079 アーニャと二人で依頼を受ける
自由を言い渡された次の日の朝、朝食をとりながらアーニャと相談する。
「どうする? 旅がしたいとは思ってたけど具体的には考えてなかったね。アーニャは行きたい場所とかあったりする?」
「私はこの前イメルダさんの話を聞いてから、この魔大陸から出てみたいって思ってるよ。この大陸は特殊な場所みたいだし、私たちってまだこの世界のほんの一部しか見てないことになるよね」
「それは俺も思ってた。そうなるとイメルダさんに相談だな。手続きがいるみたいだもんね」
「うん、じゃぁ早速行こうよ」
今日は二人だ。ロナは居ない。ちょっと寂しくもあるけど、ロナは今日からマクシムさん、サユリさん、リゲルと一緒に政治に参加だ。まったくそっちに興味がない俺としてはすっごく可哀想に思える。でもこうやってアーニャと二人で行動するのはすっごく久しぶりで嬉しい。
俺たちはギルドへ向かった。受付からイメルダさんに連絡を取ってもらうと直ぐにギルド長室へ案内された。
「きっとそんなことを言うだろうと思ってもうやりはじめてるよ。と言っても時間がかかる。こっちはあなたたちを問題のない冒険者だと証明する書類を作って送るだけ、あとは先方が受け入れるかどうかだね」
イメルダさん仕事が早い! 俺たちが他の大陸に行くための手続きをすでに始めてくれていた。でも先方ってどこだ? 他の大陸って何個あるんだ? どんな大陸なんだ?
「先方ってどこですか? 他の大陸と言ってもどんな大陸があるのか私たち知りません」
「だよね、俺はけっこうあちこちのギルドで色んな資料を見てきたけど、他の大陸の情報って見た覚えがない」
この世界でこの大陸が一番小さい大陸だってことすら最近知ったしね。
「この大陸はかなり閉ざされてるからね、情報が少ないんだよ。それに魔大陸って言われて魔族が恐れられてるけど、だからと言って世界で一番治安が悪いってわけでもないしね。どの大陸、どの国に行ってもいい人もいれば悪い奴もいる。だから、魔大陸の人間が皆他の大陸へ逃げたりはしないし、それなりのバランスが保たれてるんだよ」
「イメルダさんは詳しいですね」
「ギルドはね世界と繋がってるからね」
「それでも魔大陸のギルドと他の大陸のギルドの交流は凄く少ないんだ。どこの大陸も過剰に魔大陸の魔族を恐れててね。身分が保証されない者の行き来が簡単にはできなくなってる」
「へー、そうなんだ。この大陸って本当に特殊な場所なんだね」
アーニャが感心してるが俺も同じだ。感心すると同時に楽しみにもなってきた。
そういえばこの世界の世界観ってどんななんだろう。太陽や月や星が元の世界と同じように動いてるところを見ると、星であることは間違いないだろう。だけど実際にはどのくらいのサイズがあるんだろ? 天動説地動説あたりは? 世界の果ては? 元の世界では常識である地球は丸いって感覚は?
「イメルダさん、この世界ってひたすら真っすぐ行くとどうなるんですか?」
唐突な俺の質問になんでそんなこと聞くの? みたいな顔になるイメルダさん。
「変なこと聞くね。そりゃ果てにたどり着いて闇に落ちていくんじゃないか? といっても私はこの大陸から出たことがないから聞いた話だよ」
「そ、そうなんですね!」
きたー! 平面説だ! 世界の果ては海が滝のようにどこかへ落ちていくアレだ! すげーそんなのが信じられてる世界なんだ! いやちょっと待て、ここは異世界なんだ。もしかしたらこの世界では本当に世界が平面の可能性だってある。この世界の文明を馬鹿にして実は平面でした! では俺が間抜けすぎるな。これ凄く興味ある。確認したいかも。
「なんだ、そんなこと聞いて、お前たちの世界と違うのか?」
「私たちの世界は世界は丸くて、例えば、えっと、ここから真っすぐどちらかに進み続けるといつかは反対側から戻ってくるんです」
「とてつもなく巨大なボールの上に世界があるって感じです」
不思議そうな顔をするイメルダさん。
「それだと、下側に住んでる人は落ちていかないか?」
うおーーーー! どこかで聞いたような返しがきた! 面白い。イメルダさんを馬鹿にしてるわけじゃない、こういうやりとりができることが凄く面白い。そりゃ世界が平面だと思ってる人はそう思うよね、落ちそうって心配になるよね。引力って概念が無いよね。
「えっとですね、私たちが住んでた世界は太陽や月みたいに、宇宙って空間に浮いてる星で、地球って言うんですが、星の中心に向かって引力っていう……」
アーニャが説明し始めた。うーん、伝わるだろうか。というかこの世界は本当はどっちなんだ? まさか本当に平面だったりしたらそれはそれで面白い。魔法があるような世界なんだ。俺の常識で考えること自体が間違ってるかもしれないしな。ちょっと旅する楽しみが増えたかも。
アーニャの説明が終わったが、イメルダさんは微妙な表情だ。理解したようなしてないような? でもその話はお終いにして他の大陸へ行く方法についての説明に進む。
「ということで、先方次第だ。だいたい10日ほどかかることが多い。まぁのんびり待っててくれ」
「わかりました。ありがとうございます」
「ああ、あとサユリに遊びに来いって伝えといてくれ。忙しいんだろうがたまには顔を見せろってな」
「はい。お母さんに伝えときます」
俺たちはギルド長室を出て、一階のホールに行く。王都のギルドだけあってホールはこれまで見たギルドの中で一番広い。午前中の依頼を受ける人であふれる時間をかなり過ぎてるが、まだまだ多くの人がいる。
「待ってる間、どうする? 俺たちはもう自由だし依頼でも受けてみようか」
「あ、それいいかも。丁度いいのあるかなー」
この時間は短期で美味しい依頼が取られてしまってることが多い。朝のにぎやかさはそういうお得な依頼の取り合いだ。それとここは王都だけにちょっとした討伐依頼みたいなのがほとんど無い。周辺の治安はしっかり守られてるみたいだ。
「遠征の依頼が多いね。王都はやっぱり戦力が集まるからだろうね」
「あんまり遠いのはね……これはどう?」
「探し物? 王都内だけど、俺たちに探し物する適性ある? アーニャ得意なの?」
「……苦手かも」
「だめじゃん。俺のスキルも探し物には役に立ちそうにないぞ」
「だね」
「じゃぁこれは?」
「ん? 流行り病、腹痛で倒れる者続出、回復魔法の使い手求む マーリオン村」
「これケンジ向きじゃない? 私の出番はないかもしれないけど」
「流行り病か……この世界、どうも内科疾患には弱いみたいだもんな」
「それって」
「基本怪我が魔法で治せちゃうだろ? 見た目にも劇的に」
「そうだね、千切れかけの腕も治ったもんね」
「だけど、怪我とかじゃない病気、大神官の時みたいな慢性的なのとか風邪みたいな感染症の治療がどうもあまり発達してないみたいなんだよね」
「そうなんだ」
「薬屋とかも見かけないし」
「そういえばないね、じゃぁこの依頼ってかなり困ってるんじゃない?」
「うん……でも俺のスキルでなんとかできるかもわからないよ?」
「行ってみようよ。できるかもしれないし、できたら実は魔王です! って名乗れば魔族の評価アップもねらえるかもよ」
「はは、確かにいい宣伝にはなるかも。でもまだそれはできないね、発表されてないじゃん」
「あ、そっか。残念」
「でもまぁこの依頼、受けてみようか。ちょっとした感染症ならスキルで免疫力高めれば解決するかもしれないしね」
「うん、行こう行こう!」
掲示板から依頼用紙を取り、受付カウンターへ向かう。
「この依頼受けたいんですけど」
「はい、承ります」
依頼用紙を渡すと係りのオバサンが内容をチェックする。そして俺たちを見て言う。
「こちらの依頼は回復魔法を使える方向けなんですが、失礼ですがお二人のどちらが?」
ああ、俺たちは回復魔法の使い手には見えないかも。アーニャは軽装で槍も持っていないが携帯用の短剣を腰に付けておりどう見ても剣士だ。俺も普段着に籠手を装備してるだけで格闘家あたりにしか見えないかもしれない。
「俺が少し使えます」
「そうなんですね、ではギルドカードを提出してもらえますか?」
いつも持ち歩いてるギルドカードを取りだして、軽く魔力を通す。このところ使ってなかったから久ブルに見る気がする。
ケンジ
冒険者ランク C
総合力 C
筋力 C
反応 B
体力 C
魔力 E
おお、評価が上がってるじゃん。体力ついてきた実感あるもんな。
「俺、体力と筋力が上がってるみたい」
「結構トレーニングしてたもんね」
カードを受付へ渡す。
「はい。ケンジさんですね」
アーニャも取り出したカードを見ている。
「私も少し上がってる」
そう言って俺の方にカードを向けた後、受付へカードを渡す。
アーニャ
冒険者ランク C
総合力 A
筋力 A
反応 A
体力 A
魔力 D
魔力以外全部Aか。さすがだねアーニャ。しかもこの能力から身体強化を使えば筋力と反応速度が跳ね上がるんだもんな。
「はい、アーニャさんですね。お二人のことはギルド長から聞いてますよ。すぐ手続きを済ませますね」
「そうなんですね、よろしくお願いします」
良かった、回復魔法が使えるって言ったのに魔力Eってところを突っ込まれるかなって思ったけどそんなことは無かった。イメルダさんの根回しは凄いな。けどこの先他の町で依頼を受けるとなるとそういうこともあるかもしれないな。その時は、カードの表示を消すようにしとこう。総合力までにしとけばそういう詮索はされないはずだ。




