050 王都を進む
「いよいよね、なんか随分と久しぶりな気がするわ」
「いろいろあったもんね、一ヶ月程度だけど」
「まぁ町の風景になじみがあるわけじゃないし、夜中に脱獄したから城の外観すらよく知らないけど」
「たしかに!」
王都へ到着し北から城門を目指す。王城の門は西側に正門があり他にも北・東・南と門がある。魔族と人間の和睦のために交渉に来た俺たちは当然正門から入城するつもりだ。最終的に力ずくになるとしてもこっそり侵入してではなく、正面から交渉したうえでのことにしたい。それで十分筋が通る……とマクシムさんのマッチョな理屈。
まぁ十中八九力ずくになると思うから俺も覚悟を決めてる。さらに正門までは基本戦わないが、俺たちに気付き敵対したり騒いだりしそうな者の対処は俺の役目だ。俺がスキルで眠らせたりするのが一番手っ取り早いし騒ぎを大きくせずに進めるから適任だ。
一応隊列的なことも考えられてる。俺は中央だ。理由は単純、最も戦闘経験がなく突然の襲撃などに弱いからだ。凹んだりしてないぞ。これでも俺はこの世界に来て戦闘の訓練はやってきたから、今元の世界のチンピラなんかに絡まれても、一捻りにできるくらいの力はあると思う。単純に俺の他のメンバーが強すぎるだけだ。そして俺の前にアーニャだ。アーニャは王都に来てすぐに上等な装備で身を包んでいる。元々目立つ容姿に上等な装備で人の目を引く。知らない人が見ればどこかの貴族の鍛えられた娘にみえるだろう。ちょっとキラキラしたレースの衣装の上に、さらにキラキラした軽鎧だ。俺も見惚れた。で、そんな目立つ格好で先頭を行くのは、顔を一般にほとんど知られていないからだ。
そして俺の左右にマクシムさんとサユリさんだ。二人とも騎士の娘の従者のように見える上等だがシンプルな装備で、目の前にシールドがあるおそろいの兜を身に着けている。
そして後ろに少し大き目なローブでフードを深くかぶったロナだ。ロナは人間界じゃほとんど見ない赤い髪と絶対見ない赤い羽を隠すためだ。ちなみに俺もロナと同じようなローブを被ってる。ロナがおそろいって喜んでたな。
そんな感じで、貴族の娘とそれを守る4人は真っすぐと王城を目指す。
「みて、あの綺麗な人、見たことないけどどこの貴族かしら」
アーニャに気付いた人からそんな声が何度も聞こえてくる。狙い通りだ。一緒に旅しててもアーニャが人の視線を奪う容姿なのは分かってたけど着飾るとここまでになるんだな。
「みてあの護衛の人の迫力、女性の方もタダものじゃない感じね」
マクシムさんやサユリさんも当然目を引いてる。マクシムさんは普段は武器を短刀程度の棒の形にして左手に持っているけど、その体格で嫌でも目立つ。そしてサユリさんは小柄なのに2mはありそうな薙刀を肩に担ぐように持っていて、その異様さが目立つ。
そして俺とロナは目立たない。同じローブで同じように深くフードを被ってるからね。それに目立ちたくもない。なんたって魔王だからね。自分から言わなきゃ分からないことだけど、王都に入ってからすっごいプレッシャーを感じ始めた。ロナもちょっと緊張してるみたいだ。そりゃそうだろうな。魔族を毛嫌いしてる王都に来てるんだから。
メイガスは姿を消してる。そもそも日の当たる明るい場所は好きじゃないらしく、姿を消し影を渡り歩くようにして近くに居るはずだ。まぁそうしてくれないと困る。あんな見るからに死神な魔族が姿見せてたら大騒ぎ間違いなしだ。
そんな感じで俺の予想よりはるかにスムーズに進む。
「正面左の騎士、気付いたみたいだぞ。アーニャ、知ってる奴か?」
「んー、分かんないけど、王宮騎士なら私の顔を知っててもおかしくないかも」
王宮騎士が今でも俺やアーニャを探しているわけではなく、そもそも王宮騎士は王都内の警備や情報収集を行う役目があるらしい。
「なんか二人で話してるけど騒がれる前に眠らせて」
「ほい、了解」
( 眠気 10 )
二人でこちらを見て話していた騎士の一人が突然崩れ落ちる。と言うか寝る。もう一人がそれに驚きどうしたのかと引き起こそうとしている、俺たちとの距離はまだ遠いからこっちが何かしたと思われるようなことは無いだろう。でも俺達がその横を通り抜けると騎士は何か感づいたのかこちらに顔を向ける。
( 眠気 10 )
まぁ何かに気付いたとしても騒がせるつもりはないんだよね。正直俺はこの状況に結構ビビってるから遠慮してられない。傷つけたりするスキルじゃないし思いっきり多用させてもらう。
「まったく便利なスキルだな。筋力やら魔力やらじゃなくても操れるとか、筋力や魔力を操れるだけでも十分以上に反則だろうに」
マクシムさんがボソっと俺のスキルを見てぼやく。王都までの移動の中で何度も言われ続けたんだよね。お前のスキルは反則過ぎる。すべての強さの要素を否定するようなデタラメスキルだ。特殊な他に例がないスキルはユニークスキルって言われるが、全然ユニークじゃない。笑えないって言われた。
どんな鍛えた筋力も魔力も念じるだけで無いことになるもんな。ちょっと申し訳ない気持ちになる。
「すんません」
「いや、責めちゃいないんだけどな。なんつうか、お前とは力比べとかする意味がないというか、強さの概念や基準がまるで違って競うことのできない相手だって思ってるだけだ」
「不意打ちとかで一発で負けますよ」
「そんなのは戦いの美学に反する。俺は相手の力をねじ伏せて勝ちたいんだよ」
俺はねじ伏せられたくはないんだけどな。やっぱり戦闘民族だな。
「あ、イメルダさん!」
「イメルダ、お久しぶり」
アーニャが気付き、サユリさんが挨拶する。
「ああ、久しぶりだね。特にマクシムとサユリ」
イメルダさんは近づいてきて周囲に聞こえない程度の声で話す。
「おう、元気にしてたか」
「それはこっちのセリフだよ。1年も消えて連絡が来たと思ったら、王城へ交渉へ行くだ……まったく驚かされるよ」
「攻め入るって言ってるわけじゃないわ。あくまでも交渉よ。魔族と人間の和睦」
止まることなく歩きながら話す。どうやら俺は知らなかったけどマクシムさんはイメルダさんへ王都へ来ることを連絡していたみたいだ。
「まぁ止めるつもりはないし、どうせ上手くいかなかったら力ずくだろ? 情報を持ってきた」
「まぁな。で、どんな情報だ?」
「王宮にはS級の傭兵が警護についてる。そして勇者もいる。油断はできないよ」
「そうか、勇者もいるか! ちょうどよかった。不在であとから文句言われても困るからな」
「はは、そうかい。手強いとか考えないんだね」
「こっちには魔王も居るんだぞ。余裕だろ」
「え? 魔王?」
驚くイメルダさん。そしてその見開かれた目が俺に向く。俺はすぐフードを払い上げ顔を見せる。
「ども、脱出の時にはお世話になりました」
「おう、ケンジじゃないか」
「はい、おかげさまで」
そう言って俺は手に付けた籠手を見せる。結構これまで役に立ってくれてるからねこれ。
「じゃぁ後ろのが魔王かい?」
ロナに目が向くが、さすがにロナの赤髪は目立ちすぎるし、ロナとしては知らないイメルダにフレンドリーに挨拶なんてできない。ある意味一番目立つのがヤバイのがロナだ。魔族だとバレればリンチだってされかねない。まぁロナが本気出したらこの辺りの全てが焼け野原になりそうだけど。
「ロナ、この人は大丈夫だよ」
「……」
「イメルダは俺が信用する王都のギルド長だ。ロナのことを知っても危害をくわえることはない」
ロナが少しだけフードを上げてイメルダに顔を見せる。
「元魔王の妹、ロッサーナ」
簡単な自己紹介をする。
「おお、魔族の王の妹君か。それはそれは王都へよくいらっしゃいました。緊張されてるようですが、心配されなくても私は敵じゃありませんよ。それで魔王はどちらに?」
そう言って俺たち全員の顔を見るイメルダ。そして俺に集中する俺以外の視線。
「えっと、色々あって魔王になりました」
「ん? なんだって?」
「俺が魔王です」
イメルダさんがなんとも締まらない顔をして首をかしげている。
「ケンジは人間だったよね?」
「はい、ですがロナの兄のリゲルを成り行きで倒してしまいまして魔王にされてしまいました」
「はぁ?」
そうこう言っているうちに城門が見え始めるとサユリさんが静かに警戒の声を上げる。
「ケンジ、気付いてそうなのがいるわよ。イメルダ、魔族は強さが全てなの。魔族じゃなくても強けりゃ魔王なの。今からケンジが騎士を無力化するから見てればわかるわ」
俺はサユリさんが示した方向の騎士を見つける。今度は一人だがアマンダの顔を凝視してる。着飾った格好に見とれてるって感じではない。知った顔だがアーニャなのかどこぞの貴族なのかを悩んでるって感じだ。まぁそのまま眠ってもらうからその答えは出ないだろう。
( 眠気 10 )
いつものように糸が切れた操り人形となり倒れる騎士。その様子を見ていたイメルダさんが目を丸くしている。
「え? 何したの? 攻撃が見えなかったけど」
「眠らせました」
「どうやって? 魔方陣もなにもなしで魔法が使えるの?」
「いや、体調を操作できるスキルなんです。それで眠気を強めました」
「意味が分からない」
イメルダさん理解が追い付かないようだ。
「そういう、意味が分からない滅茶苦茶なスキルなんだよ。ケンジのスキルはな。ところでイメルダ、お前このまま一緒に王城に攻め入るのか?」
「あ、そんなつもりはない。私はこれでも王都のギルド長だ。それに攻め入るって、さっきと言ってることが違うぞ。交渉に来たんだろ?」
「はは、交渉だって戦いだろ?」
「ふん、まぁいい。終ったらどうなったか教えてくれよ。ギルドだって色々あるんだ。情報が欲しい」
「あぁ分かった。終わったら立ち寄らせてもらう」
「じゃぁ健闘を祈る。あとケンジ、そのスキルについてもまた教えてくれ、私が理解できるようにな」
「あ、はい。また」
「じゃぁサユリにアーニャも、気をつけてな」
そう言ってイメルダさんは人ごみに消えていき、俺たちは城門のすぐ手前まで来た。さぁここからは眠らせて誤魔化すことも難しくなる。王城の正門だけに騎士8人で守られている。8人眠らせてもいいが、一応計画ではここで名乗って堂々と入っていく予定だ。入れてくれるかは別問題だけどね。
「よし皆、いよいよ本番だ」
マクシムさんの声にそれぞれが気持ちを引き締めた。




