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052 交渉、魔族側の戦力披露


 ロナは魔族の現状について説明した。要点を簡潔にまとめると、魔族は一つにまとまっておらず国としての方針などない。魔族で人間を害する者はそいつの趣味みたいなもので魔族全体で人間を憎み滅ぼそうなんて考えはない。そもそも魔族は長寿を持て余し無為な者が増え徐々に衰退の傾向にある。だからアルドラでのような平和的な人との交流で刺激をもらいたい。って感じだ。

 人との人生のスパンが違いすぎて価値観が違う。人間の想像するような悪の権化のような魔族はそうそういない。千年以上前には強さと覇権を求めて激しくやりあってた時代があったが、長い年月で興味を失い酷いものはただ時が経ち滅びを待つだけの状態になっている。決して能動的に人を害そうとする種族ではないことを伝えた。しかし。


「魔族や魔物による被害は過去より積み重ねられています。人が魔族と和睦などありえないのです」

「我に妻を殺し民に害をなす魔族と手をとりあえと言うのか」


 交渉は難航した。頑なに魔族を否定する二人に頭を抱えるサユリさん。


「はぁ、でも魔族には勝てませんよ。と言うか国としてまとまってない魔族を一人二人倒せたところで何になりますか?」

「だから滅ぼすのだ!」

「だから、そんな戦力がどこにあるのですか?」


 サユリさん怒ってる? そういえば魔族に最初に近づいたのはサユリさんだったな。


「一年前の王国軍と今は違う。騎士団と傭兵団の連合軍となり飛び抜けた個の力も多く取り入れた。強力な魔族や魔物への対応力は格段に向上している。そして個の力はお前たちに匹敵する者が10人はいるぞ」


 それがバルコニーの下にいる10人のS級傭兵ね。ヤンキー傭兵がにやけヅラをさらにニヤニヤさせている。マクシムさんが10人ってのが本当なら、確かに魔族でも個で対応できる戦力じゃないかも。


「はぁ」


 またサユリさんがため息をつく。


「王よ、あなたも戦さ場に出ていた猛者だったというのに、見る目はまるで無いのですね」


 怖! 思いっきり王をバカにしちゃったよ。空気変わったよ!  でもなんかサユリさんの方が怖いし。武道素人の俺でもなんかピリピリした感じする。


「その者たちなら、私一人でも相手にできそうですよ」

「ハッタリを申すな!」

「試しますか?」


 むしろさっさと仕掛けてこいと言わんばかりのサユリさんは一歩前に出ながら言う。


「あ〜、やるのは良いんだけど一応説明しとくが、俺とサユリは一番強い者が魔王って習慣に則って魔王を目指したんだ。それでも魔王にはあと一歩届かなかったし、このロナに多分勝てない。だからやるならその辺りを基準に魔族の力を知ってくれ」


 腕試しな感じで間接的に魔族の力を知ってもらおうってことね。問答無用の乱戦になるよりずっといい。


 少し考える王にヤンキー傭兵が進言する。


「王よ! 私にやらせてください。こんなババア相手にS級が総がかりなど恥ずかしくてできません」


 ババアの部分以外は意外と丁寧に話すヤンキー傭兵。その傭兵を見てまた考える王が許可を出す。


「やってみよ」


 俺たちを囲む騎士団が距離を取りヤンキー傭兵が前に出てくる。


「よっしゃ見せ場ができたぜ。王の前で実力見せる機会なんてなかなか無いからな」


 相当自信があるのだろう負けそうとかの不安が微塵もなさそうだ。それに対してサユリさんはピキピキしてる。


「アーニャ、あなたが相手しなさい。手加減を間違いそうです」

「え? 私?」


 サユリさんがマクシムさんの隣へ戻ってきて愚痴る。


「おばさんとかならともかくババア許せない。今やったら絶対やり過ぎますから」

「はは、いいんじゃねーか? メグミがいるんだし手足を切り落とすくらいはいいだろ。怒った顔も可愛いぞ」


 とんでもなく恐ろしいこと言いながらラブラブな感じ出してるよ。


 「あー、サユリが手加減できなそうだからってことで、アーニャが相手する。ちなみにアーニャは俺たちの中では最弱だからな」

「最弱! ひど!」


 アーニャが少しむくれるが、比較する相手が悪いよね。俺はアーニャに勝つ側にいれられたくないけど。


「お前たちの娘は戦力外だからと王宮で保護していたのだが戦えるのか?」


 王が予想外だと言わんばかりだ。アーニャは本当に戦力外って思われてたんだな。


「心配には及ばない。戦力外にしておいたのは親のエゴだ。元の世界に帰った時のことを考えて、血なまぐさい経験はさせたくなかったんだ。今となっては娘もこの世界に馴染んでるし、ちゃんと鍛えてるから問題ない」


 マクシムさんの返答に王は何も言わず視線をアーニャへ向ける。


「俺。なめられてる?」

「私もなめられてそう」


 奇遇にもヤンキー傭兵とアーニャは同じように相手を見ているようだ。そして相対するように立つ。


「やってみよ」


 すでに抜き身の曲刀を構えるヤンキー傭兵と腰の剣を抜くアーニャ。

 アーニャ、薙刀もどきじゃないんだ。


「遠慮なく行くぜ、お嬢さん」


 低い姿勢で鋭く踏み込むヤンキー。すくい上げるように曲刀を振る。身を引いてかわすアーニャ。全く遠慮のない殺す気の一撃に見えた。聖女がいるからなんとでもなるってつもりなのか殺す気なのか知らないけど、一応交渉相手なんだけどな。

 さらに連続で繰り出すヤンキーの手数がいつのまにか左手に持った小型の曲刀により増える。その全てを躱したり剣で受けたり弾いたり。

 アーニャにあまり余裕がなく見える。大丈夫? でもこの動き、スキル使ってないかも。

 なんとか乱撃をしのぐアーニャ。


「お母さん、剣じゃ少し辛いんだけど!」

「これ貸そうか?」

「んー、お母さんの重たいからなー」

「じゃあスキル使いなさい」

「そうする」


 一旦距離を取り両手で剣を握ると真っ直ぐヤンキー傭兵に剣先を向け剣道の中段の構えのような構えとなる。


「召喚された者がもつスキルってやつか。ハヤトは魔特効でお前の両親は身体能力の向上だったな」

「私も同じ身体強化よ」

「俺はスピード自慢なんだ。怪力はカモだぜ」


 そう言って先ほどより加速して激しい連続攻撃を仕掛けてきた。


 ギガガガガギガ


 うは、二刀流ってすごいな。絶え間なく剣がぶつかり合う音がする。それを躱すことなくアーニャが受け弾く。ってことはアーニャ二刀流の連続攻撃を全て一本の剣で対処してるのね。すげーな! 俺と木刀での打ち合いなんて本当に片手で済ませる片手間だな。

 

 ドグォ


 連続攻撃の間にアーニャの蹴りが放たれヤンキー傭兵が吹き飛ぶ。


「なんで身体能力強化が怪力なのよ。私は瞬発力タイプなの!」


 アーニャ、怪力って言われたのが嫌だった? 十分怪力な蹴りだったけど言わないでおこう。


「ま、こんな感じだ」


 王国の者たちが驚く。S級傭兵の実力にはかなりの信頼があったんだろうな。だが王は冷静だ。


「確かに強い。だが複数でかかればどうだ」


 そりゃ限界があるね。魔物に追われた時にそれは感じた。


「まあ限界はある。俺とサユリとアーニャだけなら今の奴が100人以上で襲ってきたらさすがにやばいかもしれんな」


 100人いけるんかい! 100人きても大丈夫ってどこかの物置みたいだな。


「だが俺たちは物理特化だ。そんな大勢相手なら、ロナが広範囲魔法で対処するだろう」

「こちらにも魔道士は多数いるぞ」

「人間の魔法使いと魔族の魔力特化とは比較にならんのですよ。試しに一発強いの撃ち込んでくれますかな」


 王の視線がひとりの魔道士に向くと騎士団の後ろかススッと静かに出てくる。


「ロナ、全力で受けるだけな」

「はい」


 目立つ見た目なのに意外と空気だったロナが前に出る。その赤い髪と羽に視線が集まる。可愛らしい容姿なのに今は恐怖と憎しみの視線が刺さってるな。可哀想。


「はは、やっぱりこの国には魔族嫌いが多そうですね」


 そんなロナに対して魔道士が手を差し出すと魔法陣を出現させる。直径3mはある。これまで見た人間が作り出す魔法陣の中では最大の大きさだ。


 < 魔力比較 33 >


 やっぱり。俺が見てきた人の中で最大値だ。すごいな王宮魔道士。でもロナの魔力の足元にも及ばない。


 バリバリバリバリバリ


 その大きな魔法陣が放電し始め大きな音をさせる。


「「おおおお!」」


 その凄まじさに王国の者たちがどよめき期待の目を向けている。

 あーあ、よりによってロナに電撃とか。まぁ何が来ても魔力差で話にならないだろうけど。

 そんな様子を見ているロナは手を向けることすらしない。


「放ってよろしいのですか」


 律儀な性格なのか魔道士が確認してくる。


「いつでもどうぞ」


 閃光がはしる。

 うおお!! 自分に向けられた強力な電撃魔法って目がやられるのね。どこかのムスカさんの心境だ。光が収まると王国の者たちの口のあいた顔が並んでいた。

 電撃魔法はロナが当然防ぐ。命中した炸裂音すらなく防ぐ。いや、吸収した? 驚かせたのはその防いだ魔法陣のサイズだ。おおよそ半径7mくらいか。もう半分近くが地中で全容が見えない。そりゃそうだよね。ロナの魔力って魔法を放った魔道士の4・5倍はあるんだから本気で魔法陣を出せばこういうことになる。


「なんだこのめちゃくちゃな魔法陣は!」


 魔道士が見上げるようにロナの魔法陣を見る。


「これが魔力特化の魔族だ」

「多数で対応したらどうだ」


 王が冷静だ。その横で聖女は青い顔してる。動揺を表に出さない王は、さすが若い頃に好んで戦場へ出ていた王ってところか。


「魔力は尽きるからな。数を揃えればロナひとりなら倒せるかもしれないな」

「だがワシも居るからのう。難しいと思うぞ」


 おっと存在を忘れてたメイガスがここで登場。


「「キィヤーーー」」


 遠巻きに見ていたメイドたちから悲鳴が上がる。騎士たちは思わず剣に手をかけ、隊列は崩れる。あ、すでに剣抜いている者までいる。すっげーな、俺はもう見慣れたけどやっぱりこの死神ルックスのインパクトはハンパないわ。


「メイガス。突然出てきちゃ驚かせるでしょ。説明してから呼び出そうと思ってたのに」

「すまん。ずっと蚊帳の外で退屈になっての、久しぶりに人間の驚いた顔でも見てみようか……とな」


 いやいやメイガスさん。あと少しで切りかかってきそうな者まで居ましたよ。強烈過ぎます。



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