55
「やっぱり、その日は行ってなかったんだ……」
自分が忘れている可能性も考えて、優にも尋ねることができなかった。そもそも、話を聞く限り、優が覚えていないことも確かだった。
「うん、あの日について、まとめたのがあるんだけど、支音ちゃんの名前がない。ん? やっぱり?」
「いやいや、気にしないで、うん」
手と頭を横に振り、話題を逸らす。
「あー、私以外はみんな行ってたの?」
「うん、夜遅くだったし、断ってた人もいたんだけど、美玲さんがどうしてもって」
どうしてもと言う言葉を使っているが、おそらく半ば脅しのようなことを言われたのだろう。
「なんで、支音ちゃんは来なかったの? いや、今となっては来ない方が正解だったけど」
「行かなかったって言うよりは、呼ばれなかった」
2人で頭を悩ませている。
突然、彼女は目を大きく開けて、おぼつかない足取りで後ろに下がっていく。
「え、え、え、え? なんで?」
言葉も途切れ途切れとしていて、まともな精神状態ではないことは見て取れる。彼女は後ろに下がっている最中に足を引っ掛け尻もちをつく。しかし、それでも止まらず何から逃げるように下がり続ける。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
ついに泣き出してしまった。
支音はあまりのことに動けずここまで、立ち尽くしていた。ようやく、自分の助けがないといけない状態だと察し、彼女に駆け寄る。宥めるようにしながら、原因究明につとめる。
「どうしたの? 何があった?」
あくまで余計な刺激は与えないように最低限のことを聞く。
「おばけ、いや、幽霊がそこに」
そう言って彼女はまっすぐに指を指す。その先を見ると、優が立っていた。
「あ、」
忘れていたとばかりに間抜けな声を出した。学校内と違って外では体も透けていないし、パッと見では幽霊だとはとてもわからない。しかし、優が死んだと知っている人間は別だ。
彼女は真っ青な顔をして、呼吸が荒い。一刻も早く場を収めるため、ある方法を思いつく。
彼女の顔の前で、ねこだましをするように手のひらを打ち鳴らす。怯んだ隙にすかさず視界を塞ぐ。そして、優に目配せをしながら、こう叫んだ。
「大丈夫! なんもないよ! 悪い想像をしちゃってるだけ。一度視界を外したから、見えなくなる!」
もう一度、優を見る。意図を理解したようで、静かに頷いた。そして、茂みへと姿を隠してくれた。それを確認した支音は彼女から手を離す。
彼女は周囲を確認するようにキョロキョロと見渡す。本当に見えなくなったとわかり、ようやく呼吸が戻ってきた。ゆっくりと落ち着きを取り戻し、立ち上がる。
「ごめん。ありがとう」
支音は気にしないでと言うように首を横に振る。
「今日は帰るね……また、ね」
それだけ言って、おぼつかない足取りで帰っていった。ひとまず冷静にはなれたようだが、服についた土埃に気づいてないこともあり、完全に元通りにはならなかったようだ。それでも、ひとまず、帰らせることが出来たことに安堵して、優の方に向かおうとする。
後ろを振り返ると、優が既に立っていた。
「終わった?」
「うん。ありがとう。協力してくれて」
本来なら、彼女の優の復讐対象の1人だ。勝手なことをしてしまったと、今になって罪悪感が込み上げてくる。
「ご、ごめんね?」
恐る恐る口にしたが、優はキョトンとした顔をしていた。
「何が?」
「勝手に帰しちゃったから……」
優は腰に手を当てて、深く長いため息をつく。
「あんな風に怯えられても、私の溜飲はなくならない。むしろ不快だった」
ひとまず、怒ってはいないことを確認でき、支音は安堵した。
「上はどうだった?」
「特に何も無かった」
何かあったとしても、それ以上は話したくないような雰囲気を感じとり、追及はしない。
「そしたら、次は――」
と言って、先程彼女から知った情報を伝える。その情報が正しいものなのかを確認しに行くことになった。




