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082 魔素だまり


 3日ぶりのマーリオン村。村長の家に行くと大歓迎された。


「ケンジさんの言った通り、もうほとんどの者が元気になって農作業へ出かけてます。あと数人の者も数日中には回復しそうです」


 消化器症状は予想通り回復に向かったみたいだ。まぁ食中毒じゃなくて魔物の毒だったんだけど、体内に入った害になる物質を出そうとしての反応って点では同じなんだろう。とりあえずそれは解決とみていいかな。

 俺たちは「変な牛」って村人が言ってたものが魔物であったことを伝え、魔物が生み出される魔素だまりがある可能性を村長に伝える。そしてすぐにカトブレパスの討伐と魔素だまりの捜索に出かけようとしたが、ちょっとまってくれと言う村長と、急いで料理を始めた奥さんにつかまり、さらにはどんどん村の人が集まってきて昼間っから宴会状態となった。

 

「こういうのも悪くないね。冒険者ってしっかり活躍すればこんなにありがたがってもらえるんだね」


 アーニャは結構楽しそうだ。今回は出番がなかったって不満そうだったのにね。


「薄味料理も作ってもらえました! 村長の奥さん料理上手です! 美味しい!」


 ロナも楽しそうで何より。討伐は明日にするかな。





 翌日、マーリオン村東の森前。

 さて、どうするかな。森はそんなに大きくない。平原にポツンとある丘一つが森になってる。東京ドーム一個分とか言ったら分かりやすいかな。ロナには分からないけど。


「いますね、多くはないけど、魔素だまりも小さいのがありそうです」

「へー、この距離からでも分かるんだ」

「はい、この距離からだとぼんやりですが、感知能力には自信があります」

「そりゃ助かる。気づいたら毒にやられてたとかは困るからよろしくね」

「任せてください!」


 ということでロナを先頭に森へと侵入する。森の中には古くなった林道があった。何かの収穫とかに使ってた道なのかもしれないけど、最近人が通ったような様子はなく草で歩きにくい。それでも何もない森の中を歩くよりは随分と楽だ。


「あ、正面に居ますよ。例のあれかも」

「了解。風向きは大丈夫かな」

「それなら大丈夫です。私が風を吹かせますから」

「倒すのは私に任せて。最近実戦不足」

「気を付けてね」


 ロナが感知してからしばらくすると薄暗い森のなかで遠目には黒い牛に見えるカトブレパスの姿が確認できた。村人から聞いたサイズよりかなり大きいが草を食べてる姿はまるで牛。こりゃ初めて見た人は魔物と思えなくてもしかたないな。俺たちが近づくとこちらを向き、ブルルルと唸るような声を出しはじめ身を低くする。どう見ても突進の構えだ。単純だけど毒の息の特性を考えると結構面倒かも。風上にいても突進を回避するとあちらが風上になってしまう。とは言え、ロナが風を背後から吹かせてくれてるから毒の息でやられる心配はないだろう。


「じゃぁ!」


 ロナが作り出す追い風を受けてアーニャが駆け出す。薙刀もどきの槍を構えて猛スピードでカトブレパスに近づき、その角の間、脳天に叩き込む。カトブレパスは突進の構えから突進に移る暇もあたえられなかった。


 ドガシ!


 激しい音がして元々低く構えていたカトブレバスの鼻先が地面にめり込む。


かった!」


 凄い衝撃だったように見えたが、カトブレバスはゆっくりと頭を持ち上げる。

 村人が倒せたくらいだからそう強くないはずだが頭蓋骨は恐ろしく硬いんだな。

 また腰を低くするカトブレバスが突進する前に、アーニャの追加の一撃を叩き込み、またカトブレバスの頭が地面にまで叩きつけられる。どうもこの魔物、躱すような器用さもないみたいだ。

 しかしでもアーニャも頭が硬いからって他の場所を狙う様子もない。意地になってる?


「くっそー、次こそ! やああああああ!」


 バキャ!


 三度目にしてカトブレパスの脳天が割れた。穂先が半分が刺さるというかメリ込むように頭蓋骨を潰しゆっくりと倒れた。


「アーニャって、頭使って戦わないんですか?」

「馬鹿みたいに言わないで! あえて硬い頭を狙って倒したかったの!」


 そりゃ見てて分かったけどね。その思考が脳筋だって言われてるんだと思う。

 息も切らさず戻ってくるアーニャはちょっとスッキリした顔をしている。倒されたカトブレパスはまだピクピクと痙攣しているが、破壊された頭部からすでに黒い霧が出ている。魔物からこれが出始めたら確実に仕留めた証拠だ。


「じゃぁ進もっか!」

「どうロナ、まだ沢山いる感じ?」

「んー、数匹居るかもしれませんが、それより魔素だまりの位置が近いですよ」

「え? もう?」

「はい、小さい森ですしね、もう多分森の中央辺りなんじゃないでしょうか。ちょっと見てきます」


 そう言うとアーニャは真っすぐ上空へ木の枝を隙間を抜け飛び上がる。魔力消費量が多いってことだけどやっぱり飛べるのって便利だろうな。上空から確認できるとか、地図要らずだし。すぐに降りてきたロナが指をさしながら説明する。


「もう少しで森の中央です。そこに魔素だまりがあります」

「まだ近づいて大丈夫? 私たちに害ない?」

「大丈夫ですよ。小さいですし、見える距離までいって問題ないですよ」

「じゃぁそっちに行ってみるか」


 ロナが魔素だまりを消す方法を知ってるってことだし、カトブレバスはそう脅威じゃないことが分かった。ならば魔物が発生する可能性がある魔素だまりを先に対処するほうがいいだろう。

 迷いなく進むロナの後ろをついていくと、やっと俺にも見えた。


「なんか、この黒い霧って」

「うん、レクターが消えた時に出た霧と似てるね」

「それと同じですよ」

「てことは噂で言われてる通り、ここで強い魔力を持った魔族が死んだってこと?」

「たぶん」

「じゃぁ魔素だまりって魔族が死んだ場所にできるって噂は本当なんだ」

「本当の魔素だまりはそうじゃないと思います。魔族が生まれる前からあったらしいですから。ですがこういった新たに発生する魔素だまりは強い魔族がその場に長年留まり朽ち果てた時に発生するみたいです」

「レクターみたいな死に方ではできないの?」

「レクターはまだ動いてたし滅ぶことを望んでましたからね。だから魔石すら残さなかったんだと思います」

「難しいな。本人が滅びたいって思ってたら、何も残さず消えるってこと?」

「たぶん、正確なことは分かりません。魔族には魔族のことを研究する者なんて居ませんから。ですが望んで滅びる者は何も残さないのは知ってます。そしてここみたいな魔素だまりは、無気力化が重症化して動くことも思考することもやめた魔族が、長年その場に留まりその場所と同化して滅びた時に発生するんだと思います」

「じゃぁこれは、ここで死んだ魔族の命とか魂とかいったものなのかな」

「そうですね、そうとも言えますし、その魔族は綺麗に滅びて、蓄えていた魔力と魔素を集める魔族の特殊性だけが残ったとも言えます」

「そっか……なんか寂しいね」

「人のように誰かに見守られてって死に方は、魔族では少ないです。レクターの死に方は魔族にしては上等な部類です。あの時ケンジは色々考えてたようですが、この魔素だまりの元となった魔族の死に方に比べれば、長い人生に疲れた者が望んで滅びを迎える終わり方は、魔族にとっては悪くない死に方なんだと思いますよ」

「そうだったんだな」


 新たに発生する魔素だまりは、実は魔族の死んだ場所。無気力化が進んでその場と同化するほど動かず滅びた場所。そして死後も魔素を集め続け魔物を発生させる魔素だまりとなる。そして魔物は人間に危害を加え、魔族と魔物を混同する人間が魔族を嫌う。

 この魔大陸ではそれがずっと繰り返されてるんだろう。でもロナ、消す方法を知ってるって言ってたよな。


「ロナ、これ消してもいいのかな。ロナに頼める?」

「……ケンジさん、消すかどうかは貴方が決めてください。あなたのスキルならレクターの時と同じように簡単に消せるはずです。私は核となる魔石に近付けるよう、この霧を消します」


 そう言ってロナは俺達か離れ黒い霧の中へ入っていった。しばらくするとロナが向かった先から激しい音がきこえはじめる。


 バジジジジジジ、バシューゥウウウ、バリバリバリバイ。


 まったく見えないがこの音はロナの電撃魔法の音だ。それがしばらく続くとしだいに霧が晴れてきた。そしてロナの後姿が見える。ロナは宙に浮いた状態で、両手を掲げている。そしてその上には巨大な光の玉。 眩しくて直視できないほどの光の玉が浮いている。まんまドラゴンボールの元気玉だが、バチバチと放電してるあれは気とかじゃなくてプラズマとかアーク放電的な塊に見える。


 バリィィィイィ!


 雷が複数同時に落ちたような音をたて、その光の塊は上空へ打ち上げられた。その通り道にあった枝葉にぽっかりと穴が開く。


 そしてまた、ロナの上にバチバチと放電んしながら光が集まり始める。その光が集まるごとに霧が晴れていくのが分かる。


「あれって、魔素をロナが吸収したうえで消費してる?」

「だろうね。凄いなロナ。あの光ってたぶんとんでもない威力なんだろうな」

「うーん、空に打ち上げてるから分からないけど、もし地面に叩きつけたらどうなるんだろう」

「クレーターとかできる感じ?」

「そうかも、デタラメな威力だろうね」

「そのデタラメな魔力を念じるだけで消せるケンジもデタラメだけどね」

「あら、俺に飛び火した?」


 先程よりかなり小さめな光を打ち上げた時には、黒い霧は完全に消えていた。



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