060 棺は木っ端微塵
ロナにデリーヌさんが生きていることを指摘され狼狽するベイガード。落ち着き納得するまでにしばらく時間がかかった。それでも疑心暗鬼な様子だが、ロナが自信をもって生きてるって宣言するのでついには折れ、一緒に棺を掘り起こした。
「立派な棺ね」
見るからにドラキュラが入ってそうな、あの独特の形の棺だ。
「母は父と一緒に住むようになってすぐこの棺を家に運び込んだらしい。ずっと収納として使っていた」
「まんま吸血鬼だよね、この棺って」
「だね」
アーニャも同じ感想だ。
「吸血キって? 吸血能力ならヴァンパア系にはあるけど、キってなに?」
ロナが不思議そうに聞いてくる。「鬼」って表現はこっちにはないのかも。魔物って置き換えたらいいのかな。
「俺とアーニャの居た世界にもロナが言うヴァンパイアって存在が物語とかに出てきてね、吸血する魔物なんだけど、鬼ってのは、魔物のことを指してるんだよ」
「そうなんだ」
「母は血を吸ったりはしなかった」
「吸わなくても生きていくには問題ないしね」
あとは棺の蓋を開くだけの状態となり、それはベイガードがするべきとその行動を待つ。
「もし、母の遺体を辱めるだけならば、お前たちを許さないからな」
そう言って棺へ手をかけ、ゆっくりと開く。数年間閉ざされた棺の中へ光が差し込む。そしてその中から白髪の女性の姿が現れる。
横寝になって両膝に片手を挟み込み、片手は顔の横に添えられている。そしてその30代中盤から後半くらいに見える美しい女性だ。なんだろうすっごく魅力的で見てるだけでドキっとする色気がある。とても死んでるようには見えないし、数年間埋葬されていた色艶じゃない。
「ね、死んでたらこんな姿を保てない」
「なんか変わったポーズで埋葬されてるね」
アーニャもこの姿勢が気になった様子。普通真上向いて姿勢正して埋葬するよね。こっちの世界がどうなのかとか知らないけど。
「違う、埋葬したときは真っすぐだった」
「ほら、生きてるからこそ途中で目覚めて姿勢変えてまた寝ちゃったんだよ、きっと」
ベイガードは母のぬくもりを確かめるように手を取る。そして息を確かめるように顔に近づく。
「息をしていないし、脈もない」
騎士学校へ行ってたからか、脈と呼吸の確認が的確だ。そして体を揺さぶってみたり声をかけてみた入りするが全く起きる気配がない。だがその表情は母の生存に期待する顔だ。どうするんだ? と言いたげにロナの顔を見る。
「生命活動を止めて寝続けるのがヴァンパイアの睡眠ですからね。あと普通に起こしても本人が起きようとしない限り起きませんよ、剣で刺したって無効ですから魔法で起こすしかありません」
寝てても物理攻撃無効なんだ。しっかし魅力的な人だなこのデリーヌさん、フワッとした紺の服にレースのエプロンを付けた普通の主婦みたいな姿なんだけど華奢なのに出るとこはアーニャと同じくらい出てる。
「ちょっと、ケンジ近づきすぎ」
あ、俺、いつの間にか棺桶に手をかけてすっごい近くからガン見してた。それどころか今にも触れようとするように手を伸ばしていた。
「これは……ヴァンパイア系には間違いないけど、サキュバスですね」
「え?」
「ケンジが無意識に引き寄せられたのがその証拠です。私やアーニャには効果ありませんが、男性を引き付けるフェロモンが出てるんです。本人がコントロールできる能力ですが、きっと少しずつにじみ出るフェロモンが長期間棺桶の中に居たことで充満してたんじゃないかしら」
「フェロモンって?」
「男を夢中にさせる匂いみたいなやつ」
「はなれて! ケンジ」
「別に害はないですよ」
ロナが無害だと言うが、俺はアーニャに手を引かれデリーヌさんから引き離される。なんだろうすっごく離れたくない気分になる。これがフェロモンの効果なのか。
「今から起こしますから、ベイガード君も離れてください」
俺たちはかなり遠めに離れさせられる。ベイガードも素直に応じる。自分が埋めなおした時と母親の姿勢が変わっていたことで、やっと母親は生きているってことに納得したみたいだ。そこそこ深く埋められていたから、これだけ離れるともう棺桶は全く見えない。
「じゃぁ起こします。大きな音と強い光に気を付けてください」
ロナは俺たちより数歩前に出た位置で棺桶の方向へ手をかざす。そして棺桶がある穴を中心に魔方陣が現れる。直径4mはありそうな魔法陣だ。特殊能力で眠る者を起こす魔法ってどんなのなんだろう。ロナって魔力特化だから色んな魔法が使えるんだろうな。
「じゃあ大きいの落としますよ」
え? 大きいの? 落とす?
バチ……バチバチ……バチ
あれ、これってロナの得意なあれですよね、電撃ビリビリな奴ですよね?
ズドーーーーーン
俺の視界に2mはありそうな光の柱が見え、すぐに何も見えなくなり目の奥に激痛が走る!
「「「目がーーーー」」」
俺とアーニャとベイガードとさらに離れたところに居た騎士が目を押さえて苦しむ。なんかこんなこと前にもあった気がする! 雷撃系の魔法の光、ヤバイ! つかこれ大丈夫なの?
痛い目をなんとか開いて周囲を見る。
デリーヌさん狙って落としたんだよね? 棺を中心にクレーターみたいになってるし、当然棺は粉々だし、なんか破片がバラバラ落ちてきてるし、人間だったら確実にバラバラに吹っ飛んでるぞ? これでデリーヌさん死んだら洒落にならんぞ。
ドシーン!
白髪美女が落ちてきた。しかもボロギレ纏っただけのほとんど全裸な格好で。
「いった~い! 何すんのよ~、人が寝てんのに酷いじゃない!」
しこたまお尻を打ったのか、その綺麗なお尻を撫でながら俺たちを睨んで怒っている。
そりゃ怒るよね。寝てるところに雷落とされたら誰だって怒る。生きてればだけど。そこはさすが魔族か。ベイガードはまだ目がやられてるようだが、その声に気付き必死にその方向を確認している。
良かったなベイガード。お前のお母さん生きてたぞ。ほとんど裸になっちゃったけど。




