043 追われる戦闘
昼過ぎ、ついに魔族の町へと到着した。結局一度も魔物との遭遇は無しだ。ちょっと歩き疲れただけの快適な移動だったし、思った以上に自分に体力がついていることに気付いた。一番つかれてるのはロナかも。アーニャは言うまでもなく、全然つかれてないみたいだ。
そして町へついて最初に驚くのが、商売をしている人間の多さだ。屋台のような店舗で魔族を相手に食べ物を販売する商売をしている人が多い。中にはシンプルな賭け事をしている店舗もある。さいころを二つ振って、数字の多い少ないを当てるみたいなやつだ。昔マカオで見た、大小ってやつにそっくりかも。
しかし建物は少ない。屋台の数と建物の数が同じくらいって感じだ。いや、もしかしたら屋台の方が多いかも。魔族って家を必要としないって話だから、この家って人間用ってことかな。広く森が切り開かれていて、そこそこの大きさの町がスッポリ入りそうだけど、建物の数とかの規模としては村? これからどんどん人が流入して大きくなる途中って感じかな。
「お、ロッサーナ。帰ってきたんだ。魔王は見つかった? マクシムがそろそろ対戦したいって言ってたぞ」
「大丈夫です。魔王なら戻ってきてますから。こちらは変わりないですか?」
「お? 知らない間に戻ってきてたのか。こっち相変わらずだ、この町以外の魔族もな」
「分かりました。今はマクシムさんたちはどこに居ますか?」
「相変わらず奥の方で訓練してんじゃねーかな。あいつら修行すきだよね。魔族が色々なことに興味持ち始めてるってのに、あいつらは強くなることしか考えてねーよ。今となっちゃあいつらの方が魔族っぽいよな」
「魔族も昔は強さを求めて自分を鍛える者が多かったんですけどね」
町を奥へ歩いていると何人もの魔族にロナが話しかけられる。なんとも普通だ。身体的特徴は様々でリゲルやアマンダのように羽のある者もいれば、角があったり尻尾があったり、真っ黒だったり色々だけど、ロナによると獣人とは違い、基本の形態は人間と同じで、特徴の部分は魔力が具現化して形作ってるらしい。
驚かされたのが、顔が3面ある魔族だ。キンニ●マンのアシュ●マンそのままなんだが、これって実際に目の前で見るとかなり怖いな。夢に見そうだ。ロナに話しかけてきたんだけど、魔力で具現化した顔のはずなのに全部の口から声がてて常にハモってる感じなのはちょっと面白い。
「どうしましょう。急げば明るいうちにマクシムさんたちと会えそうですけど」
「なら、急ごう。アーニャも早く会いたいだろ」
「うん、ロナお願い、案内して」
「お二人とも元気ですね、じゃぁここからは私は飛ばせてもらいます」
「飛ぶの疲れるんじゃないの?」
「魔素が濃い場所だと結構飛んでられるんです。もう足の方がきついです」
「わかった。じゃぁ案内してくれ」
「はい」
魔族の町をゆっくり見るのはまた後でいい。王都を抜け出してやっと目的を果たせる。気がはやるがきっとアーニャはもっとだろうな。感動の再会まであと少しだ。
建物が少なくなり、切り開かれた場所も抜けるとまた森の街道だ。
ちょっと早歩きになるアーニャのペースで進む。その横にロナが地面から1mほど浮いて並んでいる。少し後ろから後を追っている俺には、ロナの足がチラチラするのが気になる。もう少し高く飛んでくれればなんて思っていない。
3時間ほど歩き続けたところで、ロナが言う。
「もう10分も歩けば目的地です。ここまでくれば大丈夫ですから私、先に行って知らせてきますね」
「うん、わかった」
ロナが飛行速度を上げあっと言う間に先に行ってしまった。チラッと見えたのは秘密だ。
「楽しみだね、走る?」
俺はアーニャに並ぶ。アーニャの顔は明るい。もうすぐ感動の再会が見られそうだ。
「ううん、大丈夫……いや、走ろ! ケンジ! 来る! 魔物が来る!」
「え? なに? 大丈夫なんじゃなかったの?」
先に走りはじめたアーニャを追って俺も走る。
ロナがここまでくれば大丈夫って言ってたよね。どういうこと? 今更罠にはめたとか考えられないし、何かの手違い?
「ロナ、大丈夫って言ってたの、魔族基準だよ、多分」
「あ、そっか、俺たちの力って」
「私が一般人程度でケンジが一般人の半分程度だったよね」
「それか! とんでもない魔力のロナが消えて、すっごい貧弱な魔力の俺たちが残った、魔物にとっちゃエサが飛び込んできたようなもんか!」
「この辺りってどんな魔物がでるんだ?」
「そんなの聞いてないよ、でもかなりデカイ気配が」
ガガン、ズザザ
アマンダが言い終わる前に俺にも分かった。複数の音がどんどん近づいてくる。森で戦ったゴブリンが草をかき分けるような音とはまるで違う、小さな気なんてへし折って進んでるような激しい音だ。そしてついにその音の一つが正面に回り込んできた。
「トロール?」
トロールと似た大きさだけど違う。俺はギルドの資料でそれなりに勉強したから分かる。というかめっちゃ特徴が顔に出てる。体の引き締まり方も全然違う。トロールの鈍重そうなだらしない体形じゃない。
「あれ、サイクロプスだよ。棍棒で殴りつけてくるのは同じだけど、全然身体能力が違うし、あの目は正面から睨まれると、体が竦んでしまうらしいから気を付けて!」
「わかった!」
「あ、最近戦闘せず後ろにばかりいたから自分のできること忘れてた! 俺がやる!」
( 筋力 0 )
ズドスン
スキル発動の直後、サイクロプスが前のめりに倒れる。俺たちはその横をすり抜け走る。
「もっと来るよ。どんどんくる。このまま走り抜けるよ。ケンジのスキルは正面だけに向けてね、それ以外は私が対処するから!」
「助かる、スキル再使用に5秒くらいかかるから、覚えといて」
「分かってる」
そう確認しているうちに、また前にサイクロプスが出てきた。そして右側から岩のような鱗を持つ巨大な蛇、左からはこれまた蝙蝠の羽を持つライオンの魔物だ。元の世界の物語で見かけるキマイラやマンティコアとは違い、羽がある以外はほとんどライオンだ。
「うわ! これ凄いな、資料の中で特に強いって書いてた魔物ばっかりだ」
「喋ってたら舌噛むよ」
正面のサイクロプスにスキルを使用しすり抜けることを数回繰り返し、アマンダは追い付いてくるライオンの魔物に対応している。あと10分で到着ってところで、こんなことになるとは、ロナに俺たちの魔力が低いってこと伝えとけばよかった。
と考えながらどのくらい走っただろうか、追ってきていた魔物が突然森の中へ消えていった。
「ふう、よく分からんけど、とりあえず一息つけるな」
「もう目的地ってことかな。それともロナが戻ってきた?」
「水飲みたい」
「荷物ぜーんぶロナの魔法収納だね」
「あー、そうだった」
突然のことで俺もアーニャも結構疲れた。そういえば、魔物に追われながら戦うのって初めてかも。討伐の時と違う緊張感でやたらと疲れた気がする。どのくらいの敵かも分からない相手と戦闘するのってすっごい疲れるな。
「おーい! アーニャー! おーい!」
道の先から男の声が聞こえてきた。大きな声でアーニャを呼んでいる。
「あ! お父さん!」
え? お父さん? マクシムさん?




