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048 森を通ってミラ・カーフ王国側へ


「メイガスさん、なんでこんな所にいるの?」


 ロナが聞く。


「面白い人間が魔王の代行をしておると聞いて行ってみたら、そこのサユリに鎌を消されてしまったからのう。魔族の町にも行こうと思ったんじゃが、どうも鎌がないと恰好がつかん。それで同類を吸収して鎌を育てておったんじゃよ」

「この辺り、やたらいますもんね」


 どうやら、メイガスは魔族だが、同類の魔物を吸収することができるらしい。のんびり数年待てば魔素を吸収して鎌も復活するが、町に遊びに行きたくて早く復活させたいから地道に同類の吸収を行なってるとのこと。

 この人、随分と世捨て人してたらしいけど、人前に出る時には恰好を気にするらしい。居るよねそういう人。人前だけビシっとしてたいって人。


「お前たちこそ何をしておるんじゃ? リゲルが帰ってくるのを待っておったのじゃないのか? それとも魔王になるのはあきらめたのか?」


 その質問にはサユリさんが答える。


「ええ、魔王になることはあきらめました。というか、新魔王がそちらのケンジです。今は魔王と一緒に王国との和解に向かってます」

「なに? その者がリゲルを倒しただと? どう見ても強そうに見えないが、こいつもお前たちと同じ物理特化の者なのか?」

「違いますよ。でも死神さんには天敵かも。私のお祓いよりずっと強力なスキルを持ってますから」

「な!」


 死神が俺から距離を取るように遠ざかる。


「では、先程から突然消されるように倒されていた者どもは、こやつの力か、とんでもないのう」

「私の未来の旦那様ですからね。すごくて当然です!」

「違うから!」

「まぁいい。ワシはお前たちと対立するつもりはないから消さんでおくれよ、あとこのあたりの者どもはワシが鎌の養分とする。ワシが一緒に行くから全て任せてくれ」


 メイガスが同行することになった。森を進むのが随分と楽になる。現れた幽霊系の魔物を正に死神が魂を狩るかの如く鎌へ吸い込んでいく。そして鎌が徐々に大きくなる。今は背丈の半分くらいだ。


「お母さん、私にも幽霊を倒す方法ってあるかな。普通の攻撃は透きとおるんでしょ?」

「そうね、定番の方法としては魔力が付与された武器を手に入れるってところかしら、後は修業して霊体にも効果のあるスキルを手に入れられることを祈るしかないわね……ケホ、ケホ」

「そっか……」


 アーニャと話すサユリさんやっぱり喘息の咳してるな。


「その咳、アーニャと同じ喘息ですよね」

「あ、そうだお母さん、ケンジなら症状すぐに消してくれるよ。ケンジお願い」


 とりあえず観察する。


 < 気道狭窄 2 > 


 やっぱり軽く症状でてるな。消しとこう。


 ( 気道狭窄 0 )


「治しました」

「あら! スッキリだわ」

「でしょ、もうね意味わかんないくらいあっさり治るんだから」

「凄いわね、ケンジのスキル」

「観察できる体調はなんでも操作できるみたいです」

「凄くて怖いすきるね。ケンジが悪人だったらどうなってたことか」

「どうって?」

「アーニャ、あなた今まで何もなかったの?」

「何もって?」

「ケンジがその気になれば、あなたを動けなくしてなんでもできるってことよ?」

「あ……」


 アーニャがちょっと赤くなってる。何を想像したんだ。いやそういうことを想像したんだろうけど。


「いや、そんなことしませんし! ね、アーニャ、俺、何もしてないよね」

「してない」

「そうなの? じゃあケンジは本当にいい人みたいね。もしそのスキルをマクシムやリゲルがもってたりしたらって想像したらぞっとするわ」

「いやいや、二人とも悪い人じゃなさそうですけど」

「そう? まぁ何かしたらすぐに私が首を刎ねてあげますけどね」


 リゲルはともかくマクシムさんは過去に何があったんだろう。浮気でもしたのか?


「でもアーニャはしばらくケンジと離れられないわね。私たちに回復魔法使える人いないし、回復魔法でもこんなにスッキリさせられる人は少ないわ。多分喘息って病気の仕組みがこの世界の人には分からないだろうし、単純に回復させるだけじゃアレルギー症状は治まらないんでしょうね」

「あ、それは大丈夫ですよ。俺は今のところ明確な目標とかないですし、一応元の世界に帰る方法は知りたいけどすぐに帰りたいって感じでもないんでしばらくアーニャと一緒に行動するつもりです」


 さすがにアーニャが好きなんで一緒に居たいとか母親には言えない。


「そうね、そうしてくれると助かるわ。私もたまに治療してもらいたいし。それに同じ日本から来た者同士だし、助け合ってやっていきましょ」

「はい」


 メイガスが同行してくれたおかげでスイスイ進むことができ、正確には分からないがとっくに王国側の森へと進んだみたいだ。


「さて、吸収できる者も減ってきたし、ワシはそろそろおいとましようかのう」


 大柄なメイガスよりさらに大きくなった鎌を満足げに見ながら言う。まぁ見ながらって言ってもメイガスの顔は頭蓋骨で目は金色に光ってるだけだから本当に鎌を見てるのかは分からない。しかし目の色が感情で変化しているのは分かる。金色はきっと満たされた気分の色なんだろうと思う。幽霊系の魔物を吸収する時は赤く不気味に光ってた。


「メイガスさん、急いでないなら一緒に行きませんか?」

「ワシが行ったら人間どもが死神が来たと大騒ぎになるんじゃないかのう?」

「まぁそうでしょうけど、メイガスさんみたいな正に魔族! 死神! って感じの方が一緒の方が、魔族が人間とともに行動できる存在だって分かってもらいやすいと思うんです。ほら私って羽がある以外は人間とそう変わりませんし、人間の価値観ではかなり可愛らしい容姿なので舐められると思いますし」


 可愛らしい容姿って自分で言うんだ。可愛らしいけど。まぁ魔族的にはどうなのかとか、それこそ価値観を理解するほど付き合い長くないから知らないけど。確かにロナが元魔王の妹ですって言って交渉しても説得力に欠けるかもしれない。魔法の一つでもぶっ放せばすぐ理解してもらえるだろうけど、それよりも明らかに魔族って姿のメイガスが一緒に行動するほうが理解させやすいかもしれない。


「まぁ久しぶりに人間の恐怖する顔を見るのも一興か」

「はい、怖がらせたうえで、ちゃんと人間と仲良くしてることも示してくれると嬉しいです」

「わかった。魔族の町に興味が出たところだ。200年ぶりに人の世に行くのも面白かろう」


 メイガスも一緒に行くことになった。なんか王都が大混乱になるのが目に浮かぶな。絶対軍隊に囲まれるよな。穏便に王と聖女に会えるのか心配になってきた。


 俺たち魔王一団はミラ・カーフ王国側に来てから、森の浅い場所を通る。魔王って俺のことだけどまぁ呼びやすいから魔王一団でいいだろう。それはともかくアルドラ皇国と違って討伐が合理的に行えていない王国のことを考慮して森の浅い部分を討伐しつつ進む。と言っても戦闘は随分と少なくなった。

 魔族の町へ向かう途中と同じで、魔物がロナやメイガスの魔力に怯えて逃げてるみたいだ。なんでアルドラ側では襲いかかってきてたのに、こっちでは逃げるのか聞いてみる。


「それはですね、逃げる場所があるからですよ。アルドラ側では、人間側と魔族側で協力して挟み込むように討伐することで、魔物の生息範囲を狭めてます。なのでそこを貫くように移動すれば、魔物は逃げようがなく襲いかかってくるしかない。ですがこちらでは森の奥に逃げ放題です。だから私やメイガスさんの魔力を感知し先に逃げてるんだと思いますよ」

「じゃぁ魔物の問題ってロナやメイガスが定期的に往復してれば解決?」

「そんな簡単にいきませんよ。通り抜ければすぐに戻りますし、私の体力がもちません」

「はは、聞いてみただけだよ」


 実際ロナは体力がない。森を歩くのはかなり大変みたいで、ちょいちょい飛んで移動している。飛ぶのは魔力の消費が大きいって話だったけど、魔素の多い森の中では回復も早いので体力温存が優先らしい。

 そんなロナが、皆を止める。


「あ、魔族です。私が知らない方みたいです。メイガスさんは誰か分かりますか?」

「ん? わしにはまだ感知できぬ。ロッサーナは感知範囲がワシより広いようじゃな。大したもんだ」


 そのまましばらく進むと、メイガスが反応する。


「魔族……の使い魔じゃな」


 パタパタパタ


 蝙蝠のような羽をはやした目ん玉と口だけの何かが現れた。特に攻撃しようとする様子はなく俺たちの周りを飛び回って観察してるようだ。不気味な姿だが、コミカルにも見える。


「メイガスか、久しいな」

「誰じゃ? ワシを知っておるということは、かなり歳の魔族だな」

「ヴァンだよ」

「お主、生きておったのか。随分と姿を見ておらぬ故、死んだのかと思ったぞ」

「はは、俺もお前も死にたくても死ねないだろ」

「そうっじゃな、まぁ今はワシを消せえる者と一緒に行動しておるが」

「ん、そこの若い魔族か? それとも人間?」


 使い魔とメイガスが話してる。がどうやらこれは通信? 使い魔を通して本体と会話してるって感じだ。


「この男じゃ」


 イビルアイが俺をみて目を細める。俺の力量を観察してるって感じか。


「なんだ、力も魔力も戦う人間のそれではないではないか」

「スキルじゃよ」

「ほほう、ということは召喚された者か、そっちの二人はよく知ってるぞ、1年前まで今の勇者と同じように何度も魔族に挑戦してきて追った者であろう」


 え? 勇者を見たことある? それって岡田さんのことだよね。


「岡田さん、いや勇者ハヤトを見たんですか?」

「ああ、このあたりの若い魔族と争っておったわ」

「無事ですか?」

「いい勝負をしてたぞ。奴の持つ剣は魔族にとってなかなか骨の折れる武器だからな。あれもスキルかもな」


 そうか岡田さん無事だったか。良かった。自分たちのことで精いっぱいでほとんど考えてなかったけど、岡田さんはきっと王国の意向で何度も討伐に行かされてるんだろうな。魔族と戦ってたってことは、森の奥へ進んでるってことだから、きっと強くなってるだろう岡田さんはともかく兵士の消耗とか激しそうだな。

 この世界の軍隊の構成がどんな感じなのか知らないけど、冒険者を見てきた感じだと魔法使いってそんなに多くない存在だから、俺たちがここまで来るときに遭遇した幽霊系の敵とかが沢山でたら苦労しそう。


「以前そちらを何度も攻めて申し訳なかった。今は魔族と人間の共存を考え魔王とその関係者に協力を得ている。今、交渉のために王都へ向かっている途中だ」

「それはまた珍しいことを考える人間だ。王国の人間は魔族や魔物を目の敵にしているがそれをどうにかできると思っているのか?」

「なんとかしないと、人間の被害が増えるばかりだからな」

「はっはっは、分かっておるじゃないか」


 魔族から見れば、不十分な戦力で魔物の森で戦力を擦り減らし、魔族を倒すこともできずに戻っていく人間は愚かに見えるのかもしれないな。これは岡田さんの問題じゃなくて王国が冷静に判断できていないからだと思う。


「まぁ俺には関係ない。最近ちょっと賑やかだからこうやってあちこち見て回ってるが、どうなろうと知ったことではない」


 じゃぁこのヴァンって魔族が敵対してくるってことは無いと思っていいのかな。


「だが、この先の若いのは魔族のくせに熱い奴でな、人間を憎んでおるぞ」

「立ちふさがるなら押し通すまで」

「ほう、さすがは何体も魔族を切り捨てた男だな」

「あの時は、討伐が目的だったが、今回はできれば争いたくないと思っている」

「まぁ俺としてはどっちでもいいし、魔族が殺されたところでなんとも思わない。終るのもわるくないなと思う程度だ」


 あ、ここにも世捨て魔族がいた。長生きしすぎるのも考え物だな。使い魔使って情報収集してはいるみたいだけど、仲間殺されても気にもならないなんて……あ、そもそも魔族の仲間意識があるのかも知らないな。ロナみてると人間っぽくて俺たちと同じように感じるけど、メイガスやこのヴァンと話すとこっちが本来の魔族の思考のような気もする。


「まぁ俺は見てるから好きにやってくれ」


 そう言い残し使い魔イビルアイは森の奥へと飛んでいった。



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