人間だ。平気で人に流されて、自己主張を一切しない。でも、それでいいと思ってた。他人から見たらつまらない人生かも知れない。それでも、確かに私が生きていける道だった。


「今日は支音。あなたの番です」


 美玲(みれい)の告げたのは、(ゆう)に対する嫌がらせ、いや、いじめの要求だった。


「えーー、いやーー」


 それに対してしぶり、抵抗を見せる。いくら流されて生きているからって、超えてはいけない一線を知っている。


「なんですか?」


 特にいつもと変わりのない一言。美玲は心の広い人物だ。どんなことに対しても最初の数回は許してくれる。まあ、許さなくなったら……お察しの通りだ。今度は私がターゲット。それだけは避けなければならない。


「大丈夫です! 分かりました」


 もしかしたら、次で美玲の許しも無くなってしまうかも知れない。少しでも悟られぬよう。明るく声を出す。


「頼みました」


 美玲は満足したように頷いた。

 私はその足で下駄箱に向かった。まだ、優が登校する前なので、下駄箱を荒らせと言う指示だ。いや、直接は言っていないが、要約するとそうなる。

 重い足取りで、向かう。手には適当にむしり取ってきた草が握られている。

 優の下駄箱を開けて、隅のほうに盛り塩のように草の山を作って置いた。指示内容的には上履きの中に入れるぐらいしないといけないだろうが、私にはこれが限界だ。

 祈るように手を合わせる。すると、後ろから声がかかる。


「支音。終わりましたか?」

「え、あ、はい!」

「そう、そしたら、これも使いなさい」


 そして差し出された袋の中にあったのは、無数のゴミだった。


「次からは自分で用意するように」


 半ば押し付けるように、そもそも拒否権なく、袋を渡された。もし、使わなかったとなれば、ただでは済まない。

 時間も無くなってきて、大慌てで何個かゴミを入れる。せめてもの抵抗で上履きは汚れないように。あまりにも急いでたため、草の山もぐちゃぐちゃになってしまった。

 時間を確認するとそろそろみんなが登校してくるのももうすぐだった。慌てて、最後の片付けをする。ふと、外の方を見ると、優がこちらに向かって歩いてきていた。罪悪感からか過去一早くその場から逃げ出した。もしかしたら、姿を見られていたかも知れない。


「及第点としましょう」


 美玲は腕を組み、上から目線でこう言った。


「は、はぃ」


 及第点とは言われたが、明らかに不機嫌だ。私の返事もつい弱々しくなってしまった。


「支音」


 名前を呼ばれ、反射的に背筋を伸ばす。


「今日は他の仕事も、頼みましたよ」


 これは元から決まっていたこと、黙って、頷くことしかできなかった。

 机だったり、私物だったりとさまざまなものに手を加えた。臆病者だった私は美玲に目をつけられない最低ラインを狙いながらやっていた。それでも心は痛むが、やらなかったら心が痛む程度では終わらないはずだ。できる限り痛みから目を背けて、淡々と仕事をこなす。

 帰りのホームルームが終わり、私は机に突っ伏していた。誰にも心配なんてされず、美玲たちの話し声が耳に入ってくる。


「美玲さん! 一緒に帰りましょ」

「ごめんなさい。今日は用事があるの」


 美玲がそう断ると、周りの人からは落胆の声が上がる。いつもはそそくさの早くに出ていくのに、珍しいなと思いつつ、美玲たちとは反対の方に顔を動かす。日も暮れかかっている。気づかないうちに、夜が来るのが早くなっているのがわかる。ぼんやりと光が消えていく様子を見ていたら、肩に手を乗せられた。誰かと思い振り返るとそこには美玲がいつもと変わらぬ、いや、いつもよりも作られた笑顔でそこに立っていた。


「ずいぶん気を抜いていたようで」

「ごめんなさい」


 美玲の声に気づかないほど、気を抜いていたのは失態だ。しかし、ここからどうすることもできず、ただ頭を下げる。


「ところで、支音。今日の手を抜いてないですよね?」


 背筋が凍る。これは質問ではない、確信して言っている。しかし、私は断言する。


「抜いていないです。そう思われてしまうかも知れませんが……」


 断言できた理由は簡単だ。私がこれ以上は無理だと思ったから。しかし、後半はふにゃふにゃと声に力が入らなかった。美玲の言いたいことはできるできないではない。やる。それのみだから。


「なるほど」


 顎に手を当て、考える素振りを見せる。少し経って、美玲の表情は穏やかな聖母のように変わった。あまりの変化に私は何かと身構える。


「そういえば、そう言う人でしたね。では、こうしましょう。半分というのはどうですか?」

「半分?」

「ええ、それがいいですね。それでは、さようなら。支音さん」


 私の了承など必要ないと、勝手に決めて、勝手に帰って行った。私にターゲットが移るのかと、思ったが、どうやらそうではなかった。卒業までの残りの日数、特には何も起こらなかったからだ。


 また、しばらく時間が経ち、朝のホームルームで優が死んだことが先生によって告げられた。

 私は確信した。自殺だと、それから毎日が苦しかった。美玲の取り巻きたちは普段と変わらない人もいたが、休む人も出てきた。私と同じだと思っていたが、違うとわかったのはついさっきのことだ。

 美玲の半分の意味も、優の未練を探るうちに分かった。あれは、取り巻きからの追放だったんだ。運がいいことに卒業間近だったのもあって被害はなかった。


 優が死んだとき思った。私がもっと自分を持っていれば、あの時断れるだけの勇気があれば、こんな結末にはならなかったんじゃないかなと。

 だから、高校では自分が1番で動くことにした。そうしたら、いじめにも加担しなくて済むから。それが最適解だと信じていた。

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