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053 交渉、和睦への道


 メイガスのお茶目な出現で全てが台無しになりそうなところだったが、王の静まれ! の一声で場が落ち着く。魔族への敵意で現実見えてないタイプかと思ったけど意外と冷静。さすがは王者。顔はかなり引きつってる。


「話が中断したが、その魔道士クラスが大勢いたとしても、ロナとメイガスが防御と攻撃を分担するだけで対処できるんじゃないか? ロナ、さっきの電撃魔法は何発なら耐えられるんだ?」

「え? 電撃系なら吸収するから永遠かな。苦手な聖属性であのクラスなら100回くらいでキツイかも」


 魔道士たちがざわつく。激しく動揺しているのが分かる。


「苦手属性の聖属性、しかも師匠クラスの威力で100発だと!」

「そもそも聖属性の魔法が使いこなせる者が何人いるんだ?」

「実戦で使える威力で放てるものは国中から集めてもそういないぞ」


 なるほど、人間の魔道士では束になってもロナ一人倒せなそうね。しっかしこっちの戦力凄すぎるな。4人で城を制圧できるんじゃない?

 頭を抱える王、聖女メグミは青ざめた顔のままフリーズしている。


「さらに追い討ちをかけるようで申し訳ないが、現魔王は俺たちの誰も勝てない。まあ元魔王が手も足も出なかったんだ。勝負にならない」


 それって俺のことだよね。めっちゃ持ち上げられてるけど不安しかない。俺、本気で殺す気で来る人との手合わせとか嫌なんですけど。


「魔王はそれほどなのか」

「試してみるといい。今回は交渉に来たが、まずは滅ぼそうとするのが無駄だって知ってもらいたいからな。ケンジ頼む」

「ちょっと、マクシムさんどうしたらいいんですか!」


 慌てて小声で聞く。


「適当に強そうなのから無力化していけばいい。クールタイムがばれないように、適当に話しながらやれよ」


 まじか、この状況でトークしながらやれと。


「ちょっと待て。そのものは勇者ハヤトの召喚に巻き込まれてきたものであろう」

「だからその巻き込まれてきたケンジが、元魔王を倒して現魔王になったんだ」


 めっちゃ疑いの目で見られてる、いや信じてもらえなくても強いって思われなくてもいいんだけどね。でもこの流れは圧倒的な力を見せつけろってことだよな。


「えーっと、お久しぶりです。王様に聖女……」


 あ、聖女見てたらなんか腹立ってきた。あっちにはあっちの理由があったんだろうが、いきなり牢にぶち込まれた恨みは忘れちゃいない。


「ふぅ」


 成り行きで魔王になったけど、一応魔王だし、作戦のうちなんだからしっかり驚かせるようにやってみるか。


「この世界に召喚されて、いきなり牢に入れられたこと忘れてませんよ」


 聖女を見ながら言う。聖女の顔がひきつる。そして王と岡田さん、もうややこしいからハヤトでいいや。二人が聖女を見る。


「どういうことだ?」

「俺が勇者に悪い影響を与えるかもって考えたのか、召喚されて王の前から離れてすぐに牢に入れられたんです」


 再び驚く王とハヤト。こりゃ聖女の独断だったんだな。


「まあお陰でアーニャと会えて脱獄できて、流れで魔王になっちゃったんで、とりあえず実力を見せますね」


 適当な相手を探して周囲を見渡す。しかし俺が魔王なんてなかなか信じられないようで、は? みたいな顔やポカンの顔が多い。

 特にS級傭兵の人たちは、俺がどう見ても強そうに見えないからか、疑いの目で見てる。丁度いいな。


「じゃあそちらの傭兵さんたちに力を使いますね」


 ヤンキー傭兵みたいな速さで先制攻撃なんでされちゃ俺の実力や戦闘経験では対応できないから、問答無用で即無力化だ。とりあえず一番右の体格のいい盾と剣を持った人へ。


 ( 筋力 1 )


 筋力0で息苦しくなるのは避けるため1にしとく。もう見慣れた光景、突然糸が切れた操り人形のように倒れる。俺たち以外の全員が凍りつく。

 見ようによっては突然魂を抜かれたかのように見えるかも。


「わかりにくいと思いますが、念じると倒せます」


 次に一番右に立つ傭兵に視線を向けると思いっきり警戒の姿勢で槍をこっちに向けられる。怖いって。


 ( 筋力 1 )


 怖いので同じように倒れてもらう。そうすると他の傭兵も皆、全力で警戒体制となる。


「えっと、死んでないんで安心してください。それと魔法みたいに何かを放出してるわけじゃないので構えても無駄ですし、避けることもできません。魔力でも防げません、あと魔法使いの方には」


 適当に魔法使いを探す。王に一番近い人がいいか。

 視線が合うと仰け反る魔法使い。


 ( 魔力 0 )


「魔力を消しました、魔法を使ってみてください」


 魔法使いが自分の手の平を見つめて首をかしげる。0にしたからね。魔法陣も出せないはず。


「どうなのだ?」


 そんな様子に王が声をかける。


「魔力を感じません。魔法陣も出せません」

「そうしましたからね。やろうと思えば、呼吸を止めることや目を見えなくすること、眠らせることや、反射神経を悪くすることなどもできると思います。この力で元魔王を動けなくしたら、魔王が降参して俺が魔王になってしまいました」


 こんなもんでいいかな。マクシムさんの顔を見ると軽く頷いてくれる。よし、ならば下がる! 俺こんな矢面に立って立ち回るキャラじゃない。しんどい。

 俺が下がると前に出たマクシムさんが話を進め始める。


「おわかりいただけたかな」


 静かだな。俺の説明、わかってもらえたのかな。


「魔王ケンジの前だと強いとか弱いとかそういう概念が無意味になる。強くなる努力の全てが否定される。念じるだけで無力化しちまうんだからな。今、倒す方法を考えてる奴も居るだろうが、正直不可能だと思うぞ。念じるより先に攻撃すればいいとしても、ケンジを守る俺たちをかいくぐってそれをやれるか? ロナとメイガスの魔力を打ち破る魔法が放てるか? 無理だな。俺は魔王を目指してたからな。ケンジと対戦するにはどうすればいいか考えたが考えるだけ無駄だった。そして仲間として考えるとこの布陣は完璧だ。ケンジを中心としたこの布陣なら、5人で軍隊でも殲滅できるし国でもほろぼせる。どんな強敵が来ようと、無力化しちまうんだから意味がない。戦うだけ無駄だ」


 いやいや、滅ぼしませんから。戦力を知ってもらうにしても過激すぎますから!


「ということで、魔族と和睦しませんか?」


 サユリさんがマクシムさんの圧力を消し去るように穏やかな声で問いかける。


「魔族はごく一部が気まぐれに人に害をなしますが全体としては人間を敵視していません。むしろ今は人生に刺激をくれる存在として人間社会との交流を望んでいます。そもそも魔族が人間を滅ぼそうと思ってたらとっくに人間は滅びてます」

「それを信用しろと言うのか」

「信用せず無駄な戦いを続けますか?」

「これまで命を落としてきた者たちの思いはどうなる」

「さらに命が失われるより和睦を望むのでは」

「戦っても絶対に勝てないと」

「魔族にも色々いますからね、倒せる魔族もいるでしょうが。そんなことしててロナやメイガスクラスが人間を見限った時、本当に滅びるかそれに近いことになりますよ?」


 問答が繰り返される。はっきり言って答えは決まってる。和睦するしかないし、断れば力ずくで国の中枢を支配してマクシムさんが臨時の王となり和睦する予定だ。そっちの方が早そうだけどそれを望んではいない。なぜなら、マクシムさんとサユリさんは王国と魔族の友好関係が築けたらこの世界を楽しむため旅に出たいらしい。俺もアーニャと二人で気ままに旅するのもいいかなって思ってる。なのでできれば王が賢明な選択をしてくれるといいなって思う。


「魔族と和睦なんてできるのでしょうか」


 聖女がつぶやく。見せた戦力に呆然としてたけど復活したみたいだ。


「選択肢は無いようだがすぐに信用はできない」


 まあね、戦力は見せつけても信用に足るかを見せるのは簡単じゃない。


「武力で強行せずお願いしてるって点で信用してくれると助かるんですけど」

「そう簡単に判断はできない」


 思案する王。だがその表情から鋭さがきえ、必死に何かと葛藤しているような苦痛の様相だ。それに武力で強制はしていないが武力を見せつけてる時点で武力に訴えてるんじゃないの? そこは突っ込まないでおこう。

 王が顔を上げ覚悟を決めた顔を見せる。


「今、我が国の町、イザールに魔族が出没している。町の騎士団では太刀打ちできず、ハヤトに行ってもらっても姿を消してしまう。討伐に向かった者たちに被害も多く出ている」


 あ、それってイビルアイ、いやイビルアイを操ってたヴァンって魔族が言ってたやつかも。


「それに対処してくれぬか。それができるなら和睦も前向きに考えよう」


 王は苦痛の表情で条件付きではあるが和睦の道を選んだ。



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