表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/92

054 勇者ハヤト


 被害が出ているという街へは俺とアーニャとロナで行くことになった。城に残る戦力に不安はないのか、戦力が分散したところで捕らえられたりしないか心配になったが、そんな心配は必要なかった。

 まずマクシムさんとサユリさんが出鱈目に強い。それは見てきたから分かる。だけど二人でも限界があるのではと思ったら、メイガスの能力がとんでもなかった。見た目が死神なだけに死者を操る能力があるらしく、簡単に言ってしまえば新鮮な死体をメイガスの手足として動くゾンビにできるらしい。なので倒すたびに戦力が増強されることになる。うん、自分が王国側として想像すると嫌すぎるな。殺された仲間が次々と起き上がり向かってくるとか。

 そんでもってイザールに出没する魔族の対応だが、それはロナがいるからなんとでもなるんじゃないかと思う。ロナって魔力だけならリゲルより多いからね。物理はからっきしだけど、そもそも物理特化の魔族ってほとんどいないらしい。アーニャを物理攻撃で倒せるってレベルになるとリゲルを含めロナが知ってる範囲では数えるほどだそうだ。なのでイザールに居る魔族の対応は俺たちで十分だろうとのことだ。

 この役割分担にはそれ以外にも理由がある。俺たちが残っても政治的に意味がないからだ。俺は魔王と言っても正直自覚が足りないし魔王を続けるつもりもない。本当に成り行きでなっただけのお飾りだ。そしてロナは元魔王の妹だが、政治的なことはさっぱり分からない。100年ほど前から徐々にアルドラ皇国と魔族が交流を持つようになり、自然発生的に魔族の町ができたが、そもそも魔族側が国としての形を持っておらず法律も無けりゃルールもない。魔族の町では暗黙の了解で互いに危害を加えないという相互理解があるだけで、どっちかと言うと商人が積極的にルール作りをしているって感じか。貴重な素材を危険な魔物やさらに魔界の奥地から獲ってきてくれたら、それをお金がわりに人間界の料理や文化を提供するって感じに上手くやってるらしい。なので魔族と人間との共存を考えるのに最も適した者は、魔族に顔が利き両方の文化を理解したマクシムさんとサユリさんということになる。

 まぁ難しいことはいいや。とりあえず俺とアーニャは王国で魔族と人間の共存が実現すれば後は自由だ。それを楽しみにイザールへ行こう。

 ロナの異空間収納に王国から提供される食料や装備を詰め込んでると声がかけられた。


「松本さん、おひさしぶりです」

「あ、岡田さん、どうも」


 交渉の時、目は合わせてたけど表に立つことのなかった岡田さんがやってきた。


「驚きました。魔族の状況というか王国の状況というか……俺が知ってた情報って凄く偏ってたんだなって思いました。それより一番驚いたのは松本さんが魔王って点ですけどね」


 相変わらずなイケメンスポーツマン風だ。そして交渉の中で状況もしっかり理解してくれてるみたいで知的な印象も追加されるな。俺が知ってる岡田さんって十字靭帯断裂後の剣道の選手生命が立たれ落ち込んでる姿だもんな。この世界に来てそれは聖女が治療したけど、その後は俺は牢送りで遠征の見送りの時しか接点がなかったし。元気になってからの岡田さんのことはほとんど知らないと言っていい。


「あと、召喚された直後に牢に入れられていたなんて知りませんでした。姿を消したのも行方不明ってことでしたし、苦労されたんですね」

「そうですね、結構……いやかなり苦労しました。でもアーニャに出会えたおかげで脱獄できたしその後も二人でなんとかやれました」

「それは本当にご苦労様でした。でも、どうやって魔王を倒すような力を手に入れたんですか?」


 それ気になるよね。本来魔王を倒す役目は岡田さんだったんだから。基本スキルは弱点以外は秘密にするつもりはない。


「岡田さんと一緒ですよ。この世界に来た時にすでにあったスキルです」

「え? 確か松本さんは<体調管理>だったかな、回復系スキルじゃありませんでしたっけ? 俺が<剣鬼>を使い続けて<剣聖>のスキルが発生したみたいに何か凄いスキルが手に入ったのだろうって思ってましたけど、あの傭兵たちを倒したスキルって<体調管理>なんですか?」


 <剣聖>か、カッコいいな! マクシムさんは<武具王>、サユリさんは<お祓い>だったな。俺とアーニャもそのうち追加スキルが発生するのかな。しかし、一緒にこの世界に来て岡田さんだけ追加スキルが発生したってのはどういう事だろう。スキルの使用回数とかに差があるのかな。旅の中で色々ギルドの資料を見てきたけど、召喚された者のスキルについてってほとんど情報がなかったんだよな。アーニャも追加スキルは無いし、他に条件があったるするのかも。


「その体調管理の性能がちょっと予想の斜め上だったんです」

「どんな感じに?」

「俺、看護師だったでしょ?」

「でしたね」

「で、仕事が患者さんの観察や、体調が良くなるように管理するのが仕事だった」

「はい」

「それがスキルになったみたいで、観察する相手の状況がなんでも数値で見えるんです」

「それは便利ですね、敵の戦力が分かるってのは助かる」

「そしてその数値を好きに変えられるんです」

「変えられる? どう?」

「念じるだけです。観察も観察しようとするだけ、体調の操作もそうなるように念じるだけです。それで交渉の時、傭兵の筋力を1にして魔法使いの魔力を0にして無力化しました」

「念じるだけ?」

「はい」


 岡田さんが難しい顔してる。あの時のことを思い出して俺の説明を理解しようとしてる? 数秒思案した後にふぅっとため息をついて俺を見る。


「あの時マクシムさんが、念じると倒せるって言ってましたね。本当だったんだ。そのスキル滅茶苦茶ですね。言ってた通り強さの概念とか努力とか無意味になる……」

「なんか申し訳ない」

「いや、責めるつもりはないんですが、俺もそれなりに頑張って戦ってたからなんかね」


 うーん、なんなんだろうね。俺のスキル。性能がユニークすぎるというか、これがチートってやつ? でも岡田さんのスキルだって気になる。<剣聖>とかカッコよすぎるネーミングだよな。


「岡田さんの<剣聖>ってのも気になるんだけど。どんなスキルなの?」

「俺のスキルは俺の攻撃が全て魔への特効になるってスキルなんだ。魔物を攻撃すれば当たった場所から消滅するように消えるし、魔法攻撃も斬るか受ければ消える」

「それも滅茶苦茶だね。最初からあった剣鬼ってのは?」

「それは純粋に剣術が上達するスキルでした。剣術と言える技なら居合だろうと二刀流だろうとイメージ通りに身体が動かせるし、元の世界に居た時と段違いの速さと精度でやれるんです」


 居合か……俺の天敵ってそういう問答無用の速攻だよな。ちょっと警戒してしまう。


 ( 反応速度 8 )


 岡田さんを信用しないわけじゃないけど信用するほど付き合いもないし、そもそもこの世界に来てから過ごした環境が違いすぎる。実は王や聖女が洗脳してたりしたら……怖い。

 俺の警戒心と同調したのか、アーニャやロナもわずかに身構える。でもロナ、君は俺より危ないかも。魔に特効ってことはロナにも特効ってことだろうし。


「あ、警戒されてしまったね」


 それを見抜く岡田さん。勘もいいみたいだ。


「そんな心配はないよ。俺だって馬鹿じゃない。この王国のためというか、魔物から人への被害を減らそうと頑張ってきたけど、王や聖女のやり方を何度も疑ったんだ。魔族や魔物への憎しみが深すぎて、被害を減らすことじゃなく、一匹でも多く倒すことに拘り過ぎてるってね」


 おお、さすがは市民の味方、元警官! そういう視点で見てたんだ。

 でも俺に政治的なことに口出しする権利はなかったし……と少し悲しそうだ。岡田さんも色々あったんだろうな。

 そして岡田さんと俺はこれまでのことをお互いに話した。この1カ月ちょっと一緒に召喚されたが随分と違う時間を過ごしたみたいだ。だけどやっぱり同じ世界から来た者同士、すぐに理解し合えたと思う。そもそも岡田さんとは争ってないしね。そして今後はお互いに連絡を取り合おうってことになり、それとお互いにこの世界に合わせて名前で呼び合おうってことにもなった。

 あと思ったのは、勇者ハヤトは俺が知ってる病室で黄昏る悲し気な男ではなくなっていた。肉体も精神も充実した男って感じだった。こんどお互いに世界でどうするのかとかもゆっくり話してみたいな。


「じゃぁ……ハヤト。魔族の討伐から戻ったら王都の美味しいレストランでも教えてね」

「ああ、ケンジ。気を付けて」


 俺とアーニャとロナは、騎士団が準備してくれた御者付きの馬車でイザールへと向かった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ