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037 のんびり移動、盗賊と遭遇


 護衛対象の荷馬車は快調に街道を走っていた。北街道が魔街道と呼ばれるのは王国と同じらしい。俺たちは最も近道な北街道を進んでいる。しかし王国と違い皇国の魔街道はそれほど魔物の脅威がない。魔族や魔物と対立している王国と違い、魔族と交流を持ち一部協力して魔物に対応している皇国では街道の安全はそれなりに保たれているみたいだ。

 とは言え、完全に安全ってわけではないから護衛が必要となる。


「いやー、リゲルさんに護衛をしていただけるなんて幸運です。この旅の安全が保障されたようなもんですからな。本当にありがたい。道中の食事は豪華なものを準備させていただきました。楽しみにしてください」


「僕、それを結構楽しみにしてるんだ。期待してるね。これだから護衛任務は素晴らしい!」


 なんだか御者の人もリゲルも上機嫌だ。リゲルって美味い物に目が無いタイプなのか? あれだけの強さがあれば、高額報酬の依頼とかいくらでも達成できそうだけど。そういえば、男前すぎて似あってるから気にならなかったけど、装備も小奇麗だけど高級品じゃないんだよな。軽量そうな鎧に短剣だけの軽装だ。Sランク冒険者って話だから、これまでの実績とか当然あるだろうし、それに応じた資産もあるだろうに、そこから考えると随分と地味な装備に見える。


「お兄様はこれまで敵なしでしたし、軽装なのは戦いに武器も防具も必要なかったからですよ。あと荷物を持たないのは異空間収納になんでも入れてるからです」


 あれ? 俺が気になったこと全部ロナが答えたぞ。どういうこと? 心が読める? 読心術? あと異空間収納? そんなファンタジー定番だけど、理屈的に有り得なそうなやつ、本当にあるの?


「はは、びっくりしましたね。私、相手の感情がなんとなく分かるんです。でもハッキリ分かるわけじゃないので心配しないでください。今のはケンジさんの視線と疑問に思ってる感情を読み取って答えただけですから」


 なるほど、疑問に思ってるって感情が伝わっただけ……か。しかしそれでも結構な能力だな。ロナには嘘は通用しないってことだもんな。


「異空間収納ってのは? 空間に穴開けて物を入れたり出したり?」


「そうです。異空間収納は知ってるんですね。人間でも一部の者は使えますもんね」


「いや、この世界で知ってるわけじゃなくて、元の世界の雑学として知ってるだけだよ」


 雑学と言うかファンタジー系ラノベやらでの知識だけど。


「へー、ケンジさんの元の世界にこの世界の知識が伝わってるってことですか?」


「んー、どうだろう、もしかしたら異世界から戻った人の知識だったりする可能性もないとも言えないけど、多分偶然の一致じゃないかなー」


 いや俺やアーニャの立場からしたら、異世界から戻った人が存在するからそういう発想が元の世界にも伝わった。それが物語として書かれたってことだったほうが、戻れる可能性につながっていいのか。


「アーニャはどう思う?」


「どうだろ。なんか私はそんなに元の世界にこだわってないかも。なんかこっちの世界が私の家族にはしっくりきてる感じがするんだよね。王宮から出てこの世界を見て、なんかお父さんとお母さんが凄く生き生きしてた理由が分かった気がするんだ」


 さすが武闘派脳筋家族だな。平和ボケした日本より、町を行き来するだけでも護衛が必要なこの世界がしっくりくるとは。鍛えた力を思う存分発揮できるってのに喜びを感じてるのかも。

 命に対する価値観やら倫理観やらの違いは気になるけど、そんなのは元の世界だって国が変われば全然違うしね。世界のマフィアとかで関連画像を検索したら、この世界に負けないグロ画像なんてなんぼでもある。日本が平和ボケ過ぎるだけだもんな。


「アーニャの武力が役に立つシーンなんて元の世界じゃそうないもんな。まぁ考えても分かんないことで悩んでも仕方ないね」


「うん」


 ロナが俺たちに割って入って色々と質問攻めしてくるのとは違い、リゲルは馬車の屋根の上で真面目に周囲を見ている。まぁ警戒してるんじゃなくて風景を楽しんでるだけかもしれないけど。エルナトで初めて見た時の女性に囲まれてた時も、今の馬車の上でのんびりしてる様子もなんだか楽しそうに見える。


「ロナたちって、魔界から出てどのくらいなの? リゲル見てるとなんでも楽しんでる感じだよね」


「お兄様はここ1年ちょっとって感じです。私はもっと前から交流してます」


「1年前ってことは、私の両親が魔界に行った頃からってこと?」


「そうですよ。その頃から前から興味のあった人間社会で過ごすようになりました」


「お父さんたちと関係あるの?」


「ありますよ。でも詳しいことは教えません。悪いことではないので、魔界に着いてからの楽しみにしておいてください」


 なんだろう。この兄妹、ちょいちょい秘密にするよね。


「えー、ロナ、おしえてよ。気になるじゃない。お父さんたち元気なんだよね?」


「そんな心配は必要ないですよ。魔界でトップクラスに元気です。そりゃもう呆れるくらいに。人気者にもなってますし、もうちょっとすればなにかと敵対してくるミラ・カーフ王国を滅ぼせるくらいの戦力をまとめ上げると思いますよ」


 何やってんですかアーニャのお父さん。つか、滅ぼすためじゃないだろ。さすがに。


「お父さんたちって、王国と魔族を和解させるために動いてるんだよね?」


 アーニャもちょっと心配になったのか、ロナに確認する。


「そうです。だけど魔族が興味ないのに、勝手に敵対してくる王国には、圧倒的な戦力を見せるのが早道かなーって結論になったみたいです。それが一番被害を最小限にできるって。私にはそのあたりの詳しいことは分かりませんけど、アルドラ皇国みたいに、人間と魔族が協力して、魔物の被害を少なくする仕組みを作りたいみたいですね。王国が魔族を嫌ってても実際に王国が被害を受けてるのは魔物からですから。そこが解決すれば、色々変わってくるはずだって言ってました」


「そかー」


 ロナもアーニャの両親に会ったことがあるみたいだな。魔王に会いに行ってるアーニャの両親と面識があるってことは、この兄妹って結構立場のある魔族なのかも。それにこんなとんでもない魔力を持った兄妹が、一般的な魔族だったりしたら、1人で小さな町くらい滅ぼしたりできそうだしな。きっとそうだ。この兄妹は魔族でもかなり立場があって、トップクラスに強いんだ。そうじゃなかったら人間はとっくに滅ぼされてる。






「なんか来たよー」


 馬車の屋根からリゲルの気楽な声が聞こえてきた。


「ですねー、10人は居ますかねー」


 御者ものんびりした声で応じている。前方を確認すると確かに10人ほどが馬に乗ってこちらに向かっている。視力を強化して確認すると、分かりやすい盗賊風な連中だった。王国と違ってこっちの魔街道は魔物が少ない分、人間の悪い奴が活動しやすいってことかも。


「ロナ、どう?」


「小悪党です。お兄様」


「そうか、じゃぁ適当に追っ払うかなー」


 小悪党? ああロナって感情が読めるって言ってたな。なんか悪意の大きさとか質の悪さとかが見抜けるってことかな? 後で聞いてみるか。

 距離が近づいてくると、アーニャにも盗賊がハッキリ見えてきたみたいで評価する。


「うん、弱そう」


 だそうだ。


「こっちで追っ払うよ」


 盗賊とあと50mといったところで、御者が馬車を止める。リゲルへの信頼からか全く焦った様子がない。S級冒険者リゲルへの信頼すげーな。御者、なんか凄い出し物を待つ子供みたいに、これから何が見られるのかとワクワクした様子だ。

 あと少しで俺のスキルの有効範囲みたいだけど、ま、俺の出番はなさそう。ってか俺は今でもこういう強面の盗賊に相対するのに慣れてない。その点、アーニャみたいな直接ぶつかり合うような戦闘スキルじゃなくて良かったと思う。

 そういえばリゲルの魔法って空を飛んだのしか見たことないな。どんな攻撃魔法を使うんだろう。俺もちょっと楽しみになってきた。護衛で一緒になった魔法使いの火魔法や風魔法、ロナの使った電撃くらいしか見たことないもんな。魔法使いって冒険者や傭兵でも全体における割合はかなり少ないから、そんなにいつも見られるもんじゃないんだよな。


 近づいてくる盗賊風な連中のニヤニヤした顔まではっきり見えるようになってきたところでリゲルが声をかけた。


「君たち、盗賊かな? 今から魔法見せるから、びっくりしたら逃げてね! 今日は新しい友達の前だからちょっと頑張っちゃうぞ!」





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