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088 シリウス国王の重大発表


 アーニャ復活から1週間ほど過ぎた。今日は国の重大発表が行われる。城門の内側、王宮の前、そこに二千人近い人がひしめき合っていた。どの人も身なりが良く、冒険者や傭兵のような者もいるが品があったり風格があったりする人ばかりだ。周囲に影響力があるような人が選ばれて招待されている。ここは俺たちが魔界から王都へ来た時に色々あった場所だが、もうすぐシリウス国王が魔族との和解を発表する。混乱を避けるためその内容についてはまだ一部の者しか知らない。発表の前に知れ渡っていれば、この場が反乱やテロの恰好のタイミングになってしまうからだ。警備は厳重にされているが、和解の場となるため物々しい雰囲気は御法度だから兵士は建物の中からすぐに出られるように配備し、表向きには少なく見えるように工夫されている。


「いよいよですね」

「ああ、これで一段落だ。まだ色々大変だがな」


 マクシムさんとサユリさんはちょっと感慨深そうにしてる。5年以上かけてここにたどり着いたんだ。俺が知らない苦悩が沢山あったんだろう。

 太陽が頂点に達した時、王宮のバルコニーへシリウス国王が姿を現す。戦士のような風貌だが圧倒的な威厳をかもしだし表情は満面の笑顔だ。意外と役者なんだな。俺のイメージではいつも厳しい顔なんだが。そしてその少し後ろの両脇に聖女とハヤトが追従していた。


「王様ー」

「聖女様ー」

「勇者様ー」


 三者とも国民には絶大の人気があるみたいだな。歓声が凄い。国王はしばらくその歓声を上げる民衆に目を向け、ゆっくりと片手を上げる。すると響き渡っていた歓声が、スッと小さくなり誰もが耳を傾けた。

 どう発表するんだろう。突然の国の方針の方向転換だ。いろいろと反発がおこることも想定して準備がされてるらしいが、できれば武力の出番なく終わってほしいな。


「我が親愛なる民よ。この場に集まってくれたことを嬉しく思う。今日は喜ばしい報告がある」


 そこで間をあける。集まった人たちがさらに静まり返る。次の王の言葉を聞き逃さないように。


「我が王国の念願であった魔王討伐がなされた」


 え? そういう方向で発表するの?

 俺が驚いた一瞬後、会場が一気に大歓声に包まれた。鳴りやまない歓声の多くが喜びと驚きの声だ。ところどころ、いつのまに? と不思議がる声もちらほら聞こえる。それでも喜びの声が疑問の声を圧倒する。


「シリウス王、万歳! シリウス王、万歳!」


 歓声が万歳コールに変わる。そのコールをしばらく聞いた後、また国王が片手を上げる。先程と同じようにすぐに静まり返る。


「皆の中には、いつ倒したのかどう倒したのか、不思議に思う者もいるだろう」


 いるだろうね。魔族と王国軍の大きな戦闘とか最近やってないみたいだし、いつの間にって不思議がる人は沢山いるでしょ。


「信じられないかもしれぬが、魔王は我が王国の秘法で召喚されし勇者が一騎打ちで倒した。証人は同じく勇者マクシムとその妻サユリだ」


 王が言うと同時に左手を俺たちが居る城壁の上に向ける。俺の隣のマクシムさんとサユリさんに視線が集まりそれに応え手を振っている。俺は突然の振りに驚いて一歩下がってしまう。こんな大勢の目が突然こっちに向くのって結構怖いな。


「マクシム様ー」

「サユリ様ー」


 あれ? 二人って王国にとって裏切者扱いじゃなかったっけ? あ、でも旅の途中、二人の悪口言う人ってあまりいなかったし、むしろイメルダさんみたいな理解者の方が多かったような。凄いな、国を離れても人気保ってたんだ。魔街道の村とかも感謝してた人いたしな。


「残念ながら魔王を倒した勇者は、目立つことを好まぬ。この場で称賛したかったが断られてしまった。だがその者はさらに王国に貢献してくれた」


 そう言って国王が後ろを振り向く。すると奥から大神官が真っ白で白衣で現れた。

 あれ? 法衣じゃないの? 白衣なの? やっぱ慣れた服がいいの?


「大神官様ー」

「ナオハル様ー」


 これまたすさまじい歓声がおこる。誰もあの白衣に何も言わないってことは、もともとあのスタイルなんだろう。聖女メグミは白い豪華な法衣なのにね。あと、大神官ってナオハルって名前だったのね、聖女メグミの父親だから、元の世界では、ホウジョウ・ナオハルドクターだな。


「病に伏していた大神官殿を聖女メグミと協力し回復させてくれたのだ。さらに信じがたいことではあるが、大神官殿を回復させた術には魔王の妹の協力を得て行われている」


 おおおおおおお! という歓声とともに


「魔王の妹? どういうことだ?」


 という疑問の声も上がる。


「魔王を倒した勇者はそれだけで終わらず、魔族の力を人の世界の役に立てることを約束させたのだ。これには私も驚いた。だが、理にかなっている。これまで我らは魔族と魔物を同一視し、滅ぼすべき対象と見ていた。そして長い年月戦いを繰り返してきた。だが、魔王を倒した勇者が約束させたことにより、今後は魔族と人間で協力して魔物に対処することができる」


 大丈夫なのか? 魔族と協力とかできるのか? 騙されてないか? などの声も聞こえるが、思ったほど混乱はない。ここに集められたものはそれなりに立場のある人が多いみたいだから、アルドラ皇国の状況を知ってる情報通が多いのかもしれない。


「突然のことで驚いているであろうが、ここで紹介しよう。元魔王リゲルだ」


 そう言って王が俺たちと反対の城壁に手を向ける。

 あ、リゲルだ。あんなところに居たんだ。ロナも隣にちょこんと立ってる。もうローブは着ていない。真っ赤な髪を見せている。

 注目を浴びたリゲルは、気持ちよさそうに仰々しい仕草でお辞儀をする。会場が王が合図した時とは違う緊張感のある静かさとなる。


「どうも~、元魔王のリゲルです!」


 緊張感のある静けさを台無しにする軽い声が響く。でもまぁよく響く声だな。反対側の城壁までしっかり聞こえてくる。


「なんだあいつ、リゲルじゃないか」

「え? あいつ魔王だったの?」

「魔族なのは知ってたけど、魔王?」

「どうりで異常に強いわけだ」


 俺から近い冒険者の一部がザワついてるのが聞こえてきた。リゲル、冒険者として王国には何度も来てたみたいだからな。国境付近で活躍してた冒険者なら知ってても不思議じゃない。ギルドで目立ちまくってたし。


「僕は、ずいぶんと前からアルドラ皇国の冒険者をしています。なので知ってる人もいるかも。そして今回、ある人物に負けたことをきっかけに、王国とも協力する関係になりたいと思っています」


 リゲルがこっちを見る。いや、こっち見るなよ。


「僕やアルドラのことをしってる人は分かると思いますが、ほとんどの魔族は人間を滅ぼうとか危害を加えようとか考えていません。そして魔王の立場はただ一番強い者に与えられる称号であって、国の王としての権力などはないんです。しかし、一部の魔族が人間に危害を加えていたことも事実です。それによる誤解で、王国とは随分長く対立のような形になっていました」


 なるほど、誤解で対立してたってことにするのね。


「しかし1年ほど前からマクシムやサユリと関わり、王国と和解し、交流、協力の道を進めようと決心しました。これには半分以上の魔族が賛同してくれると思います。たとえ一部の魔族が反発しようと、僕たちと皆さんが協力すれば対処できるはずですし、王国には僕が手も足も出なかった勇者が居ます! 大きな方向転換に戸惑うことがあるとは思いますが、どうかご理解を!」


 すらすらと説明したリゲルが、また大げさなお辞儀を見せる。会場はざわつきが徐々に大きくなってるけど、激しく反発するような声は聞こえない。案外リゲルの冒険者としての草の根活動が功を奏してるのかも。


「皆、聞いてくれ!」


 リゲルに負けないよく通る声で王が語り掛ける。


「このような流れになったことに私自身も驚きを隠せない。しかしこれは人にとって大きなチャンスだ。魔族や魔物に苦しめられた日々を終わらせるチャンスなのだ。今後については主だった者を広く集め話し合いを行なったうえ、国民へと知らせることとする」


 この後は、大変だけど皆で協力して頑張ろう。って感じのことを王が威厳全開で語りかけ、一大発表は終わった。最悪のケースがいろいろ想定されていたが、結局そういうトラブルはなく集められた全員が王城から帰っていった。もし、実は力ずくで国王の方針を変えさせたなんてことがバレてたらこんな風にはならなかったかも。


「ふぅ、無事おわりましたね」

「ああ、おおかた予想通りの反応だったな」


 マクシムさんとサユリさんもやっぱり緊張してたんだな。一息ついて俺たちに向き直る。


「さて、これからどうする? もうお前たちは自由だ」

「旅に出たいって言ってたけど、どこか目的地があるの?」


 アーニャはしばらく前から旅に出たいって話をしてたからそれについてはすでに伝わってるけど、詳細は決めてない。と言うかイメルダさんがやってくれてる手続きの結果しだいかな。


「もう、イメルダさんが他の大陸へ行く手続きをしてくれてるの」

「それの結果しだいですね。受け入れてくれるところがあればそこに行ってみようかと思ってます」

「そうか、イメルダ仕事がはやいもんね。そういえば遊びに来いって言われてるけど全然行ってなかったわ。今日はもう疲れたし、気晴らしに遊びに行こうかしら」

「そうだな、行ってこい。こっちは俺が残るから問題ない」


 そう言ってマクシムさんがサユリさんの肩を擦ってる。仲のいい夫婦だな。


「アーニャ、お前も好きにしていいが、出発する時はちゃんと知らせろよ」

「わかった、行き先が決まったら言うね」

「ケンジ、アーニャと一緒に行くんだろ?」

「そのつもりです」

「じゃぁアーニャをよろしく頼むぞ」

「もちろんです」


 決めたからね、アーニャのためならためらわないって。やれることはなんだってやる。しかしなんか恥ずかしいな。親公認でその娘と旅するとか、婚前旅行の気分かも。はは、気が早いな。そんなことを考えてたらマクシムさんがニヤニヤした顔で近づいてきた。こんな顔の時はだいたい変なことを言いだす。


「ケンジ、やっとアーニャと人目を気にせずイチャイチャできるな」


 やっぱりな。構えてた俺はそう驚かないが、アーニャが反応する。


「おとうさん、娘のまえでそんなこと言う?」

「ははは、お前らもうキスした仲だろ?」

「もう! 言わないで!」


 ボカ! かなりの威力でアーニャがマクシムさんの胸を殴る。ぜんぜん平気そうに笑ってそれを受けてるマクシムさんだが、もしかしたら寂しいのかも。こうやって娘とふざけるのもしばらくお預けになるんだからな。マクシムさんなりの楽しいコミュニケーションなのかも。今回はサユリさんが怒らず微笑んで見守ってるし、そういうことなんだろう。

 大丈夫です。俺が全力でアーニャを守り、戻ってきます。改めてそれを誓って、父と娘の取っ組み合いを見守った。



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