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042 魔族の町へ


 森を切り裂くように一直線に続く石畳の道を俺たちは歩いている。リゲルが言うようにロナが居るおかげか魔物の姿は全く見ない。まさに魔除けとなってくれてる。


「拍子抜けするほど何もないわね」


 俺もアーニャと同じ感想だ。ここまで完璧に魔除けされるとは思わなかった。これなら商隊に大勢の護衛なんていらないんじゃないかな。魔族が一人いれば安全に交易できそう。森ももっと不気味な姿なのかと思ってたけど普通。危険な道ってイメージが嘘のようだ。


「魔族って凄いな。ここまで魔物に影響力があるんだ。これなら魔族が一人いれば商隊の護衛なんていらないんじゃないの?」


 俺は疑問をロナに投げかけてみる。


「私やお兄様みたいな魔力特化の魔族はちょっと特別なんです。魔物は魔力を感知しますから、実力の差を知り近づいてこないのだと思います。完全に魔物を寄せ付けないほどの魔力特化は、魔族でも少数です」


「魔族って、魔族っていうくらいだから皆魔力が高いんじゃないの?」


「いえ、そうではありません。人間よりは魔力が高い者が多いですけど、魔族にも物理特化の者がいます。魔力が高いから魔族ではなく、魔素を吸収して生きているから魔族なんです」


「へー、魔族の物理特化かー、どんな戦いかたするんだろう。手合わせしてみたいな」


 アーニャ、本当に戦うの好きだね。そうなるともし俺が戦うなら相手がどんなタイプかよく考えないといけないな。タイプを見抜いて弱体化しないと、予想外の反撃をもらいそう。まぁ戦うようなことにならないように立ちまわるのが一番だけど。


「それに、魔族って気まぐれというか、縛られるのが嫌いですから護衛任務だけをひたすらやるような者はあまりいないと思います。お兄様がいい例です。人間と仲良くするといっても好奇心が先走っちゃって一か所に居られないみたいです。人間社会に比べると魔族の世界って退屈ですからね。過去には退屈だから人間を支配しようかなって考えた者もいましたしね」


「退屈しのぎで支配されちゃ困るね」


「まったくだ」


「寿命が1000年近くありますから、変になっちゃうんでしょうね。そして退屈すぎて1000年生きることも嫌になり、どこかへ消えていく魔族も少なくないんです。人の世界へ行って人として生きているのか、この大陸から離れていったのか、分かりませんが、300歳を超えた魔族で残ってる人ってほとんどいないんです。人化の魔術で魔性を捨てて人になっているって噂もあるんですが詳細不明です。基本魔族は無関心だから、そこを調べようとする者もいません」


「なんだか、世捨て人みたいな種族なんだな。強い力を持ち、長い寿命があり、それを維持するのに魔素さえ吸収すればいいって環境だと堕落しちゃうとか? 人間みたいに生活をよくするための工夫や外敵から身を守るための努力が必要ないから」


 それだけに価値観が違うってことか。魔素が必要だから気ままに魔界を離れて楽しむってなると、食事や生活の基盤を考えたりする必要があるから、怠惰な生活に慣れてしまった者は、もう面倒だから魔界でのんびりってなっちゃうのかも。そんで、退屈が限界にきて暇つぶしに人間支配しよっかなーとか?

 うーん、なんか違う。

 魔族や魔物がなんらかの原因で人間を嫌い滅ぼそうとしている、悪意に満ち溢れている。そういうイメージだったのに、真相は退屈しのぎとは。なんともしまらない。王国には気の毒だけど、やっぱり魔物の被害とか魔族とのいざこざとかは、戦うより和解して不可侵の約束を取り付けるのが良さそうに思えるな。魔族側に人間を害する頑なな意思なんてなさそうだし。


「でも、今の魔王は友好的なんだよね?」


 アーニャが聞く。


「はい、それはもう人間社会が大好きで友好的を飛び越え魔界を人間社会のようにしたいって思ってるみたいです。私もそれに賛成しています。魔界の者がこのままどんどん無気力な者だらけになっていくと、そのうち種族として滅びてしまいそうですからね」


「魔族の社会問題ってところか」


「ですね。でもこの100年は随分と変わりました。少数ですが人間社会で生活する魔族も増えましたし、まず魔族の町ができたのが大きいですね。小規模ですが人間との交流は刺激がいっぱいで活気がでてきました。そしてマクシムさんとサユリさんが来てからは、更に活気づいてます」


「お父さんたち、魔族に受け入れられてるんですね」


「そりゃもう。魔族は強ければ認められる単純な種族ですから。次期魔王はマクシムさんじゃないかって言われてますよ」


「え? 魔族の魔王がお父さん? いいの?」


「フフ、いいんです。強ければ」


「なんとアバウトな」


「でも、次の魔王は決まっちゃってるんですけどね」


「ん? どういうこと?」


「アーニャさんの両親に会えば分かります。楽しみにしていてください」






 魔族の町への道中、魔族について多くのことを聞いた。次の魔王だけは秘密にされたけど、それ俺たちに秘密にする必要があるのかな。もしかしたらこれまでに会ったことある人で、驚かそうとしてるとか? まぁ順調に進めば明後日には魔界だし、もうすぐ分かることか。


 日が沈む前に野営の準備を済ませる。今日はバーベキューだ。肉と野菜を買い込んでロナに収納してもらっている。食事に積極的になってきたロナは、お金は自分が出すからと必要な道具はなんでも揃えてくれた。リゲルと一緒でロナもS級冒険者だったらしく、お金は余っているとのことで、俺も遠慮なく必要な物を要求した。魔法収納がかなり大きい物でも入れられるとしって、作業用にテーブルまで買ってしまった。

 なので今は森の中の街道のど真ん中にテーブルや椅子もならべ、元の世界のキャンプ場なら、金持ちがやってそうな贅沢なキャンプっぽい状態になってる。


「焼いて食べるだけだから、味は好みで塩かタレをつけてね。ロナも試してみるといいよ。あとスープつくるね」


 俺は焼くものを適度なサイズに切る作業を終え、スープも作る。簡単にできる卵スープだ。玉ねぎみたいな野菜も見つけたからそれも入れ、炭火でしばらく煮込んだ。

 炭の火起こしはアーニャの生活魔法だ。うーん便利だ、羨ましい。


「おいしい!」


「こんな場所で、こんなバーベキューとか、なかなかできないね。ロナの魔法収納と魔除け性能に感謝だわ」


 ロナはほんのちょっと塩をかけて食べるのが気に入ったみたいだ。俺からするとやっぱりそれじゃ味無いだろって感じだけど、ロナは十分らしい。どういう味覚してるんだろうな。だけど、これまで食事をほとんどとらず、やっと食べれるようになった人に、急に味の濃い物を食べさせても害があるかもしれないし、まぁこのままで問題ないか。


 俺たちは、これまたロナが買ってくれたテントを設営して快適なキャンプを行なった。こういう夜は筋トレも剣術の修業もせず、のんびり生活魔法の練習だ。激しい訓練後に襲われでもしたら大変だからね。


「魔法陣が安定したら次はその魔法陣にイメージを与えてください。呪文を唱えても良いですよ」


 指導はロナだ。最初は俺の小さな魔法陣に大笑いされたが今は真剣に教えてくれている。


「呪文なんて習ったことないよ。イメージって」


「火なら火の燃える様子と熱さ、水ならその感触や冷たさとかです、そのイメージが魔法陣と反応して具現化します。そこは何度もやって感覚をつかむ必要があります」


「わかった。やってみる」


 水のイメージな。冷たくてーさらさらしててー冷たくてー透明でー。ってなんも反応しないぞ、そんなすぐは出ないか? どんなイメージがいいんだ? 科学的な感じとかはどうなんだろう。

 空気中の酸素と水素を合体させて水を作る。そうだな化学の授業で見た白い丸と青い丸が棒で繋がってるやつ。あんなイメージでどうだ。俺の手のひらに集まれ! 集まって水となれ!


 ジワ、ジワジワ、ポタポタ、サラサラ


 お。おお! 出た! 水出た!


「やりましたね! しかも精霊魔法に近い魔力の動きでですよ! 自然界にある魔素を使う方法です。結構高等な方法を初めての生活魔法で使うなんて。ケンジ、魔法の才能あるんじゃ!」


「え! 予想外に魔法使いの才能あり!?」


「あ、すみません、技法としては高等ですが、やはり基本の魔力が小さすぎるとやれることは生活魔法の範囲かも」


 おい! 一瞬凄く期待させて瞬時に落とすのはやめてくれ!(笑

 まあ魔法については自分の魔力の少なさを知ってるし、期待もしてなかったから、水が出せるようになっただけで満足だ。練習しまくってバケツに満タンくらいササッと出せるようになるぞ!





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