087 アーニャ復活! 相思相愛
一晩休んだアーニャはすっかり元通り動けるようになった。筋弛緩剤よりは長く影響あったけど、綺麗にぬけてくれてよかった。後遺症とかも無さそうで、朝から動けなかった分を取り返すように体を動かしている。
「これ凄くいい、昔使ってたのよりちょっと重いけど、今の私にちょうどいいわ」
中庭にある訓練場で元気に振り回してるのは、この前まで使ってた薙刀もどきの槍ではなく、本物の薙刀だ。サユリさんが鍛冶屋に頼んでくれていたらしく、ちょうど武器を失ったアーニャはそれを手に大喜びしていた。
俺は薙刀なんてちょっと部活の様子を見たことあるだけで本物の刃がついた薙刀なんて博物館かサユリさんが持ってる物でしか見たことない。持たせてもらうと重たさに驚く。穂先の大きさも凄い。遠目には時代劇の侍が持ってる短い方の刀のように見えたけど、それよりも幅が広く厚みも太い。刃も鋭いが、近くで見るともう鈍器ともいえる迫力のある大きさだ。一振りさせてもらうとやっぱり先端が重い。これ普通に振って止めるのだけでかなりの重労働だ。
「きっつ!」
「そういう振り方はあまりしないからね。これはブンブン振り回して遠心力で攻撃するんだよ」
そう言って俺から薙刀を受け取るとアーニャは器用に振り回す。ひらひらと振る方向に合わせて穂先を回転させてるのがキラキラして面白い。でもあれって凄く難しそう。ちょっとでも角度間違うと切れずにただの鈍器になりそうだもんな。でもあの重そうな刃先だと側面でぶっ叩かれただけでも当たり所によっちゃ死ぬな。チラッと見かけたことのある薙刀部とは全く動きが違う。
「薙刀の部活をチラッと見たことあるけど全然違うね。そんな豪快な動きはなかったと思う」
「そりゃね、あれは木や竹の組み合わせでできてて、当てれば勝ちってルールだから」
当てれば勝ちなルールだと軽くて速い方がいいか。
「これは穂先の重さが全然違うからあんな動きはできないし、柄だって芯は木材だけど、金属巻いて丈夫にしてる。私はどっちもできるけど、これは実戦用の古流薙刀術ってところかな。剣道で真剣使って巻藁切ったりするの見たことない? あれの薙刀版って感じかな」
「あー、あれね、テレビでみたことある」
今俺は反応速度を全開にしてアーニャの動きを見てる。それでやっと目が追い付く。器用なのは穂先、アーニャは刃を立てるって言ってたが、その刃を立てる技術だけじゃなく、振り回す技術も器用だ。槍を使ってた時は、中国武術の棒術に近いなって感じてたけど、薙刀ではその動きがさらにトリッキーに見える。たぶん重心が槍よりずっと刃に偏ってるからか、回転する時は、柄の方がリーチが長くなる。それを器用に長く持ったり短く持ったりして、刃を振る時はフォン! って迫力のある音で風を切り、柄を振る時はヒュって鋭い音をさせてる。そしてその合間に刃の反対側、石突という部分で突きを放ったりもする。
「どう、前のと違うでしょ。やぱり薙刀はいいよね」
いいよねって言われてもその良さが俺にはわからん。動きが凄いことだけは分かるぞ。
「そしてー、じゃじゃーん、これ見て」
アーニャが中庭の端に駆けていき戻ってくる。持ってきたのは薙刀の刃の部分だけだ。予備の刃も準備してくれてたんだな。
「予備の刃ももらえたんだ」
「そう思うでしょー。まぁ予備でもあるんだけど、こうなっちゃいまーす」
なんだか楽しそうなアーニャが薙刀の石突を持って、どうやったか分からないけど引っこ抜く。まさかそれって……。
「なんとー、ここに……あれ? ここに……こうやって……よいしょ……できた! じゃじゃーん!」
そうやって石突があった場所に予備の刃を取り付けた謎の武器を自慢げに見せつけてきた。刃は両端で反対方向に向いてる。長さも凄いことになった。元々2mはありそうな薙刀が、刃の分長くなったもんだから2.5m? いやもうちょっとあるように見える。
「カッコいいでしょ。これね、私が昔考えたオリジナルなの。見ててね!」
なんか、すっごい中二病の臭いがする。僕が考えた最強の武器的なやつ。アーニャって……。俺の微妙な気持ちには気付かずアーニャは早速その中二武器を振り始めた。と言うか回転し始めた。
両端のバランスが同じになったようで、フォンフォン言わせながら右に回転したり左に回転したりしてる。いやその遠心力の凄まじいこと。
「見てて!」
中庭に立てていた直径15センチはありそうな木に回転しながら向かっていく。薄っすらオレンジ色の光を放ってるから、身体強化も使ってるみたいだ。
「いくよ!」
アーニャの身長より少し高いくらいのその木の先端に刃を向け中二武器を回転させながら叩きつける。
ガカカカカカカカ! バキャ!
太い棒は、上の方からだんだん下へと輪切りにされていって、アーニャの太ももあたりの高さで土台から折れた。
8個の輪切りにされた木と、へし折れた土台が転がる。
当たっても全く減速しないのね。身体強化使ってたけど滅茶苦茶な威力だな。絶対人に向けちゃいけない系だろこれ。この技を人間に使おうものなら、昔見に行った人体の不思議展で見た、人の輪切りの展示物を量産することになるぞ。う……想像したらエグイな。やめよう考えるの。
「どう、悪くないでしょ」
いや微妙です。精神衛生上は悪かったかも。
「小さい頃、ふざけてやってみたら、お母さんから悪くないんじゃないって言われて、準備運動がわりに練習してたら、結構実戦でも使えそうなレベルになったんだよね」
人との実戦では絶対に見たくないレベルになってますよ。アーニャさん。それ使った後の結果を想像したことある?
「はは、そうなんだ。凄い技だね。でも、それ使うのは魔物相手の時だけにしようね」
「なんで、せっかくだから早く実戦で使ってみたいな」
その時は俺は遠くで見守ることにしよう。でも違うな。俺は覚悟を決めたんだった。今回のアーニャが死にかけた一件で、俺が戦闘に関して甘すぎることを痛感した。もし俺が躊躇いなく敵を倒す判断ができてたら、アーニャが突撃して毒を食らうことも無かったかも。アーニャは戦いたがるだろうけど、どんなケースでも俺のスキルなら直接戦う前にある程度状況を作れるんだ。敵が大勢なら減らすことができるし、敵が強すぎるなら適度に弱体化だってできる。アーニャには申し訳ないけど俺はアーニャを危険な目に遭わせたくない。それに俺のスキルは相手を傷つけることなく倒せるんだ。そもそも遠慮する必要がない。ただただ俺が甘くて判断が遅いのが問題で大いに反省すべきだ。そして覚悟を決めるべきだ。
そんなことを考えながら、楽しそうに中二武器を振り回すアーニャを見ていた……ら。
カキュン
「あ!」
シュン、ガギャ!
ガラガラ……パラバラ……
刃が、刃が……刃が飛んできて俺の後ろの壁にぶち当たったよ!
「あ、ごめん、取り付けかた甘かったかな」
声が出ない、まったく対応できなかった、反応速度全開で目で飛んでいく刃は追えたけど体はまったく反応できなかった。恐怖で体が震える。
た……頼むよアーニャ、俺は色々考えて覚悟を決めた直後に、死にたくはないぞ。
「へへ、ごめんね、大丈夫だった?」
「ああ、死にかけたけど大丈夫だ。お願いだからちゃんと取り付けて振り回してね」
頑張ってそう言って、座り込んでしまった。まったく今日のアーニャはなんかちょっと子供っぽいぞ。新しい武器とその使い方を見せたかったんだろうけど、はしゃぎ過ぎな感じ?
「ほんとごめんなさい、気を付ける」
「ああ頼むよ、アーニャに殺されたくないからね」
「うん、私も命の恩人を殺したくない」
そう思ってるなら本当におねがいね。
アーニャが俺の横に座ってくる。飛んでった刃はいいのか?
「ケンジ、ありがとね。私がこうやってられるの、ケンジのお陰だから。それとね、今更だけどね、好きだよ……ケンジ」
なんて? 今言われた? 好きって言われた?
アーニャを見ると、体育座りで膝を抱え込み、そこに顔をうずめてしまってる。表情が見えないが耳が真っ赤になってるのは見えた。聞き間違いじゃなさそうだ。この恥ずかしそうにするアーニャは本当に可愛くて、愛しい気持ちになる。俺より圧倒的な武力を持ち、この世界に適応した武闘派娘が、こういう瞬間だけは普通の女の子になる。たまらん!
「アーニャ……ありがとう。俺も好きだよ。ずっと好きだった。前に伝えた時より今の方がずっと好きだと思う。大好きだよ」
たまらなく熱くなる気持ちを抑えて、なるべく大人な感じで……言えたかな。こんな味気ない訓練場の端っこなのに、俺には景色がピンク色に染まって見える。
「へへ、これからもよろしくね!」
ガバっと顔を上げ、真っ赤な笑顔でそう言ったアーニャは、飛んでいった刃を取りに駆けていった。俺はその姿を見送りながらニヤニヤしてしまう。嬉しいなぁ、嬉しいなぁ! なんだろう、他の言葉がでてこない。嬉しいなぁ!
絶対守るぞ、俺が守るぞ、アーニャのためだったらなんだって無力化するぞ。
俺の覚悟が、とてつもなく堅く固まった。
ちなみに、アーニャの薙刀、中二武器バージョンには名前がある。ゲーム好きなら結構見かける武器だからな。双刀刃とか両剣とか言われてて、実用性がなくファンタジーでしか出てこない武器だ。だけど実際は違ったな。実戦は分からないけど、とりあえず使いこなせる人間がいて、恐ろしい威力があることだけは分かった。




