089 召喚されし者達の会合
シリウス国王の重大発表から色々忙しくなっていたけど、俺とアーニャは政治に関わってないから暇だ。他の大陸へ行くにもまだイメルダさんの手続き待ち。そんな中、大神官により召喚されてこの世界に来た者に声がかけられた。俺、アーニャ、マクシムさんサユリさん、ハヤトが王宮から出てそう遠くない場所にある大聖堂、その最奥、大神官の私室へと案内される。私室では大神官と聖女が待っていた。
「皆さんよくいらっしゃいました」
「よう、すっかり元通りだな」
「ひさしぶりね、ここに来るの」
「そうですね、あなた方が王国から消えて以来ですからね」
あら、凄く気安い感じだな。マクシムさんは国を裏切ったって思ってた人も多いのに大神官はそういった敵意がなさそうだ。
「アーニャ君とケンジ君は、ここへは初めてだね。その節は大変世話になった、気楽にしてくれ」
そういって俺たちを大きな円卓に案内する。円卓にはちょうど全員が座れる椅子が準備されている。聖女だけはすぐに座らず、皆へお茶を配ってくれている。
「皆さんに集まってもらったのは、親睦を深めるため、そして私たちがこの世界で今後どう生きていくかを相談するためです。さらには元の世界へ戻るか否か」
そういう趣旨での集まりだろうってのはなんとなく気付いてた。でも元の世界に戻る方法についてなら分かるけど、戻らないって選択もすでに考えてるのにはちょっと驚く。
「最初に言っとくが、俺たちは戻る気がないぞ」
あっさり戻らない宣言しちゃったよ、マクシムさん。
「私たちにはこの世界が合ってますからね。元の世界じゃ変な武術マニアですが、この世界でなら思う存分活躍できますし」
サユリさんもそうなのね。というか、変な武術マニアって自覚が面白い。
「でも、アーニャは自由に決めていいわよ。あなたはまだ若いし、元の世界で普通の女の子として生きる選択もあるわよ」
いやー、どうだろう、アーニャはあなた方のおかげで普通とは随分と遠い女の子になってるよ。まじで。
「私は……んー、どうかな、そこまで考えてなかったかも。帰ることができるとしても、もっとこの世界を楽しみたいかな。色々苦労したけど楽しいことも沢山あったしね。それにこの世界に来てから、ほとんど王宮の中だったから、今後はもっと色々見たいと思ってる。今、この大陸から出る準備してるんだよね。世界中を旅するつもり」
そうだな、確かに色々あったが楽しいことの方が多かったと思う。アーニャのおかげだ。
「そうか、出雲一家はこの世界を楽しんでるな。実を言うと私も元の世界へ戻る気がない。この世界へ召喚されたのには意味がある、召喚したのは国王たちだが、元の世界に無数にいる人間の中から私を指定して召喚したわけではない。私は神など信じていないが、人生がただの偶然の重なり合いだとも思っていない。この世界でやるべき役目が私にあるはずだと思っている」
「難しいこと言ってるが、要はこっちの方が楽しいってことだろ」
大神官のちょっといい感じの語りをマクシムさんが台無しにする。だけど大神官はそれにニヤリと笑って返す。なるほど、マクシムさんの言ってることは外れてはいないんだ。
「まぁそう取ってもらってまったく問題ない。うちの娘も今更元の世界に戻っても年増の行き遅れだ。医学の世界に戻るにもブランクがありすぎて厳しいだろう。もちろん強制するつもりはないが、どう考えてもこっちの世界で生きるほうが有意義だ」
「お父さま! そんな言い方……年増なんて……」
あら! この親ももしかして娘をからかうのが好きな感じか? 聖女メグミのふくれっ面とかなかなかレアだぞ。
「ははは、だがお前、30代半ばでその容姿を保ってるのは、何か回復スキルを工夫してるんだろ? 元の世界に戻ったら年相応に戻るかもしれないぞ」
「そ……それは……嫌です」
やっぱりそうか。歳の割に色艶良すぎるんだよな。よく見るといつもちょっとアレンジされたオシャレ法衣着てるし、結構ファッション好きなおねーさんなのか?
「聞き捨てなりませんね。そのような力があるとは聞いていませんでしたが」
サユリさんの鋭い視線が聖女へ向かう。そこ食いつくとこなんだ。
「え、えとですね、効果があるか分からず試行錯誤してたのでその言ってませんでした」
「それ、もちろん私にもやってくれるんでしょうね」
「はい、もちろんです。サユリさんにはお世話になってますし」
あらまぁ、サユリさんと聖女の人間関係ってかなりサユリさんが上に立ってるみたいだな。失踪するまでに何があったんだろう。この世界に関しては聖女がかなり先輩なんだけど、おおかた戦闘の時、サユリさんがいつも守ってやってたとかそんな感じか?
アーニャはそんな美容の話に興味がなさそうだ。まぁ若いしそんなの必要としてないんだろう。
「まぁメグミもこの世界で生きた方が活躍できるのは間違いない。この世界じゃ最高クラスの回復スキルを持つ者として生きていけるが、元の世界に戻れば未熟なブランクのあるダメ医者だからな」
「ひどい……」
凹む聖女。聖女のキャラ、どんどん変わっていくな。大神官が復活していろいろ責任が軽くなったからか? 責任感じて無理して厳しく立ち振る舞ってたのかもしれないな。
「ハヤト殿はどうだ。まだこの世界に来てそう長くないが、今後についてどうかんがえている?」
「俺は……戻りたいです」
即答するハヤト。
戻りたいんだ。王国に認められた勇者って立場は悪くないと思うけど。
「俺には妻とまだ幼い子が居ます」
ああ、そういうことね、定番だけど絶対帰りたくなるやつだ。しかし既婚者だったんだ。
「と言っても離婚してまして時々息子に会っていただけです」
寂し気な表情で下を見ながら話す。
「この世界に来て充実した毎日が送れました。俺は家庭を壊すほど剣道に夢中になり過ぎていて、この世界に来てから追求し続けていた剣術が、次元の違うものへとなり、魔物を倒すたびに感謝され凄く満足していました。ですが、なぜか日に日に息子に会いたいって気持ちが強くなります。これだけ追いかけてきた剣術やそれによって活躍できる満足感があるのに、今ではそれを全て捨ててでも息子に会いたい」
息子に会いたい……か。俺は結婚もしてないからその感覚が分からないけど血のつながった子と一生会えないってのは辛いよな。
「そうか、ケンジはどうだ」
俺の番だ。返事は皆の話を聞きながら考えてた。と言っても俺の答え、ぼやっとしてるんだよな。
「今すぐ帰りたいとは思ってません。帰りたくないわけでもありません。軽い考えですが俺もこの世界をもっと楽しみたいと思ってますし、アーニャと一緒に他の大陸に行ってみるつもりです」
「そうか、それもいいな。よし、戻るための準備はハヤト殿のために進めよう」
そういえば俺はその方法をまだ聞いてない。
「魔石集めはまだ半分といったところだが、今後魔族と協力して魔物を駆除していくならこれまで以上に効率よく集められるだろう。後は国王との交渉次第だ。その魔石をハヤト殿を送り返すために使わせてもらえるよう私やマクシム殿から頼む。私やマクシム殿が王国の守護者として残ることを条件にすれば応じてくれるだろう」
そうか大量の魔石を媒介にして、王国の秘法ってやつをやるんだな。
「それでいいかな、ハヤト殿」
「いいんですか?」
「あぁ、もちろんだ。もともと戻りたくなった時のため戻る手段は確保するつもりだった。君以外にすぐ帰りたい者はいないし、帰還一号になってくれて問題ない。ただ、その秘法とやらがどのようなもので、リスクがあるのかなどはハッキリ言って分からない。そこは今後進めていくうちに分かってくるだろうし問題があればその都度対応しよう」
「ありがとうございます」
大神官ってやっぱり凄い権力があるのかな。しかし帰還一号か、どうなるんだろう。異世界って元の世界とどうつながるんだろう。時間軸とかどうなるんだろう。この世界で身に着けた能力とかもどうなるんだろう。まぁハヤトは中身が完全に正義の味方だから、能力維持して元の世界に戻ってもスキルの悪用なんてしないだろうけど、生き辛くなったりしないか心配でもあるな。色んな不条理に対してスキルぶっ放したりしたくなりそうだよ、俺だったら。
「よし、これで皆の方向性は分かった。次はこの世界に残る者がどう生きるかだ」
意見交換のような話し合いはまだまだ続くみたいだ。




