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090 召喚されし者達のこれから


「我らはこの世界に召喚され特殊なスキルを持った。それぞれ方向性は違えどこの世界で飛びぬけた力だ。私は力を持つ者には責任があると考えている。世界に貢献する義務があると」


 わー、凄いな。考えてることの次元が違う。そんなこと言われたら、自分が楽しむこととかアーニャと一緒に居たいだけの俺がすっげー小さい人間みたいで辛いぞ。


「だが、1人の飛びぬけた能力では世界が大きく変わることなどない。だが我らが協力すればどうだ。すでに魔族と人間の和解の道が開かれ変化が始まっている。私は人がより良く生きていける社会をこの世界に作ってみたい。傲慢な欲求だが、元の世界のように複雑じゃない比較的弱肉強食に近いこの世界だからこそそれができると思っている。もちろん私だけでは無理だが」

「お前の理想郷を作るのに協力してほしいと?」

「それって、この国を乗っ取るってこと?」


 マクシムさんとサユリさん、ズバッと言うな~。俺もそう思ったけど。


「そうではない、そもそも王になどなるつもりはない。だが教祖にはなる」

「宗教の力で国を治めるってこと?」

「宗教の力で人も魔族も亜人も区別なく平等に生きられる価値観を植え付けたい。青い理想だが、我らが協力し今の状況を利用すれば不可能ではない。マクシム殿やサユリ殿も若き頃にそういう理想を持ったことがあるのでは? もっと世界を平和にできないか、誰もが幸せに生きられる世界にならないかと」

「あー、俺は若い頃なぜ日本の戦国時代に生まれなかったのかって思ってたな」

「神社育ちでそういう祈りは捧げていましたが、それほど夢見がちではありませんでした。あと私は今でも若い」


 見事に三者三様の考え方だな。マクシムさんとかめっちゃ乱世がすきそうだしな。平和で戦いが縁遠くなるのは反対だったりするんじゃ。


「だがまぁすでに乗りかかった船だからな。安定するまではこの国を支えるぞ。いずれ俺たちもこの世界をあちこち見て回ろうと思ってるから、ずっとは無理だが」

「私はメグミにアンチエイジングしてもらう必要があるわ、しばらくは王国にいるわよ」

「そうか、協力してくれるか。ならば私は二人がいるうちに理想に向けての土台を作り上げてみせよう」


 皆がどうこうってより、大神官の理想に協力してほしいってのが一番の趣旨だな。まぁ今聞いた感じだと世界が支配したいみたいな怖い理想でもないし、いいんじゃないかなって思う。というかどうも俺は本当にそういう政治的な話が興味無いみたいだ。自分に害がないなら関わらなくてもいいかな? 一応元の世界に居た時は選挙には毎回行ってたけど、自分が主体的に何かしたいと思うほど興味はなかった。

 その政治的なお話が三人で進められ、少し退屈になってきたところで話が変化した。


「ところで、ケンジ君、君はこの世界の医療をどう思う?」


 急に振られて驚いたけど、俺もそこは大神官と聖女に聞いてみたいことがあったから丁度いい。


「魔法とか回復スキルで、外傷などの急性期にはめっぽう強いけど、内科的な疾患には弱いって感じでしょうか」

「そうだ。この世界の医療は魔法に頼り過ぎなんだ」

「俺も聞きたいんですが、依頼で食中毒みたいな症状で苦労してた村に行ったんですが、食中毒って概念すら無い様子でした。そんなもんなんでしょうか。あと内科的な疾患の人が少ないのかなって気もします」

「ふむ、よく見てるな。その通りだ。魔法やスキルは便利だが、この世界では魔法で回復しない者はもう助けようがない、仕方がないとしてあきらめられているんだ。それが当たり前になっている。そして大昔からそうあるために、内科疾患の遺伝子はあるていど淘汰されている。いないわけではないが、元の世界に比べると内科疾患で苦しむ人は極端に少ない」

「それって喜んでいいか、淘汰された人たちを悲しんでいいか難しいですね、結局それで内科的には健康な人が多いってことですよね」

「ああ、そこをどう考えるかは視点によるな。だが私は極端に少ないとは言え、この世界で諦められているような病で苦しむ人を助けていくことで、神聖性を作り出し神官の地位をさらに高め平等の理念を広めていきたいと考えている」

「内科的治療のレベルアップを図るってことですか?」

「そうだ。だが残念なことに私は自分の腕に自信があるが救急専門医だ。内科的治療もそれなりに知識はあるが、薬学の知識、特に薬剤の製造方法などに関してはさっぱりだ」


 いるよね、凄腕だけど処方とか適当で薬剤師が苦労させられる医者って。この人もそのタイプね。内科医だからって薬の製造方法まで知ってるような人はそう居ないと思うけど。


「それで君に頼みがある」

「なんでしょう」

「この大陸を出て旅をするならば、各地で薬剤の情報を集めてほしい」


 そういうことね。


「どうやらこのこの大陸はこの世界でも最も魔法への依存度が高い場所のようだ。聞くところによると、生活に必要な水や火を誰もが当たり前のように魔法で出せるのは、魔素にあふれたこの大陸ならではらしいのだ」


 へー、そうだったんだ。じゃぁ他の大陸に行ったら、せっかく苦労して覚えた生活魔法が使えなくなるってこと? それはちょっと残念。ロナも一緒じゃないし、水とかも自前で運ぶことになるのは大変だな。

 大神官の考えはだいたい分かった。大陸ほど回復魔法が多用されてないなら、薬剤に頼った治療が逆に発展している可能性があるってことだな。きっとそういう情報もあるんだろう。


「魔法に依存していない場所なら薬が進歩してるだろうってことですね。わかりました。そのくらいのことなら旅のついでにできそうです」

「助かる。急ぐ必要はない、むしろより多くの情報、できれば効果まで確認できた情報がほしい。私も努力するつもりだ。知識を掘り起こしながら、ペニシリンを作ってみようと思う」

「抗生物質ですか。なんかそんな漫画を読んだことありますね」

「はっはっはっは、実は私も漫画で見た知識だ!」


 まじか! 漫画知識で頑張るつもりか、チャレンジャーだな。


「やれることからやるしかないからな」


 まぁその通りだ。


 召喚された者たちの会合は、大神官の夢披露を終え、さらに今後についての確認をおこない、他にも雑談のような情報交換があれこれとされ、あっと言う間に半日が過ぎ解散となった。

 帰り道、ハヤトが話しかけてきた。


「ケンジは旅に出るんだな」

「そうだね、どこに行くかとかどんな国があるのかも知らないけどね」

「結構危ない所もあるらしいよ。今まさに戦国時代みたいな国とか治安が極端に悪い国だとか、まぁケンジのスキルならどこでも大丈夫だろうけど」

「アーニャが一緒だからね、なんとかなると思う」

「なんか、あまり接点が無かったね、一緒に召喚されてきたのに」

「はは、初日に牢に入れられたからね」

「それについては気付けなくてごめんな」

「いやいや、来たばっかりでハヤトにそこまで分かるわけないし、俺もわけが分からなかったし仕方ないよ、気にしないで」

「俺は先に戻るよ。来た時は自分の力が認められ期待され、凄く楽しかったんだけどね。まさか俺が真っ先に帰りたがるようになるとは思わなかったよ」

「でも子供に会いたいんだろ?」

「ああ、そればっかり考えてる」

「じゃぁ仕方ない」

「戻ったら、こっちの世界のこととか記憶にあるのかな」

「どうだろう、でも元の世界のこと覚えてるから、記憶は残るんじゃない」

「じゃぁさ、ケンジがいつか戻ってきた時は、俺に声かけてくれよ」

「そりゃもちろんだよ。必ず探して会いに行くよ」

「ああ、その時にまた会おう。楽しみにしてるよ」


 ハヤトは一緒に召喚されたのに一緒に行動することはほとんど無かったな。あっちがメインで召喚されたのに、もしかしたら俺やマクシムさん達が活躍の場を奪ったのかもしれない。けどハヤトにそういったことを妬むような様子なんて全くない。きっと純粋に息子に会いたいって気持ちが強くなったんだろう。

 もしいつか元の世界にもどったら、一緒に居酒屋でもいってこの世界のことで盛り上がりたいな。



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