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040 ロナの栄養状態、食事の工夫


 町を出発し今日は1度しか襲撃を受けずに夜となった。そして今は夕食の準備中だ。俺は町を出る前に色々と買い込んだ。主に調理道具と食材だ。護衛任務の時の食事は基本御者が馬車へ食料を積んでいてくれるから護衛が持っていく必要がないけど、ロナが魔法収納を使えるってことでそれを利用させてもらうことになった。


 ロナの横に黒い穴が現れそれに手を突っ込み預けたものが取り出される。実に不思議な光景だ。黒い穴はなんというか、立体感が無いほど黒くて横から見ると厚みを感じないほど薄い、手を突っ込めば紙のように破れて反対側に出てきそうなんだけど、ロナの手はでてくることなく、そのままだとまるで切断されたかのようにも見えて怖い。

 漫画やアニメでそういうシーンってみるけど、実際見ると結構おどろく光景だ。反対側から見たら、腕の断面とか見えたりするのかと回り込んでみたが、そこはただ真っ黒なだけだった。


 俺が急に料理をしようと思ったのは昨日の夜の食事の時にロナがほとんど食事に手をださない理由を聞いたからだ。疲れてる感じなのに料理に手をださないロナに理由を聞くと、人間の食事が口に合わない。味が濃ゆすぎて食べられないってことだった。確かにこの世界に来てからの食事は味が濃い。俺はもともと濃いめの味が好きだから気にならなかったし、アーニャも気にした様子が無かった。

 だけどロナにはダメらしい。そもそも魔界では食事を殆ど摂る必要がない。魔族は魔素を吸収して生きられるから食事が必要ない。水分は必要だが食事は嗜好品って感じらしい。だけど魔素の薄い人間社会で過ごすと、魔力回復程度はできても、栄養補給になるほどの魔素が存在しないために長期間過ごすとかなり疲れてくるらしい。

 その点リゲルは、問題なく人間の食事を楽しんでおり、栄養不足で疲労するなんて様子はない。ロナも普段は短期間しか魔界を出ることが無かったため問題なかったが、どうやら今回はリゲル探しで時間がかかり、栄養不足の状態となっていた。

 詳しく聞くと、人間の食事に挑戦したことは何度もあるけど、辛い! しょっぱい!と繰り返しているうちに嫌になってしまった、どうせ魔界に帰れば回復するからいいだろうって感じで今では何も手を出さず果実ジュースだけで過ごすようになってるとのこと。

 まぁそんなんじゃ栄養不足で疲労するのも仕方ないよな。ということを聞いた俺は、俺自身もたまには懐かしい味でも作ってみるかと思い立ち料理をすることになった。


「どう? 似たような調味料でなんとかならないかって思ったんだけど、なんだと思う?」


「これ、肉ジャガだよね。ちょっとだけ違う風味になってるけどしっかり肉ジャガしてるよ」


「お、ちゃんと分かってもらえた!」


「なつかしーなー。お母さんがこっちの世界に来てからも作ってくれてたけど、このところ食べてなかったからすごく嬉しいかも!」


「アーニャも作れば良かったのに」


「う……」


「あ、もしかして料理できない子ですか?」


「……できない」


 俯いて静かに食べるアーニャ。はは、本当に戦うことに特化して育てられたんだな。笑


「まぁ簡単だから、そのうち教えてあげるよ。俺は一人暮らしが長かったから定番のものなら結構つくれるんだよ。でも今一番食べたいのはラーメンなんだよな。この世界で麺を見つけたらなんとか作ってみたいよ」


「ラーメン! 食べたい!」


 あ、元気になった、いいよね! ラーメン! 麺見つかるといいな。


「いや、これは美味いね。ケンジは料理もできるのか。強くて料理ができるなんて……女性だったら良かったのに。僕は強くて家庭的で料理が上手な人と人間の結婚がしたいんだ。穏やかで温かい家庭、魔族の時間を余した大雑把な生き方では得られない幸せがあるような気がするんだ」


「俺を嫁にしようとするんじゃない。でも、それじゃぁアーニャはダメじゃん。アーニャのこと気に入ってたみたいだけど、料理できないみたいだし」


「や、やれば、教えてもらえればできるもん!」


 あ、余計なこと言ってしまった。リゲルへ冗談言ったつもりだったのに。


「はは、ごめんごめん。冗談だよ。俺ができる程度ならすぐ覚えられるよ」


 アーニャをなだめつつ、俺はロナ用に味を薄めにした肉ジャガを皿に盛って渡す。とっても少なめに盛って。食べることに積極的じゃない人に対して大盛りはダメだ。食べる前から不快にさせてしまう。こういう食への抵抗感がある人に対しては、このくらいなら食べられるかもって思える少ない量で、ちょっとでも抵抗感なく食べる行為までもっていくのが大切だ。

 まぁ看護師やってた時の知恵だけど、魔族に通用するかは知らない。


 俺から皿を受け取ったロナが、その匂いを嗅ぐ。盛り付けたのはイモと肉の脂肪が少ない部分を少しだ。


「匂いは嫌じゃないんですけどね、味が無理なことが多いんです」


 そう言って、フォークでイモを突き刺し口へ恐る恐る運ぶ。


 パク……モグモグ……ゴクン


「食べられる……おいしいかも」


 パク……モグモグ……ゴクン


 こりゃ本当に味が要らないんだな。ロナに渡した肉ジャガは、味付け前に避けて置いたものだ。ハッキリ言って味なんてついていない。もし俺が食べさせられたら「味うす!」ってビックリすること間違いなしな肉ジャガなんだけど、ロナは美味しそうに食べてる。

 

「おお、ロナ、食べられるようになったんだ。どんな味付けにしてるんだい?」


 リゲルがロナの皿からイモを一つ取り口に入れる」


「あへ? こへ、アシナイヨ?」


 モゴモゴしながら言うリゲル。


「そりゃそうだ。ほんのちょっとゆでる時に塩を入れただけのやつだし」


 なるほど、ロナって調味料がダメなのかも。舌が過敏すぎるとか? もしかしたら調味料にアレルギーがあるとか、そんなのか?

 とりあえず食べられたから、栄養不足で疲れてくることは今後防げそうだ。詳しく調べたら味のある料理もおいしく食べられるように、俺のスキルでなんとかなるかな。

 まぁ本人と相談して考えてみるのもいいかもな。


「ふふ、人間社会でやっていくうえでのロナの問題、ケンジが解決しそうだね。こうなるとますますロナはケンジから離れられないな」


「はい、お兄様、私、食べ物をこう美味しいと思ったのは初めてです。ケンジありがとう」


 なんかややこしさが加速しそうな予感がする。いやでも栄養不足で疲労してる人見て放置できないし。人じゃないけどね。なんとなくアーニャの視線が厳しい気がするが気のせいだろう。他意のない善意で料理しただけだし。

 ともかく、味無し料理ならロナは食べられるってのが分かったのは、ロナのために良かったよね。町での食事でも頼めばゆでただけの野菜や肉を貰えるかもしれないしね。別に俺が作らないといけないわけでもない。


「私、ケンジの料理なら食べられるんだ」


「違う、味無し若しくは薄味料理なら食べられるってことだからね」


 俺の料理である必要はない。まぁ若い女性が身近で痩せ細っていくの見たくないから、大した工夫もなく食べさせられることが分かって良かった。


 次の日の朝、ロナはちょっと元気よくなってるように見えた。そして食べる楽しさも覚えたようだ。


「今日は何を作ってくれるんですか?」


 と聞いてくる。今日は町なんだから俺が作るわけじゃない。そういうとちょっと残念そうにしてるが、店員に頼んで食べられる物を出してもらうことを約束するとちょっと嬉しそうにしていた。






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