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049 森を抜け王都まであと少し


 現状を整理しよう。まずは魔族だ。今となっては王国の状況よりシンプルで簡単だ。魔族は全体としては人間に対して敵意を持っていない。それどころか長く生きた魔族が無気力に過ごすようになる魔族の存続が危ぶまれるような社会問題を抱えている。一部の元気な魔族が人間と争ったりしているが、それも人間を征服してしまおうとするほどの意欲があるわけでもない。争っている理由はそれぞれだが一番多いのは暇つぶしの娯楽らしい。それにいくら魔族が強くても少数で人間を支配できるほどの強さはない。

 そして、実際人間と衝突しているのはほとんど魔物だ。王国の勇者、岡田ハヤトさんみたいに自分から魔族へ向かっていくケース以外、魔族と人間が直接衝突するようなケースはまれだ。

 ということで、魔族側に関しては、極少数の攻撃的な者を抑え込むだけで終わる。


 そして王国側だ。こっちは根深い。まず王の憎しみが強い。一緒に戦っていた王妃や仲間を魔族や魔物に奪われた恨みは長い年月が過ぎても変わらないようだ。そしてそれに大神官と聖女も加わる。そっちは自分たちが率いた討伐軍が大被害を受けたことにより魔物へ憎悪の気持ちを持ち、更には一緒に召喚された男の裏切りやアーニャの両親の離脱などで色んな感情が渦巻いてるはずだ。正直一筋縄ではいかないだろう。まぁ俺が王に関わったのは短時間だったし、聖女ともそう長くない。その点はマクシムさんやサユリさんが4年も関わってるから詳しく教えてもらえるかもしれない。アーニャは長く王宮に居たわりに詳しくないんだよな。

 戦力外って扱いで保護されてたしアーニャの両親も心配かけないためか詳しいことは教えてなかったみたいだ。


「あの、今更ですがこの作戦って、最終的に王や聖女を説得できるかにかかってると思うんですが、その辺り上手くいく感じなんですか?」


 俺は本当に今更な質問をしてみる。


「あ、私もそれ気になる」


 アーニャも同じように気になるみたいだ。


「王の憎しみは相当なもんだからな。俺もサユリが殺されたとなればそう簡単には引かないから気持ちはわからないでもない。それに聖女や今は倒れてる大神官、あいつらも面倒だ。無駄に責任感が強い。この世界の人を救うことが自分の使命だとか運命だとか思いこんでやがる。過去の失敗も引きずってるしな。かなり頑固だ。人のためにと頑張ってるのだろうが必死過ぎてそれで犠牲になってる者のことを考えることができていない。回復魔法を進歩させたことと差し引きしても、犠牲の方がおおいんじゃねーかなって俺は思ってる」


 簡単には和解できないってことか。


「じゃぁ説得は難しいってこと?」

「失敗した時のこととか、王都から脱出する方法とかも考えてるんですか?」

「ああ、もちろんだ」

「説得に失敗しても、王国が国として魔族に敵対することは終わらせるわ」

「どうやって?」


 説得できないのに争いは終わらせるってどういうこと? 他の手があるってこと? いやこの夫婦の発想だと……なんか想像がつくな。

 俺の想像通りのことをアーニャが言う。


「力ずくね!」


 やっぱり! 国相手でもに力ずくなね。


「当たり、さすが私の娘」

「いや、その発想は褒めていいの?」


 つい突っ込みが声にでてしまった。


「じゃぁケンジは説得失敗したら大人しく帰るのか? 次の説得の機会を待ってもその間に犠牲者は増え続けるんだぞ。これはある意味魔族と人間の外交なんだ。簡単に引くわけにはいかないし、話し合いがダメなら武力で押し通すのは当然なことだ」

「確かにそうですね。引き下がってちゃ何も解決しないし、生きて帰れるかも心配」

「そうだ。俺たちは魔族側であり、魔族を憎む連中のど真ん中に行くんだ。説得できなけりゃ力ずくで押し通す。その覚悟が必要だ。魔王なんだからしっかりしてくれよケンジ。平和ボケ日本人からは卒業だ。弱腰外交じゃ人は守れない」


 話し合いがダメなら力ずく、それが必要な状況なのかもしれないけど俺の中にしっくりこないのはやっぱり俺が平和ボケ日本人だからなんだろうな。と言うか同じ日本からきたアーニャファミリーの皆さんがそれを当たり前のように思ってることがおかしいんだけどな!

 

 俺たち魔王一団は順調に森を進み、王都の真北、最短距離の場所までたどり着いた。このルートが最も効率よく王都にたどり着ける理由がよく分かる。森から王都までの間に大きな街道がないらしい。

 王都からアルドラ方向へは北街道(魔街道)、中央道、南街道と大きな街道が通ってるが、それぞれの道は王都に集合するように作られており、王都の真北には小さな道と村がある程度だった。

 ここまでの移動に2週間かかった。森の中の移動はやっぱり時間がかかったが、とんでも戦力の方々のお陰で危ない目に遭うこともなく、ロナの異空間収納とサユリさんの料理のお陰で食にも寝どこにも困らなかった。そういえば、ヴァンって魔族が言ってた若い人を憎んだ魔族ってのにも遭遇しなかった。

 

 森を出て久しぶりに草原での野営だ。久しぶりに見る空一面の星が綺麗だ。明日の移動では、適当に綺麗な川か泉を見つけて水浴びを行い、全員身なりを整える。和平交渉に向かってるからね、小綺麗な身なりも必要だろう。そして明後日には王都に到着し王城へ向かう。王都に入れてもらえるかどうかは聞くまでもなかった。


「王都の中は王城の正門まで堂々と進む。なんなら上手い食堂で飯をくってから城にむかってもいい」

「それはさすがにダメでしょ。兵士にかこまれるわ」

「そうか、じゃぁ真っすぐ城へ向かう。そこからは適当だ。名乗って通してもらえればそれでよし、ダメなら力ずくで押し通る。もたもたしてたら兵士呼ばれて無駄に戦闘することになるからな。その辺りの兵士はケンジのスキルで眠らせてくれてもいいし、ロナもそういう魔法があるなら頼む」

「分かりました。私は魔族の活性化のために頑張ります」


 そうだった。ロナは衰退する魔族社会に活気を持たせたいんだったな、人との交流で。


「アルドラは私たちを受け入れてくれてますが、現状人間社会でも上手くやれそうな一部の魔族だけが交流してます。それに個の力が強い魔族が多数人間社会に出ていくときっと怖がられ警戒されて予想外な衝突が起きたりすると思うんです。なので、私たちにとっても人間側の受け皿の大きさは大きいほどいい。王国が魔族と和解できれば本当に助かります。すぐには無理でも私たち魔族にはゆっくり待つ寿命がありますしね」


 ロナ、魔族全体のことを考えたしっかりしたこと言うよな。って、いつも見た目に騙されるけど俺よりずっと年上だった。しっかりしてても不思議じゃない。

 俺たちはマクシムさんとサユリさんを中心に王都でのことを話しあう。まぁ結局は説得できなきゃ力ずくで主要な人物全員を捕える。圧倒的な力の差を見せつけて、魔王ならその戦力を自由にコントロールできると理解させる。といっても俺にそんなことができるか知らないからそういうことにする。その気になれば王国を奪うこともできることを示し、無理やり平和条約を結ばせる。そんなところだ。


「その後はどうするの? 魔界に戻る?」

「いや、俺とサユリは王城へ残るぞ。しばらくは見張っとく必要があるしな」

「あなたたちは、追われる心配も無くなるだろうし、好きに冒険者でもしたらいいんじゃない?」

「え? いいの?」

「せっかく異世界に来たんだ、少し自由に楽しむのもいいんじゃないか?」

「賛成! 私も一緒に人間界を楽しみたいです!」


 ロナがマクシムさんの意見に大賛成の様子だ。


「この世界は広いからな、この大陸の外へ出たっていいんだ。まぁ考えとくといい」

「わかった、だけど魔王のケンジは?」


 あ、俺が魔王だった。俺も自由にやっていいの? まさか魔王城に住む必要があったりする?


「好きにしていいだろ。リゲルだって俺に代行させて遊びまわってるんだろ?」


 そうだった。


「じゃぁまたマクシムさんが代行ってことで俺もアーニャと異世界を旅しても?」

「アーニャの喘息もあるしケンジが一緒だと安心だわ」


 そんな様子を静かに見ていた死神メイガスが呟く。視界にちらちら入ってくるんだけど、食事をとることも無く静かにたたずむメイガスって、まさに死神って感じで怖い。目が覚めて横に居たら叫ぶ自信がある。


「人間は面白いのう。短い時間のなかで必死にあがいておる。クックック」


 骸骨なので表情が分からない。が口調からは純粋に面白がってるように聞こえるな。


 ということで、この魔王一団では王国は説得されるか無理やり抑え込まれるかの道しかなくなった。どちらも失敗するという発想がまったく出てこないところが凄い。まぁこっちは元勇者のマクシムさん、そのマクシムさんと手合わせして勝つこともあるサユリさん、そして魔王の妹で魔力特化のロナと、そのロナと同じくらい魔力がある死神メイガス、そしておまけで俺。森を抜けてきて分かったけどとんでもない戦力だと思う。皆がまったく不安そうな様子がないのに、戦闘の素人が不安がる必要ないか。


「追われる心配なくこの世界をウロウロするのって楽しいかもね、私困ってる人を助けながら旅するとかすっごくやってみたかったかも。水戸黄門みたいに!」


 アーニャ、転移してきた時15歳だったはずだけど、水戸黄門とか好きだったんだ。意外だ。


「そうだね、アーニャとロナが居れば危ないことなんて無いだろうし世直しの旅ってのもいいかもね」

「三人で旅してれば、私がケンジのお嫁さんになるチャンスもありますよね」

「いや、それは難しいかも」

「えー、第二夫人でもいいですよ」

「いろいろ困る」


 ロナがたくましくなってきてるな。断ってもシュンとしなくなった。三人で旅するとなるとロナの扱いって難しくなる? 何か理由つけて置いていった方がいい? 


「なんでケンジにそんなにご執心なんだ? 俺にはそんな感じじゃなかったのに」


 そんな疑問をマクシムさんが呟き、またサユリさんにギリギリと首を掴まれている。


「マクシムさんもお兄様を倒せる可能性がありましたけど、年齢が……私、結婚した相手がすぐ死ぬのは嫌ですからね。その点ケンジはすでにお兄様を倒してるし、マクシムさんよりずっと若い」

「な! 若さで負けたのか!」


 サユリさんに首ギリギリやられながらもちょっと落ち込むマクシムさん。俺、マクシムさんより若いって言っても、もう30だし、マクシムさんって俺より10ちょっと上なだけだと思うけどな。10倍くらい寿命があるロナが気にするほどの差か?

 作戦の話はとうに終わり焚火を囲み談笑する。明後日には国を相手に大勝負だというのに緊張感に欠ける会話をしつつ星空の下での野営を楽しんだ。



ひと段落までもう少し。頑張ります。

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