038 リゲルの魔法、盗賊を追い返す
なんか頑張る宣言したリゲルが馬車の屋根から飛び降りて前に出る。
魔法をしっかり見ようと、俺とアーニャが屋根の上って見物人となる。その後ろにロナだ。
「何にしようかな。街道を壊しちゃ怒られるかもしれないし、風でも吹かせるかな」
パチンとリゲルが指を弾くと、盗賊とリゲルの間の地面に1mほどの魔法陣が出現した。魔族が使う魔法だから魔法陣が特別だったり魔法陣無しだったりするのかと思ったけど、人が使うものと大差ないように見える。そこにつむじ風が発生する。
「なんだそりゃ~、そんな風でどうしようってんだ」
リゲルの実力を知らずに、つむじ風を見ただけじゃそう思うかもね。俺も何するんだろうって感じで見てるし。そのつむじ風は徐々に規模を大きくしつつ盗賊たちに近づいていく。
「おお、デカくなってきやがった。つかこれなんなんだ? 攻撃魔法じゃねーのか?」
盗賊がそのつむじ風を見て不思議そうに言う。
どうなんだろう。攻撃魔法って言うには、なんかのんびりしすぎてる気がする。これまで見た魔法は、手のひらの前に魔法陣を出現させて相手に炎や風や雷を放つって感じだった。そもそもこんなのんびりした攻撃だと本当に実力がある相手、例えばアーニャみたいな身体能力を持つ相手だと回り込まれて接近戦になりそう。
「あれ、やばいやつです。どこかにしっかり掴まってください!」
ブゥォォオオオオオオ
ロナが俺たちに注意してくる。それはすでに小さな竜巻になっていた。徐々に盗賊たちに近づく竜巻、幅5mってところだが、街道の幅も5mほどだからほぼ道いっぱいいっぱいだ。これは怖い。竜巻を近くで見たことなんてないけど、すっごい勢いで周囲の空気が引き寄せられて舞い上がってる感じだ。これって人が舞い上がっていくくらい勢いあるんじゃないの? それが自分に向かってきたりしたらたまらんな。
俺とアーニャは馬車の上から竜巻に引き込まれないように屋根に掴まって耐えている。さすがに荷物満載の馬車と馬はまだ大丈夫そうだ。
「どうかな? 実力の違いが分かってもらえたかな?」
リゲルがのんびりとした口調で言ってるけど、この風の轟音で盗賊にそんなの聞こえるわけないし、もう盗賊は全力で逃げてるのが竜巻の向こうに見えた。なるほど、実力の違いを見せて追い払いたかったのね。だけどもう十分でしょ。さすがにこっちも迷惑してるぞこの竜巻。
「ケンジにはあっさり封じられたけど、凄いだろ。僕の魔力」
「わかった、わかったから終わってくれ!」
「え? なんて?」
グォォォオオオオオオ
この魔力馬鹿は竜巻に近くてこっちの声が聞こえてないみたいだ。くそ、魔力封じてやろうか!
ドン!
俺の背中に衝撃が走る、なんかぶつかってきた。なんとか耐えて馬車から落下せずにすんだが、そのぶつかってきたものは止まらず、竜巻に吸い込まれるように飛んでいった。
「ヒエェェェェェェ!」
ロナだった。一緒に屋根に上っていたロナが、吸い込まれる風圧に耐えられず飛んでいった。ロナ軽そうだし、ふわっとした服着てたし、羽あるし、めっちゃ風の影響受けそうだったもんな。ってそんな場合じゃない、どうする!
「あ、ロッサーナ、ごめん」
「フエェェェェェ……」
自分の横を通り抜けるロナにリゲルが軽く謝り、そしてロナは竜巻に吸い込まれ高く高く舞い上がった。いやもっと焦れよ! 妹が飛んでいったぞ! 50mくらい舞い上がったところで、竜巻から放り出され、くるくる回転しながら飛んでいくロナは綺麗な大の字だ。
あれなんか前に見たことあるな。事故の動画か何かで、回転する車から放り出された人が綺麗な大の字になって飛んでく奴だ。人体って強烈な回転で強い遠心力を受けると綺麗な大の字になって飛んでいくんだな。それをリアルで見ることになるとは思ってなかったけど。
「おい、リゲル、大丈夫なのか、あれ!」
「ん、大丈夫だよ。ロナも飛べるしあれくらいで死ぬほど魔族は弱くない」
人間ならあの高さから落ちたら高確率で死にそうだけどな。
ロナは地面との衝突直前に、その落下速度を急減速したように見えたが。
ドスン
減速するのが遅かったのか結構大きな音がして背中から落ちた。俺は慌てて駆け寄る。魔族の耐久力がどの程度なのかは知らないけど、ロナって筋力は俺の半分くらいだろ? 魔力は化け物だけど体力的には人間より弱かったりするんじゃないのか?
「大丈夫か?」
「痛い~」
ロナがのけぞってもがいていた。背中を強打したみたいだ。結構大きくもがいてるし手足も動いてる。流血も見当たらないから重傷って感じではないが赤黒い羽はぽっきり折れてるぞ。
「おい、羽が折れてるぞ」
「うぅぅぅうう」
「ごめん、ロナ、また巻き込んじゃった」
俺が心配してるとリゲルがやってきた。またって、前にもこんなことがあったってことか?
「何してくれるんですかお兄様! 死んだらどうするんですか」
「はは、前より小さめだから大丈夫だろ」
「大丈夫じゃないー」
魔族の兄妹じゃこういうのがよくあるのか? 兄妹げんかで竜巻で吹っ飛ばすとか? 常識が違いすぎてどう反応していいか分からない。アーニャが可哀想に思ったのか「大丈夫?」と背を支えて起こしている。
とりあえず痛みをとるか。
( 痛覚 0 )
「あれ、急に痛みがなくなった」
「とりあえず、痛みを消したよ。ダメージが無くなったわけじゃないから気を付けてね」
「凄い、ありがとうございます」
「そんなことより、羽が折れてるよ、大丈夫?」
「あ、大丈夫です。これは魔力が勝手に形になってるだけなんで、そのうち元に戻ります。痛いのは背中でした。凄いですね。なんでも弱体化させるだけじゃなく、痛みをピンポイントで消せるとか」
「怪我が治せるわけじゃないから中度半端だけどね、一応自然治癒力なら高められるから、やっとくね」
( 自然治癒力 10 持続時間 1時間 )
打撲だけみたいだし、このくらいで改善するかな。
「わ! なにこれ回復が加速した! むずむずする!」
ロナが不思議そうに首を後ろへ向け背中に目をむけている。どういうこと? 回復が実感できるの?
「はは、魔族の魔力による自然回復と、ケンジのスキルによる自然治癒力の強化は相性がいいみたいだね」
そういうことか、リゲルが前に言ってたな。魔力により多少のダメージはすぐに回復するみたいなこと。ロナも同じで、その回復が実感でき、俺のスキルでさらに加速してるのが分かったってことか。
「なんか、もう普通に動けます。凄いです!」
ほんとに? 痛覚戻してみるか。
( 痛覚操作解除 )
解除しても全く痛がってない。本当に治ったみたいだ。3分と経ってないぞ。魔族の回復力凄いな。この回復力があるから、妹が吹っ飛んでもリゲルが慌ててなかったんだ。つっても首から落ちたりしたら即死の可能性だってあったんじゃないのか? 空飛べる能力があるからそれも防げるんだろうけど。
「リゲル、さすがにロナが可哀想だぞ」
「はは、ごめんごめん、昔はお互いに魔法をぶつけ合って遊んでたから」
どんな危ない遊びだよ。
「ありがとう、ケンジ。お兄様は力の使い方が適当なんで困ります」
そういうロナも、お兄様を殺しかけてたけどな。とりあえず魔族は魔法の使い方がおおざっぱで周囲を巻き込むから注意ってことだけは肝に銘じておいて、今後危ないと思ったら問答無用で魔力を0にしてやろう。
結局竜巻で街道はかなり荒れていた。ロナが土を操って整備してから出発となる。
「リゲルの使った魔法って、なんだったんだろう」
アーニャが俺も疑問に思ってたことを口にする。実力の違いを見せて追い返したのは分かるけどやったことの凄さが理解できない。俺はこの世界の一般人の半分しか魔力が無いうえに生活魔法を覚えるのにも苦労してるし、アーニャもやっと一般人レベルの魔力だからな。理解できるわけがない。
「人間にとっては難しいことをやってみせて、ついでに威力も見せつけたって感じです」
ロナが説明してくれる。
魔法陣を遠隔で出現させたのがその難しいことであり、手の前に出現させる場合はそれそのものに魔力をほとんど消費しないが、遠隔で出現させると魔力がどんどん消費される。そしてその遠隔で出現させた魔法陣から風を放出し、放出した風をさらにコントロールするのは技術的に高難度で消耗も加速する。これができれば、例えば火の玉を飛ばして相手が回避しても追尾するようなこともできるとのこと。これまで見た魔法でそんなことをしてる人を見たことないから実際に難しくて一般的でもないんだろう。
盗賊にそこまでしてみせて、理解できたかも疑問だ。
「ケンジに見せたかったんだと思いますよ」
「見せられても理解できなかったけどね」
まぁリゲルが本気で俺を殺そうと思ったら、油断してる時に大技一発で簡単にやられそうなんだよな。冷静に考えて簡単に想像がつくから、リゲルやアーニャに強いって言われても自分ではそう思えないんだ。まぁこの世界に来るまで戦いに縁がない人生だったし、強さにプライドも無いからいいんだけど、この先、この世界で生きていくにはもっと鍛えないとって常に思う。結局筋トレとアーニャとの手合わせと生活魔法の練習くらいしかしてないけど。魔界に行ってアーニャの両親に会えたら、いい訓練とかないか聞いてみようかな。




