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062 元彼、レクター


「倒すのは簡単だけど、倒しても倒しても復活するのがヴァンパイア系の特徴なんですよねー」


 デリーヌさんはレクターのことを嫌ってるようだ。と言うのも過去に何度も戦ってて何度も粉々になるまで殴り倒してるらしい。バンパイア系は物理攻撃が効かない、なのに殴り倒すって? と疑問に思ったが単純な物理だと聞かないが、魔力をおびた武器なら当たるし、魔力の塊である魔族のパンチも当たる。と言ってもよっぽど強い魔力が込められてなければ少々切り刻まれても死なないらしい。

 

「あいつは、とにかくしつこいのよ」


 250歳をこえたくらいから無気力になってきて、ただ時が経つのを待つように棺桶の中で過ごしていたデリーヌさんは若い頃に付き合っていたレクターに何度も無理やり起こされ、その都度粉々になるまで殴り倒してたらしい。そんなことを繰り返してた時に現れたのがベイガードの父親であり、戦ってる最中のデリーヌに助太刀してレクターを倒す、そのうえで封印の術式でレクターを封印してくれた。その後はサキュバスフェロモンに見事にやられたが、デリーヌは人間であるにもかかわらず自分を一所懸命助けようとしてくれる様子に興味を持ち一緒に過ごすようになり夫婦となった。


「魔族を封印とかできるんだ。ベイガードのお父さんってかなり優秀な人だったのね」


 ロナが感心している。


「うふふ、素敵だったわ」


 その素敵な夫の精命力を吸い尽くしちゃったんだよな。言わないけど。

 しかし封印は解けた。どうやって解けたかは分からない。誰かが解いたとかじゃなく単純に術式が経年劣化して解けたのかもしれない。で、自分を封印した男とデリーヌさんが一緒になったことを知ったレクターは人を怨んでるんだろうってことだ。本人に聞いたわけじゃないから正確ではないけど、まぁそんなところだろうなって予測はできる。


「倒すと言うか、殺すと言うか、滅ぼしちゃっていいのかな。なんか人間に害する魔族ではあるけど、痴情のもつれって奴だし……モヤっとするね」

「んー、いいんじゃないかしら。あいつも無気力になって他にすることなく私に執着してただけだし、最後に激しく戦って滅びるならそれはそれで問題ないと思うわ。魔族って終わりどころを見失ってる奴が多いし」


 同族を滅ぼすって話なのに随分と軽いな。そういうデリーヌさん自身も「死ぬまで死んどきたかった」とか言ってたしな。人の死って魔族に比べればずっと身近なものだから、いつか訪れる死を怖く感じたりするけど、簡単には死なない、寿命は1000年あるってなると世の中の全てに飽きて死を待つだけの生になったりするのかもしれないな。俺だったらどうかな。1000年とかだと想像もつかないけど、健康寿命が200年とかあったら色んなこと経験できていいだろうな。案外そのくらいが限界なのかもしれないしね。250歳くらいから無気力になってきたって言ってたし。


「そのレクターもとりあえず会ってみないと分からないってことね。そうとなれば早いとこ森へ行きましょ。王と聖女もあんまり長く待たせちゃ悪いし。私のお父さんとお母さんも心配するかもしれないし」


 王と聖女は待たせすぎると何かしそうな気はするけど、アーニャの両親が心配してるかは疑問だな。いや心配はしてるだろうけどそれ以上にそこらの魔族に俺たちが負けるとか考えてなさそう。っていつの間にかアーニャ復活したのね。色事の話でフリーズするアーニャもなかなか可愛くてよかった。


「私もとりあえず森へ行くことに賛成です。そして人間へ危害を加えないことを約束してもらえなかった場合は滅ぼしてしまいましょう。正直、今の魔族はそんな終わり方で仕方ないと思います。人間と共存することで魔族の新しい生きる道を作り上げることが優先です」


 やっぱロナも魔族に対してドライだ。それどころか、終わらせてあげるってニュアンスに聞こえるな。こういう価値観の違いってデリーヌさん夫婦は夫婦生活で問題なかったのかな?チャンスがあったら聞いてみよう。って俺が魔族と一緒になるわけじゃないけどね。あくまでも好奇心だ。変に期待させたら悪いからロナのいないときに聞いてみよう。




 早速森へ向かった俺たちは、森の手前で野営準備を行う。ロナの異空間収納から山ほど荷物を取り出して快適な居住空間が作り上げられる。これには騎士が一番驚いていた。異空間収納は一部の魔導士が使えるがこんな大量に運べる者はいない。こんなことができたら兵站の概念が変わってしまうって。だよねー、本当に便利な能力だと思う。

 そして森へは俺とアーニャと騎士、そしてベイガードが向かうことになった。デリーヌさんはレクターに会いたくないと言い、ロナはデリーヌさんを一応守りながら聞きたいことがあるってことらしい。魔族と人間の共存を実現してたんだもんな。ロナとしては色々聞きたいだろう。

 快適空間で時間を潰して夜を待つ。その間時々通る冒険者がこの野営を見て驚く。中にはデリーヌさんを知ってる人もいてオバケでも見たような顔になってる。半面デリーヌさんは気楽なもんだ。知った顔を見つけるとその都度挨拶をしている。


「こんにちはー、生き返ったんでまたよろしくお願いしますねー」

「え? 本当にデリーヌなのか?」

「ええ、息子に掘り起こされてしまいました。テヘ」


 言ってること滅茶苦茶なのに、30代後半とは思えない色気で次々と男を虜にしてる。酒場でベイガードを討伐しないでくれって言ってた冒険者もデリーヌに気付いてやってきた。


「デリーヌ、生き返ったんだな、本当に良かった、今度一緒に酒場で飲もう!」


 って感じで、誰も「生き返った」って珍事に対してほとんど掘り下げない。それでいいのか! そんなのはサキュバスフェロモンの前ではどうでもいいことになるのか! つっても今はフェロモン放出はしていない。棺桶から出てきた時みたいに、妙に引き寄せられる感じがない。それでも冒険者たちが復活を素直に受け入れてるのは、もしかしたら元々冒険者たちがデリーヌの正体をもともと知ってたってことかも。案外イザールの町は王国の中にあって、すでに魔族と共存する土台ができてるのかもしれないな。




 すっかり暗くなってもう森から戻る冒険者は見かけなくなった。夜を待ったのは冒険者を巻き込まないためと、ヴァンパイアが夜行性なためだ。昼に行って探すより遭遇する可能性が高くなるらしい。


「じゃぁ行ってくるね」

「うん、気を付けてねー、もしこっちに出てきたら、一応説得して話が通じないようなら、滅ぼしとくから心配しないでねー」


 はは、さすが魔族でも飛びぬけた魔力を持つロナだな。まったく不安を感じさせない。そもそも感知能力が高いんだからロナがレクターを倒しに行った方が効率がいいような気もするな。俺に色々経験させるためなんだろうけど。まぁ考えてもしょうがない。今度こそ本当に討伐になるかもな。気合入れていくかね。



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