057 討伐の必要ないじゃん
ベイガードについて得た情報はこんな感じだ。
5日に一度ほどなじみの店に買い出しにくる。その帰りに墓参りをしている。墓参りを終えた後は真っすぐ森へ向かっているのを見かけられている。後は町長に聞いたこととほとんど同じだ。両親が死んで暴れた一件以来、町の人間には危害を加えたことがない。騎士団が母親の墓で待ち伏せしていると、追い払うように戦うが殺したことはないらしい。
人と魔族のハーフか……どういう気持ちなんだろう。魔物を討伐してるって話だし、魔族として生きているって感じじゃないけど、必要最低限しか人間とも関わっていない。母親の墓をただ見守るように生きてるって感じだな。
前回現れた時からすでに4日経過してるって情報から明日明後日には現れるだろうと予想し俺たちは墓が見える位置にある宿を見つけ見張るのに都合のいい部屋をとる。現れるのは商店の開いてる時間だから日中と決まってるし、墓の前でけっこう長く留まるらしいから適当に見張ってても気付くだろう。見た目は長身長髪。服装はシャツとズボンの普段着だそうだ。とりあえず長身長髪でデリーヌさんの墓の前に立ってればベイガードで間違いなしだろう。
「聞けば聞くほど討伐する必要がなさそうだよね」
酒場で夕食を取る。
「むしろ討伐したらこの町の人に恨まれそう」
「私としては、人間と交流できる魔族は貴重ですから、討伐したくないです」
皆、討伐する意欲0って感じだ。
「まぁそれでも王の依頼っていうか、王に俺たちというか魔族を信用してもらうために来たから何もせずに帰るわけにもいかない、まずは会って話してみてどうするか考えようか」
「そだね」
「多分ベイガードはヴァンパイアの系統です。ヴァンパイアは捕らえるのが難しい魔族ですから話をするなら逃げられないようにする必要があります」
ロナがヴァンパイア系の特徴を教えてくれる。
「王都へ向かう森の中でイビルアイを使って話しかけてきたヴァンは覚えてます?」
「覚えてる。目に羽が生えてた変なのね」
「ヴァンは、ヴァンパイアの長老のような方です」
「名前、そのまんま頭をとってるのね」
「です。そしてヴァンは人間と見た目で判別できません。私みたいに魔力が羽になったりもしてません。系統としてはメイガスに近い存在で、メイガスが魔力の塊で実体を持たない存在なら、ならヴァンは魔力の塊で実体を持つ物理特化といった感じです」
「魔力の塊なのに物理特化ってのが分かりにくいな」
「魔力を放出する能力を持たない代わりに魔力で体を構成することに特化してるんです。メイガスは魔力を物質化して鎌を作ってますが、それの肉体化専門って感じです」
「へー、でも物理攻撃が透きとおるんでしょ?」
「はい、魔力の塊ですから、切られても潰されても魔力に戻るだけでダメージがありません。そして瞬時に本能のように肉体に戻りますので、物理攻撃は無効です。そして自らを煙のように変化させ消えてしまうこともできます。魔法は普通に効きますが、逃がさないようにするならケンジの弱体化が手っ取り早いです」
ヴァンパイアの系統だとしても人間とのハーフであるベイガードは、魔力を0にすればただの人間になるだろうとのことだ。それなら逃げる人間を捕えるのと同じだ。こっちには人間だけど人間の枠をこえちゃってるアーニャが居るし簡単に捕まえられるだろう。
「墓参りしてる時に行けば、騎士も居るしアーニャもあの鎧着てれば騎士に見えるから、警戒してすぐに消えるってことは無いだろうし、話はできるかな」
「そうだね。で、好戦的だったら魔力封じてくれれば、あとは私が……って、いけない。今回はケンジがしっかり対応してね」
「はい。なんとかしてみます」
ということで、とにかく会って話す。それだけ決めて食事を楽しむことになった。周囲を見ると町の規模の割に冒険者が少ない。このイザールの町はそこそこの規模があってギルドもある。酒場はその近くだから冒険者や傭兵がもっといても不思議じゃないんだけどな。ベイガードが魔物を討伐してるって話も聞いたし、その手の依頼が少なかったりするのかな。そんなことを思ってたら、冒険者の一人が話しかけてきた。
「あんたらベイガードの討伐に来たのか?」
人のよさそうな男が話しかけてきた。雰囲気からして傭兵ではなく冒険者って感じだ。俺にもそのあたりが見分けがつくようになってきた。なんか傭兵ってピリピリするんだよな。仕事が冒険者より戦闘に傾いてるからかも。
「いえ、この町でいろいろ聞いたら討伐の必要は無いかなって思ってます。でも話す必要はあるので捕らえるくらいはするかもしれません」
俺は素直に答える。
「そうか、まぁお前らみたいな若いのが騎士団がどうにもできない相手を討伐するなんて無理だと思うがな。できれば無駄にあいつを追い詰めないでくれや」
この人、ベイガードの討伐に反対みたいだな。
「ベイガードを知ってるんですか?」
「ああ、この町で冒険者やってる奴は、それなりに知ってるし間接的に世話になってるぞ」
「どういうこと?」
「あいつが適度に魔物を間引いてくれてるんだ。俺たちみたいな魔石目当てで魔物を討伐してるもんが多数の魔物に囲まれるなんてことが、この町近くの森じゃない。そのせいで稼ぎも少なくなるが、安全な狩りがしたいって者には本当に助かってんだよ」
そうか、稼ぎは減るが安全な狩りができる。そういう場所なんだな。魔物倒して儲けてやろうって人には人気がない場所だろうけど、適度にやりたいって人には居心地がいい場所なんだろう。
「あいつじゃない魔族に遭遇した時に、助けてもらったって奴もいるんだ。あいつはこの町の守護神みたいな奴だ」
めっちゃ好意的な評価だな、ベイガード。
「ま、あいつよりお前らが心配だがな。騎士団の討伐隊には見えねーが、騎士が近づけばあいつは追い返そうとするかもしれないから、変に近づかないほうがいいぞ。攻撃は当たんねーし、魔法使いを連れてきたところで、生半可な魔法じゃ直撃したって効き目がねーからな」
そういうと男は席に戻っていった。
ますます討伐の必要なんてなくなってきたな。でも騎士団には被害が出てるし、危険じゃない魔族だって王や聖女に納得させるにはどうしたらいいんだろう。




