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045 魔王だった!


 こういう光景久しぶりだな。

 案内された部屋は大きなリビングとキッチンが一緒になった感じで、大きなテーブルがありそこを囲むように椅子が配置してある。なんだか会議室の壁の一面が台所って感じだ。俺が見ているのは料理をするサユリさんだ。元の世界で実家にあまり帰ってなかったからな。こうやって女性がエプロン姿で台所に立つ姿を見るのが凄く久しぶりな気がする。アーニャって料理できるのかな。


「ここまで、どんな旅だったのか聞かせて」


 サユリさんが料理をしながらアーニャの話を聞いている。俺と出会った牢に入れられるまではマクシムさんとサユリさんが居た頃とそう変わりがなかったらしく、話は俺と出会って脱出してからの話がメインだ。イメルダさんに助けてもらったこと、護衛任務を請け負いながら移動したこと。戦った敵のこと、俺のスキルのことなどだ。そして話がエルトナでリゲルと俺が戦ったところで遮られた。


「ちょっと待て、リゲルと戦って倒しただと?」


 マクシムさんはそれまでアーニャの話を頷きながら聞いていたが、リゲルを俺が倒したと聞いた途端に驚愕の表情で聞き返してくる。出来上がった料理を運んでいたサユリさんも動きを止め俺を見る。

 そりゃ驚くよな、俺みたいな見るからに戦闘力無さそうな男が、化け物スペックのリゲルを倒したとか聞いたら。実際倒したと言うよりもなにもできなくしたらリゲルが降参したってのが正確だけど。


「本当よ。正確に言うと手も足も出なくしてリゲルが負けを認めたんだけど、勝ったことには違いないわ」

「それって真剣勝負よね?」


 サユリさんも聞き返してくる。


「そうだと思うけど、そうじゃなくても手も足も出せないのは違いないし、どうだろう。ロナ?」

「間違いなくケンジさんの勝ちです」


 ロナさんは、なぜか嬉しそうに答える。兄が倒されたのになぜ? 


「ケンジの能力ってのは、回復魔法と補助魔法的な相手の弱体化だよな? 直接的な戦闘力は高くないと思うんだが、リゲルが身体能力でも魔力でもケンジに勝てなくなるほど弱体化されたってことか? あいつの魔力は異常だから、パンパな弱体化魔法は効果出ないし、出たとしても普通半分になるとかじゃないのか?」


 そうなんだ。やっぱり俺のスキルみたいに、好きに操作できるのってそうそうないよね。


「マクシムさん、私もやってもらいましたので間違いありません。ケンジさんのスキルは魔力で抵抗できるものでは無く、避けることもできません。そもそも命中って概念がなさそうですし、その弱体化の度合いも半減なんて甘いもんではありません。完全な状態から突如何も無い状態まで弱体化するんです。そうですよね。ケンジ」

「そうだね、体調管理ってスキルなんですけど、そもそも弱体化スキルじゃないんです。強化もできますし、やってる俺としては弱体化してるって感じじゃなくて設定を変更してるって感じでしょうか」


 どんな高い魔力を持ってても、それが無かったかのように設定を変更してるようなものだからな。


「そんな滅茶苦茶なスキルがあるのか」

「私たちは、武術を嗜んでいたのでそのようなスキルを持つのですが、ケンジさんは元の世界でどのようなことをされてたのですか?」


 サユリさんが俺の元の世界でのことを聞いてくる。そりゃ気になるよね。


「看護師をしてました。患者の身の回りの世話、まぁ体調管理が役目でしたね」

「なるほど、それがスキル化したものが体調管理ですか……にしてもあまりに突き抜けてますね」


 そう思う。正直ゲームならバランスブレイクしそうな能力ではある。もちろん欠点もあるし、今日みたいに大量のモンスターに追われたりしたら、俺一人じゃあっさり死にそう。クールタイムと同時に複数は無理ってのがすっごい弱点だってあらためて思い知った。


「ケンジのスキルについてはとりあえず分かった。だが問題はリゲルだ。リゲルが本当に負けを認めたんだな。ロナ」

「はい、お兄様はケンジと真剣勝負をして手を抜かず完封されたとのことです。お兄様はまた逃げて遊びに行ってしまいましたが、そこは間違いありません」


 またまた嬉しそうに言うロナ。


「そうか、じゃぁ新しい魔王はケンジなんだな」


……は?


「そうね、リゲルを倒しリゲルが認めたとなればそうなるわね」


……え?


「ケンジ、言ってなかったけどリゲルお兄様は魔王なの。いえ、今はケンジが魔王だから元魔王かな」


……へ?


「なので、今後はケンジが魔王として魔界を治めてね」

「「えええええ!」」


 俺とアーニャが同時に驚きの声を上げた。いや驚くよ。何か隠してると思ってたけどまさかリゲルが魔王だとかちょっと考えられない。それよりも俺が魔王とか、ないない!


「絶対無理! 俺が魔王とか無理! 俺一人だったらここまでくる間に何度も死んでそうだし、さっきだってアーニャが居なかったら魔物に食われてたし、ありえないから!」

「……ケンジが魔王……」


 色々混乱するけどとりあえず魔王就任とか無理だから! そもそもリゲル、あいつは魔王なのになんで人間社会で遊びまわってるんだ? 冒険者として働いてたから遊んでるわけじゃないけど、魔王って他にやることあるだろ。なにフレンドリーに人間と戯れてるんだよ。そんで簡単に俺に魔王の座を渡してんじゃねーよ! あ、もしかして責任とかから逃げるためにわざと負けたんじゃねーだろうな!


「へへ、やっぱり驚くよね、ここに来る前に教えちゃったら一緒に来てくれないんじゃないかって思って黙ってたの」

「絶対こない!」

「だよね、だけど魔王が認め、魔王代行にも報告が終わったし、もうケンジは魔王だよ」

「いきなりだな、手続きとか、魔族集めて承認とかないの? そもそも断るし!」

「魔王ってね、なるとかならないとかじゃないの、結果なの。元魔王に勝ったって結果で決まるの」

「じゃぁロナ勝負しよう! 俺に勝って魔王になってくれ!」

「私じゃ勝てないわ。私、身体能力は人間と変わらないし、魔力は封じられるのに勝てるわけないでしょ。それにわざと負けるなんてのはダメよ。誰もが認める全力での戦いで正々堂々と勝負しての結果じゃないと認められないわ」

「リゲルがわざと負けたのかも!」

「それもないわ。リゲルは魔王を辞めたがってたけど、本当に強い者じゃなければ魔王は務まらないってことくらいは理解してるから、自分を実力で倒す者を待ってたの。それがマクシムさんかサユリさんになるかもって期待してたんだけどね」

「こりゃケンジが魔王ってのは決まりみたいね」


 驚きの表情のまま話を聞いていたアーニャが復活して呟く。

 いや、決めないでよ。ヤバイこのままだと魔王になってしまう。意味が分からない。そもそも役目とかあるのか? 魔王って何する人なの? リゲルみたいに好きにウロウロしてる魔王だっているんだから肩書だけで自由だったりするの?


「マクシムさんとサユリさんはどうします? ケンジと対戦して魔王の座を争います?」


 マクシムさんとサユリさんが顔を見合わせる。言葉は出さずに目で何かを確認しているようだ。


「いや、それは必要ないだろう。人間に魔王の肩書がついた。王国との交渉にはそれで十分だ」

「いや、そこは俺を倒して魔王になってくださいよ。マクシムさん!」


 頼みますよ。俺魔王って柄じゃないですし、そもそもなんかその立場って挑戦者とかぞろぞろ来たりして危なそうだし。


「いや、リゲルが完封されるスキルに対抗できると思えない。しかし興味はある。そのスキルを使ってみてくれないか」

「構いませんが、弱点とか見つけたら倒してくれます?」

「まぁ弱点があれば構わんがな」


 倒してほしいという必死な要求に苦笑いだ。


「では、危ないので、椅子に深く座ってテーブルに手を出してください」


 急に倒れてアーニャのお父さんにケガさせちゃ悪いからな。手を抜くことも考えたけどアーニャやロナが見てる前でそんなことをしても意味がない。


「では、筋力を操作します」


 ( 筋力 0 )


 ゴチ!


 突然糸が切れたように力を失い、顔面をテーブルへ叩きつけるマクシムさん。

 ああ、気を付けたのに甘かった。最初から伏せてもらっとけばよかった。


 ( 筋力 5 )


 すぐに元に戻す。


「こんな感じです」


 体を起こし、赤くなった鼻を擦るマクシムさん。ごめんなさい。


「どう、お父さん、凄いでしょ。このスキルで筋力も魔力も無くしてリゲルを完封したの」


 その通りなんだけど、アーニャさん、俺は魔王になりたくないんだよ。俺のスキルを持ち上げないで。


「どうもこうもないな。反則だな。予備動作も前提も掛け声もなしで、筋力が無くなる現象だけおこる。どうやってんだ?」

「えっと、念じてます。筋力0になれって」

「めちゃくちゃだな。呼吸を読むとか動作を読むとかも意味なしか」

「これはもう、強さを求めて努力してる者すべての敵と言っても過言じゃありませんね」


 サユリさんが怖いこと言ってくる。いや俺、強さを求める人たち全員を敵になんてしたくないよ。そんなの敵に回して生きてられる気がしない。

 弱点を見つけてもらって俺から魔王の肩書を奪ってもらう路線はあっさり消えた。


「ではとりあえず食事にしましょ。私が作った料理が冷めるまで話し続けるのは許しませんよ」


 食事は温かいうちに食べたいけど、俺が魔王ってのはとりあえずで流さないでほしい。

 とは言え、サユリさんのなんとも言いがたい圧力に負け、皆がテーブルにつき食事となった。そして久しぶりに食べる母の味に、アーニャが大いに喜び、俺も懐かしい元の世界の味を楽しんだ。



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