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058 ベイガードと遭遇


 次の日、宿の窓から墓地を眺め太陽が一番高い位置を過ぎた。俺たちは今日明日の日中はベイガードが現れるのを待つつもりだ。とはいえ墓地を眺め続けるのって退屈だしあまり気分のいいもんでもないな。

 交代しつつ生活魔法の練習をしたり紅茶を飲んだりする。


「結構できるようになったね」

「二人のお陰だよ」


 とりあえずトイレに行ってバケツに水を貰わなくてよくなったのが凄く嬉しい。俺が出せる魔法陣は小さくて水の量も少ないが、時間をかければ大きい方もなんとかなるし、水の出し方を工夫して量は少ないが細く勢いよく出すなんてこともできるようになってきた。凄いぞ俺の魔法! トイレ事情が再優先だったから水を出すことばかり練習してたけど、今ではマッチみたいな火を安定して出すこともできる。


「私をお嫁さんにすれば、生活魔法なんて覚える必要もないのにね」


 なんてことを言われても、トイレの度に流してくださいって頼むなんて無理。恥ずかしすぎる。でも火に関してはロナは大活躍だ。尽きることのない大魔力があるから、野営で料理する時のロナは「どこでもコンロ」として大活躍してくれている。薪を集める必要がなくて凄く助かる。調理道具や調味料やテーブルまでロナの異空間収納で運んでるから、ハッキリ言ってロナと離れると色々心配になるくらい頼ってると言っていい。その点はアーニャも同じみたいで、二人の時によくそういう話になる。


「いろいろ落ち着いて好きに行動できるようになったら、ロナも一緒に冒険者してくれないかな」


 なんてことをアーニャが言うようになった。

 だが残念なこともある。ロナは魔族の特性なのか睡眠が浅い。というか寝てるのかも怪しい。魔界と違って食事や睡眠で回復する必要があるが、どうも睡眠しているって感じより、魔力を回復するために瞑想してるって風に見える。そして朝が早い。俺が目が覚めた時にはおきてるか、同時におきる。だからだ。俺のお楽しみであった寝坊助アーニャの寝相を堪能することができなくなった。いや正確には今もロナと二人でアーニャの寝相には笑わせてもらってるんだけど、その……なんというか。男として楽しんで眺める感じではなくなってしまった。うん、凄くくだらないことなんだけど凄く残念だ。

 それに色々展開が早くて、アーニャとの関係も付かず離れずだ。好意を伝えてから随分と時間が経った気がするけど、なーんも変化がないのはちょっと寂しい。


 と、そんなことを考えながら墓地を見ていたら、長身長髪の男が現れた。髪の色は真っ白だ。そういえば色は聞いてなかったな。


「きた」


 俺は短く二人へ伝える。男はデリーヌの墓碑の前に真っすぐ向かう。間違いないベイガードだ。俺は別部屋に待機していた騎士に声をかけ宿を出る。建物の角にアーニャとロナがいてこっそり様子を見ている。ベイガードは変わらず墓碑の前に立っている。


 < 魔力 66 筋力 2.1 >


 おお、魔力特化(物理)ってだけに筋力高いな。リゲルほどじゃないけど。この数値って俺比較の数値だから、この世界に来てからそれなりに鍛えてきた俺の筋力と比べて2倍ちょっとってことだよな。こっちの攻撃は透きとおり、あっちは倍の力で攻撃してくる。うーん、普通に戦ったらまず勝てなそう。


「ヴァンパイア系の魔族は感知能力は低いので遠距離では気付かれません」


 ロナ、本当に助かる。とは言えずっと様子を見ていてもしかたない。


「じゃぁ話しかけに行こうか」

「ケンジ、頑張ってね」

「ケンジ、おまかせします」

「……」


 アーニャもロナも俺に丸投げで、騎士も同じく見守りの姿勢だ。

 もう討伐は無さそうだし、穏便に話すだけならそう構える必要もないかな。とりあえずスキルが使える範囲に入ったら逃亡防止のために魔力だけは封じ込めよう。

 建物の陰から出るとベイガードに向かって真っすぐ歩いていく。後ろから3人が追従してくる。

 よかった丸投げして一緒にも来てくれなかったらさすがに不安になる。

 気配に気づいたのかベイガードがこちらを一瞥するがすぐに墓に視線を戻す。


 ( 魔力 1 )


 魔力0にはしない。というのもゴースト系の魔物は魔力0にしたら消滅するんだよね。ヴァンパイア系も魔力の塊みたいな存在って話だから、もし魔力0でいきなり消滅したら話しに来た俺としては後味が悪すぎる。もちろん人間とのハーフなんだから、そんなことにはならないだろうけど一応だ。


「な、これは……何をした!」


 思いっきり警戒してこちらを振り向き、ファイティングポーズをとるベイガード。魔力を無力化すると魔族には影響が多いんだろう。試しに自分の魔力を0にしたことがあるけど俺は魔力が0になってもなんの違和感も感じなかった。そもそも魔力なんてない世界から召喚されたし、俺の魔力がしょぼいからってのもあるかもしれない。


「俺たちは貴方と話に来ました。討伐するつもりはないです」

「じゃぁ俺に何をしたんだ」

「魔力を封じさせてもらいました。煙のように消えるって聞いてたのでそれができないように」

「そんな魔法があるのか!」


 魔法じゃないけどあるんです。


「クソ、捕らえられるつもりはない。仲間は騎士二人と魔法使いか、悪いが捕まえようとするなら痛い思いをすることになるぞ」

「いやいや、話をしに来ただけだって」

「信じられるか。これまで騎士団が何度きたことか。お前みたいなヒョロイのが来たのも何かの罠だろ!」


 

 そう言って周囲に目を走らせる。俺よりそっちの方が細いじゃん! って突っ込みたくなったけど体の作りが基本的に違うんだろう。しかし今にも殴りかかってきそうだ。救いは武器を持ってないことか。


 ( 反応速度 8 )


 突然向かってこられても対処できるようにしとこう。


「私たちは話の邪魔しませんよ。それに私は騎士じゃない。騎士はこの人だけ」

「いえ、私も案内と監視の役目ですから何もするつもりはありません」

「私は全てケンジに任せてるから離れとくね」


 気を使ってくれたのか、俺に放り投げたのか3人が距離を取る。


「えっとですね。俺たちは貴方と話をするために来ました」

「なんのためにだ」

「目的は人間と魔族の共存のためって感じで、王都で交渉した王に依頼されてここに来た」

「やっぱり討伐する気じゃないか!」


 ベイガードが5mほどの距離を一気に詰め殴りかかってきた。速い! だけどアーニャの剣ほどじゃない。俺はその突進の勢いを受け流し体を入れ替えるようにして距離を取る。

 重っも! 上手くいったけど予想より拳が重い。筋力も弱体化するか? でも完全に動けなくして説得ってなんか無理やりな感じで良くない。


「本当に話がしたいんだ。とりあえず落ち着いてくれるかな。ほら、俺の仲間だって距離を取ってるし本当に捕らえるつもりだったら、魔力を弱体化したみたいに筋力も弱体化できるんだ」


 俺は開いた両手をベイガードへ向けて戦う意思がないことを全身で示す。狙ったわけじゃないが俺とアーニャたちとで挟み込むかたちになった。


「く!……なんの用なんだ!」


 ファイティングポーズを保ちつつ聞いてくる。

 よし、なんとか穏やかに話せるようにもっていくぞ。



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