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005 王宮からの脱出

「ケンジ、そろそろ行こうか」


 でも、まずどうやって牢から出るんだろうと思ったら、アーニャの白い両手が鉄格子にかかる。はーっと息を大きく吸う音が聞こえる。そして見えている白い手からオレンジ色の光が見えたとおもったら、フッ!っという小さな気合いの声。


クギン……キギ、キ……キ……


と小さく音を立て二本の鉄格子が左右へ押し広げられた!


「うそん!」


 なんと牢からの脱出は力技だった。


「ふふ……びっくりした?」


 作った隙間を作りスルリと出てくると笑顔を見せるアーニャ。

 びっくりするさ! どう見てもそんな力があるように見えない白い手が、大男でも曲げられそうにない鉄格子を曲げちゃったんだから。 

 しかし、それ以上に驚いたのは間近で見たアーニャだ。ロシア系の美しい顔に親しみやすい日本人の要素を加えたような、なんとも綺麗で可愛らしい顔。そして髪はこれまた柔らかそうなアッシュブロンド。唇がぽってりしてて、睫毛フサフサお目々ぱっちりだ。もうずっと眺めてたい。身長は俺より拳一つちいさく160㎝くらい? 服装は王宮で見かけた女中の服だ。フワッとしてるからスタイルまでは見えないが、ぶっちゃけ滅茶苦茶好みの顔です。はい。


「身体強化のスキルよ」


 俺が見とれていると、アーニャはそう言いつつ俺の牢の鉄格子も曲げる。美少女の細腕で鉄格子を曲げる異様な光景は二度目でも驚かされる。

 スキルなんだ、そうだよね、素でその腕力だったら怖すぎるもんね。俺のスキルだってかなり変わってると思うし、美少女が怪力になるスキルがあっても不思議じゃないよね。


「ありがとう」


 俺もアーニャが作ってくれた隙間から牢を抜け出る。


「牢からは出られたけど、この先どうするの?」


「出口があるのよ。ここの牢屋には。普通にはない出口が」


「どういうこと?」


「ここで死んだ人は王宮の中を通すことなく外に出してるの、堀に直接つながる出口があるのよ」


 そう言って牢の一番奥へ進むアーニャ。突き当りは壁になっておりその壁の上の方に鉄格子付きの窓があった。さらにその窓の上には壁から棒が出ていて滑車がついてる。きっとその滑車を使って死体を引き上げるんだろう。

 まさかあれが出口ってこと? 5mはあるし、壁は登れないようにするためか石壁むき出しではなく何かで塗り固められ掴まるところもないぞ?


「ちょっとまっててね」


 そういうとアーニャは壁に向かって駆け出し跳躍する。さすがにそれは……と思ったら、壁を蹴り横の壁をまた蹴り、更に反対側の壁を蹴りと繰り返し、見事に鉄格子の窓にたどり着いた。忍者だ。あれはロシアと日本で合作した現代の忍者だ。あ、ここは異世界か。

 そしてまたあの怪力だ。なるべく音がしないように鉄格子をゆっくりと曲げ、そこからスルリと抜け出し消えていった。


「すげーなアーニャ」


 すぐにヒョコっと顔を出すアーニャ、手にはロープを持っている。それを滑車にかけスルスルと下ろす。俺がそれに掴まると、鉄格子に足をかけ引き上げ始めた。

 普段死体に結び付けてるロープだと思うとちょっと気持ち悪いな。そんなことを思ってると。


「うお!」


 引き上げる勢いに思わず声が出る。あっさり引き上げられ俺も鉄格子を抜ける。鉄格子の先は通路となっていてそこを抜けると堀に小さく突き出た桟橋だった。アーニャが言ってたように外は雨がしっかり降っている。本当に湿気の変化を感じてたんだな。


「じゃぁ次は堀を渡るよ。泳ぐのは大丈夫?」


「ああ、大丈夫だ」


 桟橋へと出る。外は結構強い雨だ。堀は50mちょっとって感じか、波が無い堀ならプールと変わらない。そのくらいなら問題なく泳げる。


「そうだ、ケンジ、またあれをお願いしていい? 喘息抑えるあれ」


「きつくなってきたの?」


「うん、ちょっとだけど、これから泳いだり雨にうたれてたら悪くなりそうなんだよね」


 アーニャの気道へ意識を集中する。


< 気道狭窄 2 >


「ほんとだ少し気道が狭くなってきてるね」


「見ただけでわかるなんて不思議なスキルね」


 アーニャにはスキルについて色々伝えてる。一緒に逃げるならお互いの力は知っていた方がいいと思ったからだ。もちろんアーニャのことも教えてもらった。アーニャはあれだ、親の影響と言うか趣味というか、この世界に来る前から武芸を仕込まれていて、この世界に来てからも周囲に隠れて修行を続け、俺から見ると色々ぶっ飛んだ性能になっちゃってるみたいだ。


「背中に触るよ」


「 お願い 」


 アーニャが俺に背中を向ける、触れて行えばスキル効果の時間の調整ができることも伝えてる。直接触れると言うのが本当に皮膚へ触れるほどの直接なのか、服越しでいいのか分からないが取り敢えず服越しにやってみる。


( 体調操作 気道狭窄 0 なるべく長く! ) 


 どうかな?


< 気道狭窄 0 操作中 持続時間 1日 >


 お、成功だ。服の上からでも問題ないみたいだ。でも鎧とかだったらどうなんだろう、できれば早いうちに実験しときたいな。あと時間は最大で1日、24時間ってことなのかな? これもいろいろ試してみないとわからないな。


「あ、楽になった」


「アーニャ、たぶん丸一日は症状出ないと思うよ。持続時間、1日ってなってるから」


「そうなの? 凄く助かる」


 うーん、自分でやってるんだけど本当に不思議なスキルだな。ゲームで言うなら設定を直接いじってるような感じ?


「じゃぁ行くよ」


「わかった」


「見えにくいけど、あの赤い屋根の方向に泳ぐよ」


 そう言ってアーニャは女中の服を脱ぎ始めた。まさか下着に? と思ったら下には黒いTシャツと体操服の短パンみたいな服を着ていた。

 突然脱ぎ始めたのに驚いたけど、それ以上に女中のフワフワした服に隠されたスタイル抜群の身体に驚かされた。ボンキュボンだ。どこからどう見てもボンキュボンだ。なんだこのロシアハーフは。ダメだ逃走中の緊張感が保てない。後姿から目が離せない。Tシャツ短パンという色気のない装備が機能していないぞ!


「 静かに入ってね 」


 俺が見とれているとアーニャは桟橋よりスルスルと水中へ入っていく。全てを隠してしまった水が恨めしい。気を取り直して俺もなるべく音を立てないように水に入る。服を着たままだと泳ぐのが大変と聞くけど。この距離ならまぁなんとかなるでしょ。


 水は思ったほど冷たくなかった。このくらいなら体動かしてれば凍えて泳げなくなる心配はなさそうだ。アーニャと俺はできるだけ静かに泳いだ。雨のお陰か城壁に居るはずの見張りには全く気付かれなかった。問題なく渡り切ると土手を登り身を低くして進む。城壁から見えない角度まで進むとアーニャは目的の場所を探し始めた。


「何をさがしてるの?」


「煙突のある青い屋根の小さい倉庫」


 それがアーニャがお母さんに言われた場所なのか。一緒に探すが現代日本のどこに行っても灯りがある環境に慣れてる俺には、ほとんど真っ暗に見える。建物から僅かに光が漏れてるけど蛍光灯の明るさとはまるで違う。蝋燭でも使ってるのかなって光だ。屋根の色なんてちょっと離れると識別できない。夜目が利けばよかったんだけど、そもそも俺は視力がそんなに良くない。車が眼鏡なしでギリギリ運転できる程度だ。

 あれ、視力?

 自分の視力に意識を集中する。


< 視力 3 >


 あ、出た。でも単純に視力を上げても暗さに対応ってできるのかな。暗所でよく見えるようにできたらいいのに。


< 暗所視力 5 >


 うわ、出た。なんでもありだな。上げてみるか、全開にするのはなんか怖いな。とりあえず。


< 暗所視力 8 >


 視界が開けた。暗視スコープみたいな緑色の映像が見えるのかと思ったら、普通に明るく見えるようになった。その状態で周囲を見渡し、青い屋根、煙突、小さい倉庫……と探す。


「あれだ」


 倉庫は意外と近くにあった。青い屋根は少しくすんでいて、夜の暗さの中じゃ青く見えなかったんだ。倉庫へ静かに近づき中に気配がないかしばらく様子を見る。


「よく見つけたね、結構夜目が利く私が見つけられなかったのに。もしかしてスキル?」


「うん、視力を上げた」


「便利ねそのスキル」


「俺も驚いてる」


 しばらく様子をみて誰もいないと確認。倉庫は堀から見て町側が道路に接していて入り口があるが、堀側にも小さな勝手口のような入口があった。アーニャがその勝手口に何かをして扉を開いた。


「お母さんの言った通りだ」


 開け方も聞いていたみたいだ。俺たちは倉庫に滑り込む。アーニャは倉庫の隅に積み上げられていた藁の中から袋を取り出した。


「ごめん、私の分しかない」


 中から服を取り出し、俺に見せながら言う。


「いいよ、気にしないで、それよりも準備いいね、お母さん」


「うん、こういうのはお父さんよりずっと頼りになるんだ。ちょっと着替えるね、ケンジは火を起こしててくれる? 寒いでしょ」


「でも、煙でここが怪しまれたりしない?」


「この雨じゃ見えないよ。大丈夫」


 そう言って、アーニャは物陰に向かう。

 俺は素直に火おこしの準備をはじめる。外から見えたこの倉庫の煙突は暖炉につながっていた。今は使われてないみたいだけど、もともと何かの作業場だったんだろうな。

 キャンプでの火起こしを思い出し、燃えやすそうな藁から細い薪、そして大きな薪と隙間を作るように積み上げ、いざ火をつけるところで気付く。ライターやマッチが周囲に見当たらない。どうやって火を付ければいいんだ? 俺が迷っていると着替え終わったアーニャが傍に来た。町娘って感じの恰好だ。

 俺はもっと戦えるような装備があるのかと思ってたけど、町中を逃げるならこっちの方が目立たなくていいってことか。準備はできてるのに火をつけていない俺を見てアーニャが気づく。


「あ、そっか、ケンジって来たばっかりですぐに投獄だから魔法教えてもらえてないんだったね、ちょっとそこいい」


 アーニャは暖炉の正面に立つと俺が積み上げた薪に手のひらを向ける。しばらく集中するとその手の前にアニメや漫画で見るような小さな魔法陣が現れた。


「火よ!」


ボッ


 アーニャの声に反応し、一番下の藁に火が付く。

 凄い、魔法だ! 俺のスキルとは違う、魔法らしい魔法だ。そういえば聖女の「再生」も光っただけで魔法陣なんて出なかったな。魔法にも色々あるのかも。


そこからは俺の狙い通り、藁から細い木へ一気に火が回る。室内がその火に照らされ明るくなりホッとするはずだった。だが俺は忘れていた、自分の暗所視力を高くしていたことを。


「目、目がーーーーーーー!」


 火を見ていた俺の目がホワイトアウトする。眩しすぎて目が痛い。大丈夫か俺の網膜? 便利スキルだけど使い方は考えないと意外と落とし穴があるかも。思わぬところで有名アニメ映画の大佐気分を味わってしまった。アーニャに残念なところを見られて恥ずかしい。


「ム〇カ大佐……」


 うん、女の子でも見てるよね、あれは。

 俺の残念な様子にさりげなく触れてくれたアーニャは暖炉から少し離れた場所へ藁を敷き横になる。


「真夜中になったらギルドへ向かうから、それまで休んでましょ」


 暖炉のお陰で暖かくなった倉庫の中、俺とアーニャは町の建物から光が落ちるのを待った。2時間は経ったか、暖炉の近くで過ごしたおかげですっかり俺の服は乾いた。時々倉庫の窓から通りの建物を見る。徐々に窓から見える灯りが消えてるのが分かる。


「もう少し待ちましょ、閉店後のギルドへ行ってギルド長を頼れば協力してくれることになってるの」


 アーニャの両親は自分たちが何かの都合で消えた後のことも考えてたんだな。逃走ルートや協力者まで都合をつけていたってことは、かなり濃厚にその可能性を考えてたってことか。

 あとアーニャは両親の消息不明について、心配はしてるが死亡してる可能性は全く考えてないみたいだ。


「私の両親を殺そうと思ったら、この国の騎士千人を犠牲にする覚悟が無いと無理ね」


 とのことらしい。大げさに言ってるんだろうけど、どんだけ強いんだよ両親。個の力がそこまで強くなるなんてことがあるの? そんな軽い、いや軽くない雑談をしながら休んでいると倉庫の周囲で足音がした。


ガンガン、ガンガン!






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