081 原因は魔物の毒
少し急いだ移動で翌日の午前中には王都近くまで来た。そこで馬で駆けるハヤトを発見する。ハヤトもこちらに気付き近づいてくる。
「やぁケンジじゃないか。アーニャさんも一緒でなにしてるんだい?」
ハヤトは4人ほどの騎士を引き連れての移動中だ。
「おひさしぶりです。私たち、政治には関わってなくて、もう自由にやっていいって言われたから依頼を受けてマーリオン村まで行ってたんです」
「へー、マーリオンか……あっちって農村地帯じゃなかったっけ? 何かあったのかな」
「食中毒っぽいので村人が大勢倒れて、回復魔法の使い手を要請する依頼があったんですよ」
「食中毒? ああ、ケンジって看護師だったもんね、専門分野かな」
「専門ってほどでもないけど、本当に食中毒なら、元の世界の知識で予防とか対策がとれるかなーって行ってみたんだけど、もしかしたら魔物がらみかもしれないって感じになってきて、調べに戻ってきたんんですよ」
「もしかしてって? 魔物見たわけじゃないんだ」
「村の人が変な牛を倒して食べて、それを食べた人が倒れたって話で、きっとそれが原因なんだろうけど、その牛が魔物なら討伐も必要になるのかなーって」
「そっかー、牛の魔物ってミノタウロスしか知らないなー」
「俺もそれしかイメージにわかないかな。ハヤトは何してるの? 俺たちがイザールから戻った時も居なかったし、ずっと王都から離れてるよね」
「俺も政治には興味ないからね。俺にできることって魔物からの被害を食い止めることくらいだから、魔街道沿いの町を巡回パトロールしてる。戻りは中央街道や南街道を回ったりもしてるんだ。たまに盗賊とかの討伐もしてるしね」
「はは、そっちこそ元の世界と変わらない専門分野やってるじゃん」
「そうなんだよ。世界が変わっても結局俺は俺ってことだなー」
うん、ハヤトはまさに警察官、正義マンって感じだよ。相変わらずの男前で街道ですれ違う人たちの挨拶の声や黄色い声が途切れない。それに気楽に手を上げて挨拶するからそりゃ人気者になるよな。王国が色々もめてても自主的にパトロールとか、ほんと立派だと思う。
「じゃぁまたね。何かあったら声かけてね。討伐ならいつでも応援に行くから、あ、ケンジには応援なんて必要ないか。魔王だもんな」
「いやいや、肩書だけだし。助けが欲しい時は声かけるよ」
「わかった、またね!」
ハヤトは馬を走らせ一足先に王都へと戻っていった。ハヤトと俺はこの世界に来てそんなに接点がないんだけど、なんか会うとホッとする。元の世界の自分を知ってる唯一の存在だからかな。ハヤトが居なかったら、それを証明してくれる人なんて一人も居ない。そう考えると凄く貴重な存在だ。すでに自分の役目を定めて生きてるって感じのハヤトだけど、もし脱獄せずに王宮に残ってたら俺もハヤトと一緒にパトロールしてたのかもしれない。
とはいえ、後悔なんてしない。ハヤトには悪いけどアーニャとの二人旅のほうがずっと楽しいと思うからね。そんなことより今は、持ってきた角と毛皮をギルドで見てもらわないと。
俺たちはギルドの買い取りカウンターへ向かった。
「これはカトブレパスですね。珍しい魔物です。結構良い値段で引き取れますがどうしますか?」
ルーペを片手に俺より少し年上に見えるお兄さんが言う。30よりちょっと上程度はまだお兄さんだ。異論は認めない。
このカウンターは討伐や採集で手に入れたものを買い取ってくれる。当然買い取る前には鑑定がある。そしてあっさりと正体が判明した。
「やっぱり魔物だったんだな」
「さすが王都のギルドね、はっきりするのにもっと苦労するかと思った」
「どうします? 売ります?」
「えーと、売りますがもう少しこの魔物について教えてくれませんか?」
この角と毛皮については金になるならついでに売ってきてほしいと頼まれてる。だから売ることは問題ないけど、魔物の物だと分かった以上、情報が欲しい。
「え? 倒してきたんじゃないんですか?」
「いえ、先日受けた依頼で、マーリオン村に行ったら、村の人がこのカトブレパスを倒して、しかもそれを食べた後に集団で倒れたって話だったんですよ」
「え? マーリオン村で? しかも食べちゃったって、そりゃ体おかしくなりますよ。このカトブレパスは毒が特徴の魔物ですし、毒の息を吸わなくてもその肉を食べちゃダメでしょ」
「はは、そうなんですね。村の人たちは変な見た目だけど、牛だと思って狩って食べたみたいなこと言ってました」
「そうですか、南方の人たちはあまり魔物に縁がありませんからね。知らなかったんでしょうね。でもなんでそんな南方に魔物がでたんだろう。新しい魔素だまりが発生した?」
「あ、それも気になってたんです。魔素だまりってそんなにホイホイ発生するんですか?」
「んー、そんなには。3年に一度くらいかな。でも早い段階で封印しないと魔物がどんどん湧いてきて困ったことになるんですよね」
そうなんだ、村の人たち数匹居たって言ってたよな。村の東の森だったっけ、そこが怪しいな。
「どうやって封印するんですか?」
「本当の意味で魔素だまりが発生することは滅多になくて、大抵は大きな魔石が原因となってそこに魔素が集中して魔素だまりになることが多いんです。だからその魔石を封印したり移動すれば魔素だまりは消えます」
「なんでそんなところに大きな魔石が?」
「それはまだ分かってませんけど、強い力を持つ魔族が死ぬと魔石を残すらしいので、そこに住み着いていた魔族が死んで魔石が残ったりしてるのではって言われてます」
そうか、魔族が住み着いていた。そしてその魔族が死に魔石を残してそこに魔素が集まってしまった……無気力になって魔界から消える魔族もいる、だったよな。そういう魔族ってもしかしたら魔界から離れた森の奥で朽ち果てるまで静かに過ごしてたりするのかも。
うーん、なんとも寂しい終わり方で、しかもちょっと迷惑。
ともかく村に戻って森の捜索が必要だな。
「戻りますか」
「そうだね、病気の治療依頼だったのに討伐になりそうだね!」
「なんか楽しそうだねアーニャ」
「だって今回私、出番全然ないじゃん」
「はは、ごめん」
俺たちは角と毛皮を売った金を受け取り、マーリオン村へ戻ることにした。
「先程の話ですが、魔素だまりの発生なら討伐隊と封印の専門部隊が派遣されます。義務なのでギルド長へ報告させてもらいますね」
「わかりました。そうだ、報告するならイメルダさんに伝えてください。ケンジとアーニャが先に捜索するって」
「……え? ……ええ? あなたたちが!」
あ、俺たちのことってギルド職員には伝わってるのね。
「俺たちもう行きますんで……ありがとうございましたー」
驚く職員に挨拶して俺達はその場を離れ、そのままギルドの資料室に向かった。討伐するなら毒の息ってのが気になる。そしてレアな魔物の資料からカトブレパスを見つける。
「戦闘能力は低いが毒の息に注意、手足が痺れ動けなくなった後に敵を食べる、食べられなくとも毒によって呼吸ができなくなるため危険」
神経毒的なやつ? でも肉を食べた人にはそんな症状なかったな。息として吐きだした時に毒の性質が強化されたりするのかな。
「知性が低く、風向きによっては自身が毒の影響を受けて倒れたりするが、短時間で復活するので注意」
間抜けか! いやこんなアホな魔物だから村人に倒されたんだろう。しっかし魔物にもこんな残念な子がいるんだな。いや魔物は全て残念な存在と言えなくもないけどこいつは酷いな。
「珍しい青い毛皮は体内に蓄えた毒の影響だと考えられている。しかし毛皮に接触するだけでは害はなくその珍しさから高価で取引される」
なるほどねー。こりゃ見つけたらラッキー的な魔物なのかも。でも毒の息ってちょっと怖いな。神経毒で動けなくされて生きたまま食われるとか地獄だし。風向き考慮してれば良さそうだけど、風向きなんて突然変わるかもしれないし、俺には風向き考えて戦闘するような能力ないしな。
調べ終った俺たちはギルドを出て近く食堂で腹ごしらえを済ませ、すぐに王宮へ向かう。ちょっと依頼をこなそうって感じだったけど、魔物の討伐になりそうだしそれが新しい魔素だまりの発生とかよくわからない事態になってきたからね。報告は必要だろう。
「お前ら、自由を満喫してんな。そんなことになってたのか」
「まだ用事があるかもしれないから遠くに行くときは教えてね」
確かにそうだな。なんか自由にやっていい状況が嬉しくて報連相とか見事に忘れてたかも。思い付きで依頼受けちゃったし馬車をお願いしたのにどこに行くかとか言ってなかったよ。
「で、お前らだけで討伐に行くのか? 魔素だまりがあるならそれがまだ小さかったとしてもそれなりに魔物が居る可能性があるぞ。大丈夫か?」
「今のところ、カトブレパスしか見かけられてないのと、森そのものが小さいから大群がいるってことは無さそうなんですよね」
「そのカトブレパスは俺たちも見たことがない魔物だが、毒の息? それは大丈夫なのか?」
あ、アーニャを心配そうに見てる。珍しいな。
「風下に回らなけりゃいいみたいだし、毒以外は弱い魔物らしいよ。さっきギルドの資料見たら、自分の息で倒れたりするってことだし、かなり弱いんじゃないかな」
「そうか、だがその手の魔物は俺たちみたいな接近戦専門には相性が悪いことが多いからなー。まぁケンジが遠距離から無力化しちまえば問題ないか。だが魔素だまりはお前らじゃどうにもならんぞ。あれの封印は結構大がかりだからな」
「その魔石を破壊したら消えるとかじゃないんですか?」
「まぁそれができれば消えるかもしれないが、魔素の黒い霧で覆われててどこにあるか分からないうえに、魔法を叩きつけてもその霧が邪魔する。近づいて破壊しようにも普通の人間がその濃度の魔素の霧に入れば数秒で意識を失う」
へー、知らなかった。魔素だまりってそんなのなんだ。
「俺たち人間には簡単に近づけないものなんだ」
「私が行きましょうか?」
ロナが乗り出してくる。めっちゃ一緒にいきたそうだ。
「私だったら魔族の毒なんて効きませんし、魔素だまりにも近づけます。それに小さい魔素だまりならなんとかできるかもしれません」
「魔素だまりを消す方法を教えてくれるのか?」
「それは知ってても答えられません。今後人間に影響がある範囲の魔素だまりの封印には協力しますが、魔素だまりが全て消されたりしたら、それこそ魔族の存続にかかわりますからね。さすがに自分たちの絶滅が早まるようなことには協力できません」
「そりゃそうだな。無理に聴こうとは思わん。人間に危害を与える魔物さえなんとかなればそれだけで随分と状況が良くなるんだ。俺は魔族を滅ぼしたいとも思わないしな」
そうか、そうだよな。魔族は絶滅危惧種状態で人間との共存を望んでるんだもんな。もし簡単に魔素だまりを消せるとしてもそんな方法教えたら、きっと人間の中から全て消し去って魔族を滅ぼそうって奴が出てくること間違いなしだ。俺もそんなのは望まないな。
「じゃぁロナ、お願いできるかしら。一緒にいってあげて」
「はい! 喜んで!」
サユリさんに頼まれ本当にうれしそうだなロナ。俺たちと旅に出るのを止められて落ち込んでたしな。また少し賑やかになるね。




