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061 なんとか協力を得られるが


 ボロギレを纏った白髪の美女、もちろんデリーヌさんだ。あれだけの雷撃を受け、爆発で飛んで落ちたのにお尻をさすってはいるが大きな外傷は無いみたいだ。まあ物理攻撃無効って話だし雷撃はともかく爆発の影響はないのかもしれないな。でもお尻が痛そうだから落ちた時のダメージはあるんだ。よくわからんな。しかし目のやり場に困る恰好だ。

 デリーヌさんが恨めしそうな眼をしてこちらを見ながら立ち上がる。ますます目のやり場に困るが目がどうしても離せない。さっき言ってたサキュバスのフェロモンってやつ? 魅力的すぎて困る。

 と思ってたら俺の視界が真っ暗になる。


「そんなジロジロ見ない!」


 アーニャに後ろから目を塞がれたみたいだ。手を払いのけてでも見たい衝動にかられるがここは我慢だ。


「お母さん!」


 ベイガードが呼びかける。その声は嬉しさからか上ずっている。その声を聞いたデリーヌの目がベイガードへ向き、さっきまでの怒りの表情から今度は悲しみの表情となる。


「ああ、ベイガード、私は……私はあなたに合わせる顔がない。情けなくて悲しくてもう死んでしまいたかった。でも死に方が分からなかった」


 あらら、感動の再会かと思ったら雲行きがおかしいぞ。


「何言ってんだお母さん。俺はずっと一人だったんだぞ。二人とも死んでお母さんが魔族で俺にその血が流れてることがバレて、この町で暮らせなくなって、ずっと一人で生きてきたんだぞ」

「分かってる。それでもこの町と私の墓を守ってくれてたんだよね」

「ああ、そうだよ。なんで死んだふりなんてしてたんだよ」


 知ってたんだ。あ、もしかしたら眠りについててもヴァンみたいに使い魔的な奴で周囲の情報をえられたりするのかな。

 俺たちは二人の様子を遠巻きに見守る。と言っても俺は目を押さえられてるから声しか聞こえない。見せてくれたっていいじゃん。減るもんじゃないんだし。


「あなただって分かってるでしょ。お父さんがなんで死んだか」

「それは……わかってるよ。もう子供じゃないんだ」

「うう、恥ずかしくて申し訳なくてどうしていいか分かんなくなっちゃったの」

「だからって、死んだふりはないだろ」

「だって……あの人は死んでしまうし、それで貴方が戻ってきて、あなたに説明しなきゃいけないなんて思ったら、もうお母さん死にそうだったの」


 死なないって言ってたよね?


「俺はいつかそんな日が来るだろうなって思ってたよ。仕方ないことだよ。お父さんだってそれで本望だったと思うし、俺はそのことでお母さんを怨んだりしてない」

「そうなの?」


 今一つよく分からない。ベイガードの父親が死んだのはデリーヌさんに原因があるってこと? それで申し訳なくて死んだふりに突入したってこと?


「あー、私わかっちゃいました」


 ロナが何か気付いたようだ。


「彼女、サキュバスですからね。あれですよ」

「あれ?」

「なにあれって、教えてよロナ」

「あー、あれか、なるほど納得だ」


 騎士も気付いたようだ。


「お盛んすぎて、精を出し切って死んじゃったんじゃないでしょうか……」

「それって?」


 そっちに興味が向いてアーニャの目隠しがずれる。半裸のデリーヌさんが視界に入り俺も気付いた。そういうことか。そういうことだな。めっちゃ分かる。それなら納得だ。今の親子の会話を聞いてても明らかに仲のいい家族って感じだし、バイオレンスな出来事で死んだとは思えないが、仲が良すぎて夜の活動に精を出し過ぎて、そのサキュバスの能力により生命力を吸い取られて死んだってなら理解できる。

 というか、サキュバスって点を引いて考えてもデリーヌさんの姿は魅力的すぎる。もちろんフェロモン効果もあるんだろうけど、顔とか見ると30代後半かなーって感じなのにその色気が異常だ。たまたまこういう容姿なのか、それともサキュバスってのがこうなのかは分からないけど、こんな女性と一緒に過ごして精を吸い取られて死ぬってならそれもそれでいいやって思えるのは俺が馬鹿な男だからか。


「アーニャはお子様ですね。大人の夜の営みを頑張り過ぎて、サキュバスに精を吸い取られて死んだってことですよ」

「……ふぇ?」


 やっと分かったのか、おかしな声を出すアーニャ、俺の視界を防ごうとしていた手がほてってくるのが分かる。そして恥ずかしくなったのか、スッと手を引いた。おかげでデリーヌさんがよく見える。


「俺が町に戻った時、二人とも死んだって聞いてどれだけショックだったと思う? お父さんのことはそのうちそういうことになるかなって思ってたよ。でもお母さんが死ぬなんて想像もして無かったんだからね」

「あなた、気付いてたの?」

「気付かないわけないだろ! 大きくない家で毎日俺が寝たのを確認しに来てから……」

「いーわーなーいーでー!」


 耳を塞いで走り出すデリーナさん。その後ろ姿がまたいい。ロナが雷撃で作った穴に飛び込んでしまった。気持ちはわからんでもない。実の息子に夫婦の夜の話なんてされたくないよな。結婚したことも子供もいないけどなんとなく分かる。


「だから嫌だったのよー、もう1000年でも万年でも死ぬまで死んどきたい!」


 死ぬまで死んどきたいって! ちょっと面白い。あの仮死状態みたいな睡眠って本人も死に近い状態だって認識があるのかも。


「今さら恥ずかしがらないでよ、俺はずっと知ってたし、それでお父さんが痩せていくのも気付いてたけど、俺だって15近くになればそれなりに色々分かるんだ。お父さんは幸せそうだった。凄くね。死んでもいいくらいにお母さんが好きだったんだよ。結果死んじゃったけどそれは仕方ないことだ。もう今更恥ずかしがったって意味ないだろ。また一緒に暮らそうよ」


 穴に引きこもる母親とその母親を説得する息子のなんとも締まらない光景を見守る。息子としても微妙だったろうな。両親が仲がいいのは良いことだけど、両親のそんなのには気付きたくないもんな。


「ケンジ、ずっと見てたけどあんな年増が好きなんですか?」


 ロナが俺を見上げて聞いてくる。


「私があのくらいになるには、あと200年くらいかかるのですが……」

「え? じゃぁデリーヌさんって何歳くらいなの?」

「魔族は大人の姿になるまでに100年くらいかかります。そこからは人間の10年が魔族の100年って感じですので、多分デリーヌさんは300歳手前くらいだと思います」


 俺はそんなおばーちゃんの色気に惑わされてるのか、魔族のフェロモン恐るべし。なんかそれ聞いてちょっと冷静になったぞ。


「やはり、歳をとって醸し出す色気ってのがあるんですね」

「いやいや、俺、そんな年増趣味ないから。きっとフェロモンの力で目が離せなかっただけだから」

「じゃぁ私みたいな容姿でも問題ないってことですか?」


 ロナは元の世界なら1000年に一人とか言われそうなくらい可愛いと思うぞ。だけど100歳で大人の姿になるって話なら、ロナはこのちょっと子供っぽい姿で成長が止まるってことか。これ以上でっぱったりしないのかな。


「胸ですか! そっちの問題ですか! アーニャやデリーヌさんみたいな大きいのがいいんですか!」


 視線に気づかれた!


「それも違う。たまたまだよ、無意識に見ちゃっただけ」

「無意識に見るほど好きなんですか! 胸が!」


 あー、しつこい! そして大人しいアーニャを見るとまだ赤くなって俯いてる。この脳筋娘はそっちの話には免疫がないのか? 今時の若い子はもっとそういう話題に強いってイメージだけどな。

 こっちはこっちで話してると、やっと母子の話がついたようで、穴の中からベイガードのシャツを着たデリーヌさんが出てきた。話はついたんだろうか。まぁ出てきたってことは一応解決したってことかな。


「お母さん生きててよかったね」


 とりあえず俺はそう声をかける。突っ込みどころがいろいろありそうだけどそろそろ目的に向けて話を進めたい。


「すみません、なんか息子が迷惑かけたようで」

「いえいえ、こっちが押し掛けてきたんです」

「魔族と人間の和解のために働いてるって話、本当ですか?」


 話をこっちが振る前にデリーヌさんから切り出してくれた。これは助かる。


「そうです。人間の立場からは、魔族と友好関係を作り魔物への対応を強化できるメリットがあり、魔族の立場からは、無気力化する魔族に人間社会の刺激を与え活性化する。そんな感じにするために色々やってるところなんです」

「はは、魔族の無気力化、私もそんな魔族の一人でしたね。あの人と出会うまでは。そしてあの人をうしなってからも、まぁ色々理由がありますけどずっと死んでました」

「それって、辛くないんですか?」

「んー、辛いのはあの人が居ない世界ですし、一度目が覚めたんですけど出ていって息子と顔を合わせることを考えたらそれが辛くてモジモジしてるうちにまた寝てました。でもこうやって息子とあって恥ずかしい思いもしましたし、もうこれ以上のことはないのでできれば人としてまたこの町でくらせたらいいなって思います」


 母親の話を聞いていたベイガードが申し訳なさそうな顔で言う。


「でも、俺が暴れたせいで魔族だってバレちゃったんだ。今俺は森の近くで暮らしてる」

「じゃぁ決まりだ。俺たちに協力してください。王を納得させ、魔族は危険じゃないって理解してもらえばきっとこの町でずっと暮らせるはずです」

「そんなことできるんですか?」


 すでに王宮は一度武力で黙らせてるからね。最悪王家潰してマクシムさんが王になることだって可能なんだ。できないわけがない。


「すでに王宮は押さえてるんです。でも無理やりじゃなく納得の上で魔族との友好関係を作り上げたいから今回ここに来たって感じです」

「そんなことが!」


 驚くデリーヌさん。


「あ、でも俺とお母さんが協力できても、まだ森の魔族の対応が……」


 そうだった。そっちも解決しないといけなかった。


「森の魔族?」


 デリーヌさんが首をかしげる。


「ああ、母さんが死んでしばらくしてからこの町に近い所に現れるようになったんだ。レクターって奴で魔物を人にけしかけてきたり、直接襲ってくることもあった。何度か戦ったけど強いしすぐ逃げるから倒せてないんだ」

「レクター……」

「知ってるの? お母さん」

「元彼……いや、わたしのストーカーだった奴よ」


 元彼か! 元彼が元彼女を人間に寝取られてその恨みで人間を襲ってるのか! つか元彼って部分は黙っててやれよ、息子がどうしていいか分からない顔になってるだろ。

 どうすんのよ。その元彼、人間に害をなす魔族は倒すってのがロナも納得の方針だけど、デリーヌさん的にはどうなの? 倒すどころか殺すことになるかもしれないんだけど。



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