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076 手術開始


 全ての道具が揃い手術の日となった。手術部屋には俺とアーニャとロナと聖女、そして手術の見届け人としてサユリさんと王国で特に優秀な回復魔法のつかい手が数人が入る。

 手術台に右を向いて横向きに寝る大神官。


 < 痛覚 0 >


すでに俺のスキルで深い眠りにつき、痛覚も0になってることを確認する。聖女メグミが緊張の面持ちで手術開始を伝える。


「では、始めたいと思います」


 どんなことをするかは皆に事前に説明している。おおまかな手順は、まず硬膜下血腫がある場所の皮膚を切開する。そして頭蓋骨に2センチほどの穴を空ける、そして脳を包む硬膜にも穴をあけて血種を取り除く。途中の出血に対する止血も傷を閉じていくのも聖女メグミの回復魔法だからそこは楽勝だ。注意すべきは穴を空け、血種にたどり着くまでに脳に間違って傷をつけないかってところだな。


「どうぞ」


 俺はメスがわりの小さな鋭いナイフを渡す。数年ぶりの手術直接介助だ。俺が柄から渡したメスを不慣れな動きで受け取る聖女メグミ。大神官の頭髪は全て剃っていて切るべき場所には目印を付けている。


「緊張しますね」

「聖女様がこれまでに治療した大怪我に比べたら小さな怪我みたいなものですよ」


 緊張をほぐすように俺は皮膚切開を促す。

 震えをこらえるように皮膚にメスを入れる。目印をたよりに穴を空ける場所を囲むようにU字に皮膚を切る。なんとか切り終えてメスを引いた聖女が大きく息を吐き、そして深呼吸する。


「すぐに止血です」


 俺はガーゼで出血を拭きとりながら聖女に止血を促す。ちなみにガーゼや包帯はこの世界にもほとんど同じような物があって、それを熱湯に入れこの部屋で清潔に乾かしている。他の機械も同じく、金属の器ごと熱湯に入れて、煮沸消毒を済ませて機械台に並べてある。


「そうでした」


 慌てて聖女が切開した創部に手をかざすとその手から淡い緑色の光が放たれる。そして見事に出血だけが止められた。ちゃんとスキルを制御できてるのが凄い。聖女の回復スキルだと今やった切開創まで完全に治癒してしまいそうだけど、予定通り出血だけを止めるという器用なことをやってくれた。


「皮膚を……頭蓋骨から剥離します」


 唾を飲み込みながら言う聖女、周囲に知らせると言うよりもたぶん自分に言い聞かせてるんだろう。この作業は見た目にもちょっとだけエグいからな。機械台からマイナスドライバーの先端を少し曲げたような道具を渡す。これはラスパって言って頭蓋骨から肉を剥がすために使う道具の代用品だ。先端を適度に鋭くしてそれっぽくしてる。


 ゴリ……ググ……ゴリ……


 骨をこするなんとも言えない音が静かな部屋に響く。聖女の手つきが危なっかしくてこっちが緊張する。ガガってやりすぎたりしないかヒヤヒヤだ。


「なんか、頭が痛くなってきた」


 アーニャは支え役だ。マスクを付けたアーニャは体側に居て頭部を支えてる。凄く近くで見てるからね、ゴリゴリやってる振動まで伝わって結構しんどいのかもしれない。

 なんとかU字に切った内側の肉を頭蓋骨から剥がし終え、ペランと頭皮がめくれるようになる。めくってみるとあちこちから染み出るように出血がある。


「先生、止血」

「あ、はい」


 思わず聖女じゃなくて先生って呼んでしまった。作業ごとにみるみる疲弊していく聖女。俺の声に慌てて止血する。何もかも初めてだもんな、疲れるんだろう。でもまだまだ頑張ってもらわないと。


「じゃぁこれで皮弁(めくれる部分)を邪魔にならないように縫い付けておきましょ」


 持針器がわりのペンチに縫うための針と糸を付けて渡す。反対の手にはハーケン(引っ掛かりのあるピンセット)を渡す。これまた不慣れな手つきで皮弁を頭皮に縫い付けそうを拡げる。一つ一つに随分と時間がかかる。それでも回復スキルで止血が完璧だから今のところ何も問題なしだ。

 そしていよいよ一番繊細な手技、ドリルでの穴あけだ。手回しドリルを聖女へ渡す。これまでで一番緊張した表情でそれを受け取る聖女。アーニャや離れて見てるサユリさんや王国の見届け人も同じだ。


「や、やります」


 コツ……とドリルの先端を頭蓋骨へ接触させる、コ、ココ……緊張しすぎて手が震えて頭蓋骨をノックしてる。大丈夫か? それでもなんとか位置を定めドリルを回し始めた。


 ゴリゴリコリ……


 3回転ほどしたところで聖女の手が止まる。


「すみません……む……無理です。私にはできません、お父さんにこんなこと……できません!」


 あー、一番心配してたことが現実になった。なるべく意識させないようにその点については触れないできたけど、やっぱり身内を切るってのは難しいのかも。ベテランの医者だって親の手術は避けるというかタブーに近いみたいだもんな。


「でも、この世界で医者は貴方だけですよ? 聖女様! しっかりしてください」

「分かってます、でももう手が動きません」


 確かにドリルを握って頭蓋骨に当てたまま止まってしまってる。


「お願いします! 代わってください」

「いやいや、俺は看護師ですし!」

「そこをなんとか!」

「それ法律違反ですし」

「この世界でそんな法律なんてありません! あなたが手術を行なって咎める者なんて居ません!」


 めっちゃハッキリ宣言されたけど、親の手術を他人に任せていいのか?


「私にはこれ以上は無理です。どうかお父さんを助けてください」


 やっとドリルを頭蓋骨から離し、俺に押し付けるように差し出してきた。


「うわ、不潔になりますよ」


 慌ててその柄を掴んで受け取る。どうする? これって本当にやっていいの? なんかあった時俺が責められたりしない? いや手技のミスで少々傷つけたとしても聖女の回復スキルがあるんだから大事になることはないか。でも倫理的な問題が……。


「やればいいじゃない、聖女様ってこの手術見たこともほとんどないんでしょ。そんなの飽きるほど見たって言うケンジがやった方が上手くいくに決まってるし、ほら。やろうよ」


 頭を支えてるアーニャが、早くしろと言わんばかりに促してくる。手術のことは分からなくても聖女の危なっかしい手つきを見てそう考えたのかも。


「私もケンジがやるところ見たいな」


 ロナは単に俺がやるところが見たいだけだろう。


「お願いします!」


 そう言って聖女は自分のポジションから離れていってしまう。そんなに離れられても止血とかあるし困るんですけど。はぁやるしかないか。そうなる可能性も少しは予想してたしな。断る理由も色々考えたけど、ここ異世界だしな。法律とか倫理的な問題とか前の世界の価値観を引っ張り出すのも無理がある。


「わかりました。でも聖女様も近くに来て止血とか、ミスした時のフォローとかしてくださいよ!」

「はい、頑張ります」


 はー、仕方ない。やるからには真剣にやるぞ。この穴あけ作業、ずっと見てきたけど力加減とか見てるだけじゃ分かんないからな。時間かけてじっくり行こう。力加減間違って脳みそぶち抜いたら、すぐに聖女が回復スキルを使ったって機能障害やら記憶障害やら起こしそうだしな。


「ケンジ、頑張れ!」

「しっかり支えといてよ」

「任せて、絶対動かさないから」


 そう言って姿勢を整えるアーニャからオレンジ色の光が放たれる。


「おいおい、ほどほどでいいからね、本気出して頭蓋骨砕いたりしないでね」

「わかってるし! 失礼ね!」


 仕方ないな。俺がやってもダメだって批判する者もいないし、ここでやめたら色々考えて集めた物も無駄になる。アーニャのおかげで適度に緊張がほぐれたし覚悟を決めてやりますか!



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