063 レクターと対峙
「不本意だろうけど、とりあえずは魔王なんだから、ケンジがしっかり力を見せるのも大切だと思う」
「そうかもね。だけどどう考えても魔王とか柄じゃないんだよな」
「まぁねー、それは分かる。ケンジって人の上に立ちたいって感じじゃないもんね。たまたま倒したのが魔王だったってのもそれはそれで凄いんだけど。まぁ一段落するまでは頑張ってよ」
森を進みながらアーニャと話す。大した魔物は出ないし魔界から王都までの移動で、さすがの俺も森にすっかり慣れてしまった。こんな浅い場所で出る魔物なら全く怖くない。それに森に入ってからゴブリンやトロールや大きな蛇とかオオカミみたいな魔物が出るけど、ほとんど騎士とベイガードが倒してくれてる。この手の雑魚はロナと一緒だと近づいてこないんだけど、魔力が高くてもヴァンパイアは魔力の放出が少ないらしく、ベイガードがいても魔除け効果は弱いみたいだ。
それよりも凄いのは騎士のオジサンだ。弱い魔物相手だとは言え、余裕の無双だ。ただの御者で監視役かと思ったらすっげー実力者じゃん。
「あの人、かなりできるよね。普段の身のこなしで、そうだろうなって思ってたけど予想以上よ」
俺が騎士の動きに見とれてるとアーニャが同じように騎士を見て言う。
普段の動きでできる人だって気付けるんだ。やっぱアーニャは武人だな。しかし騎士ってイメージだと、敵と正面からぶつかり合っていくイメージなんだけど、そんな素人の持つイメージと全然違う自由奔放な動きをしてる。木を蹴飛ばして三角飛びしてみたり、重そうな鎧着てるのにバク転したりスライディングしたり、楽しんでるようにも見える。楽し気な戦闘が一段落すると見ていた俺たちの近くへ来る騎士。
「いやー、騎士団ではビシっとしてるのも役割なんで、こんな自由に戦えるのは久しぶりなんですよ。私は元冒険者でして、森に入ってちょっと昔を思い出し、調子に乗ってしまいました」
「冒険者から騎士に転職とかあるんだ」
「ええ、スカウトされました。これでもSランクまであと一歩って感じだったんですよ」
ハッハッハっと爽やかに笑いながら汗を拭く騎士。なんだこの人、監視役だからあまり関わらないできたけどもしかしてめっちゃ関わりやすい系の人?
「あの、今更なんですがお名前は?」
「はは、監視役とは距離をおいてたのでは?」
「そうなんですけど、なんか今の楽しそうに戦ってるの見たら、話しやすそうだったので」
「実は私も色々話してみたいなって思ってたところです。私はオーリン・ボガード、第三騎士団の騎士団長をしております。オーリンと呼んでください」
「わ、騎士団長さんなんだ!」
「すっごい偉い人だったのね、実力はなんとなく気付いてたけどそんな立場の人とは思わなかった」
なんにも見抜けてなかった俺にもすっごい人に見え始めた。森に入る前までは真面目なオジサン騎士だとしか思ってなかったのに。笑
「いやいや、私は第一や第二の団長に比べると大したことないんですよ。騎士団にスカウトされたのも偵察要員としてでして、そっちの能力しか持ってないんですよ」
「でもそれで騎士団長までなったんでしょ?」
「能力のお陰で生存率だけは高くなりますからね。敵を早く察知できるのと相手の実力がなんとなく分かるんで自分や部隊にとって強すぎる相手からは逃げてたらいつの間にか騎士団長になってました」
謙遜だな。どんな相手でも勇猛果敢に戦えるってのは聞こえがいいけど、それで消耗しまくっちゃ困る。勝てる相手には勝つ、負ける相手からは逃げる、それが確実にできるなんて滅茶苦茶有能だよな。軍事なんて詳しくなくてもその程度は分かる。
「オーリンさんは、有能っと」
アーニャも同じ意見みたいだ。
「と、そんな話をしてたら、私じゃ手に負えないのが来ましたよ」
そう言ってオーリンさんが森の奥を見る。大きな物音などはない。大型魔獣とかではなさそうだ。となるとお目当てのレクター?
ベイガードも俺たちの所へ戻りオーリンさんが見る方向を睨む。あ、イメージ的にはヴァンパイア系って夜行性で夜目が利きそうだな。
「騒がしいと思えば……おまえか」
暗闇から真っ白な顔が浮き出てきた。つか思ったより近い距離で驚く。正直言うとビビった。森の移動でゴースト系の魔物は何度も見たけど、何度見てもビジュアル的に怖いものは怖い。いきなり暗闇に真っ白い顔が浮き出たらそりゃビビるよ。だけど他の人を見ると驚いた様子がなく、どうやら俺以外はもっと前から気付いてたみたいだ。ちょっと恥ずかしい。アーニャは気配? オーリンさんは感知能力? ベイガードは夜目? 俺も夜間視力を高めとけばよかった。
( 夜間視力 8 )
今更だけど……よし、めっちゃよくみえる。しかしアホだな俺、ここまで来るのに夜は歩きにくいなーとか思いながら来てたのに、なんで夜間視力操作しなかったんだろ。スキル全然使いこなしてないじゃん。どうも魔王って言われるようになってから、スキル多用するのに抵抗があるんだよな。とりあえずそんなことは後だ。バッチリ見えるようになった夜の森に立つ黒ずくめの男は、俺のイメージ通りのヴァンパイアだ。黒いスーツのような服装に真っ黒な長髪。そして顔だけ色白で牙がチラっと見えてる。目は赤くはない。
「レクター、今日は話があってきた」
「なんだ? 無駄な戦いを挑みにきたのではないのか? 仲間を連れてきて……デリーヌが連れてきた男のように、またワシを封印するつもりか?」
「いや、封印はしない。だが話によっては滅ぼすことになるかもしれない」
ベイガードの言葉に、眉をピクっと動かす。
「たしかに、戦士が二人におまけが一人……わしを封印できるような者はおらんな」
「だが、その戦士二人がどれだけ強かろうと、ワシをどんなに粉々にしようと無駄なのはしってるだろ?」
「ああ、これまで何度もやってきたからな」
ベイガードがスッと横へ動き、俺に促すように目配せを送ってくる。やっぱり俺がやるのね。なんか展開早いし、責任重い。でもまぁこれも王国と魔族が協力できる関係をつくるため、そして魔物の被害に苦しむ人たちのためだもんな。頑張ろう。
「えーっとですね。俺はケンジって言います。最近魔王になった人間でして、魔族と人間が共存できるようにしようって活動をしてます」
俺の言葉を聞いてるのか、反応がないレクター。
「は?」
あ、遅れて反応した。
「突然で驚くでしょうが、たまたま魔王リゲルを倒して魔王になってしまいまして、さらに色々あって、レクターさんに人を襲うことをやめさせるか、それができなければ討伐するって感じになってます」
うーん、なんともパッとしない説明。我ながら情けない。だけど、俺が新しい魔王だ、人を襲うことは魔王の名において禁ずる。逆らうならば滅ぼすぞ! なんてことは言えない。無理。キャラじゃない。
「リゲルが倒されただと? あの魔力馬鹿が? お前のような戦闘力の低そうな人間に?」
「はい、スキルで倒しました」
「スキルだと? お前は召喚された者の子孫……いやリゲルを倒すような能力は子孫にはないはずだ」
過去の俺みたいに召喚された者の子孫にもスキルを持つものが居るって話は聞いてたけど、子孫が持つスキルってのは元の人ほど強力ではないってこと? スキルって情報少ないからこれは新しい情報だ。
「こっちのアーニャと一緒に召喚されてこの世界に来ました」
ほほう、という顔で俺を見る。レクターのもともと鋭い目がなお鋭くなった。怖いな。油断しない油断しない。
( 反応速度 10 )
熟練度が上がってきてるおかげか、10分程度なら反応速度全開でも片頭痛程度だ。
「面白い、リゲルをどう倒したのか見せてみろ」
「いや、そんな力ずくでどうこうしようなんて思ってませんよ。とりあえず話し合いません?」
「話す必要はない。どうせ魔族の町のような場所を増やし、魔族に新たな価値観と刺激を、人間には平和を……そんな話であろう」
「協力してもらえませんか?」
「興味ない……そんなことより今は、お前だ」
!!
レクターが突然俺に向かって突進してきた。速い! 反応速度上げてなかったら反応する前に殴られそうな勢いで距離を詰めてきた。
「させない!」
オレンジの光を纏ったアーニャがレクターの速さに負けない速度で踏み込み、槍で胴を薙ぎ払う。
ボフゥ
槍の柄が胴体を貫通した。が、レクターは止まらない。わずかに減速したがそれだけだ。貫通した場所は黒い煙のようになるが、もう元の形に戻ろうとしている。
「おらぁ!」
ベイガードが俺とレクターの間に入り、レクターに体当たりする。
ブフォウ
レクターが半身を黒い煙にして大幅に減速。ベイガードも一部煙になるけど、その量はレクターと全然違う。これが純粋なヴァンパイアとサキュバスハーフのベイガードの差か。だけど二人のお陰で減速したレクターから大きく距離を取る俺。そして二人は数秒で元の姿にもどる。なんかわけわからん。激しい衝撃を受けた場所は黒い煙になるけど、レクター本人の攻撃はどうなるんだ? 殴った手が簡単に煙になってたら相手にダメージ当てられないから、そこだけは物理的に硬くなったりするの? ってそんなこと考えてる場合じゃないな。
「話し合いたいんで、失礼して」
( 魔力 1 )
「な!」
ちゃんと効き目出た。ヴァンパイアは魔力の塊で物理特化って変な存在だから、魔力を弱体化するだけで全能力が下がるんだろう。
「これがお前のスキルか!」
「です」
よし、これで落ち着いて話せる。




