051 王、聖女との対面
さて城門の前だ。城門は閉ざされており城門に取り付けられた通用口だけが開き、そこから王宮騎士が出入りするようになっている。ここは以前岡田さん(勇者ハヤト)の遠征を見送って聖女に小さな仕返しをした場所だ……あ、どうしよう。交渉の中俺の能力がバレたら……。あんなことしたのが俺ってバレたらまとまる交渉もまとまらなくなるかも!
城門の30mほど前でマクシムさんが皆に声をかける。
「じゃぁ皆、兜とフードをとれ、ここからは堂々と行くぞ」
堂々と行くのは分かるけどきっと争いになると覚悟してフードをとる。そんな俺たちに城門を守る騎士8名の目が俺たちに向き、そして目を丸くしている。そりゃ驚くよな。王城から姿を消した者たちが一斉に戻ってきたんだから。
「マクシム・イズモ、戻ったぞ!」
「サユリ・イズモ、戻りました」
「アーニャ・イズモ、脱獄したけど戻ってきました」
三人が元気に声をかける。反応に困ったような騎士たち。一人は通用口から城内へ駆け込み残りはこちらを警戒する。
「本当にマクシムさん?」
「いや間違いないだろう」
「どうして今頃?」
「魔王に寝返ったんじゃなかったのか?」
パニック状態の騎士たちにマクシムさんが言う。
「別に俺は裏切ってなんていねーぞ。魔物からの被害を減らすためには、魔族と協力するのが一番だと思ったから、そのために魔界に行ってたんだ、そもそも王に絶対の忠誠を誓ったこともねぇがな!」
そんな挑発ともとられかねないことを言うマクシムさん。
「ど、どうする?」
「どうするも、隊長の指示を待つしかねーだろ」
「いや裏切者だろ? 捕らえるんじゃないのか?」
「お前は馬鹿か、元勇者をどうやって俺たちで捕らえるんだよ」
混乱する騎士たちの様子を見つつ俺たちはどうなるのかを見守る。というか話せるレベルの者が出てこなけりゃ進まない。いきなり門を無理やり抜けるなんてことはしない。そしてしばらく様子を見ていると騎士たちの後ろの門が急に重い音をたて開き始める。
ギゴゴゴゴゴゴゴゴ
その奥から騎士団が一気に出てきた。総勢40人は居そうだ。全員がフル装備でキッチリ隊列が組まれており、この短時間でここまで準備するのはさすが王宮騎士といった感じか。
騎士たちが半円に俺たちを囲みその中央から隊長らしき人が前へ出てくる。
「マクシム様、お久しぶりです。どのような用件でお戻りになったのですか?」
「隊長! 久しぶりだな」
知り合いみたいね。マクシムさんたちは4年間も王国の勇者として活動してたんだから知り合いは沢山いて当然か。突然捕えようとしてきたりしないし、穏便に城内へ入れる可能性でてきた?
「魔族の代表として王国との和睦のために来た」
「魔族の代表……ですか。王国を裏切ったというのは本当だったのでしょうか?」
「王国がどう思おうとどうでもいいが、少なくとも人の犠牲を少なくするために動いてるぞ」
「……」
押し黙る隊長。
「本来であれば捕えて王の前に引きずっていくのでしょうが、この場の戦力では無理でしょう」
「だな」
ニヤリと笑うマクシムさん。基本人のいい顔してるんだけどちょっと悪そうな表情だ。
「ですが、現在城内にはS級の傭兵を複数配置しております。それらを一度に相手にするのはたとえマクシム殿とサユリ殿でも簡単ではありませんよね? 特に娘さんや他の方を守りながらでは」
あ、戦力外にされた。ラッキー。
「これより城内へ案内しますが、くれぐれもおかしな行動はされぬようにお願いします」
「もちろんだ、俺たちは和睦のために来たんだからな」
騎士に囲まれるように城門を抜ける。そして広い中庭で城のバルコニーに立つ王と聖女に出迎えられた。
あ、岡田さんも聖女の後ろに見える。しっかし王と聖女の顔、歓迎されてないのが一目で分かる表情だな。かなり遠くても一目で分かる。あとあれが隊長が言ってたS級の傭兵かな。
バルコニーの下、城の入口を守るように騎士団とは違うそれぞれ個性的な装備を身に着けた者たちが10人いる。俺たちの左右に隊列を組んで整列する騎士団と違い、気楽な姿勢でこっちの様子を見ており、それぞれ自信満々な余裕の表情だ。国に雇われる最高ランクの者たちなだけに、気楽な姿勢と言ってもそれなりに見栄えがする者が多いのに、1人だけ見るからに元の世界でいうところのヤンキーって感じのがいるな。すでに抜き身の反りのある剣をブラブラさせ挑発するような視線をこっちに向けている。
それ以外にも城内の多くの者がこの城の中庭に続々集まってくる。ほとんどの者が武装しているが、中にはメイドや執事のような者も顔を見せている。あと遠巻きに魔法使いもあちこちにいるな。
ざわつく状況が王が手を上げたとたんに静まり返る。
「マクシムよ、何用で戻ってきた」
隊長には伝えたけど、まだ王には和睦のためって伝わってないか。それでも城内に入れて話を聞く姿勢くらいはあってよかった。目的を伝えることもできずに戦闘なんてのはさすがに嫌だもんね。
「王よ、話を聞いてくれることに感謝する。目的は魔族との和睦だ。そして魔族と協力し魔物を討伐する仕組みを作ることだ。これが最も人への被害を減らすことができる」
分かりやすくてド直球な説明だな。まぁいつ交渉どころじゃない状況になるかもしれないから、大切な部分は最初に伝えとかないとってところかな。
「魔族と協力、だと?」
「ありえませんわ、そんなことは不可能です」
聖女が思わずといった感じで声を出す。
魔族は絶対の敵、人類の敵って思ってるっぽいもんな。この聖女。召喚され王国の中だけで過ごしてればそういう方向性の話ばかりが耳に入って、魔族がどんなものかも理解しきれていないんだろうな。
「いえ、そうでもないんですよ、メグミ。あなたは魔族のことを知らなすぎるから協力などできないと思ってるのでしょうが、そもそもアルドラ皇国では100年以上魔族と交流がもててるではありませんか」
聖女のことをメグミって、あ、そうかサユリさんの方がずっと年上だしお互い同じ世界から召喚されてきたんだ。当たり前か。っていうかそれだと俺も聖女に聖女って言う必要ないな、10年くらい前に召喚されたってのなら、俺と大して歳が変わらないはず。大神官は多分医者でこの聖女は医学生だろうし、歳も変わらないってならそんなもんになんの遠慮もいらないな。
「そのようなものはまやかしにすぎない。我が妻は魔族に殺された。国民も魔族の操る魔物の被害にあい続けている。それが事実であり、魔族は魔物とともに滅ぼされるべき悪なのだ」
あー、取り付く島もない系だな。奥さん殺されたのは気の毒だけど、王はもうちょっと大局的に物事を見れた方がいいと思うんだけどな。そんなこと思うのは、俺が異世界から来た者で王に対する過剰な敬意とかもってないからなのかな。
「この、温度差がな~、無駄なことしてんだよな」
マクシムさんがぼやく。
「貴様! 王に対して失礼であろうが!」
騎士から声が上がる、がいっぱいいるから誰かは分からない。
「いやー、俺はすでに王国から抜けた身だし、今は娘も一緒だから遠慮する必要ねーだろ。そもそも俺は異世界から来たんだぞ? お前らみたいに王への尊敬や忠誠とかねーんだし、それに尊重してるから交渉にきてるんだ」
「これだけの数に囲まれて、勝てると思ってるのか!」
すっげーありがちなセリフ来ました。相手の実力見えてなくて後で痛い目みるパターン?
「我に歯向かうと言うのか? たった5人で」
「いや、和睦の交渉に来たんだ。そして魔族を今の人間の戦力で滅ぼすなんて無理だってのも知ってもらいたい。ん? 先に知ってもらった方が話が早いか?」
「何を言っておる、魔族を倒せることはお前自身が証明したではないか。そして今の王国にはお前と同等の力を持つ者が多数存在する。さらに新たな勇者は伝説の剣聖と昇格した。以前の王国軍とはまるで違うのだ。魔族を過剰に恐れ屈辱的な和睦を結ぶ必要などない」
城の前に立つS級傭兵たちが、それぞれこちらを威圧している……のかな? 正直わからん。戦いの中で生きてきた人たちだったら、なんか感じる者があるのかもしれないけど、俺は清潔でエアコン完備の病院で働いてきた普通の子だ。ちょっと怖い表情で睨まれてるって感じまでしかわからん。
「まぁそう言われるとそうだが、俺が倒してた魔族って弱い魔族だぞ。あれから俺もかなり鍛えたが、今でもこの元魔王の妹とかに勝つのは難しいし、現魔王のケンジには勝つのが不可能だ」
いやいや、ロナはともかく俺は不意打ちとかで一発ですって。ロナと俺に視線が集中しちゃったじゃないですか!
そこでロナがローブを脱ぐ。真っ赤な髪はすでに隠していなかったが、真っ赤な羽を見せえることになる。周囲が再びざわつく。




