044 再会
アーニャと同じ髪の色をした大男が手を振りながらこちらへ向かってきた。あれがマクシムさんか。予想を裏切り優しそうな見た目ですっごい笑顔だ。娘との再会だから笑顔は当たり前か。それにしても大きいな。身長180は余裕というか190くらいある? そして恰好がまたラフだ。と言うかこの服装、アーニャの寝間着と同じだよな。黒いTシャツに黒い短パン、真っ黒な体操服って感じだ。もしかしてこれアーニャの家のユニフォームだったりする? 他には何も身に着けていないが、手に武器なのか50cmほどの棒を持ってる。棒と言うかあの模様は刀の柄? 柄だけ? あれがマクシムさんの武器?
しかし、さっきまでわんさか出てきてた魔物が綺麗に消えたな。これってマクシムさんのお陰なのかな。でも魔物って魔力を感知して弱い物を狙ってるって話だったよね。たしかマクシムさんって生活魔法が使えないって話だから、俺と同じかそれ以下の魔力だろうけど、なんでだろう。その後ろからロナが来るようすもない。
「お父さん!」
「アーニャ!」
感動の再会か、やっぱりハグか? ロシア人お父さんと、ロシア日本ハーフの美少女の再会の喜びは、やっぱりハグだよな。絵になりそう。俺もハグされたい。もちろんアーニャにだけど。
アーニャもマクシムさんへ駆け寄る。
って、ちょっとそれ駆け寄るって感じじゃないよね、踏み込みに見えるんだけど。
低重心でマクシムさんに向かうアーニャが鋭く右の拳を突き出す。
バシィィィィ!
うお! すっげー音!
その拳をマクシムさんが右の手のひらで受け止める。
いやあれ受け止めたら手が砕けそうなんだけど。大丈夫か?
「お、俺たちが居ない間に弱くなってんじゃないかと思ったが、しっかり鍛え続けてたみたいだな」
「そりゃそうよ。もしかしたら一人で生きていくことになるかもってね」
「俺たちが死んだとでも思ってたか?」
「まさか、そう思ってたらここにはこないわ」
「そうだな……よくきた、会いたかったぞ」
マクシムさんが優しくアーニャを包み込んだ。アーニャもマクシムさんをしっかり抱きしめている。
やっぱり絵になるな。
しばらくお互いを確かめるようにハグしていた二人が離れる。そしてマクシムさんの目がこちらを向く。
「君は?」
「俺はお二人と同じで、日本から召喚された者で、松本健治っていいます」
「ということは、君が新たに召喚された勇者ってことか」
「いえ、勇者じゃないです。勇者の召喚に巻き込まれた一般人かな。召喚されてすぐに投獄されたんですが、そこで会ったアーニャさんと一緒に脱獄してここまで一緒に来ました」
「それは大変だったな」
「はは、大変でしたね」
「ケンジのスキル、凄いんだよ。私一人だったらここまでこれなかったかも」
「ほう、アーニャが認めるってことはかなりのもんだな。まぁここで色々きくのもなんだ、家に戻ってこれまでのことを教えてくれ」
俺は親子の会話を聞きつつ魔界の奥へと進んだ。久しぶりの親子の会話は意外と普通で、お互いの無事を確認し合っていた。もっと感極まった状態が続くかと思ったけどあっさりしてるな。やっぱアーニャって精神面もしっかりしてるっていうか、この家庭がこういうノリなのかもしれないな。
5分もせずに家に到着した。ログハウスだ。結構大きくて、何室も客間とかありそうだからロッジって感じだな。
「これが今俺たちが住んでる家だ。そしてこれが魔王城だ」
「「え?」」
「はは、驚いただろ。魔王の家がちょっと大きなログハウスとか、想像の斜め下だろ」
斜め下って、確かに想像する魔王城ってのから見ると随分とこじんまりとした感じですが。てかこの中に魔王が居るってこと? そんな気楽に一緒に住めるの?
「いろいろビックリだけど、とりあえずここが魔王城なのね、なんか魔王のもとに来たって緊張感がまったく出てこないわ。まぁこの魔界に来るまでも、ロナと一緒だったからさっき襲われるまではまるで魔界って感じがしなかったけど」
「ああ、やっぱり襲われてたんだな。お前も俺たちと一緒で魔力少ないからな。ロナがお前たちから離れて知らせに来た時、きっと襲われてるんだろうなって思って迎えに行ったんだ」
「でもお父さんが現れる直前に魔物が皆慌てて消えていったんだよね、あれってお父さんが何かしたの」
「今日は何もしていない……が普段から技の練習台に魔物を倒してるからな。最近では魔物が俺の前に姿を現さなくなっちまったんだ」
「魔力を感知して襲ってくる魔物とは言え、毎日同じ極小魔力の人間が何度も何度も襲いかかってきてれば、関わっちゃ命がいくつあっても足りないって学習しますよ」
ロナがロッジ、いや魔王城の二階からフワッと降りてくる。
「ごめんなさい、ここでのマクシムさんたちの様子を見てたから、私が離れたら魔物が襲ってくるの忘れてました」
てへぺろ~
自分の額を拳骨でコツンと叩きながら舌を出すロナ。
おいおい、可愛いじゃないか! じゃない、俺はめっちゃ焦ったからな。前以外はアーニャが対処してくれてほとんど見る余裕も無かったけど、すっげーおっかない魔物ばかりだったからな。
「ロナって意外とドジなのね。あれって普通の人間だったら絶対食べられてたわよ」
「はは、そうだと思います。でもアーニャさんやケンジさんってこっち側の人でしょ?」
どっち側だよ。少なくとも俺はアーニャみたいに戦闘大好き、常に備えて鍛えてますってタイプじゃないぞ。今でこそ必要だと思ってそれなりに頑張ってるけど。
「そうかそうか、お前ら無傷だもんな。実力的にはS級は確実にあるってことだな。まぁアーニャは俺が鍛えてきたんだ。当然だろう。しかしケンジだったな、君はこの世界に来て間もないのに、なかなかやるじゃないか。失礼だがぱっと見そう強そうに見えないが、どんな力を持ってるんだ?」
さすがアーニャのお父さん、あっさり実力を見抜かれた。スキルだよりだって。
「あなたたち、私をのけ者にしないでくださる? 食事の準備をしてますから中に入ってください」
あ、和風黒髪のアーニャだ! 和服ってより袴?
魔王城という名のロッジから、小柄な女性がエプロン姿で出てきた。アーニャとよく似てて、それでいて和風で顔の作りは綺麗系より少し幼い系に傾いてる? アーニャの母親ってことなら若くても40前後だろうけどそうは見えない。小さい割に立ち姿が綺麗で存在感がある。なんだろう身のこなしがやっぱり武術家のそれであって、それでいて柔らかい感じだ。この人がサユリさんか。
「お母さん!」
駆け寄るアーニャ。結構な勢いで抱き着くが、サユリさん難なく柔らかく受け止める。アーニャが頭半分くらい大きいな。サユリさん150ちょっとって感じか? 本当に小柄だ。
「久しぶりね、元気にしてた?」
「もう、元気にしてたじゃないわよ。お母さんたちが居なくなってから1年は変わりなかったけど、新しい勇者が召喚される時、私牢に入れられたんだからね」
「そうだったんだ。ごめんね、私たちが裏切者ってことになってるみたいだもんね。でも難なく脱出したんでしょ?」
「もうちょっと心配してよ。結構大変だったんだよ。牢に入れられる前から対応悪くなってきて、それはいいんだけど、その頃から喘息がちょっと悪くなってきてね、牢に入れられてから寒かったせいか症状悪くなるし、ケンジが居なかったらすっごい苦労してたと思うよ」
「そうかい、そのケンジって人は、あちらの人?」
「そうよ。ケンジ、私のお母さん」
アーニャがこちらに手を振って母親を紹介する。
「ども」
頭を下げる。サユリさんも笑顔で会釈をする。
「とりあえず、皆中へ入ってゆっくりしましょ。食事ももうすぐできるから」
サユリさんの案内で俺たちは魔王城の中のダイニングキッチンに案内された。




