006 アーニャ無双、体調管理スキルの弱点
ガンガン、ガンガン!
扉が激しく叩かれた。身体を横にして休んでいた俺たちは跳ねるように起き上がる。
「ここに隠れているのは分かってるんだぞ、出てこい!」
なんでバレた? 見回りは夜中に一回来てたがもっと遅い時間だったはずだ。
俺はアーニャを見る。アーニャは身を隠しつつ小窓から周辺を確認する。
「……正面に4人……後ろに3人」
「どうするの?」
「倒すしかないね」
「武装した騎士7人だぞ? 大丈夫?」
「私は、勇者の娘よ? このくらい余裕よ。それに王宮では一切力を見せてないし、スキルも公開してないから、あっちは私のこと生活魔法が使えるだけの女中レベルって思ってるはずよ。きっと油断してるわ」
「わかった、俺もスキルで援護するけど、戦闘とか初めてだから期待しないでね」
「わかった、ありがと」
そう言うとアーニャは、道路側の扉の前に立つ。判断に躊躇いがない。自信があるんだろう。俺は小窓からこっそり騎士の顔を確認する。体調操作で無力化するための準備だ。
「大人しく出ていったら……何もしない?」
アーニャが怯えたような声で騎士に問いかける。役者だな。いろいろと器用なアーニャだ。そっかずっとただの女中レベルを演じてたんだもんな。
「ああ、抵抗しないなら何もしない。だが逃げるようなら殺していいと言われている」
脅しか? いやあの聖女なら言いそうだな。
ゆっくりと扉を開くアーニャ。その扉が騎士に掴まれ一気に開かれる。雨のザーーーという音が大きくなり、4人の騎士が見えた。
「もう一人いるだろ。分かってるんだ。出てこい」
まぁそりゃバレてるだろうね。俺はアーニャの真似をして怯えた声で問いかける。
「あの、俺も抵抗しないから痛いことしないでくれます?」
「やはり居たか、残念だがお前は殺す」
「なんで!」
素でビックリした! 思わず前に出てしまった。お前は殺す!ってあっさりすぎない?
「知らぬ。我らは聖女様の忠実な使徒、指示に従うのみ」
リーダー格に見える騎士が答える。
聖女の指示だと? あいつめ様子を見て処分を考えるって言ってたのに。逃げた場合は見つけ出して殺せとでも指示してたのか。クッソ、仕返しの時もっと酷いことすればよかった!
「ど、どうしてですか、それになんでここが分かったんですか?」
アーニャは怯えた様子を継続しつつ聞く。
「俺のスキルだよ、前勇者の娘、お前は最初から警戒されてたんだよ。だから俺が呼ばれて警戒スキルで罠を張ってたのさ」
答えたのは牢に時々来ていた酔っぱらい騎士だ。なんでこんな奴が騎士してるんだって思ってたけど、そんなスキル持ってたのか。時々来てたのって、その警戒スキルのために来てたってこと? 今考えると用もなく何度も来てたのは不自然だ。きっとあの時何かしてたんだろう。
「黙ってろ! お前がサボってなければもっと早く発見できたんだ。これは失態だ。聖女様には報告するからな。覚悟しておけ!」
「だんな~、それは無いでしょ、俺が居なけりゃこいつら完全に逃げてましたよ?」
「それを含め、判断するのは聖女様だ」
ピシャリと言われ、酔っぱらい騎士はしゅんとなり大人しく下がる。
しかしおかしくないか? 聖女様に報告? 聖女様の判断? 騎士団って国王に仕えているんじゃないの? すっごい違和感あるぞ。
「そうですか、じゃぁ私は大人しくついていけば助けてくれるんですね」
「ああ、すぐに牢へ戻してやる、そこで聖女様の指示があるまで大人しくしておけ」
演技が上手くて俺不安になってきた。俺、置いていかれないよね?
リーダー風の騎士がアーニャの腕に手を伸ばしながら、他の騎士に指示を出す。
「中にいる男を殺せ。確実にうわぁ!」
ズドン!
見事な背負い投げだった。180近くありそうな騎士の足が遠心力で高く舞い上がるほどの勢いで投げられ地面に叩きつけられた。しかも背中からじゃない。頭から。もしかして死んだ?
「貴様!」
別の騎士が声を上げるが、アーニャは止まらない。投げた直後には身体強化を発動しオレンジ色の光を発しながら次の騎士へと突進していた。そしてその騎士の腹部を鎧の上からすくい上げるように殴りつける。これも見事なボディーアッパーだ。騎士の体がくの字になり足が浮く。
ドガシャ!
グボゥウエェ
よくわからない声を出し騎士が動かなくなる。鎧が凹み腹部に食い込んだ状態になって苦しそうだ。さらに剣を抜こうとしていたもう一人の騎士へもその強烈な一発を食らわせ同じ状態にする。
凄いな、不意打ちとは言え剣を抜く暇も与えずに3人を倒したよ。まぁただの女中だと油断してたんだろうけど。しかしどう見ても町娘にしか見えないナイスバディ美少女が、鎧を身に着けた体格のいい騎士を投げ飛ばし、殴り倒す。ちょっと元の世界じゃ考えられないファンタジーな戦闘だな。
見た目は少女、頭脳は筋肉! かよ。
「うわぁぁ、化け物だ!」
「貴様ら、何をしている!」
酔っぱらい騎士が逃げ出した! それと同時に裏手にいた騎士が走ってきた。どうする? 異変に気付いて走ってきた騎士は既に剣を抜いている。アーニャも倒した騎士の剣を拾い構える。
互いに武器を持ったことで条件はさっきと一緒だ。アーニャならちょっとくらい大丈夫だろう。俺は酔っぱらい騎士に向かってスキルを放った。
( 嘔気 全開 )
「ブオェェェェォロヴォエエェエェエェエ」
牢屋での嘔吐が再現された。見事なマーライオンを見せたあと四つん這いになり吐き続ける。あいつの胃の中はいつも酒で満タンなのか? 噴き出す量が面白すぎるだろ。
振り返ると、3人の騎士とアーニャがすでに戦闘状態だ。
ギン、ギャン……キン……キン
アーニャが1人で3本の剣を剣を裁く。3人を相手に一歩も引いてない。
まるで踊ってるみたいだ。さっきの脳筋パワープレイと全然ちがう。奪った剣なのにまるで自分の手足のように自由自在に振り回してるし、舞い踊るような動きに騎士がついていけてないのが分かる。しかしこれも異様な光景だな。美少女町娘が3人の騎士と渡り合うなんて。見た目の筋肉量や体格だけでは勝負が決まらない強力なスキルが存在する世界ならではの光景かも。
おっと、見とれてる場合じゃない!
俺はスキルを放つ。今度は嘔気の操作じゃない。あれでアーニャに吐物がかかったりしたら嫌だからな。こういう場合にどうスキルを使うかは脱獄前に考えた。迷いはない。
( 骨格筋 筋力 1 )
カシャン……ズザァ……
1人の騎士が剣を落とし、地に両手をつく。
3人に向けて放ったスキルに一番近い騎士だけ反応した。複数対象に同時発動はできないってことか。
突然倒れた仲間に驚き動きがとまる騎士2人。アーニャもちょっと驚いていたが一瞬こっちを振り返ると俺のスキルだとすぐに気付く。
「ありがと!」
俺はすぐにもう一度スキルを使う。
( 骨格筋 筋力 1 )
キン……ギャン……キン……ギン
あれ? 発動しない。
アーニャは騎士が2人になったことで押し気味の状況となっている。ほっといても決着がつきそうだけど女の子に戦わせて見てるだけってのは良くない。
もう一度スキルを放つ。
( 骨格筋 筋力 1 )
カシャン……ドサ……
今度は成功だ。もしかして連続使用には制限がある? クールタイム的な? これも検証が必要だな。
でも筋力は1は有効だってことは分かった。1まで筋力を落とせば剣は振れず、立ってられないくらいの状態になるみたいだ。ぶっつけ本番だったけど狙い通りの結果で良かった。
一対一になったアーニャはすぐに騎士を圧倒する。もう危なげなんてまったくない。
ギャン、ドガァ!
騎士の剣を強く弾き、股間を蹴り上げた。騎士は声も上げずに息子を庇うようにうずくまり、動かなくなった。見てたこっちまで痛くなる。身体強化状態で股間蹴られたりしたら、なんぼ相手が美少女でもご褒美では済ませられないことになりそうだ。
「全員、倉庫の中に運んで!」
少し内股になっていた俺にアーニャが指示をだす。すぐに騎士を引きずり倉庫へ運ぶ。俺が2人運ぶ間にアーニャは5人を運び、なんとか全員を運び終えた。オエオエ続けてた酔っぱらい騎士はうるさいので嘔気を解消し、アーニャが剣を突き付けている。
「どうするの?」
「縛り上げるか殺すか……かな」
「ひぃぃぃぃ! お助けください! 俺は正式な騎士じゃねーんだ。スキルを買われて雇われてるだけなんだ、頼むから殺さないでくれ!」
「うるさいな、一番に殺されたくなかったら黙っててくれない?」
容赦ないアーニャの言葉に、青くなり黙る酔っぱらい騎士。筋力を下げただけの意識のある2人の騎士も顔を青ざめさせ怯えている。
「ありえない、王宮で女中をしていた女がなぜこんな力を」
「いや、聖女さまはこれを見抜いていたのか」
「役目を果たせず申し訳ありません」
顔を青ざめさせてはいるが、あの聖女への忠誠心は健在みたいだ。何がいいんだろう、騎士たちはあの冷たい聖女を見てるのにな。
「アーニャすごいね、日本から来たのに平和ボケじゃないっていうか、容赦ないっていうか」
殺すなんて言葉があっさり出てきたことに驚く。
「ケンジ、私はこの世界に5年もいるのよ。王宮から出たことはないけど、お父さんやお母さんから話は色々聞いてるの。甘い考えじゃすぐに死んじゃう世界なんだよ。そもそも自分を殺そうとした者に情けなんてかけてたら、命がいくつあっても足りないしね」
なるほど、この世界では甘い考えじゃダメってことね。でも俺は殺すってのにはちょっと抵抗があるな。元の世界での仕事も殺すの反対方向だったし。
とりあえずスキルで観察して全員呼吸があることはチェック済みだ。投げられてしこたま頭を叩きつけられたリーダー格の騎士あたりは脳挫傷になってても不思議じゃないけど、できれば殺さずに済ませたい。
「でも、縛り上げるって選択肢でもいいんだよね」
「問題ないわ、殺したところでどうせ時間がたてば気付かれるんだから、時間さえ稼げればいいの、でもここの倉庫、縛るものなんてほとんどないよ」
「それなら、俺のスキルで動けなくするよ」
俺はマーニャに酔っぱらい騎士を押さえつけてもらう。
「やめてくれ、殺さないでくれ!」
「殺しはしない、しばらく動けなくするけどね」
そう言って頭に触れる。どう操作したらいいかな。眠気……あたりでいけるか?
< 眠気 0 >
あ、出た。じゃぁこれを操作してみるか。
( 体調操作 眠気 全開 なるべく長く! )
恐怖で全身をこわばらせていた酔っぱらい騎士が、糸が切れたように脱力して寝た。
< 眠気 10 操作中 持続時間 1日 >
「お、成功だ、丸一日は寝っぱなしになるはず」
「なんでもありね、さっき騎士がいきなり倒れたのもちょっとびっくりしたわ」
「脱出前に、もし戦うことになったらって考えてたんだ。上手くいって良かったよ」
「問答無用に体調を操作されるとか怖いスキルね、でも助かったわ」
「俺がなにもしなくてもアーニャが勝ちそうに見えたけどね、とりあえず全員眠らせるね」
そうだよな、戦うこともなく相手を戦闘不能にできるなんて確かに怖いスキルかも。でも連続で使えなかったのは気になる。この先このスキルで戦うにしても、そういう部分はきっちり把握しとかないと危ないかも。アーニャにも言いたいけど、まずは騎士を眠らせよう。
俺は騎士全員を < 眠気 10 持続時間 1日 > の状態にしつつ、ついでに連続使用の実験もやってみた。結果は一度スキルを使うと5秒くらいのクールタイムがあった。
これ結構大きな弱点じゃない?
「よし、全員眠った」
「そのスキルって、何度も使って疲れたり魔力が減ったりはしないの?」
「え? 魔力? 俺にもあるの?」
「ああそっか、ケンジって生活魔法も覚えてないもんね、まぁそれは今度私が教えてあげる」
「俺にも覚えられるってこと?」
「生活魔法は誰にでもできるよ。私は教えられてすぐにできたからケンジもすぐ覚えると思うよ」
そか、誰にでも使えるんだ。ああ、だからここに火をつける道具とか無かったんだ。水とかも出せるのかな……あ! もしかしてトイレを流すのも自分の生活魔法でやるのが当たり前だったりする? 俺、牢屋に居た時、一度もトイレ掃除してもらえなかったのが結構苦痛だったんだけど、この世界が生活魔法前提で設備を作ってるなら自分で流せってことだったのかも。
おれ、もしかして牢から出た時、凄く臭かったのでは? なんか恥ずかしくなってきた。
「生活魔法、早めに教えてほしいかも」
「じゃぁ、色々落ち着いたら最初にやることは生活魔法の練習だね」
臭かったかは聞くまい。トイレを流さない残念な男にならないよう早く覚えよう。
しかし今はそれよりも今後のことを考えてスキルのことを伝えておこう。
「アーニャ、俺のスキルなんだけど、今試してハッキリしたことがあるんだ」
「なに?」
「どうも一度使うと5秒くらいクールタイムがあるみたいなんだ」
「クールタイム?」
あ、クールタイムが伝わらない。そか俺的には当たり前の表現だったけど、アーニャは5年前に15歳でこっちの世界だし、そもそもゲームとかしない子だったのかも。
「えとね、スキルを使用して、その後もう一度使えるようになるまでの待ち時間が、5秒くらいあるみたいなんだ」
「そうなんだ」
俺が思ったほど気に留めてくれない。うーん、対戦ゲームとかだとクールタイムの管理が勝負の分かれ目になったりするから、結構重要と思うんだけどね。でもアーニャの戦闘ってゲームとかで言うと物理特化っぽいから関係ないっちゃ関係ないのかも。
「便利なスキルだけど、その待ち時間が弱点になると思うんだ、例えば俺に10人くらいの騎士が一度に襲いかかってきたら、1人ずつ筋力下げたり眠らせたりしてる間に倒されちゃうでしょ」
「ああ、なるほど」
よし、事の重大さが伝わった。完全脳筋ではないみたいでよかった。
「そもそも俺って戦いの実戦経験なんてほとんどないから、スキルでアーニャの援護はできそうだけど、そういう欠点があること、知っといてね」
「わかった。じゃぁ戦う必要がある時は私が前衛で、ケンジがスキルで援護ってことね」
「うん、なんか女の子に前衛させるの申し訳ないけど、とりあえずそんな感じで頼むよ」
「いいよ、むしろ私は前衛しかできないし、喘息のこととか世話になるしね」
やっぱり脳筋か!
「あと、生活魔法と一緒に戦闘訓練もしようね。私が鍛えたげる。そのクールタイムってのが弱点なら、待ってる時間も戦えるように鍛えたら無敵じゃない」
実にシンプル思考。言いたいことは凄く分かるけどね……まぁ必要なことか。
俺たちは、一通り状況を整理して次の行動に移る。騎士たちとの戦闘騒ぎは強い雨のお陰か周囲にまで広がることはなく、追手がすぐ来るようなことも無かった。それでも長居してたら何があるか分からない。
「じゃぁさっさと目的地のギルドまで行くよ。なるべくメインストリート以外を通るからついてきて。そこから先は状況次第。お母さんにもそこまでしか教えられてないの。あとはギルド長が信頼できる相手であることを祈るしかないわ」
アーニャはそう言うと静かに倉庫の扉を開き、俺たちは雨の町へと駆け出した。
初めて投稿してます。読む専門から書き手になると面白いものを書くことの難しさがわかりました。でもそれ以上に書く楽しさも知りました。自分の発想の乏しさを痛感し、表現の少なさを噛み締め、類義語を調べたりしながら頑張ってます。そんな私に評価やブックマークをいただけると嬉しいです。よろしくお願います。




