059 死亡確認?
「俺たちは王の依頼で来たが、だからと言って討伐するって決めてるわけじゃない。人間と共存できてる魔族を討伐するつもりはないんだ。それに君は魔族と人間のハーフだよね。君の存在って人間と魔族が共存できるってことを証明してるような存在なんじゃないかな」
「この国はそうは見てない。何度も騎士団が来た、全て追い払ったがな」
「だけど君は騎士を倒しても一人も殺してないよね」
「……」
「それって、君が人間だからじゃないかな」
「……」
今にも飛び掛かってきそうな様子はなくなってきた。
「俺にどうしろって言うんだ」
よし、質問が来た。まともな会話の形になってきたぞ。
「俺は魔族側の使者としてアルドラ皇国のように王国にも交流を求めに来たんだ。魔族は今、色々事情があって人間社会の刺激が必要で、人間には魔族の力を得て魔物を効率よく討伐できるメリットがある」
「お前は人間だろ?」
「そうなんだけど、色々あって今は魔王なんだ」
「……は?」
そうなるよね、そういう反応だよね、俺が魔王だとか言えば。使者のままにしといた方がよかったかな。で、俺は一所懸命これまでのことを話す。召喚されてきた者でありベイガードに使った弱体化がスキルであることも伝える。これについては「召喚された者か、そうでも無けりゃ魔力を完全に封じるなんてできるわけないな」とすぐに納得してくれた。だが王国が魔族と和解・協力って部分は信じられない様子だ。
「この国の魔族嫌いはそんな簡単に変えられない。教育がそうなってるんだ。皆、魔族のことを知らずに魔族の脅威だけを教え込まれてる」
そうなんだけど、その脅威の部分で少々王を脅して無理やり気味に魔族との和睦を迫ってるってことも伝えた。一通り説明し終えベイガードの言葉を待つ。
「……俺は人として生きていきたい、母は魔族だったが人として父を愛し人として死んだ。俺は魔族の血も引いてるが、人として生きてきた、でも……」
それがベイガードの本音のようだ。そして討伐の必要が無いってことがハッキリした。人として育ち生きてきた者を魔族の血を引いてるという理由だけで討伐するつもりはない。だから提案した。王宮まで一緒に来て王に直接会ってベイガードのような存在が居ることを理解してもらおうと。
「それはできない。俺は父と母の遺志を継いでこの町を守っている。今この町に近い森には魔族が居る。あいつは面白がって魔物を仕向けてくる。それに母の墓を離れたくない。前に騎士団が魔石目当てに母の墓を荒そうとした。そんなのは許せない」
そんなことがあったのか。親の墓を荒されるなんてたまらないな。それにこの町に近い森に居る魔族ってのには心当たりがある。ヴァンが「魔族のくせに熱い奴、人間を憎んでる」って言ってた魔族だ。その魔族がベイガードかと最初は思ったけど違うみたいだ。
そうなるとその危険な魔族をどうにかして、デリーヌの墓を荒される心配がないようにすればベイガードを王宮へ連れていけるってことかな。よし、やるしかない。
俺が危険な魔族をなんとかする、と言おうとした時、ロナが近づいてきて意外なことを口にした。
「あのー、デリーヌさんの墓ってここだけど、デリーヌさんが眠ってるのってあっちですよね」
ん? どういうこと?
ロナは墓石も何もない墓地の隅っこにある木を指さして言った。明らかに狼狽えるベイガード。ロナの言ってることが当たりみたいだ。そうか、5日に一度墓参りする程度じゃ墓荒しを防ぎきることなんてできない。墓石はそのままで棺は移動したってことか?
「おまえ! なぜそれが分かる!」
「そりゃわかるわよ」
ロナが不思議そうにベイガードを見る。狼狽えながらも俺たちとロナが指さした方向との間に道を塞ぐように立つ。消えかけてた警戒心がまたむきだしだ。墓を荒す趣味なんて絶対ないんだけどな。
「あなた感知能力はどのくらいあるの? ヴァンパイア系だから鋭くはないでしょうけど」
「なんでそんなことを聞く」
「いえ、本当に気付いてないのか気になって」
ロナは何が気になってるんだろう。俺に任せるって言ってたけどそれを押して出てくるってことは何か重要なことなんだろうけど。
かなり下がって様子を見ていたロナが、俺の横まで来る。
「あなたのお母さん、生きてますよ。そこで」
「「……は?」」
俺とベイガードが同時に間抜けな声を出す。生きてる? ベイガードの母親のデリーヌさんが? 埋葬されてかなりの時間がたつのに?
「本当に気付いてなかったみたいですね」
「え、ロナ、本当に?」
「ええ、私の感知能力はかなり高いですから間違いないです。昨日来た時に変だなって思ったんですよね。デリーヌさんの墓の前まで来た時、あっちの気の方から魔族の気配がしたんですよ。ちょっとだけ」
「それって、魔族が死んでも魔力がそこに残ってる……とかじゃないの?」
「そんなの残りませんよ。人間だと死ねば腐って消えていくのと同じで、魔力の塊のような純魔族は死ねば人間が腐るより早く魔力が霧散して消えていきます。だからもう何年も前に埋葬されて今も感知できるなんてことはありえません。デリーヌさんってヴァンパイア系でしょうから本当に死んでたら骨すら残らないはずです」
ロナの説明を聞きつつさらに狼狽え俺たちへの警戒も他所にデリーヌさんが埋められているであろう場所を見るベイガード。
俺も予想外過ぎて頭が追い付かない。もしデリーヌさんが生きてたとして、なんでずっと埋まってるの? 封印されてるって感じでもないし、魔力型物理特化のヴァンパイアでも出られないってほど深く埋められてたりしてる?
「えっと、ベイガード君?」
君付けか、98歳のロナから見ればすっごく幼い半人前魔族だもんな。
「私はロナって言います。魔族で魔王のお嫁さん候補なんですけど、ちょっと確認させてくれない?」
その自己紹介には問題があるが、何を確認したいのかは気になる。
「デリーヌさんをあっちに埋めなおした時のデリーヌさんって死んだ時とほとんど同じ姿だったんじゃない? 黒い煙とか出てなかったんじゃない? 魔物を倒してるって聞いたけど、倒した魔物が時間が経って黒い煙を出しながら徐々に消える様子は見たことあるよね? そんな感じではなかったんじゃない?」
なるほど、それで本当に死んでたか見分けられるんだ。じゃぁ魔族は死んだふりしにくいな。倒した後しばらく観察して黒い煙が出てきたら本当に死んだ。でなければ生きてて反撃の恐れありって感じか。
俺がそんな納得をしてると、少し考えたベイガードがロナに言う。
「俺がこの町に戻って数日後、騎士団がきた。それを追い払った後に埋めなおした。お前が言うようにその時黒い煙はでてなかった」
ということは?
「だが、心臓は止まってたし埋めなおすときも目を覚ますことは無かった」
「うん、じゃぁそれ寝てたんだと思います」
「だから、心臓は止まってたと」
「ベイガード君、半分魔族なのに母親の特性を知らないんですね。ヴァンパイアって寝るの大好きですよね。というか魔法が使えないけど睡眠に関してだけは、すべての生命機能を止めるけどその時の状態を維持するって特殊能力があるんですが知ってます?」
あれか! よくドラキュラとかが棺桶で眠ってるような感じのやつ。迂闊に棺桶を開けると太古の昔に眠りについたドラキュラが目を覚ます的なやつ。
「でも俺が声をかけても起きなかったぞ」
「んー、それは悲しみが深くて起きたくなかった……とかかも」
「本当に生きてるのか?」
「少なくとも絶対に死んでません。それだけは同じ魔族なので分かります。あの……一緒に掘り起こしてみませんか? 特殊能力で寝てても私なら起こせますよ」
結局墓荒らしするのか! いや死んでないなら救出か。でもちょっと怖いな。開けてみたら普通に死んでてミイラみたいなのが出てきたりしたら後味悪いぞ。ロナが生きてるって言ってるんだから生きてるんだろうけどつい想像しちゃう。元の世界ではゾンビ映画とかも結構すきだったしな。




