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039 過剰戦力、魔族の結婚観


 アルドラ皇国、盗賊多すぎ。次の町までの距離は大して遠くなく夕方には着く距離だったにもかかわらず3回も襲撃された。もちろん被害は無い。盗賊は5~10人程度の集団でとびぬけた実力者もおらず、2回目の襲撃はアーニャが体を動かしたいと一人で撃退し、3回目の襲撃はロナが自分の得意魔法を見せたいと、リゲルを殺しかけた電撃魔法の弱いやつ一発で終らせた。


 なんでこんなに多いのか気になってリゲルに聞いてみた。

 アルドラは種族関係なく受け入れる国だけど、受け入れられても社会に馴染めない者も少なくなく、盗賊や泥棒になってしまう者も多い。だから町の壁は王国に比べてしっかりしているし、移動はある程度大きな集団で護衛も大人数で行う。大規模な集団であれば襲われる危険もほとんどないとのこと。


「今回はさっさと移動するためにこの馬車一台で出発したからね、盗賊から見れば滅多にない美味しい獲物に見えるんだと思うよ。これが貴族の馬車だったりしたら、屈強な護衛が居ると見て近づかないだろうけど」


 なるほど、普通の荷馬車が単独で移動してるから美味しそうに見えたけど、実際にはS級冒険者のリゲルや、とんでもない魔力のロナや、とんでもない武力のアーニャがいて返り討ちにされたってことね。あまりの戦力差で戦闘は一瞬で終るから移動が邪魔されたって感じすらない。


 そして俺の出番はなかった。そもそも盗賊が出てきて「こんどは俺に任せて」って言って、強面連中の前に立つようなキャラじゃないからね。この世界に慣れてきたって言ってもそんな急に度胸がすぐつくわけないし、そういうことするほど好戦的な人じゃないから俺。同じ世界から来てるアーニャが戦闘好きすぎるだけです。そのアーニャは王都から脱出して今までの間に凄い成長してるような気がする。素人目に見ても初期に戦ってた様子と今ではまるで動きが違う。今日の戦闘でも8人の盗賊を相手にしてまるで危なげなく撃退した。リゲルによると盗賊の実力は冒険者で考えるとCランクにすらたどり着かない者がほとんどで束ねてるボスが多少力を持ってる程度らしい。

 そんなアーニャの戦闘を見たロナが凄く納得してた。


「うわー、さすがはマクシムさんとサユリさんの娘ですね。強いのはなんとなく分かってましたけど、この戦うことを楽しんでる感じがそっくりです」


 だよね、絶対楽しんでるよね。殺しはしないしそこまで重傷にもしてないみたいだけど、全員を立てなくするまでしっかり戦いを楽しんでる感じだ。薙刀もどきの槍を、素人の俺から見ても、その動き必要ある? って思うほどクルクルまわして舞い踊ってた。あと倒した盗賊への説教もやってた。むしろ説教が一番移動時間をロスさせてたかも。


 


---------------------------------------------




「おつかれさまー、カンパーイ」


 町に着いた俺たちは宿をとってから酒場に来た。リゲルが楽しそうに乾杯の音頭をとる。


「いやー、仕事の後のビールはたまんないね!」


 そう言いグビグビとビールを飲み、早速おかわりを要求してる。俺は苦い飲み物がそう好きじゃないので果実酒を貰いアーニャとロナは果実ジュースを飲んでいる。アーニャは以前酔っ払った時からお酒に手を出そうとしない。食事が運ばれてきてそれを楽しむ。

 リゲルはなかなか認知されてるみたいで、色々な人から挨拶されている。さすがS級だ。それに挨拶だけじゃなく女性からの視線も集めてるな。ウエイトレスが配膳の度にリゲルをチラチラ見てるのが分かる。本人は慣れてるのか気にしてる様子もない。


「あとどれくらいかかるの? 魔界まで」


 アーニャの質問にリゲルが答える。


「ここから3日ほど進んだシャウラの町から北へ向かうことになるよ。シャウラから魔族の町までは1日と少しだね。魔物の森で野営はしないから、丸一日移動し続けて魔族の町まで行くって感じだよ。まぁ僕たちの場合は僕やロナがいるから魔物は近づいてこない。野営しても襲われないと思う」


「その魔族の町から、お父さんたちの居る所までは?」


「そこから半日奥に進んだ所だよ」


「じゃぁあと一週間もすれば会えるんだ……ひさしぶりに……」


 そうつぶやくアーニャは嬉しそうだ。1年ぶりに会う親か。そりゃ嬉しいよな。

 あれ? 1年会わないってそうでもないかも。俺、社会人になってから正月しか地元に帰ってない年が何回かあるぞ。あ、でも電話はちょいちょいかけてたし、会おうと思えば次の日だって会える環境と今の環境は違うか。アーニャの場合は連絡を取ることのできない消息不明だった両親との再会だもんな。それに30の俺と20歳のアーニャじゃ寂しさも違うわな。


「よかったね」


「うん」


 アーニャと両親の再会でとりあえず一段落って感じだな。そこからどうするかはアーニャの両親の考えてることとかあるだろう。魔族と王国の和解を目指してるって話だったかな。どんな方法でやるのか知らないけど協力できることがあるなら協力しよう。


「あの、ケンジ……」


 これまで静かだったロナが話しかけてくる。そういえば果実酒はおかわりしてたけどロナってほとんど食事を口にしていないな。たまにつまんでる程度だ。人間の食事が口に合わないのかな。


「どうしたの? 食事が進まないみたいだけど、なにか頼もうか?」


「いえ、食事のことじゃありません」


 ん? なんだろう。


「ケンジとアーニャが同じ部屋なんてずるいです! 私だってケンジと同じ部屋がいいです。私はケンジと仲良くなりたいのに、そういう関係でもないアーニャさんが一緒の部屋で私はお兄様となんて嫌です!」


 そこか! いや俺はもうアーニャに好意を伝えてるし、ずっと同室でやってきたし、それなりに受け入れられてるからこそそうなってると思ってる。ハッキリと恋人だとかではないけど、そうなりたいと思ってるんだ。ロナの好意はうれしいけど、さすがにロナまで同室になったらややっこしいことになりそうだ。

 チラッとアーニャを見るとなんとも微妙な困った顔をしてる。どう思ってるんだろう。ややこしくなる前にはっきりさせとくか。


「ロナ、好意をもってくれたのは嬉しいけど、俺はそれに応えられないよ。俺、アーニャのことが好きなんだよ。それはこのまえアーニャにも伝えた。今後も一緒に居たいなって思ってる。だからロナと結婚はさすがに考えられないよ」


「そんな!」


 悲しい顔になるロナ。チラッと横を見ると赤くなって他所を向いてるアーニャ。


「はは、フラれたねロナ」


 リゲルが軽く笑う。


 バチバチバチバチ


 ロナの手が放電し始めた。


「ごめん、ごめんロナ、ほんとごめん、それやめて!」


 ロナの放電が収まるとリゲルが俺に言う。


「ケンジ、魔族には結婚して一緒に暮らして家庭を持つっていう人間のような結婚の形は少ないんだ。そもそも家を持たない者が多いからね。魔族の場合は女性がパートナーを選び、その子を産む。そして男は何かあればその女性と子供を助けるというザックリした関係となるんだ」


「へー、基本似たような感じだけど、家が無いってことは家族で定住しないってことかな」


「そうだね、結婚という明確な形がない。気に入った男の子を産むことで結婚が完結する感じかな。だけど一度相手を選ぶと相手が死ぬまで他の男の子は産まない。そういう習慣はある」


「ドライな関係に見えるね、人間の結婚と比べると」


「まぁ寿命とか生き方が違うしね。だから僕みたいな沢山の女性と仲良くしたい者には人間社会の方が楽しいんだよね」


「そんな理由で魔界からふらふら出歩くなんて……」


「まぁまぁロナ、今は僕のことはいいだろ。ロナは別に人間に合わせて結婚を要求しなくてもいいじゃないかな。この先ずっと一緒に居れば可愛いロナの魅力に負けて、ケンジが襲いかかってくることもあるかもしれないぞ。望んでるのは結婚じゃないだろ? 強い者の子を産むことだろ?」


 いやいや、お兄さん、あんたこの状況でそんなこと言いますか。俺がアーニャのことが好きだって言ってるのに浮気しなさいって言ってるよなもんだぞ。恥ずかしそうに赤くなってたアーニャがなんか厳しい顔で俺のこと見てるじゃないか。なんで何もしてないのに疑いの目を向けられてるんだ俺。


「ロナ、かわいいもんね、私と違って細くて女の子っぽいし」


「俺そんな何人も同時に好きになってうまくやれるほど器用じゃないし。それにロナって魔族だから、俺より年上だろ? 見た目若いけど」


「私は98歳です。でも魔族って基本年齢なんて関係ないですよ。500年くらい生きた方は老人のような見た目になってますけど、300歳くらいまでは若いままです」


「僕が155歳だ。生まれてから15歳くらいまでの成長は人間とそう変わらないけど、そこからは10倍くらいの時間をかけて歳をとっていくんだ。それに魔族って精神面もゆっくり成長してるから長寿ゆえに色々経験しても気は若いよ。歳の差なんて大した問題じゃない。ロナを妻にすればずっと若くて綺麗な妻がもてるよ。どう? 」


「どう? じゃないよ。そんなおすすめされても困るし」


 ずっと若くてきれいな妻ってのは悪くないけど。しかしロナって俺の3倍以上生きてるのか。


「まぁロナ、焦る必要はないよ。人間の寿命は短いし、強い人が事故でコロっと死んじゃうこともある。待ってればアーニャが急死することだってあるかもしれない。幸いケンジの強さって年齢で衰えるタイプのものじゃなさそうだし、気長に待ってもいいかもしれないぞ」


「いやいや、アーニャの不幸を待つなって、不吉だろ」


 まったく、時間の感覚がちがうんだろうけど、待たれても困る。そもそも俺が先に死ぬかもしれないだろ。

 考え込んできたロナが顔を上げる。


「分かりました」


 なにがだよ。笑。長期戦覚悟したってこと?


「ロナはまずはケンジさんとお友達として傍に居ることにします。兄の問題ももうすぐ解決しますし私は自由になれますから、今後はケンジさんについていきますのでよろしくお願いします」


 時々兄妹で話してる何かの問題、教えてくれないんだよな。なんなんだろう。魔界に行けばわかるのか? それよりも今後一緒にって。どうなのよ。俺の恋路がややこしくなるのは嫌だぞ。魔界での用事が終わったらスキルで眠らせて逃げる?


「アーニャさんよろしくお願いします。人間の恋愛とか分からないからお邪魔しちゃうかもしれないけど、それも学びたいです。私はアーニャさんと一緒にケンジさんとお付き合いしても構いませんから、アーニャさんとも仲良くなりたいです」


「え? えと、仲良くするのはいいけど、一緒って、え?」


 うーん、アーニャが困惑してる。文化の違い価値観の違いからの混乱だ。二股とか浮気とかの概念が無いのかもしれないな。


「うんうん、皆で仲良くなればいいよ。兄としては俺に勝ったケンジなら反対する理由もない。ケンジはロナのことも好きになったら、遠慮なく子供を作ってくれていいぞ」


 兄公認でこんな可愛いロナに手を出していいのか!

 いやいやとんでもないこと言って話を締めくくらないでくれ! ロナもうんうん頷かない! こちとらこっちの世界に来てから禁欲生活なんだ。一瞬よろこんじゃったじゃないか!


「なんか今、嬉しそうな顔に見えた……」


 見抜かれた! ヤバイ、せっかくアーニャに思いを伝えたのに面倒なことになりそうだ。





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