047 メイガス
翌朝、サユリさんとロナを残してマクシムさんとアーニャと俺は町へ買い物へ出かけた。森の中を野営しながら移動となるため、その道具を手に入れる必要がある。と言っても必要なのは天幕と食料だけだ。生活魔法が使えるこの世界では野営準備が簡単でいい。
「へー、森を抜けて王国までいくのかい、そりゃ大変だな。魔族と王国の問題が解決してアルドラとの交流が再開するのは商人としてはありがたい。サービスしとくぜ」
そっか、そういえば俺たちがこっちに来る時、国境封鎖しようとしてたんだったな。もし街道で進むとしたら、あそこからいきなりもめることになるのか。森で進むのが正解だな。怖いけど。
だけど魔王城から魔族の町まで、この前はあんなに魔物が出てきたのに、今日はさっぱり出てこない。魔物がマクシムさんを避けてるってのは本当みたいだ。魔物に避けられるっていったいどれだけ魔物を倒してきたんだろう。
昼前にサユリさんとロナが合流した。
「私、完全に荷物持ちの運び屋なんですけど」
なんかロナがちょっと不満をもらす。
「家にあった食材全てを料理して、ロナの異空間収納に入れてきました。急ぐ時はそれを出せば、あったかい料理が食べられますよ。でも節約のために普段は現地調達ですよ」
なるほど、そのために魔王城に残ってたのね。
「ロナの異空間収納って、温かいまま保存できるんだ。便利だね。野営じゃ大雑把な食事になるからすっごい助かると思う」
なんとなく可哀想に見えたから声をかけてみたらパッと表情が明るくなる。
「そうでしょ。私をお嫁さんにしたら旅の途中でいつも出来立てお料理が食べられますよ?」
「出来立て料理は魅力的だけど、結婚はちょっと」
「んー、でも評価アップですね。私がんばります」
意外とめげない努力家のようだ。そもそもなんで俺なんだろう。あれか、外国人に憧れる少女的な奴か? そういう年頃だったりするのか? あ、ロナって俺よりずっと年上だったな。見た目だけ少女。
「ケンジ、実はロナにちょっと傾いてきたりしてる? ロナ可愛いもんね」
アーニャがなんとなく鋭い目でこっちを見て言う。
「いやいや、出来立て料理を保存できるとかありがたいなって素直に思っただけだよ」
俺の気持ちがアーニャに向いてるのは間違いない。男だから、可愛い子見れば可愛いなーって目を奪われることはあるけど、それと本命への好意は全然違うぞ。ってアーニャって恋愛経験なさそうだし、そういう男心ってのは分かってもらえないかも。
「よーし、全員揃ったし、そろそろ出発するか。ここらは俺とサユリの縄張りみたいなもんだから、しばらく大型の魔物が襲いかかってくることはないだろうが、知性の低い奴は向かってくるから一応注意しとけよ」
俺は気になったことを聞いてみる。
「あのー、魔王代行のマクシムさんや、一応魔王の俺がここの魔族たちに説明とかなしで出発していいんですか?」
「あー、一応何人かの魔族には説明してるから大丈夫だろう。ここは人間と友好的にいこうって奴が何十年も前から集まってる場所だからな。心配ないぞ」
そっか、そういう場所だったな。自由にバラバラに散って好きに過ごす魔族が人間との交流のために集まって町になった場所か。そういう場所なら何かあっても魔族たちが人を守ってくれそうだな。
俺たちは魔族に対して何か宣言したり、俺の魔王就任を報告したりすることもなく出発した。ほんと魔族って適当に生きてるんだな。俺達の様子に何をするのか聞いてきたのは人間だけだもんな。その話を聞いてた魔族が話に入ってきても、そりゃご苦労だな、ガンバレヨー的な対応だもんな。
寿命や敵の脅威がない存在になると人生に張り合いが無くなるのかな。リゲルみたいな好奇心が強くて人生楽しもうとしてる魔族が実は数少ない健全な魔族なのかもしれないな。何が健全なのか基準がわからないけど。
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3日後、もうすぐ王国領と思われる森の中。討伐を兼ねた移動は問題なく続いている。
トス! トス! トス!
スパン! スパン!
ズバ! ズバ!
遭遇した魔物と先頭で戦闘するマクシムさんとサユリさんとアーニャの様子を俺とロナは後ろから見ている。この3日間ほとんど戦闘の時はこんな感じだ。
「アーニャ、魔物には遠慮なんて必要ありませんからね。知性を持たず魔素だまりから湧いてくる魔物なんていちいち気にして倒してたらキリがありません。訓練用の動く的だと思ってサクサクやりなさい」
「人を襲ってたのを見て憎んでるのもダメなの?」
「そうですね、憎い感情はあるでしょうが、魔物はそういう存在として生まれてくるのですから憎んでも解決しません。魔素だまりを消す方法があればいいのですが、それは魔族の方も知らないようですし、知ってても魔素が栄養になる魔族が教えてくれるとも思えません」
「そっかー。そうなると、アルドラ皇国みたいにしっかりした駆除の仕組みを作るしかないんだね」
「そうです。ムキになって魔物を滅ぼそうとしても無駄なのです」
と世間話をしながらも、スパンスパンと低俗な魔物を切り捨てるサユリさんとアーニャ。なんとも恐ろしい母娘であり、頼もしくもある。
だけど一番楽しそうなのはマクシムさんだ。三又の槍で手当たりしだい魔物を突きまくってる。なんだろう、本当に練習用の的でも相手してるみたいだ。そしてその武器にも驚きだ。あの槍、最初にマクシムさんを見た時になんだろう? って思った50cmほどの棒だ。それが状況に応じて剣になったり槍になったりしてた。聞くとマクシムさんが修業して得た<武具王>というスキルらしく、武器の形状を自由に変えられるという、これまたとんでもないスキルだった。武術と武器が好きすぎるマクシムさんならではのスキルって感じだ。
さらにサユリさんにも身体強化以外のスキルがあった。
ちょどそのスキルを使う相手が来た。ゴーストやリッチやレイスだ。フワフワ漂いながら腐った顔で恨めしそうにこちらを見る。そして遠距離からの魔法だ。
しかしそれをサユリさんが薙刀で切る、いや払う。放たれた火球も氷玉も霧散する。払った薙刀に触れてなくても払った周辺の火球や氷玉が霧散する。
このスキルは<お祓い>だ。サユリさん実家が神社で神主の娘だったらしく、幼いころから神事の手伝いをしていたとのこと。元の世界でのお祓いは儀式にすぎなかったが、サユリさんはこの世界に来てから魔力はほとんど持たないが、魔力を感じることはできたらしく、それを切れないかと試しているうちに魔を「祓う」ことができるスキルを得たらしい。
うん、元の世界での経験がスキルに関連してるのは間違いないけどなんでもありだな。そうなると俺やアーニャも頑張れば何か追加スキルが手に入るんだろうけど、俺の場合はなんだろう。趣味は色々あったけど、これが一番ってのは無いんだよな。アーニャも武術の訓練以外趣味があるって話を聞かないしマクシムさんみたいに武器マニアって感じでもない。
「ケンジ、ロナ、これはあなたたちお願いね、ケホ」
そう言ってサユリさんが下がる。
あれ? サユリさんアーニャに喘息の症状が出た時と同じ咳をしてる。もしかして母娘で喘息? あとで確認して症状消すか。
ゴーストやリッチは魔法が無駄と分かるとフワフワとこちらへ近づいてくる。実体を持たないこいつらは、こっちからの物理攻撃は当たらないが、あっちからは首を絞めてきたりできるずるい奴らだ。と言ってもロナの魔法攻撃は当たるし、俺にもできることがある。
( 魔力 0 )
シュン……と効果音が聞こえそうな感じにリッチが消える。そうこいつらは、実体を持たない魔力で形作られた魔物だからね。魔力を無くせば消えるんだよ。クールタイム3秒待ってと……。
( 魔力 0 )
シュン……もう一匹消す。
「なんか、戦ってるって感じがしないね。傍から見るとリッチが勝手に消えてるように見える」
「ケンジは一般的な強さの概念の外にいるからね」
シュバン、ビギン! バリン、バラバラ……
ロナが氷結魔法でレイスを凍らせ粉々にしながら俺のスキルの感想を言う。
アーニャはこういうのを見慣れた様子だ。
「そうだな、サユリも幽霊を払うように消したりできるが、範囲が薙刀の届く範囲とちょっとって感じだ。ケンジのは50m以内で念じるだけとか、ちょっと幽霊も気の毒なスキルだよな。あの幽霊の王みたいな奴が来たら泣くんじゃないか? なんだったっけサユリ」
「私が戦った死神さんのことかしら? 名前なんでしたっけ」
サユリさんが首をかしげる。レイスやリッチの親玉みたいなのがいるのかな。それって魔物? 魔族?
「あ、それって、メイガスさんですね。 私と同じくらい魔力があって実体を持たない魔族です。結構年配の魔族で温厚というか無気力な方なんですが、会ったんですか?」
「あなたがリゲルを探しに行ってる時に、魔王城に訪ねてきて私と戦ったのよ」
「倒しちゃったんですか?」
「いえ、死神さんの魔法攻撃と鎌を祓って消したら降参してくれました」
「へー、あの人が自分から来たんだ。やっぱりお二人は魔族にいい刺激与えてますね」
メイガスという魔族は見た目がそのまんま鎌を持った死神で、実際若い頃は人間を襲ってたこともあるらしく死神と恐れられてたそうだ。その死神メイガスも300歳を過ぎたころから色々やる気を失って魔界の森のどこかで何もせずぼんやり過ごしていたらしい。
そう話してる声を後ろに聞きながら、次々現れてくるリッチ・レイス・ゴーストを倒していく俺とロナ。実は俺、この幽霊系の魔物の区別がついていない。強さや攻撃方法など特徴があって名前が分けられているらしいけど、俺としては魔力を0にして消してるだけだからどれも同じだし、見た目がどれもぼろ布を纏った腐りかけた人型か骸骨なので区別がつかない。笑
数は多くないが進むときりなく湧いてくる。さすがに気がめいってきたところで、幽霊系の魔物が急に消えた。というか目の前に見えてた者までスキルを使うこともロナの攻撃を受けることも無く森の奥へ吸い込まれるように消滅した。
「あれ? なんだろうこの寒気」
急に辺りの気温が下がったような感じがする。
「我が栄養分が次々に消されておるから様子を見に来てみればサユリか」
「あ、噂をすればメイガスさんです」
「おお、ロナも一緒か。これはまた何をしておるのだ?」
そこに現れたのは、真っ黒な上等なローブから骸骨頭だけを見せる死神だった。ロナの反応からたった今話題になってた死神メイガスだと分かる。しかしイメージした通りの死神ルックスだけど鎌が違う。小さい。身長より大きく巨大な鎌をイメージしてたのに、手に持っているのはホームセンターで売ってるような小さな草刈り鎌だ。
そんな死神メイガスが、俺たちの前に立ちふさがった。




